現在のBTC価格下落の理由~MSTRショートカバーが短期的にBTCに下落圧力を加えている

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本記事では、MSTR(MicroStrategy)のショートポジション解消が株価を押し上げにくい理由と、その過程でBTCが弱含みやすくなる市場構造について、できるだけ平易な言葉で整理して解説します。

最近のBTCの下落局面では、「需要が枯れた」「上値を買う投資家がいない」といった表層的な説明が多く見られます。しかし、水面下では、機関投資家が構築していた大規模な裁定取引(アービトラージ)の巻き戻しが進行しており、そのフローが価格に与えている影響は小さくありません。特に、MSTRショートの多くが現物株ではなくCFDやTRS(Total Return Swap)といったデリバティブで組成されていることが、価格挙動を理解するうえで重要なポイントになります。

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MSTRとBTCの関係:なぜ裁定取引の対象になるのか

まず前提として、なぜMSTRがBTCとセットで語られるのかを整理しておきます。MSTRは自社バランスシート上で大量のBTCを保有しており、事実上「高レバレッジのBTC保有ビークル」として機能してきました。そのため、市場参加者はしばしばMSTRをBTCの代替エクスポージャーとして扱い、

  • 「MSTRの株価 ≒ 保有BTC価値(NAV)+事業価値」

という見方をします。もちろん現実にはプレミアムやディスカウントが常に変動しますが、BTCとMSTRの間には強い連動性が存在しやすい構造になっていることは、多くの投資家が共有する共通認識です。

この「連動性が高い2つの資産のあいだに、一時的に価格差が生じる」という状況こそが、アービトラージの温床になります。

機関投資家の裁定取引:BTCロング+MSTRショートという構図

機関投資家が典型的に構築していたポジションは、次のような組み合わせです。

  • BTC:ロング(買い)
  • MSTR:ショート(売り)

もし、市場で以下のような状態が生じていたとします。

  • 「MSTRの株価が、同社が保有するBTC価値に対して割高になっている」

このとき、BTCを買い、同時にMSTRを売ることで、将来的に両者の価格差が縮小したときに利益を得ることができます。MSTRがBTCに対して相対的に高すぎるのであれば、いずれどこかのタイミングでそのギャップが修正されると期待できるためです。

このようなポジションは、うまく構築すれば「市場全体の方向性(上昇・下落)にあまり依存せず、BTCとMSTRの相対関係にだけ賭ける」ことができます。そのため、マーケット・ニュートラル戦略の一種として、多くのヘッジファンドやアービトラージファンドが好んで活用します。

ポジション解消のフロー:BTC売り+MSTR買い戻し

裁定取引は永続しません。価格差が縮小し、利ざやが取れなくなれば、投資家はポジションを解消します。その際に発生するフローは、構築時の逆方向になります。

  • 構築時:BTCを買う/MSTRを売る
  • 解消時:BTCを売る/MSTRを買い戻す

このうち、「BTC売り」の部分は現物や先物・パーペチュアルスワップなどを通じて市場に直接インパクトを与えやすく、結果としてBTC価格の重さにつながります。一方で、「MSTR買い戻し」は、どのような手段でショートを構築していたかによって、株価への影響度が大きく変わります。この点を理解しないと、

  • 「ショート解消ならもっとMSTRが上がってもよいはずなのに、なぜそれほど上がらないのか」

という疑問が生じます。ここから先は、その疑問の核心に踏み込んでいきます。

現物ショートとCFDショートの違い:価格インパクトの有無

MSTRショートが現物株で行われている場合と、CFDなどのデリバティブで行われている場合では、ポジション解消時の市場インパクトがまったく異なります。まず、現物ショートの仕組みを整理します。

現物ショートの場合:解消時に必ず「現物買い」が必要になる

現物株をショートする一般的な手順は、次のとおりです。

  1. 証券会社や機関投資家からMSTR株を借りる(借株)
  2. 借りた株を市場で売却する(ショートエントリー)
  3. ショートを解消するときに、市場でMSTR株を買い戻す(買い戻し)
  4. 買い戻した株を貸し手に返却する

このプロセスでは、ショート解消時に必ず「市場での買い注文」が発生します。したがって、大量の現物ショートが一斉に解消されれば、買い戻し需要が株価を力強く押し上げることになり、いわゆるショートカバーラリーやショートスクイーズが発生しやすくなります。

