本稿は、パーペチュアル先物(Perpetual Futures)に特化した分散型取引所「Aevo」を題材に、構造・料金・価格決定ロジック・資金調達率(Funding)・清算メカニズムといった基礎仕様を一次情報に基づいて平易に整理し、さらに初学者でも実装できるトレード設計と運用リスク管理までを体系化して解説します。CEXと同等の操作感でありつつ、清算と残高はスマートコントラクトで管理されるという「ハイブリッド」な設計がAevoの肝です。
- Aevoとは何か:設計思想の要点
- 対応プロダクトと取り扱いの全体像
- 手数料モデル:メイカー/テイカーの基礎
- 指数価格(Index Price):外部現物の集合から算出
- 資金調達率(Funding):1時間ごとの授受と新方式
- マージン方式:クロスマージンと担保設計
- 清算(Liquidation)とADL:最終防衛線の理解
- 担保と通貨の実務:aeUSD・USDT・ステーキングETHの扱い
- 価格の読み方:インデックスと板の二重監視
- 初心者がまず実装すべき3つの基本戦略
- リスク管理の実装:数字で徹底する
- 具体的なコスト計算:実効スプレッドとFundingを足し込む
- 執行の型:板と指数の「二軸」設計
- よくある失敗と対処
- 上級者向けの補足:Aevo Degenなど
- 始める前のチェックリスト
- まとめ
Aevoとは何か:設計思想の要点
Aevoは「高性能な分散型オプション/パーペチュアル取引所」を掲げ、オフチェーンのオーダーブック(板)とリスクエンジンでマッチングを高速化し、オンチェーン清算で最終的な資産移転を担保する構造を採っています。さらに、取引所は独自のカスタムEVMロールアップ上で稼働し、イーサリアムへロールアップされます。このため、CEX並みのレスポンスとDeFiの透明性を両立しやすいのが特徴です。
なぜ「ハイブリッド」か
完全オンチェーン板はガス代とレイテンシの制約が大きく、特に高ボラ環境ではスリッページが拡大しがちです。Aevoは価格発見をオフチェーンで処理し、約定後の最終的な決済・残高管理をコントラクト側に寄せることで、スループットと検証可能性をバランスさせています。
対応プロダクトと取り扱いの全体像
Aevoはオプションとパーペチュアルを中核に据えます。本稿では特にパーペチュアル(以下、Perp)に焦点を当てます。Perpは満期のない先物で、理論上はスポット価格に連動するよう資金調達率(Funding)で価格乖離を調整します。Aevoでは1時間ごとにFundingが授受され、無期限でポジションを保有できます。
手数料モデル:メイカー/テイカーの基礎
AevoのPerp手数料はテイカー0.08%、メイカー0.05%が標準の初期水準です(複数ティアあり)。板を取る成行気味の約定はテイカー、指値がヒットされる約定はメイカーに分類されます。
取引コストは往復手数料+Funding+スリッページの合計で考えます。新興銘柄や板の薄い時間帯は、Impact価格が動きやすくスリッページが拡大しやすいため、約定前に予想滑りと実効コストを見積もることが肝要です。
指数価格(Index Price):外部現物の集合から算出
Aevoは内部オラクルで複数の中央集権型取引所(CEX)のスポット価格を集約し、中央値から±0.5%外れた外れ値を除外した上で平均を取り指数価格を構成します。ペアがUSDTやUSD建てであっても、最終的にUSDC建てへ正規化されます。指数価格はFunding計算や清算判定の基準となるため、板の見た目の最良気配だけでなく、指数との乖離を常時監視しましょう。
資金調達率(Funding):1時間ごとの授受と新方式
Fundingは先物価格を現物に近づけるための同業者間(P2P)支払いで、取引所の収入にはなりません。Aevoでは1時間に1回支払が発生します。2024年8月以降の新方式では、Impact Bid/Askと指数価格から算出するPremium Indexの加重平均(1時間、5秒刻みサンプル)を用い、さらに金利(通常0.01%)との差を±0.05%でクランプ、資産ごとのFunding上限/下限で再クランプしたのち、8時間基準のレートをFunding Intervalで除して1時間当たりに割り振る設計です。
