ハイイールド債で収益源を作る:スプレッド、デュレーション、リスク管理の完全ガイド

債券

ハイイールド債は、投資適格未満(一般にBB+以下)の発行体が資金調達のために発行する社債で、相対的に高いクーポンを提示します。高い利回りの源泉は「追加で負うリスク」に対する補償であり、どのリスクにいくらの対価を受け取っているのかを数量化できるかが、収益とドローダウンを分けます。本稿では、ハイイールド債の収益ドライバー、測定指標、景気サイクルとの関係、ヘッジと実装、そして初めて取り組む際の実務手順まで、体系的に整理します。

スポンサーリンク
【DMM FX】入金

1. ハイイールド債とは何か:収益の正体を分解する

社債利回り(Yield to Maturity)は概念的に次の和に分解できます。

利回り ≒ 無リスク利子率(国債)+ クレジットスプレッド(信用補償) − 期待損失(デフォルト×(1−回収率))+ ロールダウン効果 ± 為替要因

ハイイールド債では、クレジットスプレッドの寄与が大きく、景気悪化局面ではスプレッドが拡大し価格が下落します。逆に改善局面ではスプレッドが縮小し、価格押し上げ要因になります。投資家は「どの局面のスプレッドを取りに行くのか」を設計し、金利・為替と分離して管理するのが要諦です。

2. 主要指標の読み方:スプレッド、デュレーション、DV01、コンベクシティ

OAS(Option-Adjusted Spread):国債カーブに対してオプションの影響を取り除いた信用スプレッドです。銘柄比較の基準になります。
Zスプレッド:ゼロカーブに対する一定スプレッド。バニラ債の相対価値比較に有用です。
マコーレー/修正デュレーション:金利1%変動に対する価格感応度の近似。
DV01:金利1bp(0.01%)変動あたりの価格変化額。ヘッジ設計で実務的に使います。
コンベクシティ:金利変動に対する二次感応度。変動が大きい局面で近似誤差を補正します。

例:残存5年、修正デュレーション3.8、額面100の債券は、金利が+25bp動くと理論価格は概ね−3.8×0.25%×100 ≈ −0.95下落します(コンベクシティ無視)。

3. 景気サイクルとスプレッドのダイナミクス

ハイイールド・スプレッドは景気先行指標(製造業景況感、失業率のトレンド、与信基準、財政・金融環境)に敏感です。景気悪化の初期にはデフォルト率の実現値がまだ低くても、将来の悪化を織り込みスプレッドが拡大します。逆に、金融環境が緩和し資本市場が開いてくると、リファイナンスが進みデフォルト懸念が後退、スプレッドが縮小します。

実務では、(1) マクロの温度感(景況感・労働・クレジット条件)、(2) 新規発行市場の稼働状況(プライマリーの価格決定力)、(3) スプレッドの分位(過去5〜10年のヒストリカル分布)を重ね合わせ、ストレス耐性のあるレンジかを判断します。

4. 期待損失の考え方:デフォルト率と回収率

ハイイールド債の期待損失(EL)は概ねEL = デフォルト確率 × (1 − 回収率)で表現できます。過去平均の回収率は40%前後とされますが、セクターや担保構造で大きく異なります。投資判断では、(a) 1年先の事業CF、(b) コンバントや担保、(c) リファイナンス窓口の有無、(d) 借換最終期限(ウォール)の長さを重視します。

簡易ハザードモデルの実装例:スプレッドから暗黙のデフォルト強度を近似する手法があります。一定の回収率Rを仮置きすると、スプレッド ≈ (1−R)×ハザード率の近似が成り立ちます。例えばスプレッド500bp、R=40%なら、ハザード率はおおむね0.5 / 0.6 ≈ 0.83%年率と解釈できます。

5. 個別債の見方:財務・ビジネスのチェックポイント

個別銘柄では、(1) 利子負担能力(EBIT/利払費)、(2) レバレッジ(Net Debt/EBITDA)、(3) 流動性(手元現金+未使用コミットメント)、(4) 自由現金流量(FCFの持続性)、(5) 事業の競争優位(参入障壁・価格決定力)、(6) コベナンツ(担保・優先順位・制限条項)の6点を最低限チェックします。IR資料と公募目論見書、格付コメント、銀行団資料が情報源です。

実例:Net Debt/EBITDAが4.5倍、利子負担能力が2.0倍、満期のウォールが2年先に集中、EBITDAボラが高い企業は、景気後退で急速に信用悪化しやすいプロファイルです。

