通貨の価値がなくなっている時代の資産防衛戦略

インフレ対策

最近、食料品や電気代、ガソリン代など、あらゆるものの値段が上がり続けていると感じる人が増えていると思います。一方で、給料はほとんど増えず、銀行預金の金利もわずかです。「頑張って貯金しているのに、通貨の価値がどんどん失われているのではないか」という不安は、決して大げさではありません。

本記事では、この「通貨の価値がなくなっている」という感覚の正体を整理しつつ、個人投資家がどのように資産を守り、同時に増やしていくかを、株式・金・ビットコインなどを組み合わせた具体的な戦略として解説します。難しい数式は使わず、投資初心者でもイメージしやすいように、身近な例と数字で掘り下げていきます。

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通貨の価値が「なくなっている」とは何か

まず整理しておきたいのは、「通貨の価値がなくなっている」というのは、一般的にインフレと通貨安が同時に進んでいる状況を指しているという点です。

インフレとは、モノやサービスの価格が全体として上がっていく現象です。価格が上がるということは、逆から見ると、同じ1万円で買えるモノの量が減る、つまりお金の価値が下がっていることを意味します。

さらに、自国通貨(ここでは円)が他国通貨に対して弱くなる「通貨安」が進むと、輸入品の値段が上がり、生活コストがさらに上昇します。海外旅行や海外の商品が高くなるだけでなく、エネルギー・食料・原材料など、多くの分野でじわじわと影響が出ます。

この「物価は上がる」「円は弱くなる」「預金金利は低い」という三重苦の状況では、単純に銀行にお金を寝かせておくだけでは、実質的な購買力が削られていきます。ここに、個人投資家が資産防衛を真剣に考えるべき理由があります。

現金・預金だけに頼ることのリスク

通貨価値が下がる環境で、現金や普通預金だけに資産を置いておくと、どのようなリスクがあるのかを、具体的な数字を使って見てみましょう。

仮に、年率2%のインフレが10年間続いたとします。表面的には「2%」と聞くと小さく感じるかもしれませんが、10年続くと累積の物価上昇は約22%になります。つまり、今100万円で買えるモノを10年後に買おうとすると、約122万円必要になるというイメージです。

一方で、銀行預金の金利がほぼゼロに近い状態では、10年後も名目上の預金額は100万円のままです。数字は増えていないのに、買えるモノだけが増税のように目減りしていく――これがインフレ税と呼ばれる感覚の正体です。

仮にインフレ率が年3%、4%と高まれば、10年での実質的な目減りはさらに加速します。通貨の価値が緩やかに、しかし確実に下がっていく環境では、「預金=安全資産」という感覚は修正が必要です。預金は短期の生活防衛には有効ですが、長期で見ると「静かに減っていく資産」になりかねません。

通貨価値が下がる環境で機能しやすい資産クラス

では、通貨の価値が下がる環境で、どのような資産が相対的に機能しやすいのでしょうか。ここでは、インフレ・通貨安に対する耐性という観点から、代表的な資産クラスを整理します。

株式:インフレを価格転嫁できるビジネスへの参加

株式は、企業の一部を所有する権利です。インフレで物価が上がると、企業は販売価格を引き上げることで、ある程度はコスト上昇を転嫁できます。もちろん、すべての企業がうまく価格転嫁できるわけではありませんが、競争力のある企業や需要の強い分野では、物価上昇に合わせて売上や利益も伸びやすくなります。

特に、グローバルに事業展開している企業や、海外売上比率の高い企業は、自国通貨が安くなることで、円ベースの売上や利益が押し上げられることがあります。円安で輸出企業の利益が増える、という話を聞いたことがある方も多いでしょう。通貨安は、海外に稼ぐ力を持つ企業にとっては追い風になることもあるのです。

個別株の銘柄選びに自信がない場合は、全世界株インデックスファンド米国株インデックスファンドのような、分散された投資信託・ETFを活用することで、「世界中の企業の成長に乗る」という発想で通貨価値の目減りに対抗することができます。

