この記事では、日本の個人投資家にはあまり馴染みがないものの、海外トレーダーの一部で根強い人気があるローソク足パターン「三手放れ」を、株・FX・暗号資産に応用できる形で徹底的に解説します。単なる形の説明に終わらず、「どのような相場環境で」「どこでエントリーし」「どこで逃げるか」という実際のトレードに直結する視点で整理していきます。
三手放れとは何か:連続したローソク足が示す意味
三手放れは、おおまかに言うと「同じ方向に強い値動きが連続して発生した状態」を示すローソク足パターンです。名前の通り、3本連続のローソク足で構成され、買い方向に勢いがついたものを上放れ三手、売り方向に勢いがついたものを下放れ三手と呼びます。
一般的な定義を整理すると、次のようになります。
- 3本連続で陽線が出現し、かつ始値または終値が前日より明確に上に離れている → 上放れ三手(上放れ三手大陽線など)
- 3本連続で陰線が出現し、かつ始値または終値が前日より明確に下に離れている → 下放れ三手
ここで重要なのは、「単に3本連続の陽線・陰線」というだけではなく、ローソク足同士の間に“空間(ギャップ)”や明確な値幅の進行があることです。つまり、参加者のポジションが一方向に傾き、売り方または買い方が一気に踏まされている状態を示唆します。
なぜ三手放れは注目されるのか:トレンドの加速と行き過ぎ
三手放れが注目される理由はシンプルで、トレンドの加速局面を捉えやすいからです。買い方向の三手放れが出ているときは、多くの場合、トレンドフォロー勢の新規買いと、ショート勢の損切り買い戻しが同時に起こっています。売り方向も同様で、新規売りとロング勢の損切り売りが重なりやすい局面です。
一方で、行き過ぎた三手放れは、短期的な天井・底打ちの前兆になることもあります。特に、出来高を伴った急騰・急落の後、長い上ヒゲや下ヒゲをつけて反転するパターンが続くと、相場の熱狂がピークを打った可能性が高まります。
したがって、三手放れは次の2つの観点から活用できます。
- トレンド方向への順張り継続シグナルとして使う
- 行き過ぎを警戒し、利益確定やポジション縮小のサインとして使う
どの市場・時間軸で使えるか:株・FX・暗号資産の違い
三手放れはローソク足パターンなので、基本的には価格があればどの市場でも使えます。ただし、市場特性と時間軸によって「機能しやすさ」が変わります。
株式市場(日足・4時間足との相性)
株式は取引時間が限定されており、寄り付きギャップが発生しやすい市場です。そのため、日足ベースでは三手放れが比較的見つけやすく、特に「窓開け」を伴うような強いトレンドの加速局面で有効です。個別株では決算や材料で急騰・急落し、その後三手放れが続くパターンが典型例です。
FX市場(24時間市場での見方)
FXは基本的に24時間市場でギャップが少ないため、厳密な意味での「窓開け三手」は少ないです。しかし、ローソク足同士の重なりが少なく、実体が連続して進行している三手放れ的な動きはしばしば観測されます。時間軸としては、1時間足・4時間足・日足あたりがバランスが良く、スキャルピングレベルの超短期足ではノイズが多くなります。
暗号資産市場(ボラティリティの高さを活かす)
暗号資産は24時間365日取引され、ボラティリティが高いため、三手放れのような「片側に走る値動き」が頻発します。ただし、ダマシも非常に多い市場なので、出来高や高安更新の有無と組み合わせることが重要です。特にビットコインや主要アルトコインでは、レバレッジ取引のポジション偏りが解消される局面で、大きな三手放れが現れやすい傾向があります。
チャート上で三手放れを見つける具体的な手順
次に、実際にチャート上で三手放れを探す際のチェックポイントを整理します。
- まず、中期的なトレンドを確認する(移動平均線や高値・安値の切り上げ・切り下げ)
- トレンド方向に3本連続の陽線または陰線が出ているか確認する
- 3本のローソク足の実体が、同じ方向へ「階段状」に進行しているかを見る
- できれば、2本目・3本目の始値が前日終値からやや離れており、ローソク足同士が密集していないことを確認する
- 出来高が徐々に増加しているか、または3本目で明確に増えているかを確認する
このとき、「なんとなく強そうだから三手放れとみなす」のではなく、ルールを自分で定義して、一貫して同じ条件で認識することが重要です。検証を行う際にも、条件が曖昧だと結果が再現できなくなってしまいます。
順張りで使う三手放れエントリー戦略
