本稿は、オンチェーンのパーペチュアル取引に特化した分散型取引所(Perp DEX)である「Hyperliquid」を題材に、実運用に直結する形で設計思想 → 仕組み → 具体的なトレード手順 → リスク管理までを通しで解説します。
口座開設のやり方だけに留まらず、約定品質や資金調達率(Funding)のクセ、板の厚みと滑りの扱い方、勝ちパターン/負けパターンの事例、チェックリストまでまとめました。投資判断はご自身の責任で行ってください。
Hyperliquidとは:何がユニークか
Hyperliquidは、独自のレイヤー1ブロックチェーン上に構築されたパーペチュアルDEXです。
中核はフルオンチェーンのオーダーブック+マッチングエンジンで、注文の受付・整列・約定がチェーン上で確定されます。
合意形成(コンセンサス)はHyperBFTを採用し、ブロック時刻とトランザクション順序の一貫性を重視した設計になっています。
この「オンチェーンCLOB(中央注文板)」という選択が、AMM型のPerp DEXと比べて価格発見の精度・約定の決定性に強みを持つ理由です。
競合DEXとの設計差分(dYdX v4 / GMX v2 など)
Perp DEXの設計は大きく「CLOB系」と「プール系」に分かれます。dYdX v4はCosmos系のアプリチェーン上でCLOBを運用、
GMX v2はマルチアセットの流動性プールを用いて低スリッページの価格提供を志向します。
Hyperliquidは自前L1上の完全オンチェーンCLOBで、オフチェーン順序決定に頼らない点が特徴です。
流動性の集約方法、清算(清算価格・清算バッファ)、資金調達率の算定、オラクル参照の設計がプロトコルごとに異なるため、
同じ「資金調達率キャプチャ」でも有利不利が発生します。板型=ミクロ流動性と約定順序が武器、プール型=価格インパクト管理が武器と覚えておくと良いでしょう。
証拠金モード(クロス/分離)と口座設計
Hyperliquidでは、ポジション全体で証拠金を共有するクロスマージンと、銘柄別に担保を切り分ける分離マージンの両方が使えます。
・クロス:資本効率は高い反面、連鎖清算のリスクが上がる。
・分離:資本効率は落ちるが、他ポジションへの波及を遮断できる。
初心者は「分離」でサイズを小さく刻み、日次の最大損失額(例:口座残高の0.5%~1.0%)を事前に決める運用が安全です。
手数料・資金調達率(Funding)の考え方
無期限先物では、先物価格と現物の価格乖離を是正するために資金調達率が定期的に授受されます。
順鞘(先物が割高)ではロングがショートへ支払い、逆鞘(先物が割安)ではショートがロングへ支払います。
短期の裁定では、エントリー価格差+Fundingの合算収益を狙いますが、突発的な現物の滑りや清算級ボラで逆回転するリスクを常に織り込んでください。
Fundingは「方向リスクを取らずに金利を取りに行けるときだけ狙う」のが原則です。
板・約定の実務:流動性の見方と滑り最小化
オンチェーンCLOBでは、板の厚み・更新頻度・最良気配の乖離が約定コストを左右します。
成行派の初心者は、イベント前後やFunding直前の薄い時間帯を避け、指値+部分約定の許容を基本に。
スプレッドが広いときは、ツラ(ベストビッド/ベストオファー)を1~2ティック内側に置いて待つだけで約定コストが目に見えて低下します。
約定後は即座にストップを板の内側に差し、「約定→リスク限定」を機械的に行います。
具体戦略①:資金調達率キャプチャ(方向リスク極小)
狙い:Fundingが高い時間帯に、裁定で“金利”を積む。
手順(例):
1) Fundingが正の高水準(例:年率換算30~60%相当)に達した銘柄をスクリーニング。
2) ショートで建て、同一資産の現物 or 現物デルタ(例:主要DEX/ブリッジ経由)でヘッジ。
3) 入金通貨建ての損益(例:USDC建て)で日次PLをトラッキング。