金(ゴールド):通貨そのものへの不信に備える「無国籍資産」

金は、何千年も前から価値保存の手段として扱われてきた、いわゆる実物資産です。金自体は利息や配当を生みませんが、各国が通貨を大量に発行し、実質的に通貨価値が薄まっていく局面では、「信用リスクのない資産」として再評価されやすい特徴があります。

特定の国の中央銀行や政府に依存しないという点で、金は「無国籍の通貨」とも言われます。インフレや通貨安が進行する局面では、金の価格は自国通貨ベースで見て大きく上昇することが多く、長期の資産防衛手段として一定の役割を果たします。

個人投資家にとっては、地金やコインを直接保有する方法のほか、金価格に連動する投資信託やETFを活用することで、少額から金の値動きにアクセスすることができます。通貨価値が疑われる環境では、資産全体の一部を金に振り向けておくことが、ポートフォリオの安定性向上につながります。

ビットコイン:デジタル時代の希少資産候補

ビットコインは、発行上限が決まっているデジタル資産です。「インフレで通貨価値が薄まっていく世界で、あらかじめ供給量が決められたデジタルな希少資産」というコンセプトから、「デジタルゴールド」として注目されています。

一方で、ビットコインは価格変動が非常に大きく、短期的には株式や金と比べてもはるかに上下に振れます。したがって、資産のコア(中心)ではなく、サテライト(周辺)として少額を配分するという考え方が現実的です。

例えば、総資産のうち5〜10%程度をビットコインのような高ボラティリティ資産に割り当て、残りは株式・債券・金などで構成することで、「大きな上昇があれば恩恵を受けつつ、暴落しても全体が大きく崩れない」バランスを意識できます。

外貨建て資産・海外株:通貨安そのものへのヘッジ

通貨安への直接的な対抗手段としては、外貨建ての資産を持つという選択肢があります。例えば、米ドル建ての投資信託やETF、海外株式などです。自国通貨が安くなると、外貨建て資産の自国通貨ベースの評価額は上昇します。

もちろん、為替は一方向に動き続けるわけではありませんし、外貨建て資産には為替変動リスクも伴います。しかし、収入の大半が円である日本の個人にとって、資産の一部を外貨建てにすることは、長期的な通貨分散という意味で有効な選択肢になります。

通貨価値の目減りに備えるポートフォリオ設計の考え方

ここまで見てきた資産クラスを踏まえ、実際に個人投資家がどのようにポートフォリオを組み立てれば良いかを考えていきます。ここでは、あくまで考え方の一例として、リスク許容度別にイメージを示します。

攻めと守りのバランスを決める

通貨価値が下がる環境で資産を守るには、「減らさない」だけでなく、「ある程度は増やす」視点も必要です。そのために、まずは攻め(リスク資産)と守り(安全資産)の比率を決めます。

例えば、次のようなイメージです。

  • やや積極型:リスク資産70%(株式・金・ビットコインなど)、守り30%(現金・短期債など)
  • バランス型:リスク資産60%、守り40%
  • 安定重視型:リスク資産40〜50%、守り50〜60%

ここでの「リスク資産」は、価格が上下に振れ動く可能性がある一方で、長期的にプラスのリターンを狙える資産を指します。「守り」は、急な出費に備える生活防衛資金や、短期的な値動きが小さい資産をイメージすると分かりやすいでしょう。

リスク資産の中での分散:株式・金・ビットコインの組み合わせ

リスク資産の70%を、さらに以下のように分けるイメージを考えてみます。

  • 株式(全世界株・米国株など):リスク資産のうち60〜70%
  • 金(ゴールド):リスク資産のうち20〜30%
  • ビットコインなどの暗号資産:リスク資産のうち5〜10%

例えば、総資産500万円でバランス型(リスク資産60%)を選ぶとします。この場合、リスク資産は300万円です。この300万円を上記の比率で配分すると、次のようなイメージになります。

