相場を見ていると、「しばらく大きく動いていたのに、急におとなしくなった」と感じる局面があります。この「ボラティリティが急に縮んだ局面」こそ、次の大きな値動きの前触れであることが少なくありません。
本記事では、その典型例であるコイルパターン(Coil Pattern)をテーマに、株・FX・暗号資産などあらゆる相場で使えるブレイクアウト戦略を徹底的に解説します。チャート上で値動きがギュッと縮み、まるでバネが縮んだような形になることから「コイル」と呼ばれます。
コイルは、派手な形をした有名なチャートパターン(ヘッドアンドショルダーやダブルトップなど)に比べると地味ですが、リスクリワード比が取りやすく、初心者でも比較的扱いやすいパターンです。うまく使えば、「ダマシだらけのブレイクアウト」に振り回される回数を減らし、狙うべき場面だけに集中する助けになります。
コイルパターンとは何か
コイルパターンを一言で表すと、短い期間の中で、高値と安値のレンジが徐々に狭くなっていく状態です。ローソク足を眺めると、最初は大きな実体やヒゲが目立っていたのに、次第に「短いローソク足」ばかりが並ぶようになり、値動きが収縮していきます。
代表的な特徴は次の通りです。
- 直近のボラティリティ(値幅)がそれ以前より明らかに小さくなる
- 高値と安値のレンジが徐々に縮んでいき、「箱」のように見える
- 出来高が徐々に減少するケースが多い
- その後、どちらか一方に大きくブレイクし、強いトレンドが出ることが多い
教科書的な「三角持ち合い」「ペナント」とよく似ていますが、コイルは必ずしもトレンドの途中だけで発生するとは限りません。トレンドの途中にも、レンジ相場の中にも現れる「ボラティリティ収縮ゾーン」として捉えるとイメージしやすいです。
なぜコイルの後に大きな値動きが出やすいのか
コイルの本質は、エネルギーの蓄積です。相場参加者の心理を分解してみましょう。
たとえば、株価がしばらく上昇した後、急に動きが小さくなったとします。
- 利確したい人はすでに売り終わり、売り圧力が一巡している
- 新規で買いたい人も、さすがに高値圏と感じて様子見している
- 売りから入っている人は、含み損を抱えたまま動けなくなっている
この状態では、多くのトレーダーが「どちらかに抜けたら動こう」と待機しているため、ブレイクした瞬間に注文が一斉に流れ込みやすくなります。また、逆ポジションを抱えている参加者は損切りを余儀なくされるため、それもブレイク方向の燃料となります。
つまりコイルは、チャート上で「注文と損切りが溜まっているゾーン」を見つけるためのシンプルなツールと捉えることができます。
コイルパターンの具体的な形の見つけ方
コイルは厳密な定義よりも「相場の雰囲気」で捉えた方が実践的ですが、初心者のうちは次のようなルールを設けて目視するとよいでしょう。
ステップ1:直近10〜20本のローソク足に注目する
まず、5分足・15分足・1時間足など、自分がメインでトレードする時間軸を一つ決めます。その上で、直近10〜20本のローソク足に注目します。
コイルを探すときのポイントは、「その直前の相場と比べて明らかに静かになっているかどうか」です。同じ時間軸で、さらに1〜2倍の本数をさかのぼって比較し、
- 平均的な値幅が明らかに小さくなっているか
- 大きなヒゲや長い実体が減り、小さな足が増えているか
をチェックします。
ステップ2:高値と安値に「箱」を描く
コイルを視覚的に捉えるには、直近の高値と安値に水平線を引き、レンジボックスとしてイメージするのが有効です。
- 直近10〜20本の中で最も高い高値に水平線を引く
- 同じ期間の中で最も低い安値に水平線を引く
- その間の値動きが「箱」の中に収まっていて、徐々に値幅が縮んでいるかを確認する
この箱の上下どちらかに実体ベースで抜けたときが、コイルブレイクの候補ポイントになります。
ステップ3:ボラティリティ指標で補助確認する
目視だけでなく、ATR(Average True Range)やボリンジャーバンドの幅など、ボラティリティ系の指標を使うと、客観的にコイルを補足できます。
- ATRが直近の平均より明らかに低下している
- ボリンジャーバンドの幅が縮小し、「スクイーズ」状態になっている
特にボリンジャーバンドのスクイーズは、コイルと相性の良い概念です。バンドがキュッと縮んでいる+ローソク足の値幅も小さいという条件が揃えば、「コイルが形成されつつある」と判断できます。
コイルブレイクアウト戦略のエントリールール
ここからは、実際のトレード戦略として、コイルをどう扱うかを具体的に解説します。株式・FX・暗号資産のいずれにも応用可能な、シンプルなブレイクアウト手法です。
ルール1:コイルの「箱」を定義する
まず、先ほど説明した手順でコイルゾーンを見つけます。
- 直近10〜20本のローソク足の高値と安値を確認
