TRIXインジケーターとは何か
TRIX(トリックス)は、トリプル指数移動平均(Triple Exponential Moving Average)の変化率を利用したオシレーター系テクニカル指標です。価格を3回連続で指数平滑移動平均(EMA)にかけ、その最終的な値の前日比(変化率)をパーセンテージで表します。チャート上では0ラインを中心に上下に振れる滑らかなラインとして描画され、トレンドの強さや転換の兆しを読み取るために使われます。
移動平均を何度もかけているため、短期ノイズが大きく削られ、中長期のトレンドに素直に反応しやすいのが特徴です。トレンドフォロー派にとっては「ダマシを減らしつつ、転換点もある程度捉えたい」というニーズに応えやすい指標であり、株式・FX・暗号資産のいずれの市場でも応用できます。
TRIXの計算ロジックを感覚的に理解する
数式そのものを覚える必要はありませんが、TRIXの裏側で何が行われているかを感覚的に理解しておくと、どのような値動きで強く反応するのかイメージしやすくなります。
- ① 終値に対して、ある期間(例:14期間)の指数平滑移動平均(EMA①)を計算する。
- ② EMA①に対して、同じ期間のEMA(EMA②)を計算する。
- ③ EMA②に対して、さらに同じ期間のEMA(EMA③)を計算する。
- ④ EMA③の「前日からの変化率(%)」を求めたものがTRIX。
ポイントは、「3回連続でEMAをかけている」という点です。これによって価格のギザギザした動きが大きく平滑化され、トレンドそのものの傾きだけが強調されます。価格が少し上下する程度ではTRIXはあまり反応せず、はっきりとした上昇トレンド・下落トレンドになると、TRIXの傾きが分かりやすく変化します。
TRIXのチャート上での見え方と基本的な読み方
多くのチャートソフトでは、TRIXはサブウィンドウに1本のラインとして表示されます。0を基準としたオシレーターのため、視覚的にも「上向きのトレンドか、下向きのトレンドか」が直感的に把握しやすくなります。
- TRIXが0より上にあり、右肩上がり → 中長期の上昇トレンドが強い。
- TRIXが0より下にあり、右肩下がり → 中長期の下落トレンドが強い。
- TRIXが0近辺で小刻みに横ばい → 明確なトレンドがないレンジ相場。
また、多くのトレーダーはTRIXに対してシグナルライン(TRIXの移動平均)を重ねて表示し、2本のラインのクロスで売買のタイミングを判断します。シグナルラインを入れると、MACDに似た見た目になり、「TRIXがシグナルを上抜けたら買い」「下抜けたら売り」といったシンプルなルールを作りやすくなります。
代表的なパラメータ設定と時間軸ごとの使い分け
TRIXの期間設定としてよく用いられるのは「14」「15」「18」「20」などです。期間を短くすると反応は速くなりますが、ノイズも増えます。期間を長くするとトレンドの本筋だけを追いやすくなりますが、シグナルの発生は遅くなります。
- デイトレード(1分足・5分足など) → 期間 9〜14 で反応速度を重視。
- スイングトレード(1時間足・4時間足) → 期間 14〜18 でバランス重視。
- スイング〜ポジショントレード(日足・週足) → 期間 18〜30 で中長期トレンド重視。
最初は、よく紹介される「期間15+シグナル9」などの設定から試し、自分がよく見る時間軸と組み合わせてチャートを眺めるところから始めると感覚が掴みやすくなります。
具体例①:株式デイトレでのトレンドフォロー活用イメージ
ここでは、日本株の個別銘柄を5分足で見てデイトレードするケースをイメージしてみます。前日から強い買いが入っている成長株が、寄り付き後に出来高を伴って上昇しているような場面を想定します。
チャート上では、ローソク足が5分足で右肩上がりに推移し、短期の移動平均線(例:5期間)が中期移動平均線(例:20期間)よりも上に位置している状態です。このときTRIXを見ると、寄り付き直後は0ラインの近くにあったのが、時間の経過とともに0を明確に上抜け、右肩上がりの形を描いているとします。