8H Funding Rate = 平均Premium + Clamp( 金利 − 平均Premium, +0.05%, −0.05% )
1H Funding Rate = Clamp(8H Funding Rate, 上限, 下限) / Funding Interval
例:BTC-PERPのFunding上限/下限が±3%の場合、高度な乖離が生じても1H Fundingはクランプ後の値を8分割(標準)して適用します。薄い板での大口約定はImpact価格を押し上げ、Premiumに反映されるため、出来高の薄い時間帯の新規建はFunding悪化リスクがあります。
マージン方式:クロスマージンと担保設計
Aevoの基本はクロスマージンです。口座内のすべてのポジションと担保が相互に寄与し合い、維持証拠金(Maintenance Margin)を下回ると口座全体が清算対象になり得ます。担保はUSDC(100%)を基軸に、USDT(99%)/ aeUSD(100%)/ ETH・WBTC(90%)/ weETH(85%)といった担保比率が定義され、USDC残高がマイナスになれば自動コンバート(担保のUSDC化)が発火します。順序はUSDC→USDT→aeUSD→ETH→WBTC→weETHのように定義(流動性とリスクで調整)され、変動する可能性があります。
マージン判定の式(要点)
発注・建玉時: AB + UP − OO − IM − MM > 0
保有評価時: AB + UP − OO − MM > 0
出金時: AB + UP − OO − MM > 0
AB=残高、UP=含み損益、OO=指値拘束分、IM=新規建の初回証拠金、MM=既存建玉の維持証拠金。含み損でUPが低下、あるいはOOが大きい(差しっぱなしの指値が多い)と、同じ口座資本でも清算域に近づきます。
清算(Liquidation)とADL:最終防衛線の理解
維持証拠金条件を割ると清算エンジンが発動し、ユーザーの新規発注は停止、全指値のキャンセルで拘束証拠金を解放します。まず板に向けて2秒間隔で最大30秒、段階的な減玉を試み、それでも処理できない場合はインシュアランスファンドへのブロックトレードでポジションを処理します。ファンドでも受けられない規模・市況ではADL(Auto-Deleveraging)が発動し、高利益×高レバのポジションから優先的に相殺されます。主要銘柄(BTC/ETH/SOL)のオプションとPerpは通常ADL対象外です。
担保と通貨の実務:aeUSD・USDT・ステーキングETHの扱い
担保にETH系(ETH/weETH)を用いると価格ボラが担保価値に直結します。Fundingや含み損でUSDCがマイナスになると自動コンバートが走るため、意図せぬ現物売却が起きうる点に注意が必要です。USDTは担保比率99%のため、USDC基準の必要証拠金に対して若干多めの原資が必要です。aeUSDは100%で扱われます。
価格の読み方:インデックスと板の二重監視
指値の約定可否だけでなく、指数価格との乖離(Premium)を常に見ることで、Fundingの将来推定や清算レベルの変化を早期に検知できます。たとえば、板の最良売が指数より上振れているのに買いで突入すると、建てた瞬間からFunding負担と含み損のダブルパンチになることがあります。逆に指数割れで売らされている局面では、ショートのFunding受取が見込めるケースもあります。
初心者がまず実装すべき3つの基本戦略
1) インデックス追従の「素直な」スキャルピング
シンプルに指数価格の推移と同方向へ小さく張る戦略です。条件:スプレッドが狭い/板厚め/ニュース無しの時間帯。エントリー:指数と最良気配の乖離が±0.05%以内。手仕舞い:±0.10%の利確・損切を対称に。根拠:指数に戻る力と板の反応速度。Fundingはニュートラル近辺でブレが小さい時間帯を選びます。
2) Funding逆張りのミニ・ミーンリバーサル