- その高値を「ボックス上限」、安値を「ボックス下限」と定義
- バンド幅やATRが縮小していることを確認し、「ボラティリティ収縮」が起きているかをチェック
ルール2:ブレイク方向への順張りエントリー
コイルブレイクの基本は、順張りエントリーです。
- 上方向ブレイク:終値ベースで上限を明確に上抜けたら買いエントリー
- 下方向ブレイク:終値ベースで下限を明確に下抜けたら売り(ショート)エントリー
ここで重要なのは、「ヒゲだけの抜け」ではなく、終値ベースで抜けを確認することです。ヒゲだけの抜けはダマシになりやすく、「一瞬だけストップ狩りに来てすぐに戻る」というパターンが頻発します。
ルール3:ストップロスの置き方
コイル戦略の強みは、ストップロスを明確かつタイトに置きやすいことにあります。
- 上方向ブレイクの場合:ボックス下限の少し下にストップロス
- 下方向ブレイクの場合:ボックス上限の少し上にストップロス
このように「反対側の端」に損切りを置くことで、リスクはボックスの高さにほぼ限定されます。コイルの値幅が小さければ小さいほど、リスク金額も小さくなり、同じ資金量でもロットを増やしやすくなります。
具体例:FX 1時間足でのコイルブレイク
たとえば、ドル円の1時間足チャートで、直近15本(約半日〜1日分)の値幅が20pips前後に収まっているとします。それ以前の期間は平均40〜60pips動いていたとすると、明らかにボラティリティが半分以下に縮小している状態です。
- ボックス上限:145.20円
- ボックス下限:144.80円
- ATRも低下し、ボリンジャーバンドの幅も縮小
この状態で、1時間足の終値が145.25円で確定し、明確にボックス上限を上抜けたとします。このときの基本的な戦略は次の通りです。
- 買いエントリー:145.25円
- ストップロス:144.75円(ボックス下限より少し下)
- リスク幅:50pips
- 利確目標:リスクリワード2:1なら+100pips(146.25円あたり)
もしその後、一気に上昇して146.50円まで伸びれば、リスクリワード比3:1以上のトレードになります。逆に、ブレイク後すぐに失速し、再びボックス内に戻ってきた場合は、機械的にストップロスで撤退します。
RSI・MACDなどオシレーターとの組み合わせ
コイルはあくまで「値動きの収縮」を示すパターンです。ブレイク方向の優位性を少しでも高めるには、オシレーター系指標と組み合わせるのが有効です。
RSIダイバージェンスとの併用
たとえば、上昇トレンドの中でコイルが発生している局面を考えます。
- 価格は高値更新ペースが鈍り、コイル状態に入っている
- RSIは高値同士を結ぶとむしろ切り下がっている(弱気ダイバージェンス)
この場合、上方向ブレイクはダマシになりやすく、下方向へのブレイクの方が伸びやすいという仮説を立てることができます。実際に上抜けした場合でもロットを抑える、あるいは下抜けしたときにだけ積極的に攻める、といった戦術が取りやすくなります。
MACDのゼロライン近辺との組み合わせ
MACDがゼロライン近辺でコイルを形成している場合、そこからのブレイクが中期トレンドの方向性を決めることがよくあります。
- MACDがゼロライン付近で横ばい
- 価格もコイル状態で静か
- いずれMACDがゼロラインから上か下に抜ける
このとき、MACDがゼロラインを抜けた方向に価格も同時にブレイクしていれば、その方向のエッジは相対的に高いと考えられます。シンプルな「コイル+MACDゼロラインブレイク」戦略として活用できます。
コイルパターンの注意点とダマシの見抜き方
コイルは有効なパターンですが、もちろん万能ではありません。特に、トレンドがほとんど存在しない完全なレンジ相場では、ブレイクアウトが機能しにくく、ダマシが多発します。
注意点1:上位時間軸のトレンド方向を確認する
5分足や15分足など、短い時間軸だけを見てコイルを探していると、レンジ相場の騙しブレイクに何度も捕まりやすくなります。これを避けるためには、必ず一つ上の時間軸でトレンド方向を確認する習慣をつけてください。
- 5分足でコイルを探すなら、1時間足のトレンドを確認
- 1時間足でコイルを探すなら、4時間足や日足のトレンドを確認
上位時間軸で明確な上昇トレンドが出ているなら、コイルの上方向ブレイクを優先的に狙い、下方向ブレイクはロットを下げる、もしくは見送るといったフィルターをかけることで、勝率と期待値を引き上げられます。
注意点2:出来高(ボリューム)の確認
株式や暗号資産など、出来高データが利用できる市場では、ブレイク時の出来高の増加が非常に重要です。
- コイル中は出来高が減少傾向
- ブレイクした足で出来高が明らかに増加している
この条件が揃っていれば、そのブレイクは「本物」である可能性が高まります。逆に、出来高がほとんど増えていないブレイクはダマシになりやすく、早めに利食いまたは建値ストップに移行するなど、慎重な対応が必要です。
