本記事では、短期トレーダーの間で密かに使われている「NR7（Narrow Range 7）」という値幅収縮パターンについて、株・FX・暗号資産に共通して使える形で徹底的に解説します。ローソク足が7本連続した中で最も値幅が狭くなったタイミングを捉え、その後のボラティリティ拡大を利用して利益を狙う戦略です。
NR7は一見マニアックな手法に見えますが、考え方は非常にシンプルです。「動く前の静けさ」を定量的に捉え、ブレイク方向にエントリーするだけです。その一方で、どの時間足で使うか、どのような相場環境で威力を発揮するか、どこに損切りを置くか、といった設計を誤ると期待値は簡単にマイナスになります。
ここでは、投資初心者でも理解できるように、まずNR7の定義から入り、その後にチャートパターンとしての特徴、具体的なエントリールール、利確・損切りの決め方、注意すべきダマシパターン、実際のトレードシナリオ事例まで順を追って解説します。
NR7パターンとは何か
NR（Narrow Range）の基本概念
NRとは「Narrow Range」、つまり値幅が狭いローソク足を意味します。一般的には、一定期間の中で最も値幅が小さい足を「NR」と呼びます。NR7は、その期間を7本（7バー）に固定したものです。
具体的な定義は次のとおりです。
- 直近7本のローソク足を対象とする。
- その7本の中で、当日の高値－安値（値幅）が最も狭い足を「NR7」と呼ぶ。
- NR7が完成した翌足以降で、値幅が拡大する動きを狙ってトレードする。
重要なのは「7本の中で最も狭い」という相対的な比較である点です。絶対的な値幅の広さではなく、直近のボラティリティの中でどれだけ収縮しているかを見ています。
なぜNR7に意味があるのか
相場は「拡大と収縮」を繰り返します。値幅が広い期間が続いた後、いずれエネルギーが消耗し、値動きが小さくなります。一方で、値動きが小さい期間が続いた後には、再び大きな値動きが発生することがよくあります。NR7は、この「収縮から拡大への転換点」を捉えようとするアイデアです。
特に、トレンドの途中でNR7が現れた場合、そのトレンド方向へ再加速する「続伸・続落」の起点になりやすいとされています。また、レンジ相場の端でNR7が出た場合、その後のレンジブレイクに繋がることも少なくありません。
NR7の基本的な見つけ方
チャート上での視覚的な確認方法
最も単純な方法は、直近7本のローソク足を目視で確認し、それぞれの高値と安値の差を見比べる方法です。チャートソフトによっては、値幅を数値表示してくれるものもあるため、それらを利用すると判別が容易になります。
MT4・MT5やTradingViewでは、NR7を自動で検出するインジケーターやスクリプトが公開されていることもあります。プログラムで自動検出することで、複数銘柄や複数時間足を一括でスクリーニングすることも可能です。
どの時間足で使うべきか
NR7は時間足を問わず利用できますが、目的によって適した時間足が異なります。
- 5分足・15分足：デイトレードやスキャルピング向け。取引回数は多くなるが、スプレッドや手数料の影響が相対的に大きくなる。
- 1時間足・4時間足：デイトレ～スイングトレード向け。ノイズとチャンスのバランスが良く、多くのトレーダーが注目しやすい。
- 日足：スイング～中期トレード向け。シグナルの頻度は減るが、一回の値動きが大きくなりやすい。
初心者は、まず日足もしくは4時間足でNR7を探すところから始めるとよいです。値動きのノイズが比較的少なく、損切り・利確幅もある程度確保できます。
NR7ブレイクアウト戦略の基本設計
エントリールールの基本形
NR7を用いた最もシンプルな戦略は「NR7翌日の高値・安値ブレイクでエントリーする」というものです。日足を例に取ると、以下のようになります。
- NR7が出現した日の高値を「買いトリガー」、安値を「売りトリガー」とする。
- 翌日以降、終値ベースではなく、値動きの途中でトリガーを超えたらエントリーする。
- 買いと売りの両方向に注文を準備しておき、どちらか一方が先に約定したらもう一方はキャンセルする（OCO的な考え方）。
この基本形だけでも、トレンド相場やレンジブレイク局面ではそれなりに機能します。ただし、方向フィルターやボラティリティフィルターを加えることで期待値を改善できる余地があります。
トレンドフィルターを加える
NR7単体では方向性の優位性が弱いことがあります。そのため、多くのトレーダーは移動平均線などを用いてトレンドフィルターを加えます。
- 価格が中長期の移動平均線（例：20期間・50期間）の上にある場合は買い方向を優先する。
- 価格が移動平均線の下にある場合は売り方向を優先する。
- 買い優先のときは、NR7高値ブレイクをメインシグナルとし、安値ブレイクは見送る、もしくはロットを大きく落とす。
こうすることで、トレンドの流れに沿ったブレイクアウトを狙いやすくなり、逆行の騙しブレイクに巻き込まれる機会を減らすことができます。
