ボラティリティ連動型アセットアロケーション:レジームで株式比率を自動調整する実践ガイド

ポートフォリオ設計

「上がりそうだから買う、下がりそうだから売る」ではなく、揺れの大きさ(ボラティリティ)を使って資産配分を自動で切り替える方法を解説します。発想は天気予報に近く、晴れ(静穏)なら外出=リスク資産、荒天(騒乱)なら屋内=安全資産というだけです。裁量の迷いを排し、誰がやっても同じ行動に落とし込むのが狙いです。

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結論と到達点

  • シンプルな2レジーム(静穏/騒乱)に分けるだけで、極端なドローダウンを避けつつ市場に参加し続けられます。
  • 判定は「最近のボラ」対「中期のボラ」の大小で足ります(20日対60日など)。
  • 静穏:株式70〜90%、債券・現金10〜30%。騒乱:株式10〜40%、債券・現金60〜90%に自動調整。
  • 運用は月1回の点検+リバランスで十分。売買回数を抑えつつ機械的に実施します。
  • 必要なのは、価格系列と簡単な計算、そして事前に決めた配分表だけ。

なぜボラティリティなのか

リターンは制御できませんが、取るリスクの量は選べるのが投資の肝です。ボラティリティは「今どれくらい相場が荒れているか」を数値化した指標で、価格の標準偏差から求めます。高ボラ期は下振れのリスクも拡大し、買い増しの機会であると同時に資産配分の守りを厚くすべき時期でもあります。逆に低ボラ期はやや強気に配分しても致命傷になりにくい局面が多い、という統計的な傾向があります。

2レジーム判定の最小構成

以下の移動ウィンドウで算出した年率換算ボラを用います。

  1. 短期ボラ:過去20営業日の日次リターンの標準偏差 × √252
  2. 中期ボラ:過去60営業日の日次リターンの標準偏差 × √252

判定ルール:短期ボラが中期ボラを上回る(短期 > 中期)=「騒乱」。下回る(短期 ≤ 中期)=「静穏」。
この単純な判定だけでも、多くの市場で「荒れ始め」を素早く拾い、「落ち着き」を見逃しにくくなります。

配分テーブル(例)

レジームごとに、株式(世界株インデックス想定)・債券(中期国債想定)・現金の比率を固定します。

レジーム 株式 債券 現金
静穏 80% 15% 5%
騒乱 30% 50% 20%

債券は国内外の中期国債インデックス、現金は普通預金またはコール型の安全資産を想定してください。海外資産の通貨ヘッジは、原則として自分の生活通貨に合わせて決めます(円ベースの支出なら円ヘッジ比率を高める、など)。

リバランス頻度と執行

  • チェック頻度:毎月末の一度でOK(週次でも良いが売買が増える)。
  • 執行:レジームが変わっていれば、その配分に一括で合わせる(段階的移行も可)。
  • 許容乖離帯:各資産の比率が目標から±5%以内なら据え置き、超えたら調整。

実践シナリオ(100万円スタート)

初期配分は静穏と判定された前提で、株式80万円・債券15万円・現金5万円から開始します。

ケースA:平穏が続く3か月
月末ごとに短期ボラが中期ボラ以下を維持。価格上下で株式が85%に膨らめば一部を売り、債券と現金を補充。利益確定とリスク管理を同時に実現します。

ケースB:急落で騒乱に移行
今月の短期ボラが中期ボラを上回ったら、翌営業日に株式を30%まで削減し、債券50%・現金20%へ。以後、静穏に戻るまで守備的に維持。戻ったら自動で株式80%に復帰します。

どの指数/商品を使うか(考え方)

個別銘柄ではなく広く分散された指数を使います。例として、世界株インデックス、国内外の中期国債インデックス、超短期金利連動型の現金同等資産など。為替リスクをどう扱うかは、目的と期間で決めます。

  • 長期の生活防衛重視:円ヘッジ債券を厚めに。株式は世界株(ヘッジ無)+国内株のミックス。
  • 成長重視:株式の地域分散を広げつつ、ヘッジコストが高い時期はヘッジ比率を抑える。

閾値の洗練:百分位を使う

固定の25%など単一閾値では市場ごとの「地味/荒い」の水準差を拾いにくいことがあります。過去3年のボラ分布に対する百分位(パーセンタイル)を使うと適応的になります。

  • 短期ボラの過去3年における位置が上位40%未満:静穏
  • 短期ボラが上位40%以上:騒乱

この方法は、市場環境が変化しても判定の過剰反応を抑えやすいのが利点です。

売買コスト・税の配慮

レジーム切替は年に数回程度が目安です。信託報酬や売買手数料、スプレッド、税の発生タイミング(特に特定口座源泉あり/なし)を踏まえ、過剰な回転売買を避けることが重要です。積立との併用では、新規拠出金を使って目標配分に近づけるとコスト効率が上がります。

リスクと限界

  • 追随の遅れ:ボラ判定は結果であり、底や天井は当てられません。
  • レンジ相場のダマシ:短期ボラが一時的に跳ねてもすぐ静穏に戻ることがあり、無駄な売買に繋がることがあります。
  • 金利局面の偏り:債券が機能しにくい局面では、現金比率を高めるなどの補正が必要です。

チェックリスト(月末5分)

  1. 価格データを更新(世界株・中期国債・現金同等)。
  2. 20日・60日ボラを計算し、短期≦中期なら静穏、>なら騒乱。
  3. 配分表に従い、目標比率と実際の乖離を確認(±5%ルール)。
  4. 必要なら最小限の売買で調整。新規拠出があれば活用。
  5. 次月の予定をメモ(決算シーズン、政策イベントなど)。

Excel/スプレッドシートでの計算例

日次リターン rt=価格t/価格t-1−1。20日ボラ=STDEV.P(直近20日のr)×SQRT(252)。60日も同様。百分位はPERCENTRANK.INCを使います。

疑似コード(自動化の骨子)

if vol_20 <= vol_60: regime = "calm"
else: regime = "turbulent"

if regime == "calm":
    target = {'equity':0.80, 'bond':0.15, 'cash':0.05}
else:
    target = {'equity':0.30, 'bond':0.50, 'cash':0.20}

rebalance_if_deviation_exceeds(0.05, using_new_contributions=True)

よくある失敗と対処

  • 指標の入れ替えが頻繁:判定頻度を月次に落とし、乖離帯を広げる。
  • 商品が複雑すぎる:広い指数をカバーする低コスト商品を最優先。レバレッジやデリバティブは本手法に不要。
  • 目標比率を都度いじる:配分表は年1回程度の見直しに限定。日々変えない。

応用:3レジーム拡張

「静穏」「中立」「騒乱」の3段階にし、株式比率を90%/60%/30%と段階づけると、滑らかにリスクを調整できます。判定は、短期ボラが中期ボラより十分低い/ほぼ同等/十分高い、の3区分にします。

まとめ

本稿の方法は、相場観を捨てる勇気を与えます。ボラという“今の荒さ”だけを見て、月に一度、決めた配分に合わせる。これを続けるほど、意思決定の負荷とミスが減り、続けられる設計が結果的にパフォーマンスを押し上げます。まずは小額で運用台帳を作り、3か月続けてから金額を段階的に増やしてください。

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