オンチェーン分析で掴む資金フローの兆し—個人投資家の実装ガイド

暗号資産

価格チャートは「結果」です。結果を生み出す“原因”を掴む最短ルートがオンチェーン分析です。本稿では、価格より半歩だけ早い「資金フローの変化」を個人投資家が無料中心の環境で観測し、エントリー/手仕舞いの根拠に落とし込む方法を、手順と具体例で解説します。

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なぜオンチェーンか:価格の背後にある「資金の動き」を捉える

値動きは需給で決まります。需給は最終的に「どこに資金が溜まり、どこから出ていくか」に還元されます。オンチェーンは次のような問いに直接答えます。

  • 取引所にコインが入っているのか(売り圧になりやすい)/出ているのか(現物の買い持ち志向)。
  • 含み益・含み損のバランス(MVRV)が危険域かどうか。
  • 利確・損切りの活発さ(SOPR)が転換点に近いか。
  • 長期保有者の動揺(HODL波/コイン日数/Dormancy)が出ていないか。
  • メンプールの詰まりやガス代急騰が「駆け込み需要」か「恐怖売り」か。
  • ステーブルコイン供給・ブリッジ流入出がどのチェーンに向いているか。

これらはチャートの形だけでは読み切れません。資金フローを併読することでエントリーの質と撤退速度を高めます。

無料中心の環境セットアップ(10分)

  1. チェーンエクスプローラ:BTCはmempool系、ETHはEtherscanでメンプール・ガス・トークン移動を確認。
  2. ダッシュボード:Duneなどの公開ダッシュボードで「取引所流入/残高」「ステーブル供給」「ブリッジ流入」をブックマーク。
  3. アラート:大口アドレス(取引所ホットウォレット、上位鯨)の入出金をトラッキング。
  4. 先物・建玉:建玉・清算ヒートマップを別タブで並置(現物フローとデリバの齟齬を検出)。

ポイントは「同じ指標を毎日同じ順番で見る」こと。視覚的な差分が見えるように固定化します。

見るべき6大コア指標と売買への接続

1) 取引所への流入・残高

解釈:取引所残高の増加は売り圧になりやすく、流出は現物積み上げのサイン。短期の価格と逆相関を取りやすい一方、局所イベント(上場、資金再配置)に注意。

売買ルール例:日次で「価格上昇+流入超過」が3日続いたら新規エントリーを控える/縮小。逆に「価格横ばい〜下落+流出超過」が3日続いたらスケールイン。

2) MVRV(時価総額/実現時価総額)

解釈:過度な含み益は利確圧力、過度な含み損は反発ポテンシャル。コイン別・期間別で水準が異なるため、固定閾値ではなく「直近1年の分位」で相対判断します。

売買ルール例:上位10%分位に入ったら現物の一部利確、下位15%分位で時間分散の買い増しを開始。

3) SOPR(Spent Output Profit Ratio)

解釈:1より大なら平均的に利確、1未満なら損切り優勢。短期(SOPR-ST)を使えばトレンドの“呼吸”が見える。

売買ルール例:価格が上昇しているのにSOPRが1付近で頭打ち→上値重い(新規買い抑制)。価格が底打ち気味でSOPRが1を明確に回復→短期トレンド転換の初動でスケールイン。

4) Dormancy/Average Coin Dormancy

解釈:長く眠っていたコインが動くと上昇相場の終盤や恐怖局面の capitulation で出やすい。連続上昇後のDormancy急伸は利確の合図になりうる。

売買ルール例:上昇局面でDormancyが前週比+50%を超えたら新規買い停止、保有の25〜33%を利確。

5) メンプールとガス代

解釈:メンプール膨張やガス急騰は「需要の飽和」または「恐怖の一斉送金」。送金の宛先が取引所なら売り圧示唆、DeFiなら機会追随の可能性。

売買ルール例:ガス急騰+取引所入金増→短期ショック回避でレバ玉縮小。ガス急騰+DEX流動性移動→トレンドフォロー継続。

6) ステーブルコイン供給・ブリッジ資金

解釈:USDT/USDC供給・取引所残高は新規購買力の代理変数。ブリッジ流入の増加は「どのチェーン・どのセクターにテーマ資金が集まるか」のナビになります。

売買ルール例:主要CEXのステーブル残高が週次で増加に転じたら現物の買い増し比率を+10〜20%拡大。特定L2へのブリッジ流入が継続なら、そのチェーンの主要トークン/DEX LPにテーマ回帰。

