- 1. レンディングの基本モデルと利回りの源泉
- 2. CeFi と DeFi、取引所内レンディングの構造差
- 3. 金利の種類と数式:単利・複利・変動・固定
- 4. 担保・清算メカニズムと安全域
- 5. ステーブルコイン vs 変動資産:利回りとリスクの違い
- 6. リスク分解フレームワーク(CeFi/DeFi 共通)
- 7. 金利と裁定の連関:実務で役立つ見方
- 8. 実務フロー:少額からの安全なステップ
- 9. 具体的な数値シナリオと感応度
- 10. 手数料・税務・会計の実務ポイント
- 11. 危険サイン・レッドフラッグのチェックリスト
- 12. ポートフォリオ設計:サイズと分散
- 13. 最小実行セット(行動テンプレート)
- 14. まとめ:利回りは「歪み」と「リスク」の対価
1. レンディングの基本モデルと利回りの源泉
レンディングとは、あなたが保有する暗号資産(例:BTC、ETH、USDT、USDC など)を第三者(取引所、機関投資家、トレーダー、マーケットメイカー、スマートコントラクトの借り手)に貸し出し、その見返りとして金利を受け取る行為です。金利の源泉は大きく以下の4つに分類できます。
- 方向性ポジション需要:ロング/ショートのポジション構築のために現物やステーブルコインを借りたい需要。上昇相場ではステーブルコイン借入需要、下落相場では現物借入需要が増えやすい。
- 裁定(アービトラージ)需要:先物のベーシス(期先プレミアム)やパーペチュアルのファンディングレートを取りに行くための在庫・証拠金需要。裁定が生む超過リターンの一部が金利として貸し手に回る。
- マーケットメイキング/在庫回転:板提供のための在庫確保・ヘッジ資金需要。高ボラティリティ期には一時的に金利が跳ねやすい。
- 信用補償の対価:カウンターパーティの信用力に応じたスプレッド(デフォルト・流動性・ガバナンス・スマートコントラクト等のリスクプレミアム)。
要するに、レンディング利回りは「市場の歪み × 借り手のニーズ × リスクプレミアム」の合成です。利回りだけを見るのではなく、誰に何を貸して、代わりにどんなリスクを引き受けるかを常に点検します。
2. CeFi と DeFi、取引所内レンディングの構造差
2-1. CeFi(中央集権型)
企業(レンディング事業者や仲介業者)が資金を集め、複数の借り手に再配分します。メリットは UX と運用の容易さ、デメリットは再担保(リハイポ)や透明性不足、カウンターパーティ集中です。契約条件(ロックアップ、出金制限、繰上げ償還条項)を必ず精読してください。
2-2. DeFi(分散型)
スマートコントラクトが貸し借りを自動執行します。担保比率、清算条件、金利カーブ(利用率に応じた変動)などがオンチェーンで可視化されます。メリットは透明性と自主管理、デメリットはスマートコントラクトリスクとオラクル依存、ガバナンス変更リスクです。
2-3. 取引所内レンディング/マージンファンディング
取引所口座内で他トレーダーに貸し出すモデル。板厚や利用率に応じて金利が日々変動します。出金容易な反面、取引所のカウンターパーティリスクと内部の清算規律に依存します。
3. 金利の種類と数式:単利・複利・変動・固定
年率表記は多様です。代表的なものを押さえましょう。
- APR(Annual Percentage Rate):単利年率。期間が短い商品や日次付与に多い。
- APY(Annual Percentage Yield):複利年率。再投資される前提。近似式は
APY ≒ (1 + r/n)^n − 1
。ここでr
は年率、n
は複利回数。 - 変動金利:利用率や市場指標(資金調達率・ベーシス等)に連動。短期の上振れ・下振れが大きい。
- 固定金利:満期まで利率固定。カウンターパーティ/スマートコントラクトの信用が価値の源泉。
数値例:日次付与 8% APR、毎日再投資(n=365
)の場合、APY ≒ (1 + 0.08/365)^365 − 1 ≒ 8.30%
。同じ 8% でも複利運用で差が出ます。
4. 担保・清算メカニズムと安全域
DeFiの借入は通常、過剰担保(例:150%)が必要です。清算閾値を割ると自動清算され、担保が売却されます。担保価値 V
、借入額 B
、清算閾値 LTV*
の関係は V × LTV* = B
で近似できます。
具体例:ETH を担保(時価 300,000円)、清算 LTV* が 0.75、借入 USDT が 200,000円相当なら、価格が下落して V × 0.75 < 200,000
となると清算。安全域を広く取るなら初期 LTV を 0.5 などに抑えるのが定石です。
注意点は 3 つ:ボラティリティ・オラクル遅延・清算手数料。特に急落時は清算コストがかさみ、担保が大きく削られるリスクがあります。
5. ステーブルコイン vs 変動資産:利回りとリスクの違い
ステーブルコイン(USDT/USDC 等)貸出は価格変動リスクが小さい一方、発行体・準備資産・凍結リスクが存在します。変動資産(BTC/ETH 等)貸出は価格上昇局面では機会損失を、下落局面では担保割れ・清算連鎖リスクを伴います。利回りが数%高い程度であれば、リスク調整後で本当に優位かを再計算しましょう。
6. リスク分解フレームワーク(CeFi/DeFi 共通)
6-1. 信用/流動性リスク
- カウンターパーティ集中:借り手の多様性・貸出先のオーバーラップを確認。
