マージントレード徹底ガイド:清算価格の数学とTCE(総コスト年率)で勝ち残る設計

トレード手法

マージントレードは「同じ資本でより大きなポジションを保有する仕組み」ですが、勝ち残るための本質はレバレッジではなくリスクの位置づけコストの総量管理にあります。本稿では、清算価格の考え方を数式レベルで押さえつつ、ファンディング、借入利率、手数料、スプレッドを年率換算で統合した総コスト年率(TCE: Total Cost Equivalent)を軸に、実務的な発注設計テンプレートとチェックリストまで網羅的に解説します。

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用語と全体像の整理

まずは共通言語を揃えます。取引所や商品によって細部は異なりますが、原理は共通です。

  • 証拠金(Margin):ポジションを支える担保資産。初期証拠金(IMR)と維持証拠金(MMR)がある。
  • レバレッジ:名目金額 ÷ 証拠金。5倍なら1の資本で5の建玉を持つ。
  • 分離/クロス:分離はポジションごとに証拠金を区切る。クロスは口座全体で証拠金を共有。
  • 清算(Liquidation):含み損により有効証拠金が維持証拠金を下回る状態。強制的にクローズ。
  • 資金調達(Funding):パーペチュアルに特有の金利調整。+ならロングが支払い、-ならショートが支払いを受けるのが一般的。
  • 借入利率:マージン口座での借入コスト。スポットの信用取引や一部先物証拠金で発生。
  • 取引手数料/スプレッド:約定時に確実に発生。マーケット注文ほどスプレッドコストが大きい。

清算価格の直感と近似式

分離マージン・USDT建てパーペチュアルのロングを例に、清算条件を直感的に押さえます。名目金額を N、エントリー価格を P0、枚数を Q、初期証拠金率を imr、維持証拠金率を mmr とします。初期証拠金は IM = N × imr、維持証拠金は MM = N × mmr です。価格が下落して評価損が増えると有効証拠金が減り、概ね次の近似で清算価格が求まります(手数料や清算手数料は別途マージン)。

ロングの清算価格(近似)
Pliq ≈ P0 × (1 − (imr − mmr))

レバレッジ L = 1/imr と置くと、Pliq ≈ P0 × (1 − (1/L − mmr))。例えば、レバ5倍(imr=20%)、mmr=0.5%なら、1/L − mmr = 0.200 − 0.005 = 0.195 なので、おおよそエントリーから19.5%下落で清算に接近します。実際の取引所は段階的MMRや清算手数料、マーク価格採用などの調整が入るため、余力は常に多めに見積もるのが安全です。

ショートの清算価格(近似)

ショートは上方向に逆行すると清算に近づきます。式の符号が入れ替わるだけで、考え方は同じです。

TCE(総コスト年率)の考え方

TCEは、そのポジションを1年保有したと仮定したときの資金コストの合計を年率換算した指標です。短期でも「時価で年率に引き直す」ことで、建てて良いか/悪いかの判断が一気にシンプルになります。

  • TCE ≈ Funding年率 ± 借入年率 + 手数料往復年率換算 + スプレッド年率換算 − リベート

例えば、ファンディング+8%(ロングが支払う)、借入年率+6%、手数料往復0.06%を平均保有2日で年率化(≈0.06% × 365/2 ≈ 10.95%)、スプレッド往復0.02%を同様に年率化(≈3.65%)とすると、TCE ≈ 8 + 6 + 10.95 + 3.65 = 28.6%想定アルファが年率28.6%を超えない限り、建てる合理性は薄いという即断が可能です。

短期保有の年率換算のコツ

  • 「平均保有期間(日)」をあらかじめルール化し、全コストに同じ係数 365 / 日数 を掛けて比較する。
  • 日跨ぎがなければ Funding は0。跨ぐならその区間だけ加味する。
  • Maker主体で手数料を抑え、スプレッド年率換算を極小化する。

崩壊パターンは3つだけ

  1. 過剰レバ:清算幅が狭くショックで飛ぶ。解はレバを下げるか分離でIMを厚くする。
  2. 逆行の伸長:想定より長く逆流。解は事前の損切り線と縮小ナンピンの上限。
  3. 資金ショート:追証不能でクロス全体が巻き込まれる。解はクロスを避けるか常に余剰残高を維持。

実務的な発注設計テンプレ

以下は私見のミニマム設計です。値幅とコスト、清算距離の整合を先に固めます。

  1. 想定ボラ:直近ATR(1h/4h/1d)。例:BTCの1日ATR=3.2%。
  2. 損切り幅:ATR×1.2~1.5で初期設定。例:4%。
  3. 目標RR:最低1.5R、できれば2R。
  4. レバと証拠金:清算距離 ≧ 2.5×損切り幅 を満たすように逆算。
  5. TCE:保有想定(日)を置いて年率換算。想定アルファが上回るか確認。
  6. 執行:基本は指値(Maker)。板薄ならアイスバーグで分割。
  7. 退出:部分利確(1Rで1/3、2Rで1/3、残りはトレーリング)。