  • 株式:210〜225万円
  • 金:60〜90万円
  • ビットコイン:15〜30万円

残りの200万円は、生活防衛資金や短期債、普通預金として確保しておきます。こうすることで、インフレや通貨安が進んだときに、株式・金・ビットコインが資産全体を引き上げる可能性を持ちつつ、急な収入減や相場の急落にも耐えられるクッションを残すことができます。

具体的な投資ステップ:何から始めればよいか

ここからは、「理屈はわかったが、何から手を付ければよいのか分からない」という人向けに、具体的なステップを順番に整理します。

ステップ1:生活防衛資金を先に確保する

最初にやるべきことは、投資よりも生活防衛資金の確保です。目安としては、毎月の生活費の3〜6か月分程度を、普通預金などすぐに引き出せる形で確保しておきます。自営業や収入が不安定な人は、6〜12か月分を目標にしても良いでしょう。

この生活防衛資金は、「相場が暴落したときでも慌てて投資資産を売らなくてよい状態」を作るためのクッションです。通貨価値の目減りに備えるための投資とはいえ、短期的な資金繰りの不安を抱えたままリスクを取るのは危険です。

ステップ2:毎月の投資可能額を決める

次に、生活費と防衛資金を確保したうえで、「毎月どれくらいなら継続して投資に回せるか」を決めます。ここでは、例えば毎月3万円を投資に回せると仮定してみます。

重要なのは、「無理のない金額で、長く続けられること」です。短期間だけ高額を投資するよりも、少額でも長期にわたり積み立てるほうが、時間を味方につけやすくなります。通貨価値の低下は長期の現象なので、「長く付き合える投資額」を意識しましょう。

ステップ3:インデックスファンドを中心に据える

毎月の投資額が決まったら、インデックスファンドや分散型のETFを中心に据えることを検討します。具体的には、全世界株や米国株のように、広く分散された指数に連動する商品が候補になります。

例えば、毎月3万円を投資する場合、次のようなイメージで配分できます。

  • 全世界株インデックスファンド:2万円
  • 金価格連動ファンド:7,000円
  • ビットコイン関連商品:3,000円

このように、株式・金・ビットコインに分散して積み立てることで、「世界経済の成長」「実物資産」「デジタル希少資産」という、性質の異なる3本柱で通貨価値の目減りに備えることができます。

ステップ4:年1回程度のリバランスを行う

時間がたつと、値上がりした資産と値下がりした資産の比率が崩れてきます。例えば、ビットコインが大きく上昇して、当初5%だった配分が10%や15%に膨らむこともありえます。

このような場合には、年に1回程度、資産配分を見直す「リバランス」を行います。具体的には、増えすぎた資産を一部売却し、その分を他の資産に振り向けて、当初決めた比率に近づけます。これにより、「高くなりすぎたものを売り、相対的に安いものを買う」という規律ある行動が自然と実行できます。

円安と外貨建て資産:身近な為替ヘッジの考え方

通貨価値の低下を直感的に理解しやすいのが、「海外旅行が高くなった」「海外の商品が高すぎて手が出ない」といった体験です。これは、円安によって、円の購買力が海外で大きく落ちていることを意味します。

この円安に対抗する方法のひとつが、外貨建て資産を一部保有することです。具体的には、次のようなイメージがあります。

  • 米国株インデックスファンドやETFを通じて、ドル建ての株式資産を持つ
  • 外貨建ての債券や外貨預金を一部活用する

円安が進むと、ドル建て資産の円換算額は増えます。一方で、為替が円高方向に振れれば、円換算の評価額は減ります。このように、為替リスクと引き換えに、通貨分散・地域分散のメリットを得ることができます。

重要なのは、「円での生活基盤を維持しつつ、資産の一部を外貨建てに分散する」というバランス感覚です。すべてを外貨建てにする必要はありませんが、長期的な通貨価値の変動に備えるうえで、外貨建て資産は有力な選択肢になります。

