チャートを見ていると、天井や底で価格が「広がってから徐々に収束していく」不思議な形が現れることがあります。上にも下にも大きく振れたあと、次第に振れ幅が小さくなり、最後にどちらかに大きく抜けていく――このパターンが「ダイヤモンドフォーメーション」です。
名前だけは知っていても、「たまたまそう見えているだけでは?」「実際にどうトレードに使えばいいのか分からない」という方は多いです。本記事では、ダイヤモンドフォーメーションの構造から、具体的なエントリー・イグジットルール、リスク管理、練習方法までを体系的に整理し、株・FX・暗号資産などあらゆるチャートで使える実践的な視点で解説します。
ダイヤモンドフォーメーションとは何か
ダイヤモンドフォーメーションは、価格の高値と安値を結んだとき、ひし形(ダイヤモンド)のような形に見える転換型パターンです。多くは上昇トレンドの終盤に現れ、天井圏の「迷い」と「力尽き」を表すと言われますが、底値圏で出る場合もあります。
構造をもう少し具体的に整理すると、次のようになります。
- 序盤:高値は切り上がり、安値は切り下がり、値動きの振れ幅(ボラティリティ)が拡大する
- 中盤:今度は高値が切り下がり始め、安値は切り上がり始める
- 終盤:高値・安値の更新幅が小さくなり、価格が収束していく
- 最後:どちらかに大きくブレイクし、新しいトレンドが始まりやすい
つまり、拡散(広がる)フェーズと収束(狭まる)フェーズが組み合わさった、ボラティリティの入れ替わり構造になっているのが特徴です。
チャート上での見つけ方:4つのフェーズを意識する
ダイヤモンドフォーメーションは、「綺麗なひし形」だけを探そうとすると、ほとんど見つかりません。実際のチャートでは歪んでいることが多く、完璧さを求めると見逃してしまいます。重要なのは形の美しさではなく、フェーズの変化です。
次の4フェーズがあるかどうかをチェックします。
- フェーズ1:ボラティリティ拡大
上昇トレンドの終盤などで、突然値動きが荒くなり、高値は更新するが押し目も深くなり、安値も大きく切り下がる局面が現れます。チャート上では、ローソク足の実体もヒゲも長くなり、値幅が広がります。 - フェーズ2:高値の切り下げ
買いの勢いが弱まり、これまでのように高値を更新できなくなります。一方で、まだ売りも強くないため、安値は極端には割り込まなくなり、結果として高値だけが徐々に切り下がります。 - フェーズ3:安値の切り上げ
ここから売り方も弱まり、安値が徐々に切り上がり始めます。高値は切り下がり、安値は切り上がることで、値動きが「三角保ち合い」のように収束していきます。 - フェーズ4:ブレイク
最後に、収束したレンジの上か下に大きく抜けます。このブレイクが、新たなトレンドの起点になることが多く、ダイヤモンドフォーメーションをトレードに活用する際のメインの狙い所です。
チャートでこの4フェーズが確認できるなら、多少いびつな形でも「ダイヤモンド」として扱う方が実践的です。
ダイヤモンドフォーメーションが示す投資家心理
パターンを形だけで覚えると、「たまたま当たった・外れた」で終わります。トレードに活かすなら、その裏側で何が起きているか(参加者の心理)を理解した方が、応用が効きます。
ダイヤモンドフォーメーションは、おおまかに次のような心理の流れで成立します。
- トレンド終盤で「乗り遅れた投資家」が一気に買い(あるいは売り)に走り、ボラティリティが急拡大する
- それに乗って短期筋が増え、上下に激しく振らされる相場になる
- やがて、買い方(または売り方)のスタミナが切れ、高値更新(または安値更新)が鈍る
- ポジション調整が進み、値動きが収束する
- どちらかにポジションが偏った状態で、逆方向にブレイクが起きると、一気に踏み上げ(踏み下げ)が発生する
つまり、ダイヤモンドフォーメーションは「ポジションが溜まりきった後の、エネルギーの解放前夜」のような局面です。だからこそ、その後のブレイクはエネルギーが乗りやすく、トレンド転換や加速につながりやすいのです。
上値圏と底値圏のダイヤモンドの違い
