本記事では、チャート上で価格がぎゅっと収縮し、エネルギーを蓄積している状態を示す「コイル」パターンについて詳しく解説します。コイルは、トレンドの途中やレンジ相場の終盤でよく現れるパターンであり、その後に起こるブレイクアウトを捉えることで、大きな値幅を狙いやすいのが特徴です。
株、FX、暗号資産(仮想通貨)など、どの市場でもコイルは頻出しますが、形を正しく認識できている個人投資家は意外と多くありません。本記事では、投資初心者の方でも理解できるように、コイルの見つけ方から、具体的なエントリー・利確・損切りの考え方、実際のチャートに近いイメージ例、注意点までを網羅的に解説していきます。
コイルとは何か:価格が「巻き込まれる」ように収縮するパターン
コイル(coil)とは、日本語で直訳すると「巻きバネ」「コイル状のもの」を意味します。チャート上では、ローソク足の高値と安値の振れ幅が徐々に小さくなり、価格が一本のバネのようにギュッと縮んでいくように見える状態を指します。
典型的には、次のような特徴があります。
- ローソク足の実体とヒゲのレンジが、時間の経過とともに狭くなっていく
- 高値は少しずつ切り下がり、安値は少しずつ切り上がることが多い(もしくはどちらか一方が強く意識される)
- 出来高は徐々に減少し、マーケット参加者が「様子見」している状態になりやすい
このようなコイル状態は、市場が次の方向性を決めかねている「充電期間」です。どちらかに大きく放たれた瞬間、溜め込まれていたエネルギーが一気に解放され、強いトレンドが発生しやすくなります。この「解放の瞬間」が、ブレイクアウト局面です。
なぜコイルが有効なトレードパターンになりやすいのか
コイルがトレード戦略として有効になりやすい理由は、主に次の3つです。
1. 損切り幅を比較的タイトに設定しやすい
価格レンジが狭くなっているため、コイルの安値(もしくは高値)を明確な「無効ライン」として扱いやすくなります。ブレイクアウト方向とは逆に動いてしまった場合、このラインを抜けたところで素早く損切りすることで、リスクを限定しやすいです。
2. レンジに対してブレイク後の値幅が大きくなりやすい
コイル発生中は市場参加者がポジションを積み上げ切れず、どちらにも大きく傾いていないことが多いです。そのため、ブレイクアウトが起きたタイミングで新規勢とロスカット勢の注文が一気に重なり、「小さいレンジ」から「大きなトレンド」へと値動きが拡大しやすくなります。
3. 明確な「待ちポイント」としてルール化しやすい
コイルをトレードルールとして組み込むと、「コイルが出るまではエントリーしない」「コイルのブレイクだけを狙う」といったシンプルなフィルターとして運用できます。むやみにマーケットに参加せず、チャンスが来るまで待つことで、無駄なトレードを減らす効果も期待できます。
コイルの具体的な見つけ方:チャートで何を確認するか
ここからは、実際にチャートを前にしてコイルを探す手順を整理します。TradingViewなどのチャートツールをイメージしながら読み進めてください。
ステップ1:トレンドの前提を確認する
コイルは、すでに形成されつつあるトレンドの途中に出ることもあれば、レンジ相場の終盤に出ることもあります。まずは、日足や4時間足など、上位足チャートを確認し、現時点の相場環境をざっくりと把握します。
- 明確な上昇トレンドか、下降トレンドか
- 大きなレンジなのか、直近で急騰・急落があったのか
- 重要なサポート・レジスタンス付近かどうか
上位足でトレンド方向がはっきりしている場合、その方向にブレイクしたコイルはトレンドフォローのエントリーポイントとして有力になります。一方、大きなレンジのど真ん中で出たコイルは、だましブレイクのリスクが高くなります。
ステップ2:値幅の収縮を視覚的に捉える
次に、エントリーを検討したい時間足(例えばFXなら1時間足や15分足、株なら日足など)に切り替え、ローソク足の高値と安値の幅が徐々に狭くなっている箇所を探します。
シンプルな目安としては、「直近5〜10本程度のローソク足の高値と安値を線で結んだとき、先細りの形になっているか」を確認します。上側の高値ラインが少しずつ切り下がり、下側の安値ラインが少しずつ切り上がると、目で見て「コイルしている」印象を持てるはずです。
ステップ3:出来高やボラティリティ指標で裏付けを取る
視覚的な判断に加え、出来高やボラティリティ指標(ATRなど)を確認するのも有効です。一般的に、コイルが形成されている局面では、出来高やATRがそれまでの期間よりも低下していることが多くなります。
- 出来高バーが徐々に低下しているか
- ATR(14などの期間設定)が下がり続けているか
