ビットコイン現物先物ベーシストレード完全ガイド:キャッシュ・アンド・キャリーで狙う確定利回りの作り方

取引手法

本稿では、ビットコインの価格方向に依存しにくい収益機会として知られる「現物先物ベーシストレード(キャッシュ・アンド・キャリー)」を、ゼロから運用できるレベルまで徹底的に解説します。価格が上がっても下がっても、先物との価格差(ベーシス)を取りにいく戦略で、裁定色が強く、感情に左右されにくいのが利点です。

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要点サマリー

・現物を買い、同数量の先物を売ることで方向性(デルタ)を中立化します。
・先物が現物より高い「コンタンゴ」では、満期に向けてベーシスが縮小しやすく、その分が概ね収益源になります。
・年率換算利回り(APY)は ((F − S − 総コスト) / S) × (365 / 残存日数) が基本。
・総コストには売買手数料、現物調達コスト、資金金利、スプレッド、出入金コスト、税務影響などを含めて見積もります。
・主要リスクは「ベーシス縮小/逆転」「証拠金管理ミスによる清算」「手数料・スプレッド悪化」「カウンターパーティ/規制/オペレーション」。

ベーシスとコンタンゴ/バックワーデーション

先物価格 F と現物価格 S の差 (F − S) を「ベーシス」と呼びます。一般に、金利や保管・保険コストを反映して、満期が先の先物ほど高くなりやすい構造(コンタンゴ)があります。逆に需給ひっ迫などで先物が割安になる場合はバックワーデーションです。ベーシストレードはコンタンゴ環境で特に機能しやすく、満期接近で F は理論的に S に収れんする傾向があるため、その差分が収益源になりやすいのです。

年率換算利回りの計算式

代表式:
APY ≒ ((F − S − 総コスト) / S) × (365 / 残存日数)

ここで「総コスト」は、売買手数料(現物・先物)スプレッド現物調達のための金利/借入コスト先物建玉の証拠金機会費用入出金/コンバージョンの手数料税務影響(実現課税/決算期)などを含めて保守的に見積もります。

Excelでの実装例

=((F - S - TotalCost) / S) * (365 / DaysToExpiry)

例:S=60,000、F=60,600、残存日数=30、TotalCost=0.12%相当とすると、
差分(600)/S=1.0%、年率換算は約 1.0% × 365/30 ≒ 12.17%。
ここから手数料往復0.08%、借入コスト年5%×(30/365)=0.41% 等を控除すれば、概算APYは約11.7%→10%台前半へ。

ステップバイステップ:実行手順

1) 口座・商品・通貨の選定

・同一/異なるプラットフォームで「現物約定」と「先物売り」を素早く両立できる環境を準備します。
・先物は満期のある限月先物(四半期など)を基本とし、必要に応じてロール(乗り換え)戦略を設計します。
・建値通貨はUSDTまたはUSD建てが管理しやすいですが、証拠金通貨の一致/分散や、為替リスクも考慮します。

2) 枠取りと金額設計

・想定元本のうち、証拠金バッファ(維持率+α)と現物購入資金予備の手数料/出金費用を区分。
・ヘッジ比率は原則「1:1」。先物売り建玉数量は現物数量×契約乗数に一致させます。

3) 約定と同時ヘッジ

・現物買いと先物売りは、価格乖離が広い瞬間を狙いほぼ同時に行います。執行は成行/指値を使い分け、スリッページと約定優先度を管理します。

4) 保守運用と日次点検

・証拠金率・強制ロスカット閾値を毎日確認。想定外のボラでデルタがズレないよう、配分や追証ルールを事前定義します。
・ベーシス(F−S)の推移をトラッキングし、閾値を下回ればロール/クローズ基準を発動。

5) 満期決済 or ロール

・満期決済:先物は最終決済により強制クローズ、現物は売却してクローズ。実損益と費用を確定。
・ロール:満期が近づいたら、買戻し(近限)+ 売り直し(遠限)を同時に執行してポジションを継続。ロールの都度、新しいベーシスでAPYを再計算します。

数値ケーススタディ

ケースA:月次コンタンゴ1.0%

・S=60,000、F=60,600、残存30日、売買手数料(片道)0.04%、借入年率5%を想定。
APY≒12.17% − 0.08% − 0.41% ≒ 11.68%
1BTCあたり元本S=60,000なら、30日でおよそ 約0.97% の粗利、年換算で11〜12%レンジ。