この局面では、単に「価格が上がっている」だけでなく、「TRIXが0より上でしっかりと上昇している」ことで、上昇トレンドの持続性が示唆されます。短期的な押し目(5分足で数本分の調整)が入り、価格が一時的に下がっても、TRIXの傾きが大きく崩れない限り、トレンドは継続していると判断しやすくなります。
実際のトレードでは、以下のような考え方がひとつの目安になります。
- エントリーイメージ:TRIXが0ライン上でシグナルを上抜けたタイミングで、押し目の終了を確認してから買いで入る。
- 手仕舞いイメージ:TRIXが高い位置から横ばい〜下向きになり、シグナルを下抜けたあたりで一部または全てを利確する。
このように、TRIXは「どれくらいトレンドが勢いづいているか」を視覚的に教えてくれるので、勢いに乗るデイトレ戦略との相性が良い指標です。
具体例②:FXスイングでの押し目買い・戻り売りに活用
次に、FXの代表的な通貨ペア(例:ドル円)を1時間足でスイングトレードするケースを考えます。たとえば、日足レベルでは上昇トレンド、1時間足でも高値・安値を切り上げているような局面です。
このような場面では、「上昇トレンドの中の押し目」を狙ってエントリーするのが定石です。TRIXは、その押し目が「一時的な調整なのか」「トレンド転換の兆しなのか」を見極める判断材料として使えます。
- 上昇トレンド中の調整局面では、TRIXが一時的に下向きになるが、0ライン付近で踏みとどまり、再び上向きに転じることが多い。
- 本格的なトレンド転換の場合、TRIXが0ラインを下抜けし、その後もマイナス圏で右肩下がりを続けることが多い。
実際のイメージとしては、1時間足で価格がサポートライン(過去の安値水準や移動平均線)に近づいてきたタイミングで、TRIXが0付近から再び上向きに転じたら、「押し目買い候補」として注目します。反対に、TRIXが0を割り込み、その後もマイナス圏で弱々しく推移するようであれば、「押し目」ではなく「上昇トレンドの終わり」かもしれないと慎重になります。
具体例③:暗号資産でのダイバージェンス活用
暗号資産(仮想通貨)はボラティリティが大きく、「価格は高値更新を続けているのに、勢いは落ちている」といった局面が頻繁に現れます。こうした場面で、TRIXと価格の動きの不一致(ダイバージェンス)に注目することで、天井圏・底値圏のヒントを得ることができます。
- 弱気ダイバージェンス:価格が高値更新を続けているのに、TRIXの高値は切り下がっている。
- 強気ダイバージェンス:価格が安値更新を続けているのに、TRIXの安値は切り上がっている。
たとえば、ビットコインの4時間足で価格が過去最高値近辺まで上昇している局面を想像してください。チャート上では、直近の高値をわずかに更新しているのに対し、TRIXは前回の山よりも低い位置で頭打ちになっているとします。このような形は、「価格は無理やり高値を更新しているが、トレンドの勢い自体は弱まっている」というサインと解釈されます。
こうした弱気ダイバージェンスを確認した後、上昇の勢いが鈍り、ローソク足が天井圏で迷い始めたら、短期トレーダーであれば一部利確を検討したり、逆に短期的な戻り売りのチャンスを探る材料として活用できます。
TRIXと他の指標を組み合わせる考え方
TRIX単独でもトレンドの強さを把握するのに役立ちますが、他の指標と組み合わせることで、エントリー・イグジットの精度を高めやすくなります。
- 移動平均線との組み合わせ:価格が移動平均線の上にあるとき、TRIXが0より上で上向きなら「トレンドとモメンタムが同じ方向」と判断しやすい。
- ボリンジャーバンドとの組み合わせ:ボリンジャーバンドの+2σ〜+3σ付近に価格が位置し、TRIXも高い位置で横ばい〜下向きに転じた場合、短期的な過熱感のサインとして使う。
- 出来高系指標との組み合わせ:TRIXが上向きで、出来高も増加している局面は、トレンドの信頼性が高まりやすい。
