低レバ×ボラ調整で作る擬似リスクパリティ:個人投資家が現実的に実装する株・債券・金の配分術

アセットアロケーション

本稿は、株・債券・金を用いて、個人投資家でも実装可能な「擬似リスクパリティ」ポートフォリオを、低レバレッジとボラティリティ調整で構築するための実務ガイドです。過度な数式や難解な最適化に依存せず、取引コストや再配分の手間を抑えつつ、相場の局面変化(利下げ局面・利上げ局面・リスクオフ)に対して頑強性を高めることを狙います。

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コンセプト:なぜ擬似リスクパリティか

クラシックな60/40は、株式のボラティリティ寄与が過大になりがちで、実際のリスクは株式偏重になりやすい構造です。リスクパリティは資産クラスごとのリスク寄与(標準偏差ベース)を均等化し、相関の変動に対して分散耐性を高めるアプローチです。ただし厳密なリスクパリティは、継続的なパラメータ推定やレバレッジの活用を前提とし、個人には運用面のハードルがあります。本稿では、

  • 対象を「株・債券・金」の3資産に限定
  • レバレッジは「低レバ(最大でも1.2倍程度)」に制限
  • ボラティリティは単純移動の実測値で粗く調整

という現実解で「擬似リスクパリティ」を提示します。

使用ユニバースと銘柄(例)

あくまで代表例です。流動性・コスト・課税・口座環境に応じて適宜代替してください。

  • 株式:世界株式ETF(例:ACWI、VT)、または米国株広範ETF(例:VTI)
  • 債券:先進国国債中長期(例:米国総合債券BND、長期国債TLT/中期IEF)
  • 金:金現物連動ETF(例:GLD、IAU)

為替リスクへの向き合い方(無ヘッジ/為替ヘッジ)は口座やコストで変わります。金は本質的にドル建てで見られがちですが、無ヘッジで保有する場合は円安局面の保険的機能が強まることがあります。

コアの配分ロジック

目標は「リスク寄与の概均等化」。厳密計算ではなく、実測ボラの逆数で重みを置く簡便式を採用します。

<擬似RP比率>  w_i ∝ 1 / vol_i
vol_i = 過去126営業日の年率換算標準偏差(単純)

3資産(株・債券・金)に対して、各volの逆数を取り、合計で割って正規化します。相関の変動を無視しているため厳密ではありませんが、個人実装としては十分に機能します。

さらに、全体の目標ボラ(例:年率8%)に対して、ポートフォリオの実測ボラが低すぎる場合のみ、先物や信用(低レバ)で全体エクスポージャを1.0~1.2倍の範囲で微調整します。逆に高すぎる場合はレバを外すか現金比率を上げます。

具体ステップ(毎月または四半期)

  1. 各資産の終値データから、過去126営業日の年率ボラを更新。
  2. 逆数で重みを算出し、合計で割って3資産の新ウェイトを得る。
  3. 目標総ボラ(例:8%)と現行ポートの推定ボラを比較し、必要ならエクスポージャを最大1.2倍まで引き上げる(または引き下げる)。
  4. 取引コスト・税コスト・スリッページを考慮してリバランス。乖離許容幅(バンド)を±20%相対で設け、閾値を超えた時だけ調整するのも有効。

エクスポージャ調整には、株式先物(ミニ)、債券先物、または信用取引でのETF買い増し等を利用します。常時レバを使わず「必要時のみ」のほうが運用の安定性と実務負担のバランスが取りやすいです。

リバランス・バンド運用の実例

例として、直近月の計算で w_stock=0.38, w_bond=0.42, w_gold=0.20 が出たとします。以後、

  • 株式:0.38×(1±0.2) → 0.304~0.456
  • 債券:0.42×(1±0.2) → 0.336~0.504
  • 金 :0.20×(1±0.2) → 0.160~0.240

という許容レンジを設定。市場変動でウェイトが逸脱した資産のみを調整し、売買回転を抑制します。大幅逸脱時は「部分調整」を複数回に分けるとスリッページ耐性が高まります。

局面別の挙動イメージ

  • 利下げ局面・景気悪化:株式が軟調でも、債券の価格上昇と金の防衛的性質が下落を一部相殺。
  • 利上げ局面・インフレ再燃:債券は逆風でも、金や一部株式セクター(資源関連等)がヘッジ機能を発揮しやすい。
  • リスクオフ(地政学・信用不安):金と高格付け債券が相対的に堅調になり、ドローダウンの緩和が期待できる。

