ATRで損切り幅と株数を決める|値動きが違う銘柄を同じリスクで取引

ATRと許容損失から建玉数を計算する架空の成人日本人女性トレーダー。AI生成イメージ。 日本株・短期売買

値動きの静かな銘柄と荒い銘柄に同じ「2%損切り」を当てると、片方は日常的な揺れで退出し、もう片方は必要以上に大きな損失を許します。ATR(Average True Range)は、窓開けを含む実際の値幅を測り、損切り幅と株数を銘柄のボラティリティに合わせる指標です。

重要なのは、ATRが上昇・下落を予測する指標ではない点です。方向はチャート構造や売買戦略で決め、ATRは「どれほど動くのが普通か」を共通単位に変換します。

スポンサーリンク
【DMM FX】入金

ATRの材料となるTrue Range

True Range(TR)は、当日の高値-安値、高値と前日終値の差、安値と前日終値の差の絶対値という3候補の最大値です。前日終値1,980円、当日高値2,060円、安値2,010円なら、候補は50円、80円、30円でTRは80円です。単純な高安差だけでは、30円の上窓を見落とします。

高値安値差と前日終値からの差を比較してTrue Rangeを求める図解
図1:窓開けを含む三つの値幅から最大値を選ぶ。

一般的な14期間ATRはTRを平滑化した値です。計算方式はチャートサービスで差が出ることがあるため、検証と発注で同じ定義を使います。基本概念はStockChartsのTrue Range解説AAIIのATR解説で確認できます。

価格ではなくATR比率で比べる

A株は株価2,000円でATR40円、B株は株価5,000円でATR250円とします。ATR÷株価はAが2%、Bが5%です。Bは価格が高いだけでなく、資金に対する日常値幅も2.5倍あります。同じ100万円を投じれば、Bの損益は大きく振れやすくなります。

銘柄選びでは絶対額ATRとATR比率を分けて見ます。呼値や最小売買単位の影響を受ける短期売買では絶対額が必要ですが、異なる価格帯を比較するにはATR比率が便利です。

構造を先に決め、ATRで余白を加える

買いエントリー2,120円、直近の押し安値2,075円、ATR50円の架空例を考えます。押し安値を1円割れただけで損切ると、流動性を探る一時的な下振れで外されやすくなります。そこで0.2ATR=10円の余白を加え、無効化価格を2,065円にします。1株リスクは55円です。

ATRの1.5倍を機械的に引く方法もありますが、チャート上の意味がない価格になりがちです。まず「ここを割れば買い仮説が崩れる」という構造を決め、ATRは余白が狭すぎないかを点検する補助線にします。支持帯が遠すぎて損益比が悪いなら、損切りを近づけず取引を見送ります。

許容損失から株数へ変換する

運用資金300万円、1取引の許容損失0.3%なら9,000円です。先ほどの55円に滑り3円を加えた実効損切り幅は58円。9,000÷58=155株なので、100株単位なら100株に落とします。想定損失は5,800円です。200株へ丸め上げると11,600円となり、許容額を超えます。

許容損失9000円を実効損切り幅58円で割り100株に丸める図解
図2:ATRで作った余白と滑りを含め、株数を切り下げる。

この式は、株数=許容損失÷(エントリー価格-損切り価格+想定滑り)です。売買手数料が無視できない口座なら往復費用も加えます。100株でも許容損失を超える銘柄は、その口座規模では取引しない判断が合理的です。

ATRが急増した日の注意点

決算発表や相場急変後はATRが遅れて上昇します。14日ATRは過去を平均するため、当日ギャップ直後の危険を完全には反映しません。前日ATRが60円でも、寄り付き10分で180円動いたなら、古い60円を基準に株数を決めないことです。当日のレンジ、板の厚さ、気配の飛び方を優先します。

逆に急変後しばらくするとATRは高止まりします。値動きが落ち着き始めても株数が小さくなりすぎるため、短期ATRと長期ATRを併記する方法があります。例えば5日ATRが14日ATRを下回り続けるなら、足元の縮小を認識できます。ただし都合よく小さい方だけ採用せず、検証時と同じルールを使います。

ATRトレーリングの設計

含み益が出た後、最高値から2ATR下へ損切りを切り上げる方法があります。最高値2,300円、ATR60円なら2,180円です。ATRが80円へ拡大すると停止線が2,140円へ下がる計算になりますが、一度引き上げた損切りを再び緩めないルールが必要です。

短期トレードでは、終値ベースで判定するか、場中到達で執行するかでも結果が変わります。終値判定はノイズに強い一方、急落を大きく受けます。場中逆指値は防御が速い一方、ヒゲで外されます。どちらが優れているかではなく、保有期間とギャップ耐性に合わせます。

複数建玉ではポートフォリオ熱量を見る

1件0.3%でも、同じ半導体株を5銘柄持てば合計1.5%が同じ材料で同時に損切りになる可能性があります。各建玉の最大想定損失を合計した「ポートフォリオ・ヒート」に上限を設けます。上限1%なら、既存建玉が0.8%を使っている時、新規に使えるのは0.2%です。

指数、業種、材料の重複も記録します。ATRは個別銘柄の値幅を整えますが、相関による同時損失までは消しません。銘柄数ではなく、損失原因の数を分散させる発想が必要です。

検証表に残す数値

各取引にエントリー時ATR、ATR比率、損切りまでのATR倍数、株数、想定滑り、実際の滑り、最大順行幅、最大逆行幅を残します。利益と損失を初期リスクRで表せば、株価の違いを越えて比較できます。

