マークトゥーマーケットを武器にする:先物・CFD・パーペチュアルの損益管理と清算回避の実務

金融

本稿では、マークトゥーマーケット(Mark-to-Market, 以下MtM/時価評価)を投資の武器に変える具体的手順を解説します。先物・CFD・仮想通貨パーペチュアルなどのレバレッジ商品では、含み損益が日次あるいは高頻度で口座残高に反映されます。これが資金管理に直撃し、清算(ロスカット)の可否を左右します。仕組み・数式・Excel実装・運用ルールまで、初学者でも現場で即使えるレベルでまとめます。

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MtMの要点

MtMは、建玉を持ち続けていても、その時点の市場価格で損益を更新し、証拠金口座へ現金化する仕組みです。結果として、実現損益/未実現損益の境界が薄くなり、口座残高(有効証拠金)が常時変動します。これに追随して証拠金維持率清算価格も動きます。

関連用語の整理

  • 初回証拠金(IM):建玉開始に必要な最低額。
  • 維持証拠金(MM):これを割ると強制決済のリスクが高まる下限。
  • 変動証拠金(VM):MtMによって日々(または8時間毎等)受け渡しされる損益。
  • 有効証拠金:口座残高+未実現損益(取引所仕様に依存)。
  • 清算価格:証拠金維持率が規定値を割り込み、強制決済が発動する推定価格。

損益の基本式

単純化した損益は以下で近似できます。

損益(USD) = 契約サイズ × (決済価格 - 建値価格) × 方向
方向 = ロング:+1 / ショート:-1
証拠金維持率 = 有効証拠金 ÷ 必要証拠金

先物・CFDでは取引単位(契約サイズ)が固定のことが多く、仮想通貨パーペチュアルではUSDT建て・コイン建てなど証拠金通貨に依存します。

日次清算の具体例(先物)

例:株価指数先物(契約サイズ = 100 USD/ポイント)をロング。建値4,000、終値3,980の場合、

日次損益 = 100 × (3,980 - 4,000) = -2,000 USD

この-2,000 USDがVMとして口座から控除され、翌日のスタート地点の残高が既に減っている点がMtMのキモです。逆に上昇すれば残高が増え、複利で玉を増やす余力が生まれます。

パーペチュアル(仮想通貨)のMtM

仮想通貨の無期限先物(Perpetual)では、マーク価格と呼ばれるフェア価格に基づいてMtMや清算判定を行うのが一般的です。さらに資金調達率(Funding)の受払があり、これはMtMとは別のキャッシュフローです。

  • MtM:価格変動による損益の即時反映。
  • Funding:ロングとショート間の定期的(例:8時間毎)精算。相場に偏りがあると片側が支払い。

したがって、「値下がりで損・Fundingで支払い」が同時発生し得ます。資金繰り(キャッシュフロー)を常に意識しましょう。

清算価格の直観と引き下げ方

単純化すると、清算は「有効証拠金が必要証拠金を割る」瞬間に起きます。よって、以下のいずれかで清算価格から距離を取れます。

  1. レバレッジを下げる(契約数量を減らす/自己資本を厚くする)。
  2. 追加入金(有効証拠金を増やす)。
  3. ヘッジ(同相場のショート、相関資産の逆相関ポジション、オプションのプット/コール買い)。
  4. 資金調達率の偏り時間帯を避ける(支払いが続く局面ではポジションを軽く)。

概算の清算距離(%)は、単純モデルで

清算までの許容下落率 ≈ (自己資本 ÷ 建玉名目) × 安全係数
建玉名目 = 価格 × 契約数量

証拠金率・手数料・Funding・保険基金ルールで実値は変わるため、取引所の清算シミュレータで確認する運用を標準化してください。

ケーススタディ①:BTCパーペチュアル(USDT建て)

前提:
・建値 = 60,000 USDT、レバレッジ5倍、自己資本 = 2,000 USDT → 建玉名目 ≈ 10,000 USDT(数量 ≈ 0.1667 BTC)
・Funding = -0.01%/8h(ロングが支払い)

価格が-8%の55,200に下落すると、

損益 ≈ 10,000 × (-8%) = -800 USDT
有効証拠金 ≈ 2,000 - 800 = 1,200 USDT

さらに当日Fundingが3回発生すると仮定(24時間)、

Funding支払 ≈ 10,000 × 0.01% × 3 = 3 USDT
有効証拠金 ≈ 1,197 USDT(概算)

維持証拠金閾値が約1,000 USDT相当だとすると、清算マージンはわずか。ここで数量を1/3カットし清算価格を遠ざける、あるいは一時的にヘッジショートを入れる判断が現実解です。

ケーススタディ②:株価指数先物(初心者の落とし穴)

指数が自分の方向へ動いていても、引けに逆行するとVMで残高が削られることがあります。引け前のボラティリティはVMの直撃時間帯。日中の利益に安心せず、引けのリスク量をあらかじめ定義(例:引け前30分は建玉を半減)しておくと、口座毀損を避けやすくなります。

Excelでの実務テンプレ

以下のセル設計で、MtM・清算距離・資金繰りを一枚で管理できます(例)。

A1: 建値(Price0)= 60000
A2: 現在価格(Price)
A3: 契約数量(Qty)
A4: 名目(Notional)= A2 * A3
A5: 自己資本(Equity)
A6: 必要証拠金(ReqMargin)
A7: 維持証拠金(MaintMargin)
A8: PnL = (A2 - A1) * A3
A9: 有効証拠金(Eeq)= A5 + A8 - Funding累計 - 手数料累計
A10: 証拠金維持率 = A9 / A6
A11: 清算距離(近似)= (A9 - A7) / A4

Fundingや手数料を別セルで時間加重すれば、「価格×時間」の複合圧力を視覚化できます。

MtM耐性カーブを作る

レバレッジ別に何%の逆行まで耐えられるかを可視化したカーブを作ります。横軸=価格変化(%)、縦軸=有効証拠金。0を割る手前で警告色に。これだけでエントリー前の過信を抑制できます。

運用ルール(最低限)

  1. 建玉前:清算価格とFunding時間を必ず試算。「想定外の追証」をゼロにする。
  2. 引け/資金調達直前:口座残高対比のVM/ Fundingの最大流出額を閾値(例:2%)で制限。
  3. ドローダウン管理有効証拠金ベースの損切り(例:月間-10%で全ポジ縮小)。
  4. 数量調整:清算マージンが薄くなったら数量を機械的にカット。
  5. ヘッジ常備:急変時は先物/パーペチュアルの逆方向ミニサイズで一時中和。

よくある誤解

  • 「含み損だから“まだ”大丈夫」:MtMではもう資金が減っている。資金繰りに直結。
  • 「高勝率ならOK」:VMで資金が干上がれば勝率に関係なく退場。勝率より耐性
  • 「Fundingは誤差」:横ばい相場での長期保有では効いてくる。時間コストを価格コストと同列管理。

まとめ

MtMは脅威であると同時に、資金効率と再現性を高める管理レバーです。価格だけでなく、時間・資金・証拠金維持率という三位一体でポジションを設計すれば、清算を遠ざけ、手堅く複利を積み上げられます。今日から、MtM耐性カーブ引け前・Funding前の数量ルールを導入してください。

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