相関は動的に変わります。短期では同時下落も起こり得ますが、3資産の性質差は「下落の仕方」をズラし、復元力を補助します。

実務でのボラ推定:シンプルで十分

ボラは過去126営業日の日次リターン標準偏差×√252で年率化。指数平滑移動(EWMA)を使う選択もありますが、過剰適応を避けたいので単純移動で十分です。極端なショックが入るとウェイトが乱れるため、3σ超の外れ値はクリップして安定性を優先する現場運用もあります。

エクスポージャ調整(低レバ)の考え方

目標ボラ8%に対して推定6%しか出ないとき、先物で合成的に1.2倍へ引き上げることで「資産が安全すぎてリターンが伸びない」状態を緩和します。逆に相場が荒れて推定10%に達する場合はレバを外し、必要なら現金比率を持つか、ボラが高い資産のウェイトを一時的に抑えます。

先物の利用は証拠金管理とロール管理が要点です。原資産ETFと先物を組み合わせるときは、銘柄間の連動性・基差・ロールコストを最小化するよう選定します。

想定リスクと崩れ方(フォールシナリオ)

  • 同時下落:相関上昇で株・債券・金が揃って下落する局面。ボラ逆数ウェイトは過去情報に依存するため瞬時には反応できません。
  • インフレショック:債券に厳しく、株式バリュエーションにも逆風。金が支えになりやすいが、ドル高が重なると上値が鈍る場合も。
  • 急速な金利低下:債券が強い一方、長期的にはリスク資産の期待リターン低下が起点となる可能性。
  • 法規制・税制・為替:口座や商品選定の差でネットの手取りが変動。配当・利金の課税も含め実効コストを把握する必要。

崩れ方を事前に言語化しておくと、含み損時の意思決定がぶれません。バックテストでは「最大ドローダウン時の行動シナリオ」を必ずセットで記述します。

実装テンプレート(ルールサマリ)

  1. 毎月(または四半期)に株・債・金の126営業日年率ボラを更新。
  2. w_i ∝ 1/vol_i で3資産の目標ウェイトを決定し正規化。
  3. 許容バンド±20%相対でのリバランス運用。逸脱時のみ調整。
  4. 目標ボラ8%基準:ポート推定ボラが6%以下なら最大1.2倍まで低レバで引き上げ、10%以上ならレバを外す。
  5. 売買は板厚のある時間帯に分割執行(成行依存を避け、スリッページ最小化)。
  6. 運用記録は必ず取引単位で残し、判断根拠と事後評価を紐づける。

ミスを減らす実務ディテール

  • データ源を固定:終値や配当込み指数など、同一仕様のデータに統一。差し替えは検証を壊します。
  • コストの前提を明示:片道0.05%など保守的に置く。先物は証拠金・ロールも含め年率換算で管理。
  • 現金クッション:分配金・税・手数料用に数%のキャッシュを常備し、想定外の追証リスクを防ぐ。
  • 再配分日は固定:第一営業日などルール化。裁量の入り込みを抑える。

シンプル検証の型(表計算でも可)

  1. 3資産の過去価格系列を取得し、日次リターン→年率ボラ(126日)をロール計算。
  2. 月次で w_i ∝ 1/vol_i を更新し、翌月の実現リターンをウェイト合成。
  3. 合成ボラが6%以下なら翌月は1.2倍、10%以上なら1.0倍に制限、のような簡便レバ規律を適用。
  4. 税・手数料を差し引いた曲線(累積リターン、最大DD、シャープ)をレポート。

厳密さよりも「規律の一貫性」と「崩れ方の把握」が要諦です。

よくある質問(FAQ)

Q1:相関を無視しても大丈夫?
A:最適ではありません。ただし相関推定は不安定で、頻繁な再推定は過剰適応の温床です。まずはボラ逆数というロバストな近似から始め、過去検証で相関連動の改善余地を評価してください。

Q2:金は必須?
A:インフレ・地政学のショックに対する保険としての役割が期待できます。無理に精度を追わず、20%前後の上限を設ける運用が扱いやすいでしょう。

Q3:国内ETFでも良い?
A:流動性・スプレッド・信託報酬・為替ヘッジの有無を確認してください。指数の連動性が主要素で、細かな差はコストと運用のしやすさで補えます。

まとめ:実装のコアは「規律」

完璧な数理より、守りやすい運用ルールが価値を生みます。株・債券・金の三本柱、ボラ逆数の簡便ウェイト、低レバの慎重な活用、バンド型のリバランス、そしてドローダウン時の行動規範。これらを一体として設計すれば、相場の変調に対する耐性と、長期的な収益の安定化が期待できます。

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