CFDショートの場合:解消しても現物買いが発生しない

一方、CFD(差金決済取引)を利用したショートは、構造がまったく異なります。CFD取引では、投資家は実際にMSTR株を売るのではなく、「MSTRの価格変動分だけを現金でやり取りする契約」をCFD業者や流動性プロバイダーと締結します。投資家がCFDでMSTRをショートするとき、次のようなことが起きます。

  • 投資家はCFD業者と「MSTRの価格が下がれば利益、上がれば損失」という契約を結ぶ
  • 市場でMSTR現物株が売られるわけではない
  • CFDショートを解消する際も、契約をクローズして損益差額を現金で清算するだけ

重要なのは、CFDショートの解消は「契約上のキャッシュ決済」であり、「市場でMSTR現物を買い戻す行為」ではない、という点です。つまり、ショートポジションがどれだけ解消されても、その分の買い注文が現物市場に出てこないため、株価を押し上げる力が非常に弱くなります。

TRS(Total Return Swap)やレバレッジETFショートも同様の構造

大口の機関投資家は、CFDだけでなく、TRS(Total Return Swap)やレバレッジETFなど、さまざまなデリバティブを組み合わせてMSTRへのショートエクスポージャーを構築しているケースが多いです。TRSは、ある資産のトータルリターン(価格変動+配当等)を相手方と交換する店頭デリバティブであり、これも基本的には差金決済型の契約です。

TRSによるMSTRショートでは、MSTRが下落すればショート側に利益が入り、MSTRが上昇すればショート側が損失を支払います。しかし、その損益のやり取りは銀行やヘッジファンドとの間でキャッシュベースで完結し、MSTR現物株が市場で売買されるわけではありません。

同様に、MSTRに連動するレバレッジETFを利用したショートポジションも、その多くはデリバティブを通じて構築されており、解消時に現物株の大量買い戻しが発生するとは限りません。このため、ショート解消局面であっても、MSTR株価が期待するほど大きく反発しないことがあり得ます。

では、その損失や利益は誰が負担しているのか

ここで自然に浮かぶ疑問は、「CFDやTRSでショートしていた投資家が損をした場合、その損金は誰が負担しているのか」という点です。答えはシンプルで、

  • CFD業者や流動性プロバイダー
  • TRSを提供している銀行やヘッジファンド
  • あるいはデリバティブの反対側にいるロング投資家

といった「契約の相手方」が、その損失を利益として受け取ります。損失と利益はあくまで契約当事者間のキャッシュフローとして完結し、現物市場の需給とは切り離されています。

この構造により、MSTRに対するショートポジションの解消が進んでいても、その影響が現物株の買い需要として表面化せず、株価の上昇圧力として可視化されにくくなります。

BTCだけが強く売られ、MSTRがあまり上がらない理由

ここまでの議論を踏まえると、

  • BTC:現物・先物・パーペチュアルを通じて実際に売り圧力が出る
  • MSTR:ショートの多くがCFDやTRSなどのデリバティブで組成されているため、解消しても現物の買い需要が発生しにくい

という非対称な構図が見えてきます。裁定取引の巻き戻しは、

  • BTC側では「売りフロー」として強く効く
  • MSTR側では「株価を押し上げる買いフロー」としてはあまり効かない

という結果をもたらします。そのため、

  • 「裁定取引が解消されているのになぜBTCが重いのか」
  • 「ショートカバーが進んでいるはずなのに、なぜMSTRが思ったほど上昇しないのか」

といった一見不思議な価格挙動も、デリバティブ構造を前提に考えると整合的に説明できます。要するに、今起きているのは「BTC売りフローの残弾がまだ残っている一方で、MSTR側には目立った買い戻しフローが現れにくい局面」だと理解できます。

クリプト市場全体への影響:流動性の吸い上げ

もう一つ重要なポイントは、この裁定取引で生じた利益の多くが、クリプトネイティブではなく、伝統的な金融機関やヘッジファンド(TradFi側)に帰属しているという点です。つまり、

