チャートを見ていると、価格が大きく動いたあとに、ローソク足がだんだんと狭いレンジに収束していくことがあります。高値も安値も少しずつ内側に寄っていき、まるで「バネ(コイル)」がギューッと縮んでいくような形になるパターンです。この圧縮状態から一度方向が決まると、一気に大きく動き出すことが多く、短期トレーダーにとって狙い目となるのが「コイルパターン」です。
本記事では、株・FX・暗号資産などあらゆる市場で使えるコイルパターンの考え方から、具体的なエントリー・利確・損切りの決め方、よくある失敗例までを丁寧に解説します。難しい専門用語はできるだけ避け、チャートを開けばすぐに試せるレベルまで落とし込んでいきます。
コイルパターンとは何か
コイルパターンは、一言でいえば「ボラティリティが縮小していく圧縮相場」です。価格の高値と安値の幅(レンジ)が徐々に狭まり、売りと買いのエネルギーがチャートの中に蓄積されていきます。最終的にどちらかの勢力が勝つと、その方向に強くブレイクしやすいという特徴があります。
よく混同されるパターンとして、三角保ち合い(シンメトリカルトライアングル)やペナントがありますが、コイルは必ずしもきれいなラインで結べるとは限りません。重要なのは、「値動きの幅が時間とともに目に見えて縮んでいること」と「出来高やボラティリティ指標が低下していること」です。
コイルパターンの典型的な流れ
- 強いトレンドまたは急騰・急落のあとに一服する
- 高値と安値の更新幅がだんだんと小さくなる
- ローソク足の実体が小さくなり、ヒゲが目立つことも多い
- 出来高やボラティリティ指標(ATRなど)が低下していく
- あるタイミングで一方向に大きくブレイクする
この「圧縮から解放」への動きに乗るのが、コイルトレードの基本戦略です。
コイルパターンの見つけ方:具体的な条件設定
チャートを前にして「どれがコイルなのか分からない」となりがちなので、ここでは実務的に使える判断基準をいくつか示します。完璧に条件を満たす必要はなく、「概ねこのイメージに近いか」で判断するのが現実的です。
条件1:直近20〜30本でレンジ幅が縮小している
1時間足や4時間足など、あなたが主にトレードする時間軸で、直近20〜30本の高値と安値をざっくり目視します。最初の10本よりも、直近10本の値動きが明らかに小さくなっている場合、コイルになりやすい状況です。
目で見るだけでは不安であれば、ATR(Average True Range)を使っても良いです。例えば、
- ATR(14)が過去1〜2週間の中で低い水準に来ている
- 価格のレンジ幅(高値−安値)が徐々に小さくなっている
といった条件を組み合わせると、コイル候補を機械的に絞り込みやすくなります。
条件2:高値・安値を結ぶと「すぼまる」形になっている
チャート上で直近の高値同士を線で結び、同様に直近の安値同士を線で結びます。この2本の線が「ハの字の逆」のように、先に行くほど近づいていくなら、コイルの典型パターンです。
ただし、きれいな直線でなくてもかまいません。大事なのは、「最初の高値よりも後の高値の方が少し低い」「最初の安値よりも後の安値の方が少し高い」という傾向があることです。
条件3:ニュースやイベント前の「様子見」相場になっている
重要指標や決算発表、金融政策イベントの前後では、市場参加者がポジションを縮小し、様子見ムードになることがあります。このとき、自然とボラティリティが縮小し、コイルのような形になりやすいです。
例えば、FXでは米雇用統計やFOMC、株式では決算発表や重要なIR、暗号資産では大型アップデート前後などが典型例です。カレンダーやニュースを確認し、「イベント前のコイル」は意識しておくと良いでしょう。ただし、イベント直後のブレイクは乱高下も起こりやすいため、リスク管理をより慎重にする必要があります。
コイルブレイクを狙うエントリールール
次に、実際にどうやってトレードするかを整理します。ここでは、シンプルで再現性の高いアプローチに絞ります。
