ベータ値を武器にする:低β×高βローテーション戦略の設計図

投資戦略

本稿では「ベータ値(β)」を中核に、相場環境に応じて低βと高βをローテーションするシンプルかつ再現性の高い戦略を解説します。裁量色を排し、ルール化できる実装手順に落とし込むことで、初心者の方でも運用可能な形にします。

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ベータ値とは何か:一行で言えば「市場感応度」です

ベータ値は、ある資産のリターンが市場全体のリターンにどれほど反応するかを示す指標です。β=1なら市場と同程度、β>1なら市場より大きく動き、β<1なら市場より小さく動きます。負のβは市場と逆方向に動きやすいことを意味します。

計算式(概念)

統計的には「共分散 ÷ 分散」で定義されます。具体的には、対象資産のリターンRiとベンチマークリターンRmから、過去n期間でβ=Cov(Ri, Rm)/Var(Rm)として推定します。回帰分析ではRi=α+β·Rm+εと置き、傾きがβです。

βを使う理由:レジームの“風向き”を読むためです

相場には「リスクオン(上昇相場で高βが優位)」と「リスクオフ(下落・不確実性上昇で低βが優位)」というレジームがあります。βはこの風向きを素早く可視化し、どのバスケット(高β or 低β)を持つべきかの判断材料になります。

戦略のコア:低β×高βローテーション

ロジックは単純です。市場のリスク環境が良好なときは高βのバスケットに乗り、荒れているときは低βのバスケットに避難します。個別株での構築も可能ですが、まずはETFでの実装を推奨します。

使える代表ETF例(米国)

  • 高β側:S&P500高β株を束ねたETF(例:SPHBなど)
  • 低ボラ・低β側:低ボラティリティ株ETF(例:SPLVなど)

本稿では汎用化のため「高βバスケット」「低βバスケット」と呼びます。銘柄やETF名は代替可能です。

判定ルールの設計

ローテーションの肝は“いつスイッチするか”です。以下のどれか一つでも機能します。複数を合成しても構いません。

ルールA:ベンチマークの移動平均トレンド

S&P500などのベンチマーク終値が200日移動平均の上にある→高β、下にある→低β。週次判定・月次売買とし、ノイズを避けます。

ルールB:直近ボラティリティのしきい値

ベンチマークの20日年率換算ボラが一定値(例:20%)を超える→低β、それ未満→高β。しきい値は過去分布の上位・下位%で決めると頑健です。

ルールC:市場リスクプレミアムの符号

簡易版として「ベンチマークの月次リターンの合計(過去3か月)」が正→高β、負→低βとします。ドリフト方向を素早く反映します。

実装フロー(ETF運用版)

  1. ベンチマーク価格系列を取得し、週末に判定ルールを評価します。
  2. 翌営業日の寄りで「高βバスケット」または「低βバスケット」を100%保有に切り替えます。
  3. 切替は最大でも月1回に抑え、過剰な売買コストを避けます。
  4. 配当は再投資します。手数料・スリッページは保守的に見積ります。

個別株での構築:ローカルβの推定

日本株などETFが手薄な市場では、個別株のβを推定して自作バスケットを組みます。やり方は簡単です。

  1. 日次または週次リターンで、各銘柄のβを直近6〜12か月の回帰で推定します。
  2. βの上位30銘柄を等金額で束ねて「高βバスケット」、下位30銘柄で「低βバスケット」を作ります。
  3. 流動性フィルター(売買代金・価格)と業種分散を必ず入れます。

ローテーションの判定自体はETF版と同じで構いません。

バックテスト設計の要点

① 推定窓と取引頻度

β推定窓は長すぎるとレジーム変化に鈍感、短すぎるとノイズ過多です。6〜12か月の週次データが妥当な落としどころです。取引は月次か四半期次に限定します。

② コストと税金

売買手数料、スプレッド、信託報酬、配当課税は必ず控除して評価します。低回転を徹底すれば、コストの影響を小さくできます。

③ リスク指標

年率ボラ、最大ドローダウン、シャープレシオに加え、「最悪の月次下落幅」を見ます。低βへの退避が効いているかを検証します。

ドローダウン緩和の拡張

移動平均フィルターの併用

ローテーション先が高βであっても、ベンチマークが長期移動平均の下にいる場合はキャッシュ(または超低β)に退避するルールを一段重ねると、クラッシュ時の傷を浅くできます。

ポジションサイズの動的制御

ベンチマークのボラが上昇したときにターゲット・ボラティリティでポジション比率を下げ、落ち着いたら戻す手法も有効です。

よくある質問(実務の落とし穴)

Q1. βは銘柄固有で一定ですか?

いいえ。βは時間変化します。推定窓や観測頻度で大きくブレます。定期的な再推定が必要です。

Q2. 低β=低リターンでは?

一般論ではそうですが、下落局面の回避により複利が効きやすい場合があります。ローテーション戦略ではこの「下落回避」が重要なリターン源泉になります。

Q3. 日本市場でも通用しますか?

ETFの選択肢が少ない場合は個別株のバスケット構築が必要です。流動性と業種分散の管理で機能度が変わります。

実装チェックリスト(最小構成)

  • 判定指標:移動平均 or ボラしきい値 or 直近リターン合計
  • 売買頻度:月1回(週末判定→翌営業日実行)
  • 保有先:高βバスケット or 低βバスケット(100%)
  • リスク管理:長期移動平均フィルター、ターゲット・ボラでの調整
  • 評価指標:リターン、ボラ、最大DD、最悪月次、トラッキング

ケーススタディ:簡易シミュレーションの考え方

過去データで「200日線の上→高β、下→低β」を月次で適用し、配当込みトータルリターンを評価します。単純なS&P500買い持ちと比較し、最大ドローダウンの縮小と、相対的なリターン向上が確認できれば、有望な設計です。注意点は、判定を月末に固定し翌月初に約定させるなど、未来情報の混入を避けることです。

運用オペレーションの細部

執行

月末引けの成行や翌寄付の成行で足ります。分割エントリーは不要です。ギャップリスクは戦略の性格上許容します。

記録

毎月の判定、約定価格、保有先、評価額をスプレッドシートでログ化します。3か月に1度、しきい値や窓の妥当性を点検します。

リスクと限界

  • 急速なレジーム転換でダマシが増える可能性があります(特にボラ急変時)。
  • 高βバスケットは下落相場で損失が拡大します。フィルター不使用は非推奨です。
  • 低β偏重は長期の強気相場で機会損失を生みます。

まとめ

βは「市場感応度」という単純な概念ですが、低βと高βを明確なルールで切り替えるだけで、裁量に頼らずに“風向き”へ順応できます。過度に複雑な因子モデルを使わずとも、十分に戦える戦略です。まずは小さく始め、売買頻度を抑えて継続し、定期的に検証して改善していきます。

実務Tips:精度と再現性を上げる小技集

β推定のロバスト化

単一の回帰ではなく、6か月・9か月・12か月の3本の回帰からメディアンβを採用すると、外れ値に強くなります。週次終値で推定し、配当は指数レベルで控除不要と割り切ると運用は簡潔になります。

しきい値の自動適応

ボラの絶対値に固定しないで、過去2年の分布に対して上位30%を「高ボラ」とみなすなど、相場水準に合わせて判定を自動調整します。

ユニバースの健全性チェック

高β・低βの各バスケットにおいて、業種の集中度(ハーフィンダール指数)を毎月モニターし、極端な偏りがあれば選定ルールに業種上限を導入します。

キャッシュ代替の使い分け

退避時のキャッシュ代替は、短期国債ETFや超短期MMF連動ETFが候補です。為替リスクのある外貨建ての場合は為替ヘッジ付きの選択肢も検討します。

税制・口座設計

課税口座で実装する場合は、売却益課税と配当課税の二重影響を見込みます。積立NISA等の長期積立口座はローテーション取引には適しません。一般NISAや特定口座での運用が現実的です。

監視ダッシュボード

最低限、ベンチマークの終値、200日線との乖離、20日ボラ、過去3か月リターン合計、高β・低βの当日騰落を一画面で可視化します。判定の透明性が維持されます。

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