数値例:USDT建てBTCロング(分離)

口座残高12,000 USDT、レバ5倍、エントリー価格60,000、枚数0.5 BTC(名目30,000)、imr=20%、mmr=0.5%とします。初期証拠金は6,000、維持証拠金は150です。近似では、清算価格は 60,000 × (1 − (0.20 − 0.005)) = 60,000 × 0.805 = 48,300 付近。損切りは58,200(3%)に置けば、清算までの距離は約19.5%で十分な余裕があります。

コストは、Funding+8%(払)、借入0%、手数料往復0.06%を平均保有2日で年率化10.95%、スプレッド0.02%年率3.65%。TCE≈22.6%。2日保有で期待優位性が明確(年率30%相当の優位など)でない限り、枚数を増やすより保有日数を縮める方が合理的です。

ショート例:資金調達を味方にする

ファンディングが大きくプラス(ロングが支払う)なら、ショートは受取側になれます。清算方向が逆(上方)になるため、清算距離上髭耐性を多めに取るのがコツです。高ボラ環境では「小さく建てて長めに持つ」戦略がTCE的に機能します。

サイズ設計:1トレードの許容損失から逆算

許容損失を口座の0.5~1.0%に固定し、損切り幅から枚数を逆算します。

枚数 ≈ 許容損失額 ÷(エントリー価格 × 損切り率)

これにレバを掛けると名目金額が決まり、imrとmmrから清算距離が判定できます。清算距離が基準未満なら、レバを落とすか損切りを近づけるのが正解です。

執行の実務:スリッページと板厚

  • 板が薄い時間帯(週末・早朝)はスプレッドが広がり、年率換算コストが跳ねます。
  • 成行連打は厳禁。部分指値、TWAP(時間分割)、アイスバーグで平均コストを圧縮します。
  • ボラ急拡大で板が飛ぶと指値が置き去りになるため、分割/再指値の自動化が有効です。

シンプル戦略の例:MA×RSI+TCEフィルタ

  1. トレンド判定:価格が200EMAの上ならロング目線、下ならショート目線。
  2. タイミング:RSIが45→50を上抜けでロング、55→50下抜けでクローズ。
  3. TCEフィルタ:想定保有2日でTCEが年率15%を超えるなら見送り
  4. リスク:1トレード損失=口座の0.7%。清算距離≥2.5×損切り幅。

擬似コード:サイズと清算耐性チェック(MQL風)

// 入力: balance, risk_pct, entry, stop, imr, mmr
double PositionSize(double balance, double risk_pct, double entry, double stop){
   double risk = balance * risk_pct;                  // 許容損失額
   double stop_rate = MathAbs(stop - entry) / entry;  // 損切り率
   double qty = risk / (entry * stop_rate);           // 枚数(USDT建て想定)
   return qty;
}

double LiqPriceLong(double entry, double imr, double mmr){
   // 近似: P_liq ≈ entry * (1 - (imr - mmr))
   return entry * (1.0 - (imr - mmr));
}

bool CheckSafety(double entry, double stop, double imr, double mmr){
   double pliq = LiqPriceLong(entry, imr, mmr);
   double stop_drop = (entry - stop) / entry;
   double liq_drop  = (entry - pliq) / entry;
   return (liq_drop >= 2.5 * stop_drop); // 清算距離が損切り幅の2.5倍以上
}

よくあるミスと回避策

  • レバ先決:まず清算距離と損切り幅の整合を取ります。レバは結果。
  • Funding軽視:数日跨ぐトレードで年率+20%台のFundingを無視すると期待値が崩壊します。
  • クロス過信:非相関ポジで相殺できると信じて資金ショートに陥る例が頻発します。
  • 成行多用:短時間でのスプレッド年率換算は想像以上に重いです。

チェックリスト(発注前1分)

  • 想定保有(日)とTCEの年率比較は済んでいるか。
  • 清算距離 ≥ 2.5×損切り幅か。
  • 1トレード損失 ≤ 口座の1.0%か。
  • 執行は指値中心か(分割・TWAP・アイスバーグ)。
  • 退出ルール(部分利確・トレール)がセット済みか。

まとめ

マージントレードは「レバで増幅する遊び」ではなく、「清算距離の設計TCEでの期待値管理」という地味な最適化の積み重ねです。損切り幅→サイズ→清算距離→TCEの順に判断を固定化すれば、無理な勝負は自然に消えます。まずは小さいサイズで上記テンプレートを運用し、月次で勝ててから倍率を上げていくことをおすすめします。

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