ダイヤモンドフォーメーションは、天井にも底にも現れますが、意味合いが少し異なります。
天井圏のダイヤモンド
多くの書籍や解説で取り上げられるのは、上値圏(天井)のダイヤモンドです。上昇トレンドの最後に現れ、上にも下にも振られたあと、下方向にブレイクして下落トレンド入りするパターンとして紹介されます。
この場合の主役は「買い方」です。高値掴みをした投資家や、レバレッジをかけている短期トレーダーが多い局面では、下方向へのブレイクで一気にロスカットや投げ売りが連鎖しやすく、下落が加速しやすくなります。
底値圏のダイヤモンド
底値圏で現れるダイヤモンドは、「投げ売りが出尽くした後の反転サイン」として機能することがあります。こちらの主役は「売り方」です。ショートポジションが積み上がっている中で上方向にブレイクすると、踏み上げを伴って強い上昇につながるケースがあります。
どちらの場合も共通しているのは、「どちらかのポジションが偏った末に、逆方向へのブレイクが起きると、動きが大きくなりやすい」という点です。
具体的なトレード戦略:エントリーとイグジットの設計
ここからは、ダイヤモンドフォーメーションを使ったシンプルなブレイクアウト戦略を構築していきます。ここで紹介するのは、一例に過ぎませんが、考え方の骨格としてそのまま応用できます。
1. 形が完成したと判断する条件
まず、「なんとなくそれっぽい」ものに飛びつくのではなく、最低限の条件を決めます。例えば次のようなイメージです。
- 直近のトレンド方向がはっきりしている(例:上昇トレンドの後に出る天井ダイヤモンド)
- 拡散フェーズで、少なくとも2回以上の極端な高値・安値更新がある
- その後、高値が切り下がり、安値が切り上がる収束フェーズが見える
- 収束フェーズにおいて、値動きのレンジ(高値と安値の幅)が徐々に狭まっている
完璧に当てはまる必要はありませんが、少なくとも「拡散 → 収束 → ブレイク前夜」の流れが意識できるチャートを選ぶようにします。
2. ブレイクアウトのエントリールール
天井圏のダイヤモンドを想定した、ショートエントリーのルール例を示します(FXの1時間足や株の60分足などでイメージしてみてください)。
- ダイヤモンドの収束フェーズで、高値と安値のレンジを線で引き、上下の境界を明確にする
- 終値ベースで、下側の境界を明確に抜けたらショートエントリー
- 上側の境界の少し上に損切りライン(ストップロス)を置く
底値圏のダイヤモンドなら、この逆を考えればよいです。終値ベースで上側の境界を抜けたらロング、下側の境界の少し下にストップを置くイメージです。
3. 利食いのターゲット設計
利食い目標も、あらかじめシンプルなルールを決めておきます。例としては次のような考え方があります。
- ダイヤモンド全体の高さ(最大高値と最安値の差)を測り、その値幅をブレイク方向に投影する
- 重要なサポートライン・レジスタンスライン(過去の高値・安値や水平ライン)で分割決済する
- トレーリングストップ(直近高値・直近安値を基準にストップを切り下げ・切り上げ)で伸ばす
例えば、ダイヤモンドの最大値幅が200円の銘柄なら、ブレイクから200円下(または上)に第一ターゲットを置く、といったイメージです。実際のボラティリティや時間軸によって調整して構いません。
4. 損切りの位置とサイズ
ダイヤモンドフォーメーションは、「ブレイクしてからエントリーする」ことが多いため、どうしてもストップ幅がやや広くなりがちです。その分、ポジションサイズを小さくすることで、リスクを一定にする必要があります。
例えば、1トレードあたり口座資金の1%をリスクにするルールを採用する場合、次のように考えます。
- エントリー価格:1,000円
- ストップロス:1,050円(50円のリスク)
- 口座残高:100万円
- 1トレード許容損失:1% → 1万円
この場合、1万円 ÷ 50円 = 200株までが許容ポジションサイズになります。実際には手数料やスリッページも考慮して少し減らしてもよいでしょう。
時間足別の使い方:株・FX・暗号資産での実例イメージ
