本稿では、日本株でPBR(株価純資産倍率)が1倍未満で放置されている銘柄の中から、ROE(自己資本利益率)が改善傾向にある企業を抽出し、資本効率の見直し(リレーティング)による株価上昇を狙う戦略を、初学者でも実装できるレベルで分解して解説します。感覚や勘ではなく、数式・ルール・チェックリストに落として「再現性」を高めるのが狙いです。
この戦略の狙いと背景
PBRが1倍未満ということは、企業の時価総額が簿価純資産を下回っている状態を意味します。市場が将来の収益性や資本効率に懐疑的である場合に起こりがちですが、実際に改善が進んでいる企業や、資本政策の転換(自社株買い・増配・低収益資産の売却等)が明確な企業は、評価の見直しが起こりやすいテーマです。こうした銘柄群に規律的に投資し、PBRの1倍回帰〜1.2倍到達までのリレーティングを取りに行きます。
PBRとROEの基礎(数式と直感)
PBR=株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS)。ROE=当期純利益 ÷ 自己資本。理論的には、PBR ≒ ROE ÷(投資家が要求する株主資本コスト)という近似が成り立ちます。したがって、他条件一定ならROEが上がればPBRは上がりやすい。逆に、資本コストを上回る収益を出せていない企業は低PBRで放置されやすい、という直感が掴めれば十分です。
投資ユニバースと除外ルール
- 市場・時価総額:流動性確保のため、一定以上の時価総額と出来高(例:時価総額500億円以上、日次売買代金1億円以上)を目安にする。
- 会計の特殊性:金融(特に銀行・保険)はPBRの解釈が異なるため、初学者は一旦除外してもよい。
- 監理・整理銘柄:特別リスクの可能性があるため除外。
コアのスクリーニング条件
- PBR <= 1.0(基準時点)
- ROEの改善:前年からの上昇、または3年移動平均が上昇トレンド。
- 収益性の底打ち:営業利益率が前年から改善、もしくは赤字→黒字転換。
- 財務の健全性:インタレストカバレッジ >= 3倍、ネットD/E <= 1.0 を目安。
ポイントは「低PBRという結果」だけでなく、「改善という変化」を同時に見ることです。低PBRのまま長期停滞するバリュートラップを避ける狙いがあります。
ガバナンスと資本政策のシグナル
- 自社株買い:発行済株式数の2%以上、もしくは機動的買付の継続示唆。
- 配当性向の明確化:レンジ(例:30〜50%)や累進配当方針の採用。
- 非中核資産の売却:低収益資産の圧縮にコミット。
- 統合報告書での資本コスト記載:資本効率への意識の高さを示す。
これらは「ROEを構造的に改善する意思」のサインです。ファンダの数字に加え、経営の意思が確認できるほどリレーティング確度は上がります。
売買ルール(ベースライン)
- 四半期ごとにスクリーニングを実施(決算反映後のタイミング)。
- 条件を満たす銘柄を等金額で保有(分散のため10〜30銘柄)。
- 利確:PBRが1.2倍に到達、またはROE改善が止まる(前年割れ)時点。
- 損切り:決算で赤字転落、営業CF悪化、監理懸念などの定量・定性トリガー。
- 再投資:売却資金は新たな候補にローテーション。
サイズ調整とリスク管理
- 最大ドローダウン許容:ポートフォリオで-15%到達で総エクスポージャを20%削減。
- セクター分散:同一業種を30%以内に制限。
- ボラティリティで重み付け(任意):直近90日の年率ボラの逆数で軽く調整。
- イベント回避(任意):極端な材料(大型公募増資等)はエントリー延期。
ワークフロー(無料ツールでも可)
- 証券会社やスクリーナーでPBR <= 1のリストを抽出。
- 決算資料・統合報告書からROE、営業利益率、資本政策を確認。
- Excel/スプレッドシートで過去3年の指標トレンドをプロット。
- 基準日を決めて四半期ごとにルール再評価(自動化できると尚良)。
ケーススタディ(仮想例)
たとえば「機械部品A社」。PBR0.8倍、ROE5%→7%→9%と改善、営業利益率も6%→8%。今年は在庫最適化が進み、統合報告書で資本コスト8%を開示、配当性向30%の方針を宣言。ここで分散ポートの1銘柄として採用。PBRが1.15倍へ上昇、翌期に1.2倍到達で利確、代わりに新たな候補へ差し替え——という運用イメージです。
よくある落とし穴(回避策)
- バリュートラップ:ROE改善が数字上の一時要因(特益)に依存していないかを確認。
- 景気循環の罠:サイクル上のピークで買っていないか、在庫循環をチェック。
- 希薄化リスク:大型の第三者割当やM&A対価の株式発行予定。
- ガバナンスの弱さ:資本コストの概念が薄く、資産の最適化に踏み込めない。
発展的アレンジ(任意)
- モメンタム・フィルタ:3〜6か月リターンが市場インライン以上を条件に追加。
- イベント・ドリブン:自社株買い新規発表・増強の即日/翌営業日でエントリー。
- 出口の段階化:PBR1.1、1.2で半分ずつ利確し、残りはトレイリング。
チェックリスト(印刷推奨)
- PBR <= 1.0 / ROEは前年より改善?
- 営業利益率・営業CFの改善は継続?
- 自社株買い・配当方針の明確化はある?
- 財務の健全性(ICR >= 3、ネットD/E <= 1)を満たす?
- セクター分散と銘柄数は十分?
- 出口ルール(PBR1.2・ROE悪化・赤字転落)を徹底?
まとめ
「安いから買う」ではなく、「安いが改善している」に焦点を当てるのが肝です。PBR1倍未満×ROE改善というシンプルな枠組みから始め、四半期ごとに厳格に見直すだけでも、再現性と規律は大きく向上します。まずは小さく始め、チェックリスト運用を習慣化してください。
免責事項
本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。


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