現金担保プット(CSP)で積み上げる暗号資産プレミアム:BTC/ETH実装ガイド

暗号資産

本稿では、現金担保プット(Cash-Secured Put; CSP)を用いて、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)で安定的にプレミアム収入を積み上げる方法を、初歩から実装レベルまで体系的に解説します。裁量トレードよりも再現性を重視し、「どの行使価格・どの期限を・どのサイズで・どう管理するか」を明確化します。

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1. 現金担保プット(CSP)とは

CSPは、所定の満期までに原資産価格が行使価格を下回らなければ、受け取ったプレミアムが確定利益となる戦略です。万一、行使価格を下回れば原資産の買い付け義務が発生しますが、現金(もしくはステーブルコイン)を十分に用意しているため、強制ロスカットに追い込まれにくい点が特徴です。

  • 目的:プレミアム収入の継続的獲得と、割安での現物取得の両取り。
  • 前提:十分な現金担保・過度なレバレッジ不使用・サイズ管理の徹底。
  • 想定原資産:BTC/ETH(流動性とオプション市場の厚みがある銘柄)。

2. 仕組みの基礎(用語と損益構造)

CSPの主要パラメータは、原資産価格 S、行使価格 K、満期 T、受取プレミアム P です。満期時の損益は以下の通りです。

満期損益 = 受取プレミアム P - max(0, K - S_T) × 契約数量

上記より、最大利益は受取プレミアムで上限、下方向のリスクは S が 0 に近づくほど拡大します(ただしCSPは現物取得前提なので、ゼロまでの下落を常に想定しサイズを決めます)。

3. なぜCSPが「初心者でも組みやすい」のか

  1. ルール化が容易:デルタ・IV・日数で機械的に選べる。
  2. 資金管理が明確:最大想定買付額=行使価格×数量で把握できる。
  3. マーケット中立寄り:横ばい〜緩やかな下落でも優位が残る。

4. マーケット選定(BTC/ETHの利点)

BTC/ETHはオプション板が比較的厚く、指値約定・ロール・ヘッジが実務上行いやすいです。板密度が低いアルトはスリッページやギャップのリスクが増えるため、本稿ではBTC/ETHに限定します。

5. 設計の全体像(クイックフレーム)

  • 期限:7〜30日を中心。イベント(CPI/FOMC)跨ぎは保守的に。
  • デルタ:目安は 0.10〜0.25(OTM)。勝率とプレミアムのトレードオフ。
  • サイズ:口座残高の 5〜20% を上限に、行使価格×数量が常に担保現金以下。
  • IV:相対的高水準での売り出動、低水準では控えめ。
  • エントリー:板厚のある価格帯で指値。一括より分割を基本。

6. 期待値の考え方(勝率×平均利益−敗北時損失)

デルタを勝率近似とみなす簡易法が有用です。たとえばデルタ0.15のプットを売ると、「満期でITMになる確率は約15%」程度の目安になります(厳密ではありません)。期待値はシンプルに

期待値 ≈ (1−ITM確率)×受取P − ITM時の平均損失

ITM時の平均損失はロール戦略やヘッジ有無で大きく変わるため、ロール設計を含めて期待値を評価することが重要です。

7. 年率換算(APY)と複利運用

受け取ったプレミアムを再投資して繰り返すと、単利より高い実効利回りを狙えます。年内の回転数を n、1回あたりのリターンを r として、(1+r)^n−1 で概算可能です。実務では、負けた回のドローダウンが複利を大きく削るため、サイズを過度に上げないことが結果的にAPYの安定に寄与します。

8. 具体的な数値例(BTC)

仮に S=10,000、K=9,000、満期14日、P=200、数量=1(1枚=1BTC想定)とします。

  • 最大利益:+200
  • 最大想定買付額:9,000
  • 担保必要額の目安:9,000(安全マージンを上乗せ)
  • 下落時:S_T=8,500なら損益=+200−(9,000−8,500)=−300

この単発結果だけでなく、同条件を複数回転した場合の通算期待値を観ます。ITM確率が仮に15%なら、10回中 8〜9回は勝ちやすいが、負けた1〜2回が利益を食い潰す設計になっていないかを点検します。

9. 銘柄・行使・期限の選び方

9.1 デルタ起点

デルタ0.10〜0.25で候補を抽出し、直近安値や移動平均といったテクニカル水準も参照します。サポートに近い行使は、「割安拾い」の意図を満たしやすい一方、割れた場合の走りも想定しておきます。

9.2 期限構造(Term Structure)

短期(7〜14日)は回転効率が高く、イベントの影響も限定的に管理可能。30日超は1回あたりの受取は増えがちですが、見通しの外れに長く晒されます。「短めを繰り返す」運用が初心者には扱いやすい傾向です。

9.3 IV(インプライド・ボラティリティ)

同じデルタでもIVが高いほどPは増えます。上振れIVで売り、下振れIVで控えるのが原則です。CPI/FOMCなどの前後はIVが変化しやすいので、跨ぐならサイズ縮小で。

10. エントリーと執行(実務)

  • 指値優先:板の厚い価格帯に分割指値で置く。慌てて成行を打たない。
  • スリッページ管理:約定履歴と板のギャップを確認してからサイズを入れる。
  • 建玉の一元管理:満期・行使・数量・受取Pを台帳管理。損益と担保余力を常時可視化。

11. リスクとヘッジ設計

11.1 テールリスク(急落)

下方向の大陰線に弱いのがショートプットの宿命です。対策として、買いプットの同時購入で損失を限定し、プットクレジットスプレッド化する方法があります。受取Pは減りますが、最悪損失が有限になります。

11.2 先物ショートの補助

急変時には一時的に先物ショートを当ててデルタを落とす方法もあります。ただし行きすぎは損益を削るため、ヘッジの発動条件(例:Sが直近安値を明確に割った/ボラ急上昇)を事前に決めます。

12. ロール運用(勝ち筋と負け筋の最適化)

12.1 OTMのまま時間減価で勝っているケース

  • 買い戻し→再売り:残プレミアムが微小になったら早期クローズし、新規案件に回す。
  • 満期引き当て:満期まで引っ張るより、残価10〜20%で利益確定が回転効率◎。

12.2 ITMに入ったケース

  • ロールダウン&アウト:より遠い行使・より先の期限へロールし、受取Pを再獲得。
  • 一部損切り:サイズを落としてドローダウンを軽減。「全回復」に固執しない
  • 割安現物化:意図通りなら買い付け受け入れ、のちにコール売り(カバードコール)へ。

13. 「ホイール戦略」への拡張

CSPで割安取得→カバードコールでプレミアムを積み上げる循環を「ホイール」と呼びます。横ばい〜緩やかな上昇局面に適性が高く、キャッシュフローが見えやすいのが利点です。

14. 実務テンプレ(チェックリスト)

  • ① 口座残高と担保現金を確認(行使×数量≦担保)。
  • ② イベント日程(CPI/FOMC・半減期・大型アップグレード)を確認。
  • ③ デルタ0.10〜0.25で候補抽出、IV相対比較。
  • ④ テクニカル水準(直近安値・移動平均・出来高帯)を参照。
  • ⑤ 指値を板厚に分割設置、約定後に台帳記録。
  • ⑥ OTM継続時は残価10〜20%で利益確定→回転。
  • ⑦ ITM時はロールダウン/アウト、または一部損切り。
  • ⑧ 買付発生時はコール売りを検討(ホイール)。
  • ⑨ 常にサイズとドローダウン許容幅を遵守。

15. 初期パラメータの作り方(再現性重視)

まずは極小サイズで運用を開始し、「勝ちパターンの定義」「負けパターンの処理」を文字で書き出します。以下は雛形です。

・銘柄:BTC/ETH
・期限:7〜14日、イベント跨ぎなら小さめ
・デルタ:0.15前後を基準に±0.05で調整
・IV:直近分位点で高めなら出動、低めなら控える
・利益確定:残価が受取Pの20%以下で買い戻し
・ロール:ITM化し、原資産が直近安値を割り込んだら発動
・一部損切り:受取Pの2〜3倍の含み損に達したらサイズ半減

16. 損益シナリオの直感

  • 上昇:プット売りは勝ちやすい。次案件へ素早く回す。
  • 横ばい:時間減価で優位。残価が小さくなったらクローズ→回転。
  • 下落:最重要局面。「どう負けるか」を事前定義。ロール・一部損切り・現物化→ホイールへ。

17. テールヘッジの具体案

  • 小額の遠OTMプット買い:月次で保険料を固定費化。大崩れ時の破壊力を緩和。
  • イベント前のサイズ圧縮:ポジションを持たないという選択も優位性。
  • 分散:満期日や行使を分散し、同一日に集中させない。

18. 管理インフラ(台帳とルールの履歴)

スプレッドシートやノートに、取引ID・日付・銘柄・満期・行使・数量・受取P・買戻価格・理由などを必ず残します。「なぜ勝てたか/負けたか」の言語化が再現性を高めます。

19. よくある誤り

  • サイズ過大:数回の敗北で口座が痩せる。とにかく小さく。
  • ロールの先延ばし:ITM放置は損失拡大の温床。条件に達したら機械的に実行。
  • 一括エントリー:分割が原則。板に合わせる。
  • イベント軽視:IV・ギャップ・流動性の変化を過小評価しない。

20. まとめ

CSPは、割安取得の「待ち」戦略プレミアム収入を同時に狙える、再現性の高い設計手法です。デルタ・期限・IV・サイズ・ロール・テールヘッジをテンプレ化し、「小さく、長く」を合言葉に運用を積み重ねることで、キャッシュフローの滑らかさと精神的な安定を両立できます。

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