モーゲージ証券(MBS)徹底ガイド――金利・プレペイメント・コンベクシティを読み解く実践アプローチ

債券

モーゲージ証券(MBS)で金利を取りに行く実践ガイド

本稿では、モーゲージ証券(Mortgage-Backed Securities, MBS)の構造、収益源、固有のリスク(プレペイメントとネガティブ・コンベクシティ)、評価指標(スプレッド、OAS)、そして実務的なヘッジや為替対応までを、個人投資家が実装できるレベルで体系的に解説します。米国エージェンシーMBSを中心に、日本居住の投資家が取り得るアクセス手段(投資信託・ETF・外債ファンド等)に触れ、ケーススタディで落とし穴を潰します。

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MBSとは何か—「住宅ローンの束」を証券化した債券

MBSは多数の住宅ローン債権をプールし、そこから生じる元利金キャッシュフローを投資家に按分する仕組みの債券です。米国では政府関連機関(Ginnie Mae、Fannie Mae、Freddie Mac)が信用補完を持つ「エージェンシーMBS」が大宗で、信用リスクは極めて限定的である一方、借り手の繰上返済行動に起因する「プレペイメント・リスク」が中心的な価格変動要因になります。非エージェンシーMBSは信用リスクの影響が大きく、スプレッドは厚い反面、クレジット要因の分析が不可欠です。

キャッシュフローの基礎—アモチとプレペイメント

MBSのキャッシュフローは通常の債券と異なり、クーポンだけでなく元本が毎月返済されます(アモチゼーション)。さらに借り手が繰上返済を行うと元本返済が前倒しされ、投資家は想定より早く元本を受け取ることになります。これが再投資リスクの源泉です。

プレペイメントは慣例的に CPR(Conditional Prepayment Rate)PSA(Public Securities Association) で表現します。PSAはベースラインのスケジュール(100%PSA)に対して何倍のスピードかを指し、例えば200%PSAならベースの2倍で繰上が進むイメージです。CPRは年率の繰上率で、月次のSMM(Single Monthly Mortality)に変換してキャッシュフローに反映します。概念的には、SMM = 1 - (1 - CPR)^(1/12)、当月の元本返済は予定元本×SMMで近似できます。

デュレーションとネガティブ・コンベクシティ—「下がると伸び、上がると縮む」

MBSは借り手のリファイナンス行動により、金利が低下すると繰上返済が加速してデュレーションが短縮し、金利が上昇すると繰上が鈍化してデュレーションが延伸します。これを ネガティブ・コンベクシティ と呼びます。すなわち、金利低下局面では価格上昇が抑えられ、金利上昇局面では価格下落が拡大しやすく、通常の国債とは逆方向の凸性を持つ点が本質です。

実務上は金利1bp当たりの価格感応度である DV01 を見ながら、金利パス別のデュレーション・コンベクシティをシナリオで確認します。金利低下シナリオではデュレーションが1〜2年分縮む一方、上昇シナリオでは数年分延びる、という非対称性を前提にヘッジ量を設計します。

スプレッドとOAS—「ボラを割り引いた実力」

MBSは国債に対してスプレッドで取引されます。単純なZスプレッドよりも、金利ボラやプレペイメントの確率分布を織り込む OAS(Option-Adjusted Spread) が重視されます。OASは「オプション性(=繰上オプション)を差し引いたうえで残る超過利回り」を意味し、過去レンジ対比・他資産対比での相対価値判断に活用します。実務ではモンテカルロ金利パスで多数のキャッシュフローを割り引いて現在価値を算出し、国債カーブに上乗せする一定スプレッドを解として求めます。

投資手段—個別か、ファンドか、TBAか

個人投資家の現実的な導線は以下の3つです。第一に、国内公募の外債ファンド・投資信託でMBS比率が高いものを選ぶ方法。第二に、米国上場のMBS ETF(例:エージェンシーMBSを広く保有する低コストETF)の活用。第三に、上級者向けですがブローカー経由でのTBA(To-Be-Announced)取引です。TBAは受渡時に銘柄属性のみを指定してプールを受け取る先物的な取引で、ロールやスペック選好(クーポン、発行年、担保証券属性)で相対価値を狙います。

日本居住者に固有なのは為替リスクです。円貨建て投信であれば為替ヘッジ済みクラスを選ぶ、または自前でFXフォワードや為替予約を組み合わせる選択肢があります。ヘッジコストは短期金利差とクロスカレンシー・ベーシスで決まり、金利環境により数%の年率コストになり得ます。

ヘッジの実務—DV01マッチングと為替の二層管理

MBSの金利ヘッジは、米国債先物(例:5年/10年/Ultra)や金利スワップを用いてDV01を合わせるのが基本です。手順はシンプルで、(1)保有資産のDV01を試算、(2)ヘッジ対象先物のDV01を算出、(3)目標ネットDV01(ゼロ、または目標リスク量)に向けて枚数を調整します。注意点は、金利低下時にMBSデュレーションが縮むためヘッジ過多になりやすく、金利上昇時に延びるためヘッジ不足になりやすいことです。したがって、デュレーションのダイナミクスを前提にリバランス前提の運用設計が不可欠です。