これらは必須条件ではありませんが、「価格レンジの収縮」と「市場参加者の様子見」がセットで起きているかどうかの確認として役立ちます。
コイルブレイクを使った具体的なトレード戦略
ここからは、実際にコイルブレイクをどのようにトレードに落とし込むかを、具体的なルール例で解説します。ここで紹介するのはあくまで一例であり、実際に運用する際はご自身のリスク許容度や取引スタイルに合わせて微調整してください。
戦略1:上位足トレンド方向へのコイルブレイクを狙う
最もシンプルで再現性を高めやすいのは、「上位足トレンドフォロー+コイルブレイク」の組み合わせです。例えばFXの上昇トレンド相場であれば、4時間足で上昇トレンドを確認し、1時間足で上方向へのコイルブレイクを狙う、といった形です。
ルール例:
- 4時間足で、価格が200EMAなどの長期移動平均線より上に位置し、高値・安値ともに切り上げていることを確認
- 1時間足で、5〜20本程度のローソク足が先細りするコイルパターンを形成していることを確認
- コイル上限の高値を、終値ベースで明確にブレイクしたローソク足が確定したらロングエントリー
- 損切りは、コイル下限の安値を少し下回る水準に設定
- 利確候補として、直近の高値や上位足チャートのレジスタンス、もしくはリスクリワード1:2以上の水準を目安にする
このように、上位足トレンドを味方につけることで、だましブレイクに引っかかる確率をある程度下げることができます。
戦略2:レンジ上限・下限での「コイル+ブレイク」
価格が長期間レンジを形成している場面では、レンジ上限や下限付近でコイルが出現することがあります。このケースでは、レンジブレイクの起点としてコイルが機能しやすく、一気にトレンド転換やトレンド再加速につながる可能性があります。
ルール例:
- 日足で、明確なレンジ相場(高値と安値がほぼ横ばい)を確認
- レンジ上限または下限付近で、4時間足や1時間足にコイルが出現しているかを確認
- レンジ上限+コイル上抜けでロング、レンジ下限+コイル下抜けでショートを検討
- 損切りは、レンジ内側に素早く戻ってきた場合に行う(「レンジブレイク失敗」を明確なシグナルとして扱う)
この戦略では、「レンジ上限・下限」という強いチャートポイントと、「エネルギー蓄積」というコイルの特徴が重なる局面を狙うため、値幅を取りやすい反面、レンジ継続で戻されるリスクもあります。ポジションサイズの管理が特に重要になります。
戦略3:短期足でのコイルを使ったスキャルピング・デイトレ
FXや暗号資産のように24時間取引できる市場では、5分足や1分足レベルでもコイルが頻繁に出現します。こうした短期足コイルを使ったスキャルピング戦略では、1回あたりの値幅は小さくなりますが、チャンスの回数を確保しやすいのが特徴です。
例として、ビットコインの5分足でのコイルブレイク戦略を考えてみます。
- 1時間足でおおまかなトレンド方向を確認(上昇基調ならロング目線、下降基調ならショート目線を優先)
- 5分足で、価格レンジが徐々に収縮している箇所(コイル)を探す
- コイル上限・下限にそれぞれアラートラインを引き、ブレイクを待つ
- 上限ブレイクでロング、下限ブレイクでショートを検討し、損切りはコイル反対側の少し外に設定
- 利確はリスクリワード1:1.5〜2倍程度を基本とし、トレイリングストップで伸ばすオプションも検討
短期足ではだましブレイクも多くなるため、連敗した場合のルール(例:3連敗したらその日は終了)を決めておくことも大切です。
具体例:ドル円の上昇トレンド中に出現したコイル
ここでは、イメージしやすいように、ドル円の上昇トレンド中に出現したコイルを想定したケーススタディを示します。
前提:
- 日足でドル円は長期の上昇トレンドを継続中
- 4時間足でも、高値・安値を切り上げながら上昇チャネル内で推移
- その中で、1時間足において上昇一服後、5〜8本ほどでレンジ幅が徐々に狭まるコイルを形成
このときのトレードシナリオは次のようになります。
- コイル上限:例えば155.80円付近、コイル下限:155.30円付近
- 1時間足で155.80円の上にしっかりと終値が乗ったタイミングでロングエントリーを検討
- 損切りは155.30円の少し下(例:155.20円)に設定し、リスク幅は約60pipsとする
- 利確目標は、上位足のチャネル上限付近や直近の高値(例:156.80円〜157.00円)を参考に設定
このシナリオでは、リスクリワード比を1:2程度に設計し、コイルブレイク後に勢いが弱ければ半分利確、残りを建値ストップに移動するといった運用も考えられます。
コイルのだましブレイクをどう回避するか