ボラティリティフィルターを加える
NR7は「直近7本の中で最も狭い足」を捉えていますが、その前後のボラティリティ水準が極端に低い場合、そもそも「収縮から拡大」にならないリスクがあります。そこで、ATR（Average True Range）などのボラティリティ指標を併用し、一定以上のボラティリティがある銘柄・時間帯だけを対象にするフィルターが有効です。
例えば、「14期間ATRが一定値以上の銘柄のみスクリーニングする」「ボラティリティが極端に低い通貨ペアはそもそも対象外とする」といったルールを設けることで、サインの質を高めることができます。
具体的なトレードシナリオ例
例1：FXドル円4時間足でのNR7ブレイクアウト
想定シナリオとして、ドル円の4時間足チャートで上昇トレンドが続いているとします。20期間移動平均線の上で推移しており、押し目をつけながら高値更新を繰り返している状況です。
あるタイミングで、連続した4時間足7本の中で最も値幅が狭い足（NR7）が出現し、そのローソク足は小さな陽線またはコマ足になっています。これは、直近の上昇が一服し、参加者が様子見になっている局面と解釈できます。
- NR7の高値：150.80円
- NR7の安値：150.40円
- 20期間移動平均線は150.30円付近で上向き
このケースでは、トレンド方向である上方向のブレイクを優先します。
- 買いエントリー条件：次の足以降で150.80円を上抜けたら成行もしくは指値で買い。
- 損切り：NR7安値の少し下、150.30円〜150.35円付近に設定。
- 利確目安：直近の値幅（例：直近の押し目からの上昇幅）やATRの1～2倍を目安に設定。
仮にエントリー後、ドル円が151.80円まで上昇した場合、1円の値幅が取れます。ロット管理が適切であれば、リスクリワード1：2以上も十分に狙えるシナリオです。
例2：日本株の日足でのNR7とギャップアップ
今度は、日本株の個別銘柄Aを想定します。日足チャートでしばらく横ばいレンジが続き、出来高も徐々に減少してきました。その中で、ある1日が直近7営業日で最も値幅が狭いNR7となり、終値はやや上寄りで引けました。
翌朝、好材料のニュースが出て寄り付きがギャップアップし、NR7高値を明確に上抜けてスタートしたとします。この場合、NR7ブレイクアウトとギャップアップが重なる形になり、短期的な買い圧力が集中しやすい状況です。
- エントリー：寄り付き直後に成行で買い、もしくはNR7高値＋αに逆指値買いを置いておく。
- 損切り：ギャップの窓を埋めるかどうかを基準に、窓の下限割れでカットする戦略も有効。
- 利確：直近高値や心理的節目価格（ラウンドナンバー）で部分利確し、残りはトレーリングストップで追う。
このように、NR7は単独でも使えますが、ギャップアップ・出来高急増・重要な抵抗線突破などの要素と組み合わせることで、期待値の高いセットアップを作ることができます。
損切りとポジションサイズ設計
損切り位置の基本原則
NR7戦略では、「収縮した値幅の外側」に損切りを置くのが基本です。具体的には、買いならNR7安値の少し下、売りならNR7高値の少し上です。これは、「値幅が再度拡大したが、自分の想定と逆方向に動いた」と判断するポイントでもあります。
損切りを狭くしすぎると、ちょっとしたノイズで刈られやすくなります。一方で、広くしすぎると1回あたりの損失額が大きくなり、資金管理上のリスクが高まります。NR7の実際の値幅と、自分の許容リスク（金額ベース）の両方を勘案して、ポジションサイズを調整する必要があります。
リスクリワードと勝率のバランス
NR7ブレイクアウト戦略は、勝率が常に高いわけではありません。特にレンジ相場の中でブレイクが続かない場合、1：1程度のリスクリワードでコツコツ負けが続くこともあります。そのため、最低でもリスクリワード1：1.5〜1：2程度を目安に設計し、勝率が多少低くてもトータルでプラスになるような構造を意識することが重要です。
例えば、勝率40％でもリスクリワード1：2を維持できれば、期待値はプラスになります。NR7は「たまに大きく動く局面」を取りに行く戦略なので、小さな利益で早々に手仕舞いしてしまうと、本来取れるはずだった値幅を取り逃がしてしまうリスクがあります。
よくある失敗パターンと対策
失敗1：明確なトレンドがないレンジ中央でのエントリー
レンジ相場のど真ん中で出たNR7は、その後どちらにブレイクしてもすぐに反転しやすく、だましシグナルになりやすいです。特に、上位時間足で明確なトレンドが出ていない場合や、長期レンジの中ほどで発生したNR7は、シグナルの信頼性が低下します。
対策としては、以下のような条件を加えると良いでしょう。
- 上位時間足で明確なトレンドが出ている銘柄だけを対象にする。
- レンジの中央ではなく、レンジ上限・下限付近で出るNR7だけを対象とする。