- 再担保(リハイポ)チェーン:資産が更に別の相手へ貸し出されていないか。
- ロックアップ/出金制限条項:早期償還・ゲーティングの条件。
- 担保構成・ヘアカット:ボラティリティの高い資産比率。
6-2. 技術/運用リスク
- スマートコントラクトの監査履歴とバグバウンティ。
- オラクル設計(TWAP/複数ソース/フェイルセーフ)。
- 鍵管理(マルチシグ/ハードウェアウォレット/ロールベース権限)。
- 運用体制(オンコール、異常時の凍結/緊急停止プロセス)。
6-3. 市場リスク
- ボラティリティショック時の利用率急騰・金利スパイク。
- ベーシス縮小/拡大やファンディングレート反転。
- 清算渋滞(ガス高騰・MEV・ネットワーク輻輳)。
7. 金利と裁定の連関:実務で役立つ見方
レンディング金利は、先物ベーシスやパーペチュアル資金調達率と連動しやすい傾向があります。例えば、年率 10% の先物プレミアム(期先>現物)をマーケットメイカーが取りに行く場合、現物買い+先物売りのためにステーブルコインを借りる需要が増え、短期的にステーブルコイン金利が上がり得ます。逆にベア局面でショートの需要が膨らむと、現物を借りる金利が上がることもあります。
実務では 「金利(レンディング) ↔ ベーシス/ファンディング」をセットで監視し、過剰な歪みが出ている時にのみサイズを上げるのが合理的です。
8. 実務フロー:少額からの安全なステップ
- 目的の明確化:預け先の金利が何に連動しているか(利用率、固定利回り、相場の歪み)を言語化する。
- 分散:CeFi/DeFi/取引所をまたいでロットを分散。単一故障点を作らない。
- ステーブルから開始:まずは USDT/USDC などで小さく始め、出金テストを2回以上行う。
- 可観測性の確保:金利履歴、利用率、TVL、清算統計、監査レポート、保険の有無をブックマーク。
- 自動化:日次で残高・金利・損益をスナップショット。閾値超で通知(例:金利半減、TVL急減、利用率90%超、ガス急騰)。
- 撤退ルール:危険サイン(後述)が出たらロック解除後に段階的に資金を引き揚げる。
9. 具体的な数値シナリオと感応度
9-1. ステーブルコイン 100万円を年率 8% で運用
単利:1年後の利息は 80,000円。日次複利なら約 83,000円。月次で 20% 金利が上下する想定でも、平均 8% を中心に振れるなら 1年トータルは 6.5%〜9.5% 付近に収まる可能性(ボラ次第)。
9-2. ETH を担保に 50万円相当のステーブルを借りて、固定 6% で貸出
担保 ETH の価格が 30% 下落し清算に近づくと、借入側のポジション維持が困難になり、強制返済→貸出元本の回収遅延リスクが高まります。固定 6% の利回りでも、担保変動による二次的リスクが残る点に注意。
9-3. ベーシス/ファンディング連動の変動金利に預ける
強気相場でベーシスが年率 15%→3% に縮小すると、レンディング金利も 12%→4% に低下する、といった連動感が出ます。収益予測モデルは歪みの平均回帰速度を仮定してシミュレーションすると実態に近づきます。
10. 手数料・税務・会計の実務ポイント
- ネット利回り:ガス代・ブリッジ費用・ロック解除手数料・早期償還ペナルティを含めた実効 APY を算出。
- 損益計測:付与タイミング(毎時/日次/満期)と通貨(ETH建て・USD建て)を明確化。為替・価格換算レートの取得方法を一定に。
- 原資の管理:レンディング報酬は元本化しやすいので、ウォレットを報酬・運用・保管の 3 口座に分割すると監査性が高まる。
11. 危険サイン・レッドフラッグのチェックリスト
- 「保証」「安全」「元本確保」を強調する宣伝文句。
- 異常な高利回りが継続(市場歪みの説明が不能)。
- Proof of Reserve/TVL/監査の欠落、または更新停止。
- ロック解除遅延、出金キュー、ゲーティング実施。
- 担保構成の急変(不透明なトークン比率上昇)。
- ガバナンス提案で強権的なルール変更が可決。
- サポートの回答が曖昧、ドキュメントの改訂履歴が追えない。
12. ポートフォリオ設計:サイズと分散
推奨は段階的サイズアップと送金テストの複数回実施。単一プロトコル/事業者でのエクスポージャは 20〜30% を上限に抑え、チェーンや金利モデル(固定/変動)も分散します。再投資は週次など低頻度で十分です。無理な複利追求よりもダウンサイド制御が長期成績に効きます。
13. 最小実行セット(行動テンプレート)
- 取引所/ウォレット/DeFi の 3 口座構成を準備。
- ステーブル 10〜20万円で開始、即日と翌日の 2 回出金テスト。
- 監視リスト(利用率、金利カーブ、TVL、清算統計、監査)を毎朝チェック。
- 金利急低下(半減)または TVL 急減(-20%)でロットを 50% 縮小。
- 四半期ごとに実効 APY と最大ドローダウンを更新。
14. まとめ:利回りは「歪み」と「リスク」の対価
レンディングの本質は、市場歪みと信用リスクに価格を付けることです。金利が高いときは、背後にある歪みとリスクプレミアムが高いだけ。可視化・分散・段階実行・撤退ルールという 4 つの原則を守れば、相場局面に依らず粘り強い成績を目指せます。まずは小さく、安全に、検証可能な形で始めましょう。
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