コイルは有効なパターンである一方で、当然ながらだましブレイクも発生します。特に、明確なトレンドが存在しないレンジ中央付近や、重要な経済指標の直前・直後などは注意が必要です。ここでは、だましブレイクを減らすための実践的な工夫を紹介します。
フィルター1:上位足の方向と同じ方向にだけ仕掛ける
最もシンプルで効果が大きいのは、「上位足トレンド方向のみトレードする」というフィルターです。例えば、日足・4時間足ともに上昇トレンドであれば、コイルの下抜けは見送って上抜けだけを狙う、といったルールです。
フィルター2:出来高の増加を伴うブレイクかどうか確認する
特に株式や先物など出来高データが明確な市場では、ブレイク時に出来高が増加しているかを確認することで、だましブレイクをある程度見分けることができます。出来高が明らかに膨らまずに中途半端に抜けた場合は、追いかけエントリーを控える判断も有効です。
フィルター3:経済指標やイベント前後のトレードを控える
雇用統計やFOMC、政策金利発表など、大きなイベントの前後は価格が乱高下しやすく、テクニカルパターンが機能しにくくなります。コイルがそのようなタイミングで形成されている場合、イベント通過後まで見送るという選択肢も重要です。
RSIやボリンジャーバンドとの組み合わせで優位性を高める
コイル単体でも十分に有効なパターンですが、オシレーター系やボラティリティ系のインジケーターと組み合わせることで、エントリー精度や利確判断の質を高めることができます。
組み合わせ例1:RSIによる過熱感チェック
コイルブレイクの前後でRSIを確認することで、トレンドの伸びしろをイメージしやすくなります。例えば、上昇トレンド中のコイル上抜けでRSIがまだ60前後であれば、上昇余地が残っている可能性があります。一方、すでにRSIが80近くまで達していれば、短期的な天井圏に近づいているシナリオも考慮し、利確を早める判断材料になります。
組み合わせ例2:ボリンジャーバンドによるエクスパンション確認
ボリンジャーバンドも、コイルとの相性が良いインジケーターです。価格レンジが収縮している局面では、ボリンジャーバンドもバンド幅が狭まる「スクイーズ状態」になります。その後、コイルブレイクとともにバンド幅が拡大(エクスパンション)し始めた場合、トレンドがスタートしたシグナルとして捉えやすくなります。
資金管理とメンタル:コイルは「待てる人」ほど有利になる
コイル戦略は、「チャンスが来るまで待つこと」が前提になります。常にポジションを持っていたいタイプのトレーダーにとっては、エントリーまでの待ち時間が心理的なストレスになることもあります。しかし、長期的に安定した成果を目指すうえでは、「やらないトレード」を増やすことも非常に重要です。
資金管理のポイントとしては、次のような点を意識すると良いでしょう。
- 1トレードあたりのリスク(損失許容額)を口座残高の1〜2%に抑える
- 複数のコイルが同時に出ている場合でも、総リスクが口座の3〜4%程度を超えないように調整する
- 連敗した場合の上限(例:1日最大3連敗まで)をあらかじめ決めておく
また、コイルブレイク直後は一時的に逆行することもあります。ブレイク後すぐに含み益にならなかったからといって、すぐに不安になってルール外の決済を繰り返してしまうと、期待値のある手法でも結果が安定しにくくなります。あらかじめ決めた損切りラインと利確目標を守ることが、最終的なパフォーマンスに直結します。
まとめ:コイルは「エネルギー蓄積」を視覚化したシンプルかつ強力なパターン
コイルは、価格のエネルギー蓄積とブレイクアウトの関係を、視覚的に分かりやすく示してくれるパターンです。ポイントを整理すると、次のようになります。
- コイルは、価格レンジが徐々に収縮していく「充電期間」を示すパターンである
- ブレイクアウト後は、溜まったエネルギーが解放されて大きな値動きになりやすい
- 上位足トレンド方向のブレイクと組み合わせることで、だましを減らしやすい
- 損切りはコイル反対側に置くことで、リスクを限定しやすい
- RSIやボリンジャーバンド、出来高などと組み合わせると、エントリー精度や利確判断が改善しやすい
チャートを見ていると、つい「今すぐエントリーできる形」を探してしまいがちですが、コイル戦略は「良い形が出るまで待つ」ことそのものをルールに組み込める点が大きな強みです。まずは過去チャートでコイルを探し、どのような場面で機能しやすいか、どのような場面でだましが多いかを確認してみてください。そのうえで、ご自身のトレードスタイルに合わせてルールを調整すれば、シンプルで再現性の高い武器のひとつとして活用できるようになります。


コメント