戦略1:レンジ上限・下限のブレイクアウト狙い
もっとも基本的なのは、「コイルの上限を上抜けしたら買い、下限を割れたら売り」というブレイクアウト戦略です。
具体的な手順は以下の通りです。
- 直近20〜30本の高値と安値をチェックし、コイルのレンジ上限・下限を決める
- 上限の少し上に買いストップ注文、下限の少し下に売りストップ注文を置く(どちらか一方だけでも可)
- どちらか片方が約定したら、もう片方の注文はキャンセルする
- 損切りはブレイクした方向とは逆側のコイル内に置く
- 利確はリスクリワード比1:2を基本ラインにしつつ、トレンドの強さに応じて調整する
例えば、ドル円4時間足でコイル上限が150.50、下限が149.80とします。この場合、
- 150.60に買いストップ、149.70に売りストップを置く
- 150.60で約定したら、売りストップはキャンセル
- 損切りはコイル中央〜下限付近(例:149.90)
- 利確目標は、リスク0.70円の2倍である1.40円上、つまり152.00前後
このように、あらかじめ数字でシナリオを書き出しておくことで、感情に流されにくくなります。
戦略2:ブレイク直後の「戻り」を待つ押し目・戻り売り
ブレイクアウト直後は値動きが荒く、ダマシになることも多いです。そのため、
- 一度ブレイクさせる
- その後の押し目(または戻り)で入る
というワンクッション戦略も有効です。
具体例として、ビットコイン1時間足でコイル上限が70,000ドルだったとします。上にブレイクして70,800ドルまで一気に伸びたあと、70,000〜70,200ドルまで一度押してくるケースはよくあります。このとき、
- 70,100ドル付近で押し目買い
- 損切りはコイル上限の少し下(69,800ドルなど)
- 利確は直近高値更新を狙い、71,500〜72,000ドル付近
というように、「ブレイクした水準をテストしてから伸びる」動きに乗っていくスタイルです。ダマシをある程度避けやすい一方で、「押し目が来ないまま飛んでいく」ケースでは置いていかれるリスクもあります。
戦略3:上位足トレンド方向だけを狙うフィルタ付き戦略
コイルは上下どちらにもブレイクし得るため、「どちらか一方向だけを狙う」と決めておくと、無駄なトレードを減らせます。その基準としておすすめなのが、上位時間足のトレンドです。
例えば、
- 日足が明確な上昇トレンド(高値・安値切り上げ)のときは、コイルの上抜けだけを狙う
- 日足が明確な下降トレンドのときは、コイルの下抜けだけを狙う
といったルールです。これにより、「日足上昇トレンドなのに、1時間足のコイル下抜けをショートしてしまい、すぐ踏み上げられる」といった矛盾トレードを減らすことができます。
リスク管理:どこに損切りを置くべきか
コイルパターンで最もよくある失敗は、「ブレイクに飛び乗った途端、すぐにコイル内へ戻ってきて損切りになる」というパターンです。これを完全に避けることはできませんが、損失を一定の範囲に抑えることは可能です。
損切りの基本位置
損切りは、「相場が想定と違う動きをしたと判断できるポイント」に置きます。コイルブレイクの買いの場合なら、
- 上抜け後に、再びコイルの下限を明確に割り込んだところ
- もしくは、コイルの中央付近で一律カットするルール
などが考えられます。いずれにしても、
- 損失が1回のトレードで口座残高の1〜2%を超えない
という資金管理ルールを優先します。リスクリワード比は最低1:1.5、理想的には1:2以上を目指すと、連敗しても口座が大きく傷みにくくなります。
ポジションサイズの決め方の一例
例えば、口座残高100万円、1回あたりの許容損失を2%(2万円)と決めるとします。ドル円のコイル上抜けを150.50円で買い、損切りを149.90円(60pips下)に置く場合、
1pipsあたりの損失 = 2万円 ÷ 60pips ≒ 333円