4) Fundingが低下・逆転したらポジションを縮小/解消。
ポイント:ヘッジ側の手数料・滑り・ブリッジ時間を織り込み、ネットでプラスになる場面だけ執行。
具体戦略②:節目ブレイクの短期トレード(期待値の作り方)
狙い:出来高を伴う直近高安のブレイクを板で確認して追随。
セットアップ:
・直近3~5日高安のゾーンに価格が接近。
・板の厚みが一瞬薄くなり、気配が飛びやすいタイミング。
執行:
・ブレイク1~2ティック上(または下)で逆指値エントリー。
・初期ストップは直近レンジ内側へ(ATRの0.8~1.2倍)。
・利食いはR倍(例:2R)またはトレーリング。
失敗回避:イベント直前・Funding転換直前はスキップ。スリッページが想定より悪化したらすぐ降りる。
具体戦略③:Δニュートラルの簡易ベーシス(現物×先物)
狙い:現物と先物の価格差(ベーシス)+Fundingの合算を収穫。
手順(例):
1) 同一資産の現物をスポットDEXで取得(または担保を現物化)。
2) Hyperliquidで同数量のショートを建てる。
3) 価格差が縮小しFundingが低下したらクローズ。
注意:担保の変動・ブリッジ遅延・清算リスクを厳密に管理。
ヘッジ比率は常時100%±数%以内に保つ。
清算とリスク管理:数値ルールで縛る
・1トレードあたりの許容損失:口座残高の0.25~0.50%。
・デイリードローダウン上限:2%(到達で即日停止)。
・同時保有の相関リスク:主要L1/L2が同方向になる組み合わせは回避。
・イベント前(CPI/FOMC/半減期等):ポジション縮小 or 完全スクエア。
ルールの肝は「執行前に損失額が決まっている」こと。清算価格を常にパネルで確認し、
ストップ執行後の再エントリー条件をあらかじめ文章で用意しておきます。
ステップバイステップ:初回セットアップ
- ウォレット準備:EVM系/専用チェーン対応のウォレットを用意。
- ブリッジ:担保通貨(例:USDC)をHyperliquidチェーンへ移す。遅延と手数料を確認。
- KMS(鍵管理):PCとモバイルで復元フレーズを別保管。2端末で署名検証。
- 少額テスト:入金直後に最小サイズ+逆指値で約定確認。
- 板の観察:上位10~20ティックの厚みと更新頻度、約定速度を把握。
- 資金調達率のログ:3時間ごとに推移をメモ(スナップショットでも可)。
API/自動化の導入ポイント
手動の限界は「反復の正確さ」。APIでサイズ計算→注文→ストップ→ログを一括化すると、再現性が急上昇します。
ただし過剰最適化は禁物。バックテストは滑り・手数料・Fundingを必ず内生化し、実運用のラグ(署名・ブロックタイム)も模擬します。
よくある失敗10選(回避リスト)
- Funding目当てで方向リスクを抱えたまま放置。
- 板が薄い銘柄で成行多用→滑って清算。
- クロス過多で連鎖清算。
- イベント直前の一発勝負。
- ヘッジ側の手数料と遅延を無視。
- サイズ計算に手作業が混入(桁ミス)。
- ストップ未設定(または発注忘れ)。
- 相関銘柄を同方向に多数保有。
- ブリッジに資金集中(単一障害点)。
- バックテストで滑りゼロ前提。
チェックリスト(毎回の実行フロー)
- ① 1回の許容損失を設定(残高×0.5%など)。
- ② 板厚・スプレッド・出来高を確認。
- ③ Funding方向とイベントカレンダーを確認。
- ④ エントリー・ストップ・利食いを同時に入れる。
- ⑤ 約定直後にサイズと清算価格を再計算。
- ⑥ ログに根拠・執行値・損益を記録。
まとめ
HyperliquidはオンチェーンCLOBを中核に、約定の決定性とスケーラビリティを両立させたPerp DEXです。
「板の読み方」「Fundingの扱い」「サイズ管理」の3点を押さえれば、初心者でも負けにくい体制を作れます。
最初は分離マージン・小サイズで、勝ちパターンの再現性を手で確認し、慣れたらAPIで自動化してスケールさせましょう。


コメント