相場が上にも下にも走らない時間帯は「やることがない」と思われがちですが、値幅(レンジ)の繰り返しは最も再現性が高い現象のひとつです。本稿では、暗号資産とFXに共通するレンジトレードの実務フローを、検出→設計→実行→検証の順に解説します。余計な複雑さを排し、シンプルだが抜け漏れのない設計図を提示します。
レンジトレードの射程:どんな市場で有利か
レンジとは「一定の上下限の間で価格が往復する状態」です。出来高が薄い時間帯、重要指標前の様子見、テクニカル節目の前後、板の厚みが均衡している時に発生しやすく、暗号資産ではアジア早朝〜欧州序盤、FXでは東京時間の中盤〜欧州入り前などに頻出します。トレンドフォローが機能しづらい局面でも、レンジは統計的優位性を作りやすいのが特徴です。
レンジの定義と検出:曖昧さを排除する
定義(最小限)
- 計測時間軸:5分〜1時間のいずれかを固定(例:15分足)。
- 判定条件:直近N本(例:48本=12時間)の高値・安値が連続更新していない。
- 幅条件:高値-安値がスプレッド×10以上かつATR(N)×0.6〜1.2の範囲。
ポイントは「誰が見ても同じ判定になること」。裁量の入り込む余地を減らし、バックテストや運用が容易になります。
実装の簡易手順(TradingViewで可)
- チャートを15分足に固定。
- ATR(14)と出来高を表示。
- 直近12時間の高値(Range High)と安値(Range Low)を水平線で描画。
- 価格がこの帯域内に80%以上滞在し、かつATRが下降傾向なら「レンジ確定」。
戦略設計:シンプルな「帯の端で逆張り・中央で薄利回避」
基本ルール
- 買い:価格がRange Low±0.1%に接近し、下ヒゲを伴って反発したら成行/指値で分割エントリー。
- 売り:価格がRange High±0.1%に接近し、上ヒゲを伴って反落したら成行/指値で分割エントリー。
- 回避:ミッド(HighとLowの中間)付近では新規エントリーしない。
逆張りの怖さは「抜け」で一気に損が膨らむこと。これを構造で抑えます。
注文設計(現物・先物共通)
- エントリー:指値2回(端+0.05%/0.10%)+必要なら成行1回。スプレッドとスリッページを加味。
- 損切り:レンジ外側0.25%〜0.5%に逆指値。
- 利確:OCOで1st +0.3%/2nd +0.6%/3rd +1.0%(銘柄のボラに応じて調整)。
- ブレイク警戒:直近高安の外側0.2%にアラート。実ブレイクなら撤退orドテン。
エントリー根拠の強化:板・出来高・足形
板情報
端に厚い指値クラスター(例:Range Low直下に買い板の壁)があるほど反発確率は上がります。厚みが一気に外される「板の撤退」はブレイクの前兆で、逆方向の警戒シグナルです。
出来高
端タッチ時に出来高が増え、次足で減少しながら反発するのは良形。ブレイクが近いときは端付近で出来高が連続増加し、ヒゲが短く実体が伸びやすい。
足形(プライスアクション)
- 良形:ピンバー(長いヒゲ)・包み足・インサイドからの反転。
- 警戒:マイクロレンジ(極小値幅の連続)後に実体が伸びる足。
出口戦術:利確・損切り・時間切れ
利確の分割
端→ミッドの手前で第1利確、ミッド→反対端の手前で第2、第3はトレーリング。平均獲得幅を平準化し、ブレイク巻き込まれを減らします。
損切りの固定化
「外側0.3%」など事前固定が基本。相場状況で動かすと一貫性が崩れます。
時間切れ(タイムストップ)
エントリー後、~2時間で利確水準に届かない場合は半分クローズ。滞留は期待値を下げます。
資金管理:サイズ・期待値・連敗耐性
ポジションサイズ
1トレードの許容損失を口座残高の0.5%〜1.0%に制限。損切り幅0.3%なら、サイズ=許容損失/0.003で逆算します。
期待値の把握
勝率55%、平均勝ち0.45%、平均負け0.30%なら、期待値=0.55×0.45%−0.45×0.30%=+0.105%。手数料とスリッページを差し引いてもプラスを維持できる設計かを確認します。
連敗耐性
ブレイクに3回巻き込まれることは普通にあります。固定サイズで10連敗してもドローダウンが10%以内に収まる設計が望ましいです。
実践例:BTCUSDT(先物・15分足)
仮想の例で手順を示します。
- 直近12時間の高値100と安値98でレンジ確定(幅2.0%)。ATRは低下中。
- Range Low 98.0付近で下ヒゲを確認。98.05と98.10に指値、さらに98.07で成行1/3。
- 損切りは97.70(外側0.30%)。
- 利確は98.35/98.70/99.00のOCOを設定。第1で1/3、第2で1/3、残りはトレーリング0.25%。
- ミッドは99.00。第2利確到達で建値ストップへ繰り上げ。
同様のテンプレートはETH、主要アルト、FX通貨ペアにも転用可能です。銘柄のボラに応じて利確/損切り距離を拡縮してください。
DEX/AMMでの注意(スワップ・ガス代・スリッページ)
- スリッページ許容:0.1〜0.3%に抑制。値幅が狭いレンジでは過大スリッページが期待値を毀損。
- ガス代:混雑時はコストが利幅を食うため、低ガス時間帯に限定。
- プール深度:薄いプールは価格インパクトが大きく、端でのエントリー精度が落ちます。
よくある失敗と対処
- 定義がブレる:時間軸と判定条件を日毎に変えない。
- 端での追いエントリー:端から離れた反発を追うと期待値が崩れる。
- ニュース無視:経済指標や大型イベント前は見送る。先物は資金調達率の極端な偏りに注意。
- 損切りの先送り:外側ストップは固定。例外を作らない。
運用チェックリスト
- 時間軸固定(例:15分足)、ATR低下、滞在率80%以上。
- Range High/Lowの水平線を明確化し、端±0.1%でのみ新規。
- OCO・逆指値・アラートを事前設定。
- 1トレード損失=残高の0.5〜1.0%に制限。
- 指標・イベント前は休む。
検証(バックテスト)の最低限
過去3〜6か月、同一の銘柄・時間軸で、定義通りのレンジのみを抽出。各トレードの入出場価格・コスト・結果を記録し、勝率・平均損益・最大連敗・PF(損益率)を算出します。手で十分です。重要なのは「定義を変えない」ことです。
まとめ
レンジトレードは、環境認識を厳密化し、端でのみ淡々と仕掛け、出口を機械化することで、初心者でも再現しやすい手法になります。派手さはありませんが、積み上がると大きな差になります。テンプレートをそのまま写経し、まずは小さなサイズから運用してください。


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