となります。ドル円1万通貨の1pipsは100円ですから、約3万通貨までが許容ロットという計算になります。このように、コイルの幅(損切り幅)から逆算してロットを決める癖をつけると、感情に振り回されにくくなります。
実例シナリオ:FX・株・暗号資産でのコイル活用
FXの例:ドル円4時間足
ドル円が強い上昇トレンドの中で、155円付近から156円付近の間で徐々にレンジが縮小していくとします。最初は155.20〜155.90円のレンジだったものが、時間経過とともに155.40〜155.80円へと狭まっていくようなイメージです。
日足が上昇トレンドであることを確認し、「上抜けだけを狙う」と決めたうえで、
- コイル上限:155.80円
- コイル下限:155.40円
- エントリー:155.90円で買いストップ
- 損切り:155.40円少し下の155.30円
- 利確目標:リスクリワード1:2で、約1.20円上の157.10円付近
というシナリオを立てます。実際の値動きでは、ブレイク後に一時的に押し戻されることもありますが、シナリオに従ってブレずに運用することが重要です。
株の例:成長株の日足チャート
ある成長株が決算をきっかけに急騰し、その後、数週間にわたって出来高を伴いながらも値幅を徐々に縮小させているとします。最初は1日あたり200円近く動いていたものが、直近では50〜70円程度しか動かなくなっているケースです。
このようなとき、「決算後の一服から次の上昇に向かうためのコイル」となっている可能性があります。週足レベルで上昇トレンドなら、
- 日足のコイル上限ブレイクでエントリー
- 損切りはコイル下限割れ、もしくは移動平均線割れ
- 利確は、直近高値からコイル幅分の上昇を目安にする
といった戦略を組むことができます。個別株ではギャップアップやニュースでの乱高下も起こりやすいため、寄り付きの値動きや出来高も合わせてチェックすると精度が上がります。
暗号資産の例:ビットコイン1時間足
暗号資産は24時間取引されるため、コイルパターンが頻繁に現れます。例えば、ビットコインが70,000ドル近辺まで急騰したあと、69,000〜70,500ドルのレンジで数日間推移し、そのレンジ自体が少しずつ狭まっていくケースです。
このとき、出来高が徐々に減少しつつあるなら、「どちらかに大きく放たれる前の静けさ」である可能性が高まります。上位足(4時間足・日足)が上昇基調なら、上抜け方向を優先しつつも、万が一下抜けした場合の損切りラインもあらかじめ決めておきます。
よくある失敗パターンと対策
失敗1:コイルではなく、単なるダラダラしたレンジをコイルと勘違い
ボラティリティが縮小しているわけではない横ばい相場を、なんとなくコイルと見てしまうと、ブレイクしても勢いが続かず、すぐに逆行することが増えます。対策として、
- 過去数十本のATRが本当に低下しているか確認する
- 高値と安値が時間経過とともに内側に寄っているかをチェックする
といった定量的な確認をサボらないことが重要です。
失敗2:イベント直前・直後のブレイクで大きく振られる
重要指標や決算前後のブレイクは、一方向に伸びることもあれば、上下に激しく振られてから方向が決まることもあります。価格だけを見て飛びつくと、ストップにかかったあと本来のトレンド方向に動く、といったストレスの大きい展開になりがちです。
対策としては、
- イベント直前の新規エントリーは控える、もしくはロットを半分以下に抑える
- どうしても入りたい場合は、広めの損切り幅をとり、ポジションサイズを大きく減らす
など、リスク量を意識した運用が欠かせません。
失敗3:コイルの内側でポジションを増やしすぎる
「そのうちどちらかに大きく動くだろう」と考え、コイルの中で何度も売買を繰り返すと、ブレイク前に資金とメンタルをすり減らしてしまうことがあります。コイル戦略の本質は「静かな相場からの一方向の動きに乗ること」であり、コイル内部での細かい値動きに付き合いすぎる必要はありません。
