本稿では、分散型デリバティブ市場で存在感を強めるAevoについて、構造からコスト、リスク管理、実践フローまでを一気通貫で解説します。AevoはカスタムEVMロールアップ上に構築された注文板(オーダーブック)型のパーペチュアルDEXで、注文のマッチングはオフチェーン、最終の約定・精算はスマートコントラクトでオンチェーンに記録される方式を採用します。注文板の厚みとマッチング性能、ポートフォリオ単位でのリスク評価、資金調達率(Funding)の算出ロジックなど、他のAMM型DEXとは違う勝ち筋を持つのが特徴です。
1. Aevoの全体像:なぜ注目するのか
Aevoは「オフチェーン注文板+オンチェーン決済」というハイブリッド構成を採用します。これにより、取引の体感レイテンシや板厚の表現力(スプレッド・約定の滑り)の改善を狙いながら、約定後の資産管理・決済はスマートコントラクトに委ね、透明性と検証可能性を確保します。さらに、口座は原則クロスマージン(ポートフォリオ全体で証拠金を共有)で評価され、オプション/パーペチュアルの両商品が同一枠組みで管理されます。
担保資産としては、AevoのL2上で発行されるaeUSDが中心です。aeUSDはUSDCとsDAIの組成をベースにし(将来的にsUSDSへの移行予定がアナウンスされています)、DSR由来の利回りをマージンに付与する設計が採られています。これにより、待機資金がゼロ利回りになりにくい(機会損失を抑えやすい)という利点があります。
2. 注文板とリスクエンジン:マッチングと約定の流れ
注文はまずオフチェーンの注文板に投稿され、リスクエンジンが事前に証拠金要件を満たすかを評価します。約定が成立すると、その注文がL2上のコントラクトに送られて決済されます。つまり、発注→リスクチェック→マッチング→オンチェーン決済という直列プロセスを踏むため、高頻度のキャンセル・差し替えや大口注文の分割実行に向いた構造です。板読み(指値の厚み、インパクトコスト)を前提とした戦略が機能しやすいのもこのタイプのDEXの魅力です。
3. マージン体系:スタンダード vs ポートフォリオ
初期状態ではスタンダード・マージンが適用され、ポジションごとに証拠金を評価します。一方で、ポートフォリオ・マージンに切り替えると、同一口座内の関連性(相関・ヘッジ)を加味して必要証拠金が最適化されます。例えば、BTC-PERPのロングとETH-PERPのショート、あるいは現物とパーペチュアルのヘッジ構造などを加味し、必要証拠金の総量が下がる可能性があります。ポートフォリオ・マージンは裁量とシステムの両面でリスクを管理する熟練者向けですが、少ない資本で複数戦略を束ねる上では強力です。
4. 担保(Collateral):aeUSDの仕組みと利点
aeUSDはERC-4626に準拠するL2資産で、USDCとsDAIの組み合わせを通じて、DSR(Dai Savings Rate)に由来する金利を取り込みます。Aevo上ではaeUSDが取引所ホワイトリスト担保として100%の担保係数で扱われます。ユーザーはUSDCを入金後、手数料無料でaeUSDへコンバートでき、待機時にも利回りが発生するため、マージンの滞留コストを一定程度相殺できます。
注意点として、構成要素(sDAI→sUSDS)の移行など仕様の更新が行われる場合があります。長期運用時は、担保の組成・リスク(スマートコントラクト、DAI・USDCの安定性、L2のブリッジリスク)を定期的にレビューするとよいでしょう。
5. 取引コストのリアル:手数料と資金調達率
パーペチュアルの基本手数料は概ねテイカー0.08%、メイカー0.05%です。指値で約定させる(メイカー化する)だけでも期待損益は改善します。板が薄い時やイベント時は、無理に成行を打たず、指値の分割・待機を組み合わせて平均取得単価をコントロールしましょう。
資金調達率(Funding)は1時間ごとに決済されます。Aevoでは、インパクトビッド/アスクと指数価格(Index)から算出するプレミアム・インデックスを時間加重で平均化し、所定のクランプ関数と上限/下限を適用したうえで「8時間レート→1時間レート」に割り戻します。平常時は金利項(多くの銘柄で+0.01%)付近に収れんしやすく、極端な乖離時のみ上限・下限に張り付くイメージです。Fundingコストは指数価格×建玉サイズ×1時間レートで概算できます。
6. 清算とADL:どこでアウトになるか
クロスマージン口座では、口座全体の残高・未約定注文の拘束証拠金・既存ポジションの維持証拠金の関係をリスクエンジンが継続監視し、維持証拠金を下回ったと判断されると清算モードに移行します。清算モードでは新規注文が停止され、段階的にポジション縮小が試みられます。板で捌けない場合はインシュアランスファンドが用いられ、それでも不足すれば最終手段としてADL(自動デレバレッジ)が発動します。ADLの優先度は「含み益が大きく、レバレッジが高いポジション」ほど高くなる設計で、UI上にはADLリスクの目安バーが表示されます。