6. 実装選択:ETF・ファンド vs 個別債

ハイイールドETF(例:米市場の大型ETF)は分散性と実装の容易さが特徴です。一方で、スプレッドが急拡大する局面ではフロー主導の売りが発生し、基準価額(NAV)からのディスカウントやリバランス売りが生じます。個別債は相対価値で歪みを拾えますが、最低投資金額や流動性、デューデリジェンスの手間が課題です。投資方針と時間資源に合わせて選択します。

7. 金利リスクの切り分け:先物・スワップでDV01ニュートラル

ハイイールド債の価格変動には「金利(リスクフリー)」と「信用(スプレッド)」が混ざっています。スプレッド見通しだけを取りにいくなら、国債先物(または金利スワップ)で金利DV01を打ち消し、金利ニュートラルにする設計が実務的です。方法は、(1) 保有債のDV01合計を算出、(2) 反対方向の国債DV01を持つ先物枚数を計算、(3) コンベクシティ差を許容範囲で管理、の3手順です。

例:保有ポートのDV01が+¥1,200,000/bpで、10年国債先物1枚のDV01が−¥85,000/bpなら、概算で1,200,000 / 85,000 ≈ 14枚のショートで金利を相殺できます(ベーシス差やコンベクシティ差を別途確認)。

8. 為替の取り扱い:円投資家のヘッジ設計

外貨建てハイイールド債を円から投資する場合、為替が損益の主要ドライバーになります。為替ヘッジコスト(短期金利差)と想定保有期間を踏まえ、(a) 完全ヘッジ、(b) 部分ヘッジ、(c) ノーヘッジをルール化して運用します。金利上昇局面ではヘッジコストが重く、スプレッド縮小の利益を相殺するケースがあるため、総合損益で評価します。

9. セクター別のクセ:通信・メディア、エネルギー、消費裁量、ヘルスケア

セクターごとにデフォルトドライバーが異なります。エネルギーはコモディティ価格と投資サイクル、通信・メディアは規制・固定資産の陳腐化、消費裁量は景気感応度、ヘルスケアは規制と訴訟が主因です。各セクターの特有リスクが回収率にも跳ね返る点を忘れないでください。

10. ケーススタディ:2つの相場局面での戦い方

(A)インフレ沈静・ソフトランディング:国債利回りが低下しつつ信用イベントが限定的な局面では、金利ニュートラルのうえでスプレッド縮小を取りにいくのが効率的です。短いデュレーションのBB格を中心に、ロールダウン効果も収益源になります。
(B)リセッション接近・信用イベント多発:流動性低下とスプレッド急拡大でETFはディスカウントが拡大しがちです。キャッシュ比率を上げ、プライマリー再開まで守りを固める選択肢があります。優先順位の高い有担保債や、満期が近いディストレストに絞った回転も検討します。

11. 実務ワークフロー:銘柄発掘から執行まで

ユニバース定義:通貨・満期帯・格付レンジ・セクターを決めます。
スクリーニング:OAS上位、価格90未満、残存3〜5年、Net Debt/EBITDA 3.5倍以内、利子保障2.5倍以上など定量条件を設定します。
定性評価:ビジネスの持続可能性、規制リスク、競合優位をレビューします。
ヘッジ設計:ポートのDV01と為替方針を決定、必要な先物・スワップ枚数とロール計画を定義します。
執行:板の薄い銘柄は指値に粘り、プライマリーの新発条件も並行検討します。
モニタリング:四半期ごとの財務・コベナンツ、ニュースフロー、リファイナンス環境をチェックし、トリガー(売却・ヘッジ追加)を事前設定します。

12. リスク管理:サイズ、流動性、下方保護

単一銘柄の最大比率、加重平均デュレーション、キャッシュ比率、許容ドローダウンを事前に数値化します。イベントリスク(格下げ・コベナンツ違反・訴訟)には、優先順位・担保の確認と、ニュースが出たときの即時行動(縮小・ヘッジ)をプレイブック化しておきます。

13. よくある失敗と回避策

・クーポンの高さだけで判断してしまい、流動性と満期のウォールを見落とす。
・金利と信用を分離せずに評価し、想定外の金利上昇で損益が悪化する。
・為替の寄与を軽視し、ヘッジコストやボラの管理が甘くなる。
・プライマリーの条件を軽視し、セカンダリーで不利な約定を重ねる。

14. まとめ:勝つための設計図

ハイイールド債の収益源は、(1) スプレッド縮小とクーポン、(2) デュレーションとロールダウン、(3) 為替の3本柱です。これらを分離して測定し、必要に応じてヘッジすることで、同じ利回りでも下振れに強いポートフォリオに再設計できます。マクロの温度感とプライマリーの開閉を常に確認し、銘柄とサイズを柔軟に入れ替える運用を心がけてください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました