- OCO注文とは何か:2つの出口を同時に置き、片方が約定すればもう一方を自動取消
- どの市場で有効か:暗号資産・FX・株に共通する普遍的な効用
- OCOの基本構造:入門者がまず押さえる5つの要素
- 期待値の設計:勝率×平均利益 −(敗率×平均損失)をプラスに保つ
- OCOが機能する典型シナリオ
- 具体例①:BTCUSDT(暗号資産)での数値設計
- 具体例②:USDJPY(FX)での数値設計
- 具体例③:個別株(現物)での数値設計
- 板情報の読み方:厚み・欠落・アイスバーグを見抜く
- スリッページとスプレッド:理論RRを現実RRに落とし込む
- 数量設計(ポジションサイジング):1トレードあたり口座の0.5〜1.0%損失を目安に
- 発注プロセス:チェックリストで機械的に
- OCOの強化①:トレーリングストップと組み合わせる
- OCOの強化②:分割利確とOCO分割
- 市場別の発注仕様差:取引所ごとのOCO実装を理解する
- よくある失敗と回避策
- 検証方法:過去チャートでOCOのTP/SL到達率を洗い出す
- 実運用の型:テンプレートを用意して反応速度を上げる
- ミクロ実例:5分足での押し目ロング
- 心理面:決めたとおりにやるためにOCOを使う
- まとめ:OCOは「入口」ではなく「出口」をデザインする発想
OCO注文とは何か:2つの出口を同時に置き、片方が約定すればもう一方を自動取消
OCO注文とは、あらかじめ「利確の指値」と「損切りの逆指値(またはストップ)」を同時に出しておき、どちらか一方が約定したら他方が自動的にキャンセルされる仕組みです。これにより、含み益が出たときの取り逃しと急落・急騰による想定外の損失を同時にコントロールできます。裁量判断が遅れて機会損失や損失拡大が起こるリスクを抑えられます。
どの市場で有効か:暗号資産・FX・株に共通する普遍的な効用
ボラティリティが高い暗号資産では、瞬間的な値動きで判断が遅れやすいためOCOの価値は特に大きいです。FXは流動性が高くスプレッドが狭い一方、イベント時の窓開きやスリッページが無視できません。株式は取引時間が限られるため、場外でのニュースに備えて逆指値を常に置く意味が強まります。いずれの市場でも、「利確」と「損切り」を同時に設計すること自体が期待値の安定化に寄与します。
OCOの基本構造:入門者がまず押さえる5つの要素
- エントリー価格:買い(または売り)を建てた価格です。
- 利確指値(TP):利益を確定するための指値価格です。
- 損切り逆指値(SL):損失を限定するための逆指値(ストップ)価格です。
- 数量:建玉量。ロット過大は失敗の王道です。
- 有効期限:注文の有効期間。日付や当日中など、取引所仕様に合わせて設定します。
期待値の設計:勝率×平均利益 −(敗率×平均損失)をプラスに保つ
期待値(EV)は下記で近似できます。
EV ≈ WinRate × AvgWin − (1 − WinRate) × AvgLoss
OCOでは、AvgWin(利確幅)とAvgLoss(損切り幅)を先に固定できます。例えば利確2%、損切り1%とすれば、必要勝率は約33%に下がります。逆に、利確1%、損切り2%では必要勝率は約67%に跳ね上がります。自分の戦略の勝率見込みに合わせて、リスクリワード比(RR)を先に決めるのが合理的です。
OCOが機能する典型シナリオ
- トレンドフォロー:押し目買い後に直近安値のやや下へSL、次のレジスタンス直下へTP。
- レンジトレード:レンジ下限付近で買い、上限付近でTP、下限ブレイクでSL。
- ニューストレード:イベント前にポジションを軽量化し、OCOでリスクを限定して参加。急変時の手動判断を減らします。
具体例①:BTCUSDT(暗号資産)での数値設計
例として、BTCが70,000USDTで上昇トレンド中、75,000付近にレジスタンス、68,600に直近押し安値があると仮定します。次のようにOCOを置きます。
- エントリー:70,000(成行または指値)
- TP(利確指値):74,800(レジスタンス手前で取りやすい位置)
- SL(逆指値):68,400(直近押し安値のやや下。ヒゲ狩り対策)
- RR:約 +4,800 / −1,600 ≈ 3.0
この場合、勝率が35%でもEVはプラスになりやすい設計です。板情報と出来高を確認し、薄い価格帯の手前でTP、損切りは流動性のある価格帯の内側に置くのがコツです。
具体例②:USDJPY(FX)での数値設計
USDJPYが152.20で推移、直近高値152.80、押し安値151.90とします。
- ロングを152.20で建てたら、TP:152.70、SL:151.95
- RR:約 +50pips / −25pips = 2.0
指標発表前後はスリッページが増えるため、想定以上に悪化したSLを織り込んで数量を下げます。OCOは万能ではありません。ギャップ・窓開き・約定遅延は常に起こり得ます。
具体例③:個別株(現物)での数値設計
株価が1,000円、上は1,070円に売り板が厚く、下は980円を割れると下落が加速しやすいと読みます。
- TP:1,066円(売り板直下)
- SL:979円(割れで加速の手前)