7. 実践プレイブック:Aevoならではの攻め方
7.1 板密度×分割指値でテイカー税を削る
板の厚い価格帯に小口の指値を多層で置き、メイカー約定を積み上げることで、スプレッド収益と手数料差分を回収します。イベント前後など板の空洞化が見られる時間帯は、あえて流動性が戻るまで待つのも有効です。
7.2 Fundingの傾きに逆らわない
Fundingがプラス張り付き(ロング払い)で推移している間は、短期の戻り売り/逢い戻り買いを中心に建玉滞留時間を縮めます。逆にマイナス張り付き時(ショート払い)は、現物ロング×パーペチュアルショートのキャリートレードを検討できます。ただし天井・底で張り付くと逆向きの急変動に晒されるため、上限・下限への接近は縮小・利益確定を優先します。
7.3 影響原資(Impact Notional)と滑りの管理
資金調達率の算出には固定のインパクト原資(多くの銘柄で10,000 USD)が用いられます。板の薄い時間帯はプレミアム・インデックスが荒れやすく、資金調達率も短期的に跳ねやすい点に注意。サイズは複数回に分け、板に与える影響を抑えます。
7.4 ストップは板の裏に置く
指値の階段の裏(厚みの直後)にストップを重ねると、ヒゲで刈られにくくなります。移動平均やピボットのみで置くより、板の密度と重ねて設計するとスリッページが低減します。
8. 数字で理解:ETH-PERP 10倍ロングの損益とコスト
例:ETH指数価格が4,000 USDCのとき、1 ETHを10倍ロングすると、建玉想定元本は4,000 USDC×1=4,000 USDC、必要初期証拠金は概ね5%で200 USDCです(銘柄・相場により異なる)。
- テイカーで即約定:手数料は0.08%×4,000=3.2 USDC
- メイカーで指値約定:0.05%×4,000=2.0 USDC
- 1%上昇での概算損益:+40 USDC(レバレッジにより口座インパクトは+40×10=+400 USDC相当の変化)
- Fundingが+0.01%/hのとき、1時間のコストは4,000×0.0001=0.4 USDC。12時間で約4.8 USDC。
短期の反復売買では、手数料+Fundingが損益を侵食します。板を読み、メイカー比率を高め、ポジションの滞留時間を短く保つことが、トータルの勝率改善に直結します。
9. 始め方:実務フロー
- ウォレット接続(Aevo公式)
- USDC入金(ブリッジ/取引所→ウォレット→Aevo)
- USDC→
aeUSDにコンバート(手数料無料) - 証拠金モードの確認(スタンダード→必要に応じてポートフォリオ)
- 銘柄選定と板確認(スプレッド、出来高、インパクト価格)
- 発注(分割指値・ストップ同時設置を推奨)
- Funding・手数料の実績把握(建玉台帳の定期点検)
- 縮小・クローズ(イベント前は一段浅く)
10. リスク管理チェックリスト
- 口座余力:維持証拠金比率に余白を確保(清算バーが点灯し始めたら即軽くする)
- サイズ:インパクト原資を意識し、板厚に見合う単位に分割
- ヘッジ:現物×PERPのデルタ調整、相関銘柄のペアで歪みを吸収
- テイカー連打の回避:イベント時は成行コストが急増、板復元待ちの戦略も選択肢
- ブリッジ・L2リスク:出庫時間や非常時の代替ルートを事前に確認
11. APIと自動売買のヒント
APIドキュメントが公開されており、注文・口座・市場データエンドポイントを利用した自動化が可能です。バックテストでは、板のスナップショットと約定データのギャップ(見かけのスプレッドより実約定スリッページが大きいケース)を保守的に見積もるのがコツです。デプロイ後はFunding・手数料・スリッページを三位一体でモニタリングし、ロジックとサイズを漸進的に調整します。
12. まとめ:Aevoで勝つための要点
- オフチェーン板×オンチェーン決済=板読みと指値運用が武器になる
- aeUSD担保で待機時の金利ロスを抑えられるが、組成・ブリッジのリスクも把握
- Fundingは1時間決済。極端なプレミアム時は上限・下限に注意し、滞留時間を短く
- 清算とADLの設計を理解し、口座余力・ストップ・分割を徹底
- メイカー比率の最大化と板密度の活用が、長期の期待値を底上げする
以上を踏まえ、まずは小さなサイズで板と約定の癖を「観察すること」から始めてください。板を味方に付けたシンプルなルールでも、継続運用すれば十分なエッジになり得ます。


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