ケーススタディ:300万円の貯金をどう配分するか

ここで具体例として、「手元に貯金が300万円あり、今後のインフレや通貨安が不安」という30代会社員を想定して、シンプルな配分例を考えてみます。

前提として、毎月の生活費は20万円、ボーナスは不安定とします。

  • 生活防衛資金:120万円(生活費6か月分)
  • 投資に回す原資:180万円

この180万円を、バランス型の考え方で配分すると、例えば次のようになります。

  • 全世界株インデックスファンド:110万円
  • 金価格連動ファンド:45万円
  • ビットコイン関連商品:25万円

さらに、今後の給与から毎月3万円を積み立て、内訳を先ほどの例と同様に、「全世界株2万円・金7,000円・ビットコイン3,000円」とします。これにより、「一括で投資した分」と「毎月コツコツ積み立てる分」の両方を組み合わせて、時間分散を効かせることができます。

このケースでは、物価上昇や円安が進めば、株式・金・ビットコインが全体の資産を押し上げる可能性があります。一方で、市場が下落した場合でも、生活防衛資金として120万円を現金で確保しているため、すぐに生活に困ることはありません。このように、「攻めつつ守る」設計が、通貨価値が揺らぐ時代の資産防衛には重要です。

よくある失敗パターンと注意点

通貨価値の目減りに不安を感じて投資を始める人が陥りがちな失敗パターンも、あらかじめ知っておくことが大切です。

一つの資産に極端に偏る

インフレや通貨安への不安が強いと、「すべて金に変える」「すべてビットコインにする」といった極端な行動に走りがちです。しかし、どの資産にも短期的な下落リスクがあります。特にビットコインのような高ボラティリティ資産は、短期間で価格が半分になることも珍しくありません。

大切なのは、どの資産も万能ではないという前提に立ち、複数の資産に分散することです。株式・金・ビットコイン・外貨建て資産などを組み合わせることで、どれか一つが不調でも、他がカバーする余地を残すことができます。

短期的な値動きに振り回される

通貨価値の低下は、長期的な現象です。一方で、株式やビットコインの価格は日々大きく動きます。そのため、「数週間で含み損が出たから怖くなって売ってしまう」といった行動を続けていると、長期的な資産形成のチャンスを逃してしまいます。

インフレ・通貨安への対策としての投資は、数年から10年単位の視点で考える必要があります。短期の値動きよりも、「長期で見て資産全体が通貨価値の目減りを上回っているか」を重視することが大切です。

生活防衛資金を投資に回しすぎる

「通貨価値がなくなるのが怖いから」といって、生活費まで投資に回してしまうのも危険です。急な病気や失業など、現金が必要になる場面は必ず起こり得ます。そのときに、相場が不調で投資資産が含み損の状態だと、「安くなっているタイミングで売らざるを得ない」という最悪のパターンに陥ります。

繰り返しになりますが、まずは生活防衛資金を確保し、そのうえで余裕資金を投資に回す、という順番を守ることが重要です。

まとめ:通貨価値はコントロールできないが、ポートフォリオはコントロールできる

通貨の価値がなくなっていると感じる背景には、インフレや通貨安、低金利といった要因が重なっています。これらは、個人ではコントロールできません。しかし、自分の資産配分や投資のルールは、自分で決めることができます。

本記事で見てきたように、株式・金・ビットコイン・外貨建て資産などを組み合わせ、生活防衛資金をしっかり確保したうえで、時間を味方につけた積立投資とリバランスを行うことで、通貨価値の目減りに正面から立ち向かうことが可能になります。

大切なのは、焦って極端な行動を取るのではなく、自分のリスク許容度と生活状況に合ったペースで、一歩ずつ仕組みを整えていくことです。通貨の価値が揺らぎやすい時代だからこそ、「自分でコントロールできる部分」に集中しながら、着実に資産防衛と資産形成を進めていきましょう。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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