ケースB:月次コンタンゴ0.3%

・S=60,000、F=60,180、残存30日、他条件同じ。
APY≒3.65% − 0.08% − 0.41% ≒ 約3.16%
薄利でもロールによる複利化や執行最適化で積み上げ可能ですが、費用負けしやすく厳密なコスト管理が鍵です。

ケースC:バックワーデーション転落

・突発イベントでF<Sに転落(例:−0.5%)。
既存ポジションは逆方向の収れんで減益圧力。満期まで耐えても損失が拡大する可能性があるため、事前の撤退基準(ベーシス閾値、ニュースフロー、流動性)を運用ルールに明記しておきます。

費用とスリッページの徹底管理

ベーシス差分は大きくても数十bp〜数百bp/月が多く、費用の数bpがパフォーマンスを決めると言っても過言ではありません。
・メイカー/テイカー手数料、VIP階層の要件、リベート構造を把握。
・成行多用時はスリッページを事後集計し、執行アルゴ(TWAP/VWAP/スライス)導入を検討。
・スプレッド/板厚の薄い時間帯は避け、統計的に流動性が厚い時間に寄せる。

証拠金・清算リスクの抑制

価格が大きく動いても、理論上は現物と先物でデルタは相殺されます。ただし先物側の清算は例外で、相殺が崩れる最大の事故要因です。
・初期証拠金は維持率の2〜3倍を標準。
・急変時は現物側を担保にできる仕組みの活用、または証拠金通貨を別途余剰で保持。
・クロス/分離マージンの選択は「清算バッファ」を優先。
・同一プラットフォーム集中はカウンターパーティリスクを高めるため、アロケーション分散も選択肢。

ロール戦略とカレンダースプレッド

ロール時は「近限買戻し+遠限売建」を同時執行します。
単純ロール:満期の数日前に機械的に実施。
シグナルロール:遠近ベーシス差(カレンダースプレッド)が閾値を超えたら先行してロール。
・ロールの損益は「新たなベーシス」で再評価。過度な回転は費用負けに直結するため、ルール固定が無難です。

税務・会計の観点(一般論)

実現損益は課税対象になり得ます。現物とデリバティブで取り扱いが異なることが多いため、居住国の税法・会計基準に従い、期末の評価・実現の区別、損益通算、損失繰越、外貨換算の方法を明文化しておきましょう。具体的な取り扱いは専門家に確認してください。

運用KPIとダッシュボード

・実効APY(ネット)= ロール累計確定益 ÷ 元本 ÷ 経過年数。
・費用率=(手数料+スリッページ+金利)÷ 元本。
・清算安全度=(証拠金余力 − 閾値)/ ポジション名目。
・稼働率=ポジション保有日数 ÷ カレンダー日数。

自動化のヒント(擬似コード)

# basis_apy = ((F - S - cost) / S) * (365 / dte)
if basis_apy < threshold_net:
    alert("APY below threshold, consider close or roll")
if margin_ratio < safety_buffer:
    alert("Top-up margin")

よくある質問

Q1:永久先物(パーペチュアル)でも可能?
A:可能ですが、その場合の「ベーシス」は主に資金調達率(ファンディングレート)に相当します。買い現物+売りパーペチュアルでネット金利(受取−支払−費用)を年率換算します。金利の変動幅が大きく、四半期先物より不確実性が高い点に注意してください。

Q2:ヘッジ比率は常に1:1?
A:原則は1:1です。約定ずれ・契約乗数違い・手数料差でごく軽微なデルタが残るため、日次で実効デルタを点検します。

Q3:バックワーデーション時は?
A:新規は見送るのが定石です。保有中に転落した場合の撤退基準(損失上限・イベントトリガー)を事前に定義します。

Q4:どの程度のベーシスから参入すべき?
A:費用とリスクに依存します。経験則としては「ネットAPYが所定のハードル(例:年8〜10%)を上回る」こと。過去データで費用・スリッページを含めて検証してください。

Q5:資産通貨の為替リスクは?
A:USD/USDT建てで記帳している場合でも、実際の原資がJPYなら為替変動の影響を受けます。原資通貨と記帳通貨を一致させるか、為替ヘッジ方針を決めてください。

まとめ

現物買いと先物売りを組み合わせるベーシストレードは、方向性の当て勘を排し、差とコストを積み上げる戦略です。成功の90%は「費用とリスクの地道な管理」にあります。小さく始め、記録し、ルールを固定し、繰り返し改善してください。

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