三手放れを順張りで使う、シンプルなエントリー戦略の例を示します。ここでは、上昇トレンドの上放れ三手を前提に考えます。
戦略の基本アイデア
上昇トレンド中に上放れ三手が出現した場合、「買い方優勢がさらに強まった」と解釈し、押し目またはブレイクでエントリーする戦略です。具体的には、以下のような流れを想定します。
- 移動平均線(例:20SMA)が右肩上がりで、価格がその上に位置している
- 直近で高値・安値が切り上がっている上昇トレンドである
- その中で、3本連続の陽線(上放れ三手)が出現
- 4本目の足で、三手放れの高値を上にブレイクしたタイミングでエントリー
具体的なエントリー条件例
株式の日足チャートを想定した、具体的な条件例は次の通りです。
- 20日移動平均線が上向きで、終値が20日線より上にある
- 直近10〜20本のローソク足で、高値・安値が切り上がる上昇トレンド
- 直近3本のローソク足がすべて陽線で、各終値が前日終値より上
- 3本目の陽線の実体が、1本目と比べてやや大きく、勢いが増している
- 4本目の足で、三手放れ3本の高値を終値で上に抜けたらエントリー
このように条件を定義しておけば、過去チャートを使った検証や、自動スクリーニングも行いやすくなります。
利確と損切りの設計:どこで逃げるかを先に決める
どんな優れたチャートパターンでも、利確と損切りを事前に決めていなければ、安定した結果につながりにくくなります。三手放れ戦略でも、エントリー前に「どこで利益を確定するか」「どこで間違いを認めるか」を決めておくことが重要です。
損切りの考え方
上放れ三手での買いエントリーの場合、代表的な損切りラインは次のようになります。
- 三手放れの1本目の安値割れで損切り
- 三手放れ3本の中で最も安い安値割れで損切り
- 20日移動平均線割れを損切りラインとする
初心者ほど、「とりあえず適当に下にストップ」としてしまいがちですが、チャート上の意味のある線(直近安値、移動平均線など)に紐付けることで、一貫したルールとして管理しやすくなります。
利確の考え方
利確については、次のような方法が考えられます。
- リスクリワード比(1:2、1:3など)で機械的に決める
- 直近のレジスタンス(過去高値・ラウンドナンバー)付近に差し値を置く
- トレーリングストップで伸びる限り保有し、直近安値割れで手仕舞い
三手放れは「勢い」に乗るパターンなので、一部を早めに利確し、残りをトレーリングで伸ばすといった組み合わせも有効です。
ダマシを減らすためのフィルター条件
三手放れは強いトレンド局面で威力を発揮しますが、レンジ相場やニュースに過剰反応しただけのノイズ局面ではダマシが増えます。そこで、次のようなフィルターを追加することで、質の低いシグナルをある程度排除できます。
- 中期トレンドがはっきりしている銘柄・通貨ペアに絞る
- 出来高が増加している三手放れだけを対象にする
- ボラティリティ指標(ATRなど)が一定以上のときだけトレードする
- 重要な経済指標発表の前後はトレードを控える
特にFXや暗号資産では、経済指標やイベントで急激な値動きが出た直後の三手放れはダマシになりやすいので、スケジュールを事前に確認する習慣をつけておくとリスクを抑えられます。
株・FX・暗号資産でのケーススタディ
ここからは、それぞれの市場で三手放れをどう使うかのイメージをつかむため、典型的なケースを文章ベースで紹介します。
株式:決算発表後の上放れ三手
ある成長株が好決算を発表し、翌日に大きなギャップアップでスタートしました。1日目は大陽線、2日目も押し目をほとんど作らない陽線、3日目も買い優勢で引けにかけて高値更新。この3日間が、典型的な上放れ三手です。
トレーダーAは、「三手放れを確認した上で、3日目の高値ブレイクでエントリー」というルールに基づき、4日目に高値を更新したタイミングで買いを入れました。損切りは三手放れ1本目の安値割れ、利確は過去の高値水準を参考に設定。結果として、短期のトレンド継続に乗ることができました。
FX:東京時間からロンドン時間にかけての下放れ三手
ドル円の1時間足チャートで、東京時間後半からロンドン時間序盤にかけて売りが強まり、1時間足で3本連続の陰線が出現しました。各ローソク足の終値は前の足よりも低く、下放れ三手の条件を満たしています。
トレーダーBは、4本目の足で三手放れの安値を下抜けたタイミングでショートエントリー。損切りは三手放れの中で最も高い高値の少し上に設定し、利確は直近のサポートゾーンに置きました。ロンドン時間で流動性が高まり、下方向のトレンド加速に乗れたことで、リスクリワード比の良いトレードとなりました。