ダイヤモンドフォーメーションは、時間足と市場によって意味合いや信頼度が変わります。それぞれの特徴を理解しておくと、どの場面で重視すべきかの判断がしやすくなります。
株式市場(日足・60分足)
株式の場合、決算や材料によるギャップが入ることが多く、形が崩れやすいです。その一方で、出来高と組み合わせて見ることで、信頼度を高めることができます。
- 天井圏:出来高を伴ったボラティリティ拡大 → 出来高が減少しながら収束 → 出来高急増を伴うブレイク
- 底値圏:投げ売りによる出来高急増 → 徐々に出来高が減る収束 → 出来高復帰と共に反転ブレイク
特に日足チャートでのダイヤモンドは、その後のトレンドも長く続きやすいため、中期トレードの起点として活用できます。
FX市場(1時間足・4時間足)
FXでは24時間取引が行われているため、ギャップが少なく、形が比較的綺麗に出やすい市場です。1時間足や4時間足でのダイヤモンドは、数日単位の値動きの転換点として機能することがあります。
例えば、主要通貨ペアが重要経済指標前後で大きく振れたあと、徐々に収束し、指標後に一方向にブレイクしていく――といった場面でダイヤモンド構造が見られることがあります。
暗号資産市場(4時間足・日足)
暗号資産はボラティリティが高く、拡散フェーズが極端になりやすい特徴があります。そのため、「拡散しすぎて形が崩れたダイヤモンド」も多く、形だけで判断すると振り回されやすいです。
この市場では、次のようなフィルターを併用することをおすすめします。
- 主要なサポート・レジスタンス付近(過去の高値や長期移動平均線など)で出たものだけを狙う
- 出来高や建玉の偏り(先物のポジション状況など)も参考にする
- レバレッジを抑え、想定外の乱高下に耐えられるサイズにする
よくある失敗パターンと回避策
ダイヤモンドフォーメーションは「転換パターン」として紹介されることが多いですが、全てが綺麗に転換するわけではありません。むしろ、フェイクブレイクやノイズに巻き込まれやすいパターンでもあります。典型的な失敗パターンと、その回避策を整理しておきます。
失敗1:拡散フェーズだけで「ダイヤモンド」と決めつける
ボラティリティ拡大だけを見て、「これはダイヤモンドだ」と思い込み、早めにポジションを取ってしまうパターンです。収束フェーズが確認できていないうちに飛び込むと、そのままトレンドが継続してしまうことがよくあります。
回避策:高値が明確に切り下がり始め、安値が切り上がる局面を待ってから、「候補」と認識する。最低でも「拡散 → 収束」の流れが意識できないときは、見送りを基本にする。
失敗2:ブレイク前にポジションを持ち続けてしまう
「どうせ下に抜けるだろう」と決めつけて、ブレイク前からショートを積み上げるような行動は危険です。収束フェーズはレンジ相場でもあり、往復ビンタを食らいやすいエリアです。
回避策:エントリーは「ブレイク後」を基本とする。先にポジションを入れる場合でも、レンジの中央付近ではなく、レンジの端に引きつけて小さなサイズから入るなど、あくまで慎重に行う。
失敗3:リスクリワードが悪いところで入る
ダイヤモンドの形だけに集中し、ストップ位置とターゲット位置のバランスを考えずにエントリーすると、「勝っても利益が小さく、負けると大きい」トレードになってしまいます。
回避策:エントリー前に、少なくとも1:2以上のリスクリワードが確保できるかを確認する。ダイヤモンドの高さと、直近のサポート・レジスタンス位置を見て、「狙える幅が足りない」と感じたら見送る。
ダイヤモンドフォーメーションを組み込んだシンプル戦略例
ここでは、一つの参考として、デイトレード〜スイングトレード向けのシンプルな戦略例を示します。あくまで考え方の例であり、そのまま使うのではなく、自分のスタイルに合わせて検証・調整することを前提にしてください。
戦略の前提
- 対象:流動性の高い株式指数先物、主要FX通貨ペア、主要暗号資産など
- 時間足:60分足(デイトレ〜数日保有向け)
- 方向:トレンド方向の転換を狙う
ルール例(天井圏ショート戦略)
