国債で勝つ現実的アプローチ:オン・ザ・ラン/オフ・ザ・ラン、カーブ、先物ヘッジの使い方

債券

国債は「安全資産」と呼ばれますが、価格形成は意外にダイナミックです。利回りは経済サイクル・政策金利・需給(年金、保険、海外勢、中央銀行の買入や保有調整)・オークションのタイミング・先物のコンバージェンスなど複数の要因に反応します。本稿では、初心者でも再現できるという視点を最優先にしつつ、国債ならではの稼げる歪みの見つけ方と、その歪みを過度なリスクを取らずに活用する実装方法までを一気通貫で解説します。

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国債の「価格=利回り」の関係を実務レベルで理解する

債券価格と利回りは反比例します。割引現在価値の合計が価格、そこから内部収益率として解釈されるのが利回りです。投資判断に直結するのは、金利の微小変化に対する価格感応度(DV01またはドルバリュエーション・オブ・1bp)と、金利変化の非線形性を表すコンベクシティです。

DV01は「利回りが1bp(0.01%)動いたときの価格変化額」。例えば額面100の10年債でDV01が0.08なら、利回りが+5bpなら価格はおよそ-0.40下落します。コンベクシティが大きいほど、金利の下落局面で価格上昇が加速し、上昇局面での下落が緩和されます。長期債は一般にデュレーションとコンベクシティが大きく、短期債は小さくなります。

国債で“勝ち筋”が生まれるメカニズム

債券市場の超過リターン源泉は主に次の4つです。(1)タームプレミアム(長期保有に対する上乗せ利回り)、(2)流動性プレミアム(売買しやすさの差)、(3)ミスプライス(一時的な需給の偏り)、(4)相対価値(年限間や債券間の歪み)。個人投資家が狙いやすいのは(2)〜(4)です。特にオン・ザ・ラン(最新発行)とオフ・ザ・ラン(既発)のスプレッド入札前後の一過性の歪みイールドカーブの形状変化は、比較的透明性が高く、管理指標もシンプルです。

オン・ザ・ラン/オフ・ザ・ラン回帰:流動性プレミアムを収穫する

最新発行の国債(オン・ザ・ラン:OTR)は、指標性と需要集中により価格がやや割高(利回りがやや低め)になりやすい一方、既発(オフ・ザ・ラン:OFR)は割安化する局面があります。時間の経過とともにOTRはすぐにOFRへと格下げされ、割高・割安の差は統計的に縮小していきます。この「縮小(回帰)」こそが収益機会です。

手順

① 同一クーポン帯・近接残存の2本を選び、スプレッド(例えば利回り差)を観察します。② 過去データからスプレッドの平均・標準偏差をとり、±1〜2σのエクストリームを待ちます。③ 割高な方をショート、割安な方をロングにしてデュレーションを中立化します(DV01ロング=DV01ショート)。④ スプレッドが平均に回帰したらクローズ。⑤ 金利全体のトレンドに賭けないので、ポジションのボラは低下し、資本効率が向上します。

注意点は流動性とコストです。板が薄い時間帯や、市場ショック時はスプレッドが通常より拡大することがあります。損切りは「スプレッドの±3σ」など統計ルールで機械的に設定し、執行は成り行きに偏らないよう分割約定を使います。

入札カレンダーの癖:特異日(event day)の一過性歪み

国債は定期的に入札がおこなわれ、発行条件や被買入需要(投資家・ディーラー・アービトラージャーの需要)により、入札前後で一時的な歪みが出やすくなります。典型例は「入札直前の様子見で流動性低下→入札結果後に一気に価格調整」「当選後のヘッジ解消で先物とのベーシスが縮小」といった動きです。

観察系の再現方法はシンプルです。① 過去の同銘柄・同テナーの入札日を並べ、入札T-3〜T+3営業日のリターンを集計します。② 平均と分布を出し、エッジがあるなら入札日のみを対象に小さく賭ける、というアプローチです。入札結果(テール、応札倍率、カットオフなど)に連動した条件付きルールを設けると精度が上がります。

イールドカーブの“形”を取る:ステープナー/フラットナー

金利全体ではなく年限間の傾きに賭けるのがカーブ取引です。例えば「2年と10年のスプレッドが歴史的にフラットだから、今後スティープ化に賭ける」といった設計です。ここでもDV01中立を堅持するのが基本で、2-10スプレッドのステープナー(短期ショート・長期ロング)や、5-10-30のバタフライでボトルネック年限の相対歪みを狙います。

実装上は、ETFや投信の年限エクスポージャーを組み合わせる方法、もしくは先物で年限別に建ててDV01を合わせる方法があります。カーブは景気局面・金融政策・需給(年金のデュレーション調整、金融機関のALM)で動き方が変わるため、景気サイクルの簡易指標(失業率やPMIなど)と併せて観察すると意思決定の質が上がります。

金利先物を使ったDV01ヘッジ:枚数の求め方とCTD

債券現物の価格リスク(デュレーション)を先物で相殺するには、「対象ポジションのDV01 ÷ 先物のDV01」で枚数を決めます。先物のDV01は、CTD(Cheapest-to-Deliver)のDV01にコンバージョンファクターを掛けて近似します。