「0.2ATRの余白では外された後に上昇することが多い」「1.5ATR以上の損切りは目標まで遠すぎる」といった改善点が数値で見えます。ATRは万能な答えではなく、無効化価格、約定コスト、口座リスクを同じ式につなぐための物差しです。

時間軸に合うATRを選ぶ

日足で数日保有する取引に5分足ATRを使うと、夜間ギャップを含まない狭い損切りになりやすくなります。逆に数十分のデイトレードへ日足ATRをそのまま使えば幅が広すぎます。保有期間の中心となる足で方向と構造を決め、一段上の足のATRで異常な環境かを確認します。

例えば5分足ATRが12円、日足ATRが120円の銘柄で、朝30分にすでに150円動いていれば、5分足だけでは当日の過熱を見落とします。「当日高安÷日足ATR」を計算し、1.2を超えた後の新規買いは押しを待つなど、値幅消化率を補助条件にできます。

ギャップリスクは別枠で扱う

逆指値を2,065円に置いても、翌朝1,950円で寄れば55円では止まりません。決算、重要統計、中央銀行イベントをまたぐ取引では、通常のATRリスクにギャップのストレス額を加えます。過去の決算翌日ギャップの90%点が8%なら、100株でも約1万6,960円の価格変動です。

口座がこの損失を許容できないなら、決算前に閉じる、株数を落とす、現物の範囲に限定する選択が必要です。ATRは連続的な日々の値幅には有効ですが、情報が一晩で価格へ織り込まれる跳躍を上限化しません。

利確目標もATRで点検する

損切りだけ広げ、利確を固定額のままにすると期待値が悪化します。55円リスクに対して20円の目標では、勝率が高くなければ費用を吸収できません。過去の最大順行幅がエントリー後5日で中央値1.8ATRなら、第一目標1ATR、第二目標1.8ATRという設計を検証できます。

ただし抵抗帯が0.7ATR先にあるなら、統計上の平均値まで進む前に売りが出ます。ATR目標と価格構造の近い方を採用し、損益比が不足すれば入らない。目標を遠く描いて取引を正当化しないことが重要です。

ATR縮小から拡大への転換

ATRが低い期間は株数計算上の数量が増えます。しかし保ち合い末期は、低いATRの直後に急拡大することがあります。20日ATR比率の過去1年百分位が下位10%にあり、出来高を伴うレンジ突破が起きた場合、昨日の静けさを前提に最大株数を持つのは危険です。

対策として、ATRが極端に低い時は計算株数へ0.5~0.7の係数を掛け、最初の押しで値幅を確認してから追加します。追加後も合計許容損失は当初上限を超えません。新しい建玉の損切りを既存利益で相殺したつもりになると、急反転時に利益と元本を同時に失います。

売り取引での使い方

式は買いと同じですが、上昇側のギャップは理論上上限がなく、空売りの滑りを大きめに置きます。エントリー1,800円、無効化1,860円、ATR45円なら、構造上60円は1.33ATRです。材料発表時に2ATR滑るストレスを加えた株数も併記します。

貸株在庫が不安定な小型株では、ATRが適正でも注文自体を除外します。値幅リスクと制度・流動性リスクは別物です。数値化できる部分だけ精密にして、測りにくい危険を無視しないようにします。

検証でありがちな間違い

現在のATRを過去のエントリーに使うと未来情報が混入します。必ず当時確定していたATRを使い、当日終値で入るならATRの更新時点も統一します。また、損切りと利確の両方に同じ日の高安が触れた場合、都合よく利確を先にしたと仮定しません。より細かい足で順序を確認するか、保守的に損切り扱いにします。

銘柄入れ替え、上場廃止、株式分割を含むデータ品質も確認します。成功銘柄だけが残るデータでATR戦略を試すと、実際より成績がよく見えます。手法の精度は数式の複雑さより、当時利用可能だった情報を正しく再現できるかに左右されます。

朝に行う三段階の計算例

第一段階は前日までのデータで候補を並べ、ATR比率が口座の想定範囲にあるか確認します。第二段階は寄り付き後の実際の高安と出来高を加え、古いATRから大きく乖離していないかを見ること。第三段階でチャート上の無効化価格を決め、滑り込みの1株リスクから株数を切り下げます。

候補Cが前日ATR70円、寄り後の買い価格1,540円、押し安値1,492円だとします。0.2ATRの14円を加えて損切り1,478円、価格差62円、滑り4円で実効66円です。許容9,000円なら136株なので100株。目標が直近高値1,600円なら利益余地60円しかなく、費用前でも損益比が1未満なので見送ります。株数が計算できても、取引価値があるとは限りません。

ATRを使う目的を一文にする

運用前に「ATRで当てる」のではなく、「通常の揺れに合わせて損切り余白を点検し、どの銘柄でも口座損失を同程度にする」と書きます。この目的から外れる使い方、例えばATR上昇だけを買いシグナルにする場合は別戦略として検証します。

方向、無効化、数量、出口を一つの指標へ背負わせると、成績悪化時に原因を特定できません。方向はセットアップ、無効化は価格構造、数量は許容損失、環境調整はATRという役割分担を守ると、改善すべき部品が明確になります。

最後に発注画面で、入力株数×実効損切り幅が許容額以下かを再計算します。表計算の参照ずれや売買単位の丸めで、計画より大きくなる事故を防ぐためです。約定後は平均取得価格に置き換えて損失額を更新し、許容額を超えた場合は損切り位置を都合よく近づけず株数を減らします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました