団体信用生命保険(団信)は「加入するか」の感情論になりがちですが、投資家の視点では金利上乗せ=保険料として厳密に価格評価し、期待値とNPV(正味現在価値)で意思決定すべき対象です。本稿では数式と具体例で「上乗せ0.1%〜0.3%が、あなたのキャッシュフローに実際いくら効くのか」を解像度高く示し、再現可能な判断プロセスを提供します。
団信の本質:ローン金利へ内在化された保険
団信はローン残債に対する保障(死亡・高度障害、商品によりがん・8疾病・就業不能など)で、一般に金利が上乗せされます。これは実質的に「残高連動・年払いの定期保険」を返済額に埋め込んだ仕組みです。従って投資家は、①上乗せで増える返済額(確定コスト)と、②給付時に消える残債(不確実なベネフィット)を切り分けて評価します。
数式で把握:上乗せα%の月額・総額インパクト
借入元本を(P)、基準金利を(r)、上乗せを(alpha)、期間を(n)ヶ月とすると、毎月返済(元利均等)は
[
A(r) = P cdot frac{r/12cdot(1+r/12)^n}{(1+r/12)^n – 1},quad
Delta A = A(r+alpha) – A(r)
]
総支払増分は(Delta A times n)です。以下の具体例で直感を掴みます。
具体例①:4,000万円・35年、基準1.1%に+0.2%のとき
基準返済額は114,788円/月、上乗せ後は118,593円/月。差額は3,805円/月、総支払増分は1,598,034円です(420回返済)。
この3,805円こそが「団信の月額保険料に相当する実コスト」。ボラティリティのない確定支出として、家計・ポートフォリオのキャッシュフロー管理に直結します。
具体例②:3,000万円・30年、基準0.8%に+0.3%のとき
基準返済額は93,761円/月、上乗せ後は97,876円/月。差額は4,115円/月、総支払増分は1,481,568円です(360回返済)。
上乗せ幅が大きいほど、同じ元本でも逓減しにくい固定費が肥大化します。長期ほど効く点に注意。
NPVで比較:金利上乗せ vs. 代替の掛け捨て保険
代替策として「ローン金利は上げず、外部の定期保険で同等の保障を買う」方法があります。評価はシンプルで、
- ケースA(上乗せ):毎月(Delta A)の支出
- ケースB(外部保険):毎月(Pi)(見積もり保険料)の支出
割引率を家計の機会利回り(例:安全資産の利回りやローン金利)に取り、NPVが小さい方を選びます。がん団信等の残債0円給付は、残高スケジュールに沿って発生確率×残債の期待値で便益(陰的割引)を上乗せして比較します。
期待値フレーム:発生確率×残債の現在価値
ベネフィットの期待値は概念的に
[
E[text{Benefit}] = sum_{t=1}^n Pr(text{給付がt期に初回発生}) times frac{text{残債}(t)}{(1+k)^t}
]
ここで(k)は割引率。実務では公開統計・ベンチマークを用いて粗い範囲推定を行い、「悲観・中立・楽観」の3ケースでレンジ評価→ロバストな意思決定にします。
感度分析:何がコストを動かすか
- 期間:長いほどコストは非線形に増大(複利効果)。
- 上乗せ幅:0.1%刻みの差でも総額では大きなギャップ。
- 元本:もちろん比例。繰上返済予定があるならNPVで早期に差が縮む。
- 基準金利:同じ上乗せでも、基準金利が高い局面では月額差が相対的に増えやすい。
チェックリスト:合理的に選ぶ手順(保存版)
- 借入条件(元本・期間・基準金利・上乗せ)を書き出し、月額差と総支払増を算出。
- 同等保障の外部定期保険を複数社で見積り、月額保険料を取得。
- 割引率(ローン金利や安全資産利回り)を決め、ケースA/BのNPV比較。
- 給付タイプ(残債0円・返済支援・入院就業不能)ごとに、期待値レンジで調整。
- 健康状態・告知リスク、免責/不担保事由、失効条件を必ず確認(契約書ベース)。
- 繰上返済・売却の予定が濃い場合は、短期でのNPVに重み付け。
- 家計キャッシュフローに対する固定費比率(返済負担率+上乗せ)を上限設定。
ケーススタディ:年齢別の意思決定視点
30代・子育て期
保障ニーズが高い一方、期間が長い。上乗せが家計を圧迫しやすいので、外部保険の費用対効果検討を強めに。
40代後半〜50代
残債期間が短くなり、上乗せのNPVが低下。健康状態によっては上乗せ(無査定メリット)に価値。
自営業・可変所得
月次CFボラが大きいため、固定費の最小化を優先。外部保険+繰上返済オプションを柔軟に持つのが機動的。
よくある誤解と落とし穴
- 「上乗せは微々たるもの」:具体例①では総額1,598,034円。長期では無視できません。
- 「給付は必ず得」:確率事象。告知義務違反・免責・支払削減の条項で期待値は大きく揺れます。
- 「繰上返済しても上乗せは関係ない」:早期完済はコストを削減します。比較はNPVで。
実務フロー:書類・確認ポイント
- 商品パンフ・約款・重要事項説明の最新版を入手し、支払事由と免責を線引き。
- 返済予定表(残高推移)をCSV出力し、上乗せケースと比較シートを作成。
- 繰上返済と売却の選好(確率・タイミング)を家計計画に反映。
- 比較結果を家族と共有し、固定費許容レンジ(返済負担率)を合意。
まとめ:ルールで決める
団信は「安心感」でなく価格で選ぶ。
①月額差=確定コスト、②NPVで外部保険と比較、③給付期待値のレンジで調整、の三段構え。
最後にもう一度、あなたの条件で月々いくら増えるかを必ず計算してください。


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