為替は「別レイヤーのリスク」です。ドル建てMBSのエクスポージャーに対して、為替ヘッジ比率を0〜100%で設計します。たとえば「金利は中立に近いが為替は円高に振れやすい」と判断する局面では、金利ヘッジは中立、為替ヘッジを厚めにする、といった二層最適化が実務的です。

ケーススタディ①—エージェンシーMBS ETF × 米国債先物ヘッジ

前提:MBS ETFの実効デュレーション5.5年、想定DV01が100万円当たり約-0.45%/1%(= -4,500円/1bp)とします。1000万円相当を保有すればDV01は約-45,000円/1bpです。10年国債先物のDV01を1枚あたり+8,500円/1bpとすれば、45,000 / 8,500 ≈ 5.3より約5〜6枚でDV01を中立化できます。

シナリオA:金利が0.5%低下。MBSのデュレーションは4.2年へ短縮、DV01は約-34,000円/1bpへ縮小。一方で先物ヘッジは固定枚数のためDV01は不変で、ネットはヘッジ過多になり価格上昇を取り逃がす可能性があります。対処:金利低下局面でヘッジ枚数を段階的に落とすリバランス・ルールを事前に定義します。

シナリオB:金利が0.5%上昇。MBSのデュレーションは6.8年へ延伸、DV01は約-56,000円/1bpへ拡大。ネットではヘッジ不足となりドローダウンが増幅します。対処:上昇局面でヘッジ枚数を増やす一方、許容ドローダウンを明文化し、スプレッド拡大リスクも別途モニターします。

ケーススタディ②—為替ヘッジ併用

上記ポジションに対し、為替ヘッジ比率を70%に設定するとします。為替の損益はヘッジ済み70%部分では抑制され、未ヘッジ30%部分が円高・円安の影響を受けます。実務の肝は、金利ヘッジと為替ヘッジを独立に最適化し、相関が崩れた局面でも各レイヤーで機械的にルール運用できるようにすることです。

スプレッドと相対価値—いつエントリーするか

MBSは国債に対するOASや、クレジット市場(社債、ABS)との相対で割安・割高を判断します。実務では、(1)自分のプライマリー指標(OASの過去分位、MBS/国債スプレッドのZスコア等)を定義し、(2)一定の閾値(例:過去3年の上位20%水準)で段階的にエントリー、(3)ボラティリティが急伸した局面ではヘッジ比率を引き上げる、といったルール化が有効です。

リスク管理チェックリスト

プレペイメント感応度:金利低下での短縮・上昇での延伸を前提に、DV01のレンジを把握しておきます。
ボラティリティ:金利ボラの上振れはOAS縮小圧力になり得ます。ボラ指標(例:MOVE)の変動を併観します。
スプレッドリスク:OAS拡大は価格下押し要因。社債や他ABSとの相対も追跡します。
為替:ヘッジ比率とヘッジコスト(フォワード・ポイント、ベーシス)を月次で点検します。
流動性:ETFは出来高、TBAはロール・スペック差、投信は解約条件を確認します。
再投資:前倒し元本の再投資先と執行ルールを用意します。

実装フロー—明日から動ける手順

  1. 投資手段を選定(円建て投信、外貨建てETFなど)。為替ヘッジ方針を明文化します。
  2. 対象の実効デュレーションと想定DV01を入手。±100bpのシナリオでDV01レンジを把握します。
  3. ヘッジ手段(米国債先物/スワップ/JGB先物)を決定。初期のヘッジ比率と枚数計算式をスプレッドシート化します。
  4. リバランス・ルール(例:金利が±25bp動くたびにDV01を再中立化)を決め、手動でも即時実行できる手順を整えます。
  5. モニタリング指標(OAS、スプレッドZスコア、MOVE、為替ヘッジコスト)をウィークリーで記録します。

よくある誤解と落とし穴

「エージェンシーMBSは信用安全=安全資産」という短絡は禁物です。価格変動の主因は金利とスプレッドであり、国債よりボラティリティが高い局面も普通にあります。もう一つは、「金利低下=債券上昇」だからMBSも単純に上がるだろう、という誤解です。ネガティブ・コンベクシティが作用して上昇が抑制される可能性があるため、ヘッジ枚数の過不足と合わせて損益形状が歪む点に注意が必要です。

まとめ—オプション性を理解すれば、MBSは武器になる

MBSは「信用は強いがオプション性が強い」債券です。プレペイメントが生むネガティブ・コンベクシティを理解し、OASとスプレッドで相対価値を測り、DV01ベースでヘッジと為替を二層管理すれば、個人投資家でも十分に扱えるアセットになります。最初は小さく始め、ルールと計測系を整え、相場局面ごとの挙動を体で覚えることが長期的なリターンの近道です。

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