- 直近数日〜数週間で明確な上昇トレンドが続いている銘柄・通貨ペアをスクリーニングする。
- 高値更新が急激に増え、値幅が拡大したあと、次第に高値が切り下がり、安値が切り上がるチャートを候補とする。
- 収束フェーズの高値と安値をラインで結び、ダイヤモンドの上限・下限を視覚化する。
- 終値ベースで下限ラインを明確に抜けた足の次の足でショートエントリーする。
- ストップロスは、ダイヤモンドの上限ラインの少し上に置く。
- 第一利食いターゲットは、ダイヤモンドの高さ分を下方向に投影した価格とし、そこでポジションの半分を利確する。
- 残り半分は、直近高値を基準にトレーリングストップを置き、トレンドが続く限り保有を続ける。
検証時に見るべきポイント
この戦略を過去チャートで検証する際は、単に「勝率」だけでなく、次のような視点も確認すると良いです。
- 負けトレードの多くは、どのフェーズでエントリーしているか(拡散中か、収束中か、ブレイク直後か)
- ダマシのブレイクで終わったケースの共通点(出来高が少ない、値幅が小さい、長期トレンドに逆らっている等)
- 時間帯・曜日・指標発表など、外部要因と組み合わせた傾向
自分のチャートに落とし込むための練習方法
パターン認識は、文章や図で理解しただけでは身につきません。自分の目でチャートを何十、何百と見て「どの程度の歪みなら許容するか」を体で覚えていく必要があります。
ステップ1:過去チャートでダイヤモンド候補をマーキングする
まずは、過去1〜2年分のチャート(株・FX・暗号資産など、自分が普段見る市場)を遡り、「拡散 → 収束 → ブレイク」の流れがある箇所を見つけて、実際に線を引いてみます。
このとき、完璧なダイヤモンドだけでなく、「少し歪んでいるけれど、構造としては似ている」パターンも含めてマーキングしておくと、自分なりの許容範囲が見えてきます。
ステップ2:各ケースの結果をメモする
マーキングしたそれぞれのケースについて、次のような項目を簡単にメモしておきます。
- 天井圏か、底値圏か
- ブレイク方向(上か下か)
- ブレイク後にどの程度値幅が出たか(ダイヤモンドの高さに対して何倍か)
- フェイクブレイクがあったかどうか
これを繰り返していくと、「どのようなダイヤモンドは信頼できるか」「どんな環境のときは機能しづらいか」が、感覚として掴めてきます。
ステップ3:少額でリアルトレードに試験導入する
過去チャートでのイメージが固まってきたら、次はごく少額でリアルなトレードに組み込んでみます。いきなりフルサイズで運用するのではなく、最初は「練習枠」として資金のごく一部だけを充てると、精神的な負担も抑えられます。
リアルトレードでは、チャートの右側が見えない状態で判断を下す必要があり、どうしても過去検証より難しく感じます。その分、ルールを紙に書き出し、毎回のトレード後に振り返りを行うことで、徐々に自信と精度を高めていくことができます。
まとめ:パターンそのものより「一貫した運用」が利益を左右する
ダイヤモンドフォーメーションは、トレンドの最後に現れやすい印象的なパターンです。拡散と収束という2つのフェーズを内包しているため、「相場参加者の迷いとエネルギーの蓄積」を視覚的に捉えやすいというメリットがあります。
しかし、どれだけ魅力的なパターンでも、それだけで安定して利益を積み上げられるわけではありません。重要なのは、次の3点です。
- パターンの条件を自分の言葉とルールで定義すること
- エントリー・利食い・損切りのルールと、1トレードあたりのリスク量を一定に保つこと
- 過去検証と少額運用を通じて、「自分が信じて続けられる形」に調整していくこと
ダイヤモンドフォーメーションをきっかけに、「チャートパターンをただ当てる」のではなく、「パターンを起点に一貫した戦略を組み立てる」という発想に切り替えることができれば、長期的なトレード成績は大きく変わっていきます。ぜひ、自分のチャート環境で過去のダイヤモンドを探し、自分なりの条件と戦略を作り上げてみてください。


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