具体例:数値で追う

例として、額面1億円の10年相当の国債ポジションを保有し、DV01が8,500円/1bpとします。10年相当の金利先物の1枚あたりDV01が5,700円/1bp(CTD調整後)なら、必要枚数は8,500÷5,700=約1.49枚です。端数はリスク許容に応じて1〜2枚で調整し、ヘッジ比率を毎月見直します。ポイント:ポジションの残存が短くなるとDV01は低下するため、ヘッジ枚数も逓減します。

ヘッジ執行は「イベント回避」「ロールのタイミング」「ベーシス(現先)」の3点に配慮します。期近ロール期は先物・現物のベーシスが動きやすいので、ロールカレンダーを事前に決めて機械的に執行するのが安全です。

相対価値の“定義”を数式で固定する:リスクの可視化

相対価値取引は定義が曖昧になると途端にリスクが肥大化します。よって、シグナルとリスクの数式化が重要です。典型的には、(A債の利回り−B債の利回り)をzスコア化し、|z|が閾値を超えたら建て、0に戻ったら手仕舞い。損切りは|z|が閾値の1.5倍。エクスポージャーは「合成DV01が目標値以内」で制限し、同時多発ポジションの総DV01と想定最大ドローダウンをダッシュボードでモニターします。

個人投資家にとっての実装ロードマップ

再現性を高めるため、(A)観察→仮説→小さく試す→記録のループを回します。具体的には、ブローカーレポートや速報サイトの数字を手書きでもよいので日次でメモし、“いつ・何が起きたか”を時系列で残すだけで、入札特異日の癖や、OTR/OFRの回帰速度が見えます。次に、(B)DV01の把握とヘッジのルール化。保有ファンドやETFの目論見書からデュレーションを控え、金利先物の枚数表を用意しておきます。(C)資金管理として、1ポジションの想定損失(5〜10bpショック想定)を口座残高の1〜2%以内に収めるルールを固定します。

ケーススタディ:OTR/OFR回帰の実践記録イメージ

ある10年ゾーンで、OTR利回りがOFRより-3.5bp低い(OTRが割高)局面を観測。過去1年の平均は-1.2bp、標準偏差は1.0bp。z = (-3.5 – -1.2) / 1.0 = -2.3 と十分なエクストリーム。DV01中立でOFRロング、OTRショートを構築。翌週、スプレッドが-2.3bp→-1.4bpへ縮小し、差分+0.9bp×合成DV01分が実現。全体金利はむしろ上昇していたが、相対価値に賭けたためP/Lは安定という形です。

リスク管理:流動性、ギャップ、コリレーション崩壊

相対価値は市場ショック時にスプレッドが一時的に拡大しやすい点が最大のリスクです。対策は、(1)銘柄集中を避ける、(2)イベント(政策発表、重要経済指標、入札)ではサイズを縮小、(3)損切りは価格ベースではなくスプレッドの統計ルールで設計、(4)ヘッジは常にDV01ベースで確認、の4点です。また、カーブ取引では短期と長期の相関が崩れる局面があり、バックアップの損切り条件を別途用意します。

収益の可視化:期待値の分解

期待値 = 勝率 × 平均利益 − 敗率 × 平均損失、という分解で考えます。回帰型戦略は勝率が高めになりやすい代わりに、エクストリームでの損失が大きくなる特性があります。したがって「平均損失の上限」をzスコアの閾値と連動させ、異常拡大=早期撤退でテールリスクをコントロールします。年間の手数料・スリッページも必ず期待値から控除し、ネット期待値がプラスであることを確認します。

税務とキャッシュフローの基礎

国債はクーポン(利子)収入と売買損益が発生します。実際の税扱いは国・口座類型で異なりますが、概念的にはクーポンは定期的にキャッシュインし、価格変動損益は売却時点で確定します。キャッシュフローの読み違いはレバレッジ過多を招くため、クーポン・ロール・ヘッジコストを月次で棚卸しする癖をつけましょう。

チェックリスト:今日からできる最小セット

① 監視銘柄(同一ゾーンのOTR/OFR)を2本だけ選定し、日次で利回り差とzスコアを記録。② 合成DV01がゼロ±10%に収まるよう、ロットとヘッジ枚数を表にしておく。③ 入札日だけはサイズを半分にする固定ルールを採用。④ 想定外の拡大時は無条件でクローズする「セーフティ・バルブ」を決めておく。これだけで、初心者でも手堅い相対価値の型を回せます。

まとめ

国債は「安全=退屈」ではありません。市場は常にOTR/OFRの入れ替わり、入札イベント、先物ロール、年限間の資金移動で小さな歪みを生み出します。私たちがやるべきことは、(1)歪みを定量化して待つ、(2)DV01でヘッジしてリスクを固定、(3)小さく繰り返す、の3点に尽きます。派手さはなくても、統計に基づく小さな優位性を積み上げることが、国債での安定的な成果につながります。

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