価格だけを見ていても、相場の「本音」は見えません。出来高(ボリューム)は、どの価格帯でどれだけの取引が積み上がったかを示し、機関・大口・個人の力関係を可視化します。本稿では、暗号資産(ビットコイン/イーサリアム/主要アルト)で実務的に使える出来高分析を、VWAP・アンカードVWAP・CVD・OBV・出来高プロファイルの5本柱で体系化し、初心者でも再現しやすい「具体的手順」と「売買プラン」を提示します。
- 出来高の基礎:なぜ“量”が価格の嘘を暴くのか
- ツールの準備(無料でOK)
- VWAP:プロの平均取得コストを可視化
- アンカードVWAP(AVWAP):イベント基点の“真のコスト”
- OBV:価格より早く曲がる“累積出来高の傾き”
- CVD:買いと売りの実弾フロー
- 出来高プロファイル:価格帯ごとの“厚み”を読む
- 5指標の組み合わせ:勝ちやすい“絞り込み条件”
- 売買ルール(例):VWAP押し目×AVWAP支え
- 逆張りの注意:出来高の「萎み」を待つ
- 具体シナリオ(仮想)
- チェックリスト(エントリー直前)
- よくある失敗と回避策
- ミニ検証のやり方(手動)
- 資金・リスク管理(簡潔フレーム)
- 実装のコツ:再現性を担保する
- トレード記録テンプレート
- まとめ:30分で整う“出来高ドリブン”環境
出来高の基礎:なぜ“量”が価格の嘘を暴くのか
価格は一瞬で作れますが、出来高は積み上げ型です。薄い板での急騰は簡単に剥がれますが、厚い出来高帯を伴う上昇は押し目で買い支えが入りやすい。逆に、出来高の裏付けが乏しい上昇は、ニュースやSNSの熱気が冷めると失速しがちです。まずは以下の前提を押さえてください。
- 現物 vs 先物:先物はレバレッジと清算(清算売買)が出来高を増幅します。現物の出来高が伸びているかも合わせて確認すると、上昇の「地合いの良さ」を測れます。
- 集約の罠:出来高は取引所ごとに異なります。総合チャート(アグリゲート)と主要所の個別を両睨みすることでノイズを低減できます。
- フェイク・ボリューム:一部の板寄せ・ボットにより瞬間的に出来高が膨らむケースがあります。値動き・スプレッド・建玉の変化と併せて整合性をチェックします。
ツールの準備(無料でOK)
TradingView等のチャートで以下をセットします。
- 日足・4時間足・1時間足にVWAP(セッションVWAP、標準偏差バンド付き推奨)。
- イベント起点にアンカードVWAP(AVWAP)(半減期、重要アップグレード、上場日、直近のスイング高安など)。
- OBV(On Balance Volume)。
- CVD(Cumulative Volume Delta):買い成約量−売り成約量の累積(対応インジケータを利用)。
- 出来高プロファイル(VPVR/VPSV):POC・VAH・VALと高出来高帯(HVN)/低出来高帯(LVN)。
出来高系はタイムフレーム間の整合が重要です。上位足(4時間・日足)で方向、下位足(15分・5分)でタイミングを取ります。
VWAP:プロの平均取得コストを可視化
VWAP(出来高加重平均価格)は「出来高で重み付けした平均約定価格」です。価格がVWAPの上にあれば買い手優位、下なら売り手優位と解釈し、VWAP±σ(標準偏差バンド)を併用して逆張り・押し目を狙います。
基本戦略(セッションVWAP):
- トレンド相場:VWAP上で推移→VWAPまでの押しで買い。利確は+1σ、深押しは-1σ割れで撤退。
- レンジ相場:VWAPを中心に上下反復→±1σ付近の反転を短期逆張り。
アンカードVWAP(AVWAP):イベント基点の“真のコスト”
半減期・大型アップグレード・主要取引所上場・ニュース急騰などイベントのローソク足にアンカーを打つと、その後の参加者の平均取得コストがわかります。AVWAP上で支えられ続ける限り、強気トレンドは継続しやすい。
具体的売買プラン:上位足(4時間)でイベントAVWAP上→下位足(15分)でAVWAPへの戻りを待ちエントリー。直近のLVN下抜けで損切り、VAHや+1σで分割利確。
OBV:価格より早く曲がる“累積出来高の傾き”
OBVは上昇日の出来高を加算、下落日の出来高を減算して累積する指標。価格は横ばいでもOBVが上向きなら資金が静かに流入、逆に価格が高値更新でもOBVが切り下がるなら上昇の息切れを示唆します。
使い所:トレンド初動のダイバージェンス検出。OBVが高値更新→価格が追随して高値更新、の順番を狙う。
CVD:買いと売りの実弾フロー
CVD(Cumulative Volume Delta)は成行買い−成行売りの累積。先物主導の急伸時にCVDが増えない(あるいは低下)なら、ショートの踏み上げや薄い板の釣り上げの可能性。現物と先物のCVDの差異を見ると、本物の需要か判別しやすくなります。
- 価格↑・CVD↑:健全な上げ。
- 価格↑・CVD↓:弱い上げ(警戒)。
- 価格↓・CVD↓:健全な下げ。
- 価格↓・CVD↑:下押し後の買い集め(反発準備)。
出来高プロファイル:価格帯ごとの“厚み”を読む
VPVR/VPSVは価格帯別出来高を可視化します。最も取引が集中した価格がPOC(Point of Control)、その上下の価値範囲がVAH/VAL。厚い帯(HVN)は滞留・往来、薄い帯(LVN)は一気に抜けやすい通り道です。
戦術:POCの上で推移→押し目買い優位。LVNを上抜けた直後は順張りで伸びを取りに行く。戻り売りならVAH付近の失速を狙う。
5指標の組み合わせ:勝ちやすい“絞り込み条件”
- 方向:4時間足で価格がセッションVWAP・イベントAVWAPの両方より上。
- 需給:CVDが上向き、OBVも切り上がり。
- 位置:POC上・LVNを上抜け済み。
- タイミング:15分足でVWAP押し、出来高萎み→反発で成行、または指値でAVWAP±小幅に置く。
4つ以上が合致したときのみエントリーし、条件が崩れたら撤退。“待つ”ことが勝率を上げます。
売買ルール(例):VWAP押し目×AVWAP支え
- 4時間足:価格がイベントAVWAPとセッションVWAPの両方より上。
- VPVR:直上のLVN上抜け済み、POCより上で推移。
- CVD・OBV:共に上向き、直近高値に対しダイバージェンスなし。
- 15分足:VWAPまでの押しを待つ。押しで出来高が萎み→反発足で参入。
- 損切り:エントリー安値−ATR(14)×1.2 もしくはAVWAP明確割れ。
- 利確:+1σ到達で半分、VAHや直近のHVN上限で残り。トレーリングは直近スイング安値下。
逆張りの注意:出来高の「萎み」を待つ
下げ止まりは出来高のピーク→萎み→陽線の順で出やすい。ピーク直後に飛び込むと投げの余韻で踏まれがち。出来高が縮んでから確認買い。CVDが反転しないなら見送る勇気を。
具体シナリオ(仮想)
BTCUSDT、4時間足。半減期足にAVWAPを設定。価格はAVWAPとセッションVWAPの上で推移、直上のLVNをブレイク。CVD・OBVとも切り上がり。15分足に落とすとVWAPまで押して出来高が萎み、反発陽線。ここでロング。損切りはAVWAP明確割れ、利確は+1σとVAHで分割。以降はスイング安値下にトレーリング。
チェックリスト(エントリー直前)
- 上位足でVWAP・AVWAP上?
- CVD・OBVは上向き?ダイバージェンスは?
- VPVRでPOC上・LVN上抜け済み?
- 下位足でVWAP押し→出来高萎み→反発を確認?
- 損切り幅≦想定利幅/2?R≥2を確保?
よくある失敗と回避策
- VWAPだけで判断:→CVD/OBV/VPVRで裏取り。
- LVN直下で逆張り:→抜けやすいので待つ。ブレイク後の押しで。
- 出来高ピークに飛び乗り:→萎み→反発まで待つ。
- 損切りを置かない:→ATR基準かAVWAP割れで機械的に撤退。
ミニ検証のやり方(手動)
- チャートをリプレイモードにし、イベントAVWAPを起点設定。
- VWAP押し→反発陽線で仮想エントリー。
- CVD・OBVの傾き、VPVRの位置関係を記録。
- +1σ・VAH到達で分割利確、AVWAP割れで損切り。
- 20〜30トレード分の勝率・PF・平均Rを集計。
資金・リスク管理(簡潔フレーム)
- 1トレードのリスク:口座残高の0.5〜1.0%に固定。
- 損切り距離:ATR(14)×1.2を目安。
- 最大同時ポジション:相関を考慮し2銘柄まで。
- 連敗ストップ:3連敗でその日の新規停止。
実装のコツ:再現性を担保する
- 時間軸の固定(4Hで方向、15mでタイミング)。
- 指標の閾値を明文化(例:AVWAP割れ=撤退)。
- 分割利確の比率を固定(50%→25%→残りトレール)。
- 記録テンプレートで同じ書式を徹底。
トレード記録テンプレート
銘柄/日時/方向(L/S)/上位足(VWAP/AVWAP位置)/CVD・OBV傾き/VPVR位置(POC/VAH/VAL/HVN/LVN)/エントリー根拠(15mのVWAP押し・出来高萎み・反発陽線)/損切り根拠(AVWAP割れ or ATR)/利確ポイント(+1σ, VAH, トレール)/結果(R, PFへの寄与)/改善メモ。
まとめ:30分で整う“出来高ドリブン”環境
- チャートにVWAPとイベントAVWAP、OBV、CVD、VPVRをセット。
- 4Hで方向、15mでVWAP押し+出来高萎み+反発陽線。
- AVWAP割れで損切り、+1σ/VAHで分割利確、残りはトレール。
- 日次で記録→週次振り返りで勝ちパターンを濃くする。
出来高は「資金の足跡」です。価格の物語に、量の裏付けを加えれば、無駄なエントリーが減り、チャンスだけを拾えるようになります。


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