注意点3:ニュース・イベントの前後は避ける
コイルは「注文と損切りが溜まっているゾーン」ですが、重要指標発表や決算発表の直前直後では、テクニカルの優位性が一時的に崩れることがあります。スプレッドが急拡大したり、上下に乱高下してストップが連続で狩られるリスクが高いからです。
特にFXでは、雇用統計や政策金利発表などの前後は、コイルがきれいに見えていてもエントリーを控える、あるいはロットを大幅に落とす判断が重要になります。
コイルを使ったトレードルールの雛形
ここまでの内容を踏まえ、初心者でもそのまま検証に使えるような、シンプルなトレードルールの雛形を整理します。実際に運用する前に、必ず過去チャートでの検証やデモトレードを行ってください。
時間軸と市場
- 市場:FX(メジャー通貨ペア)、主要株価指数CFD、ビットコインなどボラティリティのある銘柄
- メイン時間軸:1時間足
- 上位時間軸:4時間足
エントリー条件
- 直近20本の1時間足でコイルを確認(値幅縮小+ボリンジャーバンドスクイーズ)
- 4時間足で明確なトレンド方向を確認(移動平均線の傾きなど)
- トレンド方向と同じ側にボックスを終値ベースでブレイクしたらエントリー
ストップロスと利確
- ストップロス:ボックス反対側の少し外側
- 第1利確目標:リスクリワード2:1のポイント
- 第1利確到達後、残りポジションのストップを建値に移動し、トレイリング
リスク管理ルール
- 1トレードあたりの損失許容額は口座残高の1〜2%以内
- 同じ方向のコイルブレイクに連続で負けたら、一旦その日のトレードを終了
- 重要指標発表の1時間前後は新規エントリーを避ける
このようなシンプルなルールでも、コイルの特性である「リスクが限定されていて、伸びるときは大きく伸びる」という性質を十分に活かすことができます。
コイルパターンの検証方法と改善のヒント
最後に、コイル戦略を自分のスタイルに合わせてチューニングするためのヒントを紹介します。いきなり実弾で使うのではなく、まずは過去チャートでの検証→デモトレード→少額リアルと段階を踏むことで、感情に振り回されにくい戦略を構築できます。
過去チャートでの目視検証
最初のステップとして、TradingViewなどのチャートツールで、過去1〜2年分のチャートを巻き戻しながら、
- コイルらしき値動きが出た箇所に印をつける
- その後のブレイク方向と値幅を記録する
- 上位時間軸のトレンド方向との整合性をチェックする
という作業を繰り返します。この段階では、勝ち負けよりも、どのようなコイルが伸びやすかったかを観察することが重要です。
シンプルなルールからEA化・ストラテジーテストへ
コイルの定義を数式化すれば、自動売買(EA)やストラテジーテスターでの検証も可能です。たとえば、
- 一定期間のボリンジャーバンド幅が、過去N期間の下位〇%に入ったら「コイル」とみなす
- そのレンジを上抜け・下抜けしたらエントリー
- リスクリワード2:1で利確、反対側をストップ
といったロジックであれば、比較的シンプルにコード化できます。最初は多少成績が荒くても構いません。勝ちやすい相場環境・時間帯・銘柄を抽出し、条件を絞り込んでいくことが、戦略の洗練につながります。
まとめ:コイルは「チャンスが凝縮された静かな時間」
コイルパターンは、派手な名前のチャートパターンに比べて知名度は高くありませんが、「静かな時間にこそ次の大きなチャンスが隠れている」という、相場の本質を端的に表す現象です。
ポイントを整理すると、次のようになります。
- コイルはボラティリティが縮小した「エネルギー蓄積ゾーン」
- ブレイクと同時に注文と損切りが一気に噴き出し、大きなトレンドが生まれやすい
- ストップロスをボックス反対側に置くことで、リスクを明確かつ限定的に管理できる
- 上位時間軸のトレンド・出来高・オシレーターとの組み合わせで、ダマシをある程度フィルタリングできる
- 目視検証とシンプルなルール化を経て、自分なりの「コイル専用ブレイクアウト戦略」を構築できる
相場は常にチャンスだらけに見えますが、実際にリスクとリターンのバランスが取れた「狙う価値のある場面」はそれほど多くありません。コイルパターンは、そうした限られたチャンスを選別するための、シンプルかつ強力なフィルターになり得ます。
まずは、自分が普段見ている時間軸と銘柄で、「どんなコイルがよく伸びているのか」「どんなコイルはダマシになりやすいのか」を、じっくり観察してみてください。それだけでも、チャートの見え方が一段階クリアになり、エントリーと見送りの判断が格段に洗練されていきます。


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