日次ルーティン(所要15分)の標準化

  1. 先物の建玉・清算状況を開き、トレンドの耐性を確認。
  2. 取引所流入/残高、ステーブル残高、ブリッジ流入を比較。
  3. MVRV・SOPRの分位位置をチェック。
  4. Dormancyと大口移動(タグ付け鯨・取引所)を監視。
  5. メンプール/ガスを見て、フローの向き(CEXかDEXか)を判別。
  6. 売買ルール表に基づき、当日のアクション(買い増し/縮小/見送り)を決定。

実装例①:現物スイング(BTC)

前提:現物のみ、最大ドローダウンを-15%以内に制御。

  • 条件A:取引所残高が5営業日連続で低下、かつCEXステーブル残高が週次で増加に転じた。
  • 条件B:MVRVが過去1年の35〜45%分位、SOPR-STが1.0〜1.02で推移。
  • 条件C:メンプールは平常、Dormancyは落ち着いている。

エントリー:分割で3回、等金額で買い(初回約定後に2%逆行で打ち止め)。

手仕舞い:MVRVが上位10%分位に到達またはDormancy急伸で1/3利確、上抜け継続なら移動平均で追随、SOPRが連続して1割れなら残り縮小。

実装例②:アルト回転(ETH/L2セクター連動)

前提:ETH現物+テーマ性のあるL2主要トークンを比率調整で回転。

  • 条件A:L2へのブリッジ流入が3日連続増加、DEXボリュームが前週比+30%。
  • 条件B:ETHの取引所流出が続き、CEXステーブル残高が増加。
  • 条件C:ガス代は上昇しているがメンプール詰まりは限定的(持続性あり)。

配分:ETH:基軸60%、L2主要:40%。テーマ鈍化のサイン(ブリッジ流入停止+DEXボリューム回落)でL2ウェイトを20%まで縮小しETHへ戻す。

実装例③:デリバと組み合わせるヘッジ

オンチェーンで「売り圧シグナル(CEX入金増+Dormancy上昇)」が出たとき、現物は維持しつつ、先物で1〜3割の名目ヘッジを構築。SOPRが1を明確回復したらヘッジ解消。資金効率を高めつつ、ドローダウンを抑制します。

ダマシを減らすための併読:先物データとの齟齬を見る

現物フローの強さと、先物の資金配分が一致しない場面は好機です。

  • 例1:取引所流出継続なのに、建玉は右肩上がりで資金調達率も高止まり→過熱。現物は維持、レバ玉は縮小。
  • 例2:取引所流入増・価格軟調だが、清算は軽く資金調達率も落ち着いている→投げが出きっていない可能性。様子見。

リスク管理:3つの固定ルール

  1. シグナルの一致が2つ以上:単一指標で動かない(例:流入だけで売らない)。
  2. 時間分散:買いも売りも3分割。初回約定から逆行2〜3%で一旦停止。
  3. 最大損失の先決め:資産全体のドローダウン上限を決め、ヘッジ比率で調整。

ケーススタディ:ショック局面の見分け方

急落時に「取引所入金急増+SOPR急低下+清算連鎖+ガス急騰(CEX宛て)」が同時に発生するときは、短期はキャッシュ優先。逆に「入金増だが清算規模が限定、ガス急騰の宛先がDEXやブリッジ」であれば、資金再配置の可能性が高く、テーマ回帰へ備えます。

実務Tips:無料でどこまでやれるか

  • 公開ダッシュボードを自分用に複製し、チェーン(BTC/ETH)×指標(流入/残高・MVRV・SOPR・Dormancy・ステーブル・ブリッジ)で2×6の“固定盤面”を作る。
  • 大口アドレスはタグの信頼度が重要。誤認の可能性は常に織り込む(シグナル一致原則)。
  • ステーブルはチェーン間の乗り換えで見かけの供給が増減する。ブリッジとセットで読む。
  • オンチェーンの誤差・遅延は必ずある。日足ベースの判断に限定する。

チェックリスト(コピペ用)

  • 先物建玉・清算は? 資金調達率は?
  • 取引所流入/残高の方向は?(3日移動)
  • MVRVの分位は?(過去1年)
  • SOPR(短期)の位置は? 1を跨いだか?
  • Dormancyは急伸していないか?
  • メンプール膨張とガス急騰の宛先は?(CEXかDEX/ブリッジか)
  • ステーブル残高とブリッジ流入は?(チェーン別)
  • アクション:買い増し/縮小/見送り/ヘッジ

まとめ:価格の「原因」に寄り添う

オンチェーン分析は万能ではありませんが、価格だけでは見えない資金フローの歪みを示します。指標の“一致”を待ち、時間分散で実行し、先物情報で整合性を検証する。この3点を守るだけで、エントリーの質と撤退の速さは安定します。今日から15分のルーティンに落とし込み、成果で評価してください。

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