  • 裁定取引の利益として吸い上げられた資金が、クリプト市場の外側に流出している

ことになります。その結果、BTCだけでなく、流動性の薄いアルトコインほど資金流入が細りやすく、価格が下押しされやすい環境が続きます。短期的には、

  • 「BTCの弱さ」と「アルトの脆さ」がセットで現れやすい局面

と捉えることができます。

個人投資家がチェックしておきたい指標

このような裁定取引の解消局面で、個人投資家が状況把握の参考にできる指標としては、例えば次のようなものがあります。

  • MSTRとBTCの相対パフォーマンス(MSTR/BTCレシオ)
  • MSTRのショート残高(現物ベース)と借株コスト
  • BTC先物・パーペチュアルのオープンインタレスト(OI)の推移
  • BTC先物のベーシスやFunding Rateの極端な歪みの有無
  • ステーブルコイン時価総額の推移(市場全体の流動性の増減)

これらはあくまで一例ですが、価格チャートだけでは見えない「フロー」や「ポジション構造」を把握するうえで有用なヒントになります。特に、MSTR/BTCレシオが急激にMSTR有利へと動いたあと、そのトレンドが鈍化・反転してくるようであれば、裁定ポジションの解消がある程度進み、「BTCの上値の重さ」が徐々に和らいでくるサインとして注目する価値があります。

逆アービトラージと踏み上げリスク

将来のシナリオとして意識しておきたいのが、「逆アービトラージ」が発生する局面です。もしMSTRの株価が、同社が保有するBTC価値(NAV)に対して大きなディスカウントを伴うようになれば、今度は

  • MSTRを買い、実質的に割安なBTCエクスポージャーを取得する

という逆方向の裁定取引が魅力的になります。このとき、MSTRショートを大量に抱えている投資家は踏み上げリスクに直面し、ポジション解消を急がされる可能性があります。過去にGBTCのプレミアムが大きく崩壊したあと、ディスカウントが極端に拡大した局面でさまざまな裁定フローが発生したことを思い出すと、このシナリオは全く絵空事ではありません。

長期視点:希少資産とマネー供給

最後に、短期的な裁定フローとは別に、長期的なマクロ視点にも触れておきます。中央銀行が金融緩和やバランスシート拡大を通じて通貨供給を増やし続ける環境では、一般に、発行量や供給が制約された資産(BTCや金、銀など)は名目ベースでの価格上昇圧力を受けやすいと言われます。

BTCと金はしばしば対立的に語られがちですが、

  • 供給に上限や物理的制約がある
  • 中央銀行や政府のバランスシートとは切り離された価値保存手段として認識されやすい
  • インフレ懸念や通貨価値への不信が高まる局面で需要が増えやすい

といった点で、投資構造はむしろよく似ています。短期的には裁定取引やポジションフローによって価格が大きく振らされますが、長期の資産配分を考える際には、マクロ環境や通貨供給の方向性とあわせて、希少資産の役割を冷静に位置づけることが重要です。

まとめ:構造を理解してノイズに振り回されない

本記事で解説したポイントを整理すると、次のようになります。

  • MSTRとBTCのあいだには強い連動性があり、価格差を利用した裁定取引が大きく組まれてきました。
  • 多くの機関投資家は、BTCロング+MSTRショートというポジションを通じて、両者の相対価値の歪みから利益を狙っていました。
  • MSTRショートは、現物株ではなくCFDやTRS、レバレッジETFなどデリバティブ経由で構築されることが多く、解消しても現物の買い戻し需要が発生しにくい構造でした。
  • その結果、裁定ポジションの解消局面では、BTC側には実際の売りフローが強く出る一方で、MSTR側には目立った買いフローが現れにくく、BTCが不自然に重く感じられる状況が生じます。
  • 裁定取引の利益は主に伝統金融側のプレイヤーに吸収され、クリプト市場全体から流動性が抜ける形になっており、アルトコインの弱さにもつながっています。
  • 個人投資家は、価格だけでなく、MSTR/BTCレシオやショート残高、先物OI、ステーブルコイン時価総額などを併せて確認することで、「フローのレジーム」を把握しやすくなります。

短期的な価格変動には多くのノイズが含まれますが、その裏側にあるポジション構造や裁定フローを理解しておくことで、感情に振り回されにくくなり、より一貫した投資判断につなげやすくなります。本記事の内容が、BTCやMSTRの値動きを読むうえでの一つの視座としてお役に立てば幸いです。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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