Premiumが正の拡大(先物の過熱)→次期Fundingで支払い側(ロング)が不利になりやすい点を利用。条件:Premiumの加重平均が直近1時間で+0.20%以上。エントリー:ショートの指値分割、指数±0.05%以内。手仕舞い:Premium縮小で半分利確、Fundingクロスで残り決済。注意:Impact Notional(標準10,000USD)に対して板が薄いと過剰なPremiumが続き得るので、時間分散とサイズ分割が必須です。
3) 現物ヘッジの低ボラ収益化(擬似キャリー)
現物ロング×PerpショートでΔ(デルタ)をほぼ中立にし、ショート側のFunding受取で小幅な収益化を狙います。条件:Premiumが長時間プラス、かつ指数の変動レンジが縮小。実務:担保をUSDC優先にし、自動コンバートの発火で現物を意図せず売ってしまわないよう構成。リスク:急騰でFundingが逆転、あるいは板薄でのカバー困難。
リスク管理の実装:数字で徹底する
① 口座資本管理:1トレード当たりの最大損失(例:口座資本の0.5%)を先に決め、MM到達で強制撤退できるロットに限定します。
② 指値拘束(OO)管理:未約定の差しっぱなし指値が多いほどMMに早く触れるため、約定後は不要指値の即キャンセルを徹底。
③ Funding負担の可視化:建値・サイズ・予想Fundingを事前計算し、1時間に耐えられるFundingコスト上限を設けます。
④ ADL回避:高レバ×高含み益はADLキュー上位に並ぶため、利確でレバを落とす/一部クローズでスコアを下げる癖を付けます。
具体的なコスト計算:実効スプレッドとFundingを足し込む
例:ETH-PERPを10万USDC建て。
手数料:往復で0.13%(テイカー0.08%+メイカー0.05%の想定)→130USDC。
Funding:1Hが+0.02%(支払い)で2時間保有→40USDC。
スリッページ:0.03%往復→30USDC。
合計=200USDC。期待値が費用を上回るエントリー(優位性)だけを選別するのが肝です。
執行の型:板と指数の「二軸」設計
① 参入条件:指数±0.05%以内、またはPremium縮小局面のみで約定。
② ロット設計:初回30%→残りを2回に分割。
③ 利確・損切:±0.10%固定、またはATR×係数。
④ 持ち越し判断:Fundingが負に傾き受取側なら持ち越し許容、支払い側に転ぶなら原則デイ内で終了。
よくある失敗と対処
・担保の偏り:ETH/wBTC担保で含み損が出ると担保価値の低下×自動コンバートが同時進行し、清算に近づきます。USDC比率を高める、またはポジションサイズを抑制。
・指値の置き過ぎ:約定していないのにOOが膨らむとMMを早く割ります。
・指数無視の順張り:板の見た目だけで買うとPremiumの拡大でFunding負担と逆行含み損の同時発生。
上級者向けの補足:Aevo Degenなど
Aevoには高レバレッジ(最大1000x)の「Aevo Degen」も存在します。約定はマーク価格基準でスプレッド構造が単純化され、実現損益ベースの手数料等のユニークな仕様があります。初心者はまず通常のPerpで基礎を固め、十分な検証とリスク前提が整ってから段階的に移行するのが賢明です。
始める前のチェックリスト
- 担保構成:USDC中心に。自動コンバートの発火条件を理解。
- 建玉上限:口座資本の何倍まで保有するか事前に数値化。
- 清算域:指数ベースでのロスカット水準を事前に数式で確認。
- Funding:1Hの方向と負担額(または受取額)を事前試算。
- 執行:指数と板の乖離、Impact価格の動きやすさを常時確認。
まとめ
Aevoは、CEXライクな約定品質とDeFiの透明性を両立しようとするハイブリッド設計のPerp DEXです。指数価格の構成、Fundingの新方式、クロスマージンと担保比率、清算→インシュアランス→ADLの段階的なセーフティネットを正しく理解すれば、初学者でも「期待値が正の場面だけを選び取る」という王道の実装に到達できます。本稿の設計図を土台に、サイズ管理・時間分散・板読みの3点を磨き上げてください。


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