対策として、
- 「コイル内ではトレードしない」というルールを決める
- ブレイクアウトか、その直後の押し目・戻りだけに絞る
といったシンプルな基準を設けると、トレード回数も自然と整理されます。
トレードルールに落とし込むステップ
ここまでの内容を踏まえて、コイルパターンを実際のトレードルールとして運用するためのステップを整理します。
ステップ1:時間軸と市場を決める
まず、自分が主にトレードする時間軸(例:FXなら1時間足、株なら日足、暗号資産なら1時間足 or 4時間足)と、市場(ドル円、日経平均先物、ビットコインなど)を絞ります。あれもこれも監視すると、パターン認識が散漫になりやすいため、最初は2〜3銘柄に絞るのがおすすめです。
ステップ2:コイル候補をスクリーニングする
チャートをざっと眺め、
- 直近20〜30本でレンジ幅が縮小している
- ATRが過去数週間と比べて低下している
- 高値・安値が少しずつ内側に寄っている
といった条件を満たす銘柄をピックアップします。手動でも構いませんが、TradingViewやMT4/MT5などのプラットフォームでスクリプトやインジケーターを活用すれば、効率的に探せます。
ステップ3:上位足トレンドを確認し、狙う方向を決める
日足や週足チャートで、
- 高値・安値の切り上げ → 上昇トレンド → 上抜け優先
- 高値・安値の切り下げ → 下降トレンド → 下抜け優先
といった骨組みを作ります。ここで方向感を決めておくことで、逆方向のブレイクに飛びついてしまうミスが減ります。
ステップ4:エントリー・損切り・利確を数値で決める
コイル上限・下限を価格でメモし、
- 上抜けエントリー価格(上限+α)
- 下抜けエントリー価格(下限−α)
- 損切り価格(コイル内もしくは反対側の端)
- 利確目標(リスクリワード1:2を目安に計算)
を事前に書き出します。ここでロットも同時に計算し、「このトレードで負けたらいくら損するか」を明確にしておきます。
ステップ5:ルール通りに執行し、結果を記録する
実際にトレードしたら、
- エントリー価格
- 損切り・利確価格
- 結果(pips・金額)
- コイルの見た目のスクリーンショット
などをトレードノートに残します。勝ち負けよりも、「自分が定義したコイルの条件を満たしていたか」「ルール通りに行動できたか」の方が重要です。サンプルが20〜30件たまる頃には、自分にとって相性の良いパターンや時間帯、銘柄が見えてきます。
まとめ:コイルパターンは「待ち」の技術
コイルパターンは、派手なサインではありません。むしろ、退屈で、動きの少ない相場が続いた末に現れるものです。しかし、その退屈さの裏側で、売り手と買い手のエネルギーは着実に蓄積されており、どちらかに傾いた瞬間、大きなトレンドのきっかけとなることがあります。
大きく勝ちたいときほど、人は「今すぐ動いている銘柄」に飛びつきがちですが、コイルパターンの本質はその逆です。「動かない時間を観察し、次の一手を待つ」という、トレーダーとしての忍耐と計画性が試されます。
本記事で紹介した、
- ボラティリティ縮小とレンジの収束を見極める方法
- ブレイクアウト戦略と押し目・戻り売り戦略
- 上位足トレンドを利用したフィルタリング
- 損切りとポジションサイズの具体的な決め方
をベースに、ご自身のトレードスタイルに合わせてルールを微調整してみてください。少数の厳選されたコイルチャンスを狙い撃ちできるようになると、無駄なトレードが減り、結果として資金曲線も安定しやすくなります。
最終的には、「今日は無理にトレードする日ではない」と判断して何もしない選択ができるかどうかが、コイル戦略を使いこなすうえでの重要なポイントになります。良い意味で「退屈な時間」を楽しみながら、次の大きな一手に備えていきましょう。


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