- RR:約 +66円 / −21円 ≈ 3.14
寄り付き直後は板が薄くぶつかりやすいので、前場は数量を抑えて後場で継ぎ足すなど時間帯管理も有効です。
板情報の読み方:厚み・欠落・アイスバーグを見抜く
TPを置く位置は、売り板(買いの場合)が薄く抜けやすい場所の手前が基本です。厚い板の直前で利確、厚い板の直後で損切りにすることで、約定の安定性が上がります。暗号資産ではアイスバーグ注文(見せない大口)も多く、出来高の急変や約定スピードで違和感を掴みます。
スリッページとスプレッド:理論RRを現実RRに落とし込む
理論上のRRは美しくても、実際はスプレッドやスリッページが必ず発生します。イベント時や板が薄い時間帯ではSL到達時に複数ティック分の悪化が起こりやすく、実効RRが0.3〜0.6悪化することも珍しくありません。統計的に自分の口座・取引所での平均スリッページを記録し、前提RRに上乗せして数量やTP/SL幅を微調整します。
数量設計(ポジションサイジング):1トレードあたり口座の0.5〜1.0%損失を目安に
損切り幅が決まれば、許容損失額から数量は逆算できます。
数量 ≈ 許容損失額 ÷ 損切り幅(金額)
許容損失を口座残高の0.5〜1.0%にすると、連敗しても資金カーブが崩れにくくなります。レバレッジを使う場合も、実効損失率で同じ基準を守ります。
発注プロセス:チェックリストで機械的に
- 相場環境を分類(トレンド/レンジ/イベント前後)。
- 主要レベルの抽出(直近高安・レジサポ・出来高集中帯)。
- TP/SLの幅からRRを先に決める(例:2.0以上)。
- 口座リスク%から数量を逆算。
- OCOをセットし、必ず約定通知をオン。
- 外部要因(指標カレンダー、メンテ、清算時間帯)を再確認。
OCOの強化①:トレーリングストップと組み合わせる
一度含み益が乗ったら、SLを損益分岐点付近まで繰り上げる「ブレークイーブン移動」や、直近の押し安値/戻り高値の内側に段階的に近づける手法が有効です。OCOのSLを手動で更新するか、トレーリング機能のある取引所では機械化します。
OCOの強化②:分割利確とOCO分割
一括利確だと取り逃しやオーバーシュートを拾えません。50%を第一利確、残りを第二利確のように段階化し、各々にOCOをセットします。暗号資産のように値動きが荒い市場では、分割の利点が顕著です。
市場別の発注仕様差:取引所ごとのOCO実装を理解する
OCOの仕様は取引所やブローカーで微妙に異なります。逆指値のトリガー条件(ラスト・ミッド・買気配/売気配)、有効期限の扱い、成行変換の可否などは事前に必ず確認します。暗号資産デリバティブでは、清算価格や資金調達レートの影響も加わるため、追証・強制ロスカットの閾値を把握しておくことが重要です。
よくある失敗と回避策
- SLを遠ざけ過ぎる:勝率は上がっても損失1回が重く、EVが悪化します。過去データで適正幅を推定します。
- TPを欲張り過ぎる:板厚・出来高を無視した非現実的TPは未約定が続きます。手前で取り切る設計にします。
- イベント直前の建玉過大:スリッページ悪化で計画が崩れます。数量を減らし、SL悪化を織り込みます。
- OCOを出し忘れる/外す:通知とテンプレート化で防ぎます。
検証方法:過去チャートでOCOのTP/SL到達率を洗い出す
インジケーターの多用より、TPとSLの到達率を期間別・相場別に数える方が実戦的です。例えば「トレンド判定=20EMA>50EMA」「押し目=20EMA-1ATR付近」などの簡潔なルールを定め、TP=前回高値-0.3%、SL=直近安値-0.2%のように固定して集計します。勝率×RRのプロファイルが見えれば、どの市場で通用しやすいか判断できます。
実運用の型:テンプレートを用意して反応速度を上げる
取引所の注文画面にOCOテンプレートを保存できる場合は、RR=2.0・RR=3.0など複数用意しておきます。API対応なら、価格と数量を入力するだけでOCOを同時送信するスクリプトを作ると、ミスとタイムラグが減ります。
ミクロ実例:5分足での押し目ロング
20EMA上で推移する銘柄の押し目を狙い、直近押し安値の0.2%下にSL、直近戻り高値の0.6%下にTPを置きます。平均的なヒゲ量をATRで推定し、ノイズに飲まれないようにSLを少し外側に置きます。これにより、ノイズに振り落とされにくい設計になります。
心理面:決めたとおりにやるためにOCOを使う
相場は常に「今は特別に見える」ものです。OCOは、感情に流されて指針を捻じ曲げる誘惑を物理的に遠ざけます。事前の設計を実行に落とす道具として、OCOは初心者ほど強力です。
まとめ:OCOは「入口」ではなく「出口」をデザインする発想
うまいエントリーより、安定した出口の方が資金曲線に効きます。OCOでTPとSLを同時に設計し、数量は許容損失率から逆算、RRは勝率見込みから逆算。板厚・スリッページ・イベントを織り込み、テンプレート化して反応速度を上げる。これらを積み上げることで、短期・中期を問わず期待値が安定していきます。


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