本稿では、価格が伸びる方向に素直に乗る「トレンドフォロー(順張り)」を、移動平均・RSI・出来高・ATRという基本指標だけで構成し、誰でも再現できる売買ルールに落とし込みます。使う道具はシンプルですが、注文戦術やコスト管理まで踏み込み、実装時のつまずきを徹底的に避ける設計にします。
トレンドフォローが機能する理由
トレンドは「偏りがしばらく続く」という市場の性質に依存します。情報の非対称性、投資家の追随行動、資金フローの遅延、ブレイクアウト後のストップ注文連鎖などが価格の一方向性を強化します。完全ではありませんが、日足〜4時間足のような中期軸では特に有効です。
戦略の全体像
本戦略は、①方向判定(移動平均の傾きと位置)、②タイミング(RSIとブレイクアウト)、③ノイズ除去(出来高とATR)、④エグジット(損切り・利確・トレーリング)、⑤注文戦術(成行・指値・逆指値・OCO)で構成します。裁量は「ルールの外観察」に限定し、ルール内の売買は機械的に実行します。
使用指標と設定
移動平均線(MA):短期EMA20と中期SMA50を併用します。EMA20>SMA50で上昇バイアス、逆で下降バイアスと判定します。
RSI:期間14。上昇相場ではRSIが40〜60の「強気レンジ」を維持する特徴があります。押し目エントリーの目安にします。
出来高:直近20本の平均出来高(VMA20)を計算し、ブレイク時に出来高が平均以上であることを要求します。ダマシを減らします。
ATR:期間14。ストップ幅やトレーリング幅、手仕舞いの時間評価に用います。
売買ルール(ロング)
方向フィルター:EMA20>SMA50、かつ終値が両移動平均の上。
エントリー:①直近N本(例:20本)の高値を終値で上抜き(終値基準のブレイクアウト)、②同バーまたは次バーでRSIが40以上、③出来高がVMA20以上。これらを満たしたバーの高値+最小ティック上に逆指値買い。
初期ストップ:エントリー価格−2×ATR(14)。
分割利確:R(リスク単位)で管理。+1R到達で1/3利確、+2R到達で1/3利確、残りはトレーリングに委ねます。
トレーリング:終値がEMA20を明確に割り込むか、2×ATRの終値ベース逆行で手仕舞い。より攻める場合は「前日(前バー)安値−1×ATR」を終値確定で割れたらクローズ。
売買ルール(ショート)
ロングの対称です。EMA20<SMA50、直近安値ブレイク、RSIが60以下、出来高はVMA20以上、初期ストップは+2×ATR。暗号資産の現物のみの場合はショートを行わず、上昇局面のみ参加でも構いません。
時間軸と市場
暗号資産の24時間市場に適したのは4時間足か1時間足です。FXや株指数CFDでは1時間足〜日足が扱いやすいです。時間軸を落とすほどシグナルは増えますが、スプレッド・スリッページの比率が悪化します。
実運用のための注文戦術
成行:約定率は最高ですがスリッページが発生しやすいです。ブレイク直後は成行、通常は逆指値+指値のIFDOCOが無難です。
逆指値(ストップ):ブレイク水準に置くことで「勢いに乗る」思想に一致します。必ず同時に初期ストップをセットします。
IFDOCO:エントリー完了後に自動で損切りと利確の両方を発注します。手動ミスを排除します。
指値:押し目待ちのために使うと置いていかれることが多くなります。順張りは追随が原則です。
コストとスリッページの見積もり
総取引コスト=手数料+スプレッド実質負担+平均スリッページです。ブレイクアウト直後は板が薄くなりやすく、想定より滑ります。検証では、平均滑り(ティック数)を一定値で仮置きし、期待R/Rがそれでも正になるかを確認します。出来高フィルターを強めるほど滑りは減りますが、機会損失が増えます。
ポジションサイジング
1トレードのリスクを口座残高の0.5〜1.0%に固定します(固定R法)。
- 数量=(許容損失額)÷(初期ストップ幅)。
- レバレッジは「数量÷証拠金」の結果として決まり、先に決めません。
- ボラティリティが高い日はATRが拡大し数量が自動で減るため、過剰リスクを避けられます。
勝率ではなく期待値で考える
本戦略は勝率が50%を下回っても、平均損益比が1:1.5〜2.0あれば期待値は正になります。分割利確とトレーリングの併用により、ビッグトレンドを逃さず、損小利大の形を維持します。
マーケット別の適用
暗号資産:週末も動くため、週末ギャップが少なくトレーリングが生きやすいです。出来高急減のアルトはフィルターで除外します。
FX:ロンドン〜NYの重複時間帯でのブレイクが信頼性高めです。仲値前後の乱高下はフィルターします。
株指数CFD:指標発表時はスリッページが極端になりがちです。イベント直後の最初のシグナルは見送る裁量を許容します。
ダマシを減らすためのフィルター
①ブレイク時の出来高>=VMA20、②ブレイク前の保ち合いが最低M本(例:10本)ある、③ニュース急変時の最初の1本は見送り、④平均トゥルーレンジ(ATR)が直近20本平均以上。
エグジット設計の細部
損切りは初期ストップの移動で一貫性を持たせます。+1R到達でストップを建値へ。+2R到達でストップを+1Rに切り上げ。残りはEMA20または2×ATRの逆行を使って追随します。分割利確の比率は1/3・1/3・1/3が基準ですが、ボラティリティに応じて柔軟に調整します。
記録と検証
各トレードでスクリーンショット(エントリー、+1R、+2R、クローズ)を保存し、理由と感情を30秒で記録します。月次で「勝ち負けよりもルール遵守率」をKPIにします。遵守率95%未満なら、まず運用フローを改善します。
よくある失敗と対処
- 追い過ぎ:ブレイク水準からの乖離が大きい成行は原則禁止。
- 移動平均の多用:MAを3本以上増やしても改善しません。EMA20とSMA50で十分です。
- 損切り幅の恣意的変更:ATR基準を固定し、Rを守ります。
- イベント前のポジション:発表30分前に新規エントリー停止。
デイ〜スイング運用の1日の流れ(例)
朝:未決済のトレーリング更新、シグナルの一次スクリーニング。
昼:出来高とATRの再確認、アラート設定。
夜:ロンドン〜NYの重複時間帯に執行、IFDOCOで自動化。
就寝前:建玉とストップの最終確認。
戦略の拡張
①ブレイク水準の判定を「終値での確定」のみ採用(ヒゲでは無効)、②MACDを傾きフィルターとして補助、③相関の高い銘柄に同時シグナルが出た場合は最も出来高の多い1〜2銘柄に絞る、④週足のMA200を上回る銘柄のみロングなど、上位足の地合いと整合させます。
まとめ
トレンドフォローは、単純なルールで「損小利大」を実現しやすい手法です。移動平均・RSI・出来高・ATRという基本セットでも、方向判定・エントリー・エグジット・注文戦術・サイズ管理が揃えば十分戦えます。最も重要なのは、ルールの一貫運用と記録に基づく微調整です。今日から4時間足で1銘柄に絞り、まずは100トレード分の記録を積み上げてください。


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