- サポート・レジスタンスラインやトレンドラインと組み合わせて判断する。
失敗2：重要指標発表前後のNR7に飛び乗る
経済指標や決算発表など、大きなニュースイベントの直前は値動きが一時的に小さくなり、結果としてNR7が出やすくなります。しかし、その後の値動きはギャンブル的になりやすく、事前のテクニカル分析が機能しないこともあります。
イベント前の静けさをNR7と誤認して安易にポジションを取ると、スプレッド拡大や急激な乱高下に巻き込まれるリスクがあります。重要イベントのスケジュールを把握し、その前後のNR7は「様子見」とするルールを作っておくことが有効です。
失敗3：ポジションサイズが大きすぎる
NR7は損切り幅が比較的狭いことが多いため、ついロットサイズを大きく取りがちです。しかし、連敗が続くと想像以上のスピードで資金が減ってしまいます。特にレバレッジの高いFXや暗号資産では、資金管理の甘さが致命傷になりかねません。
1回のトレードで失ってよい金額を、口座残高の1〜2％程度に抑えるなど、明確なルールを事前に決めておくことが重要です。NR7は「多くのチャンスがある」戦略でもあるため、1回に無理をする必要はありません。
NR7を他のパターンやインジケーターと組み合わせる
ローソク足パターンとの組み合わせ
NR7は値幅の情報に基づくパターンです。一方で、ローソク足の形状そのもの（ピンバー、包み足、はらみ足など）も相場参加者の心理を反映しています。これらを組み合わせることで、シグナルの質をさらに高めることができます。
- トレンド中の押し目でNR7かつピンバー（下ヒゲの長いローソク足）が出現 → 押し目完了からの再上昇シナリオ。
- レジスタンス付近でNR7かつ包み陰線が出現 → 上昇一服からの反落シナリオ。
- レンジ上限でNR7かつスパイクハイ → レンジ上抜け失敗からの逆行狙い。
オシレーターとの組み合わせ
RSIやストキャスティクスなどのオシレーター系指標と組み合わせることで、NR7ブレイクの方向性を判断しやすくなります。
- RSIが上昇トレンド中の強気ゾーン（40〜60以上）にあり、NR7高値ブレイク → 上方向ブレイクを優先。
- RSIが過熱気味（70以上）で、NR7が高値圏に出現 → 上昇の最後の伸びになる可能性も意識し、利確を早める判断材料に。
- RSIダイバージェンス（価格は高値更新だがRSIは高値切り下げ）＋高値圏NR7 → 上方向ブレイクの信頼性低下として警戒。
オシレーターは「行き過ぎ」を測る道具であり、NR7は「静けさ」を測る道具です。この二つを組み合わせることで、「静けさからの再加速」なのか、「静けさからの反転」なのかをより精緻に判断できます。
自分のスタイルに合わせたカスタマイズ
Nの期間を変えてみる（NR4・NR10など）
NR7は伝統的に使われる設定ですが、必ずしも7本でなければならないわけではありません。短期トレーダーであればNR4（4本の中で最も狭い足）を使うケースもありますし、中期トレーダーであればNR10やNR14など、より長い期間を対象にすることも考えられます。
重要なのは、「自分が取引する時間軸」と「相場のボラティリティ特性」に合ったNを選ぶことです。過去チャートを振り返り、複数のNを比較して、自分の対象銘柄に最もフィットする設定を検証することが有効です。
エントリーのタイミングを工夫する
単純な高値・安値ブレイクでは、ノイズ的な抜けで逆行するケースも多くなります。そこで、以下のような工夫も考えられます。
- 終値ベースでトリガーを超えたことを確認してからエントリーする。
- ブレイク後に一度軽く押し戻された「押し目」を待ってから入る。
- より上位時間足のトレンド方向にのみエントリーする。
エントリーを厳選することで回数は減りますが、1回あたりの期待値を高めることができます。
まとめ：NR7は「静けさの後の一歩目」を狙う武器
NR7パターンは、直近7本の中で最も値幅が狭いローソク足に注目し、その後のボラティリティ拡大を狙うシンプルな戦略です。株、FX、暗号資産など市場を問わず適用でき、ローソク足と移動平均線、オシレーターなど基本的なツールだけで構築できます。
一方で、どの時間足で使うか、どの相場環境を狙うか、損切りとポジションサイズをどう設計するかによって、結果は大きく変わります。レンジ中央や重要イベント前後で安易にエントリーすることは避け、トレンド方向やサポート・レジスタンス、出来高などと組み合わせて「質の高いNR7」を選ぶことが大切です。
最終的には、過去チャートでの検証と少額での試験運用を通じて、自分の性格・生活リズム・取引スタイルにフィットしたNR7戦略を作り上げていくことが重要です。NR7は「魔法のパターン」ではありませんが、適切に使いこなせば、静かな相場から次の大きな一歩を狙うための有効な武器となります。
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