暗号資産:レバレッジポジション解消によるパラボリックな三手放れ
ビットコインの4時間足チャートで、ショートポジションの偏りが大きくなっていたところへ上方向へのブレイクが入り、一気にショートカバーが発生しました。その結果、4時間足ベースで大きな陽線が3本連続し、出来高も急増する上放れ三手が出現しました。
トレーダーCは、「日足レベルでのレジスタンスブレイク+4時間足の上放れ三手」という条件を重視し、4本目の足で追加の高値ブレイクが出たところでエントリー。ボラティリティが高いため、ポジションサイズを抑えつつ、損切りと利確を価格ではなくパーセンテージベースで設定することでリスクを管理しました。
三手放れをルール化するシンプルな売買例
実際に検証しやすいよう、考え方レベルのシンプルなルール例を文章でまとめます。これはあくまで学習のためのアイデアであり、運用前には必ずご自身で検証を行う必要があります。
- 対象:日足チャートの個別株
- トレンドフィルター:20日移動平均線が上向きで、終値が20日線より上
- パターン条件:直近3本のローソク足が陽線で、各終値が前日終値より上
- エントリー:4本目の足で、三手放れ3本の高値を上抜けたときに成行で買い
- 損切り:三手放れ1本目の安値割れ
- 利確:リスクリワード1:2以上になる位置、または直近のレジスタンス水準
このようなルールをベースに、銘柄数・期間・市場を変えながら検証することで、自分のスタイルに合った条件に微調整していくことができます。
ポジションサイズとリスク管理のポイント
三手放れは「一方向に走る相場」に乗る戦略であるため、うまくいったときの利益が大きい一方で、行き過ぎの最終局面でつかんでしまうリスクもあります。そのため、1回のトレードで許容する損失額を、事前に資金の一定割合以内(例:口座残高の1〜2%)に抑えることが重要です。
損切り幅が大きくなる局面では、自然とポジションサイズを小さくする必要があります。これにより、「大きなトレンドを取りにいくが、外れたときのダメージは限定する」というバランスを保つことができます。
検証と改善:三手放れ戦略を自分のものにする
どんなチャートパターンも、検証を通じて自分の感覚に落とし込む作業が欠かせません。三手放れ戦略についても、次のようなステップで検証し、改善していくと良いでしょう。
- 過去チャートで三手放れの発生箇所を手作業でマーキングする
- その後の値動きを確認し、「どの条件の三手放れが機能しているか」を分類する
- 機能しているパターンだけに絞り、フィルター条件を追加・調整する
- 一定期間、デモ口座または少額でリアルトレードを行い、感覚を掴む
このプロセスを通じて、「どの銘柄・どの時間軸・どの相場環境で三手放れが活きるのか」が、自分の中で明確になっていきます。
ありがちな失敗パターンとチェックリスト
最後に、三手放れを使う際にありがちな失敗パターンと、その予防のためのチェックリストをまとめます。
- すでに長期上昇トレンドが続いた後の、最後の吹き上げで飛びついてしまう
- レンジ相場の中で無理に三手放れを探し、ダマシに何度も引っかかる
- 経済指標やイベントの直後に出た三手放れを、その背景を考えずに追いかける
- 損切りラインを後から広げてしまい、想定以上の損失を抱える
トレード前に、次のポイントを確認しておくと、これらの失敗を減らすことができます。
- 中期トレンドは明確か?(高値・安値の切り上げ/切り下げ)
- 出来高やボラティリティに不自然な違和感はないか?
- 重要な指標発表やイベント前後ではないか?
- 損切りと利確の価格・ロットは事前に決まっているか?
まとめ:三手放れを“型”として身につける
三手放れは、単に「3本連続の陽線・陰線」として眺めるだけでは、あまり意味のあるシグナルになりません。しかし、トレンドの向き・出来高・ボラティリティ・相場環境と組み合わせて捉えることで、「一方向に走り出した相場に、ルールを持って乗るための型」として活用できます。
大切なのは、チャートパターンそのものよりも、それをどうルール化し、どうリスク管理とセットで運用するかです。この記事を参考に、ご自身の取引スタイルや資金量に合わせて三手放れ戦略をカスタマイズし、検証を通じて「自分なりの勝ちパターン」として育てていってください。


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