初心者のうちは、あれもこれもと指標を増やしすぎると混乱します。まずは「価格+移動平均線+TRIX」の3点セットでチャートを眺め、そのうえで徐々にボリンジャーバンドや出来高系指標を追加していくと、整理しながら学びやすくなります。
パラメータ調整と検証のポイント
TRIXのパラメータ(期間・シグナル期間)を自分の手で変えてみると、チャートの印象が大きく変わることが分かります。短期ほどシグナルは増えますが、ダマシも増える傾向があります。逆に長期ほどシグナルは減りますが、その分ひとつひとつのシグナルの重みは増しやすくなります。
実際に売買ルールとして使う場合は、「過去チャートで自分のルールがどう機能したか」を確認する簡単な検証作業が重要です。すべてを厳密にバックテストする必要はありませんが、少なくとも以下のような観点でチェックしておくと、感覚に頼りすぎない判断がしやすくなります。
- 過去数カ月〜1年分のチャートで、TRIXのシグナルが出たときの値動きの傾向を見る。
- トレンド相場とレンジ相場でシグナルの質がどう変わるかを確認する。
- 自分の資金量・リスク許容度に照らして、許容できるドローダウン(含み損の深さ)をイメージする。
検証をする過程で、「このパラメータだと、レンジ相場で負けが積み重なりやすい」「トレンド相場に絞れば悪くない」といった発見が出てきます。こうした気付きは、そのまま自分だけの売買ルールの改善材料になります。
TRIXを使うときのありがちな失敗パターン
TRIXは便利な指標ですが、使い方を誤ると期待した結果が得られません。典型的な失敗パターンをあらかじめ知っておくと、無駄な損失を減らすことにつながります。
- TRIXだけで売買を完結させてしまう:ローソク足の形やサポート・レジスタンスを無視して、TRIXのシグナルだけで売買すると、特にレンジ相場でダマシを多く拾ってしまいがちです。
- 短期足だけで判断してしまう:1分足や5分足のTRIXだけを見ていると、上位足のトレンドと逆行するエントリーが増えます。上位足のトレンドを確認し、その方向に沿ったシグナルだけを選別するほうが安定しやすくなります。
- ポジションサイズを大きくしすぎる:どんな指標でも100%うまくいくことはありません。TRIXのシグナルを信頼しすぎて資金の大部分を一度に投じると、連敗したときのダメージが大きくなります。
TRIXは「トレンドの勢いを測る物差し」として位置づけ、最終的な売買判断は、ローソク足の形状、価格が位置するゾーン(サポート・レジスタンス)、上位足のトレンド状況など、複数の要素を組み合わせて行うことが重要です。
初心者がTRIXを試すためのシンプルなステップ
最後に、これからTRIXを試してみたい投資初心者向けに、シンプルなステップをまとめます。これはあくまで学習のための例であり、実際の売買ではご自身の判断とリスク管理が前提となります。
- ステップ1:よく使うチャートツールでTRIXを表示できるか確認し、期間15・シグナル9程度の設定で日足と1時間足に表示する。
- ステップ2:過去のチャートをスクロールしながら、「TRIXが0ラインを跨ぐタイミング」と「価格のトレンドの変化」がどう対応していたかを観察する。
- ステップ3:上昇トレンド中に、TRIXが0より上にあり、押し目のあと再び上向きに転じた局面をいくつかピックアップし、その後の値動きをメモする。
- ステップ4:レンジ相場ではTRIXがどのように振る舞っているかを観察し、「ここでエントリーすると負けやすい」というパターンも合わせて記録する。
- ステップ5:少額のデモトレードや小さなロットで、「上位足のトレンド方向に沿ったTRIXシグナルだけを使う」シンプルなルールを試し、感触を確かめる。
このように、まずはTRIXの動きと価格の関係を丁寧に観察するところから始めることで、「なぜこの場面でTRIXがこう動いたのか」というストーリーが見えるようになってきます。その感覚が身についてくると、単なるラインの上下ではなく、「トレンドの勢いの強弱」を自分の言葉で説明できるようになり、売買判断の軸が少しずつ固まっていきます。
TRIXは、派手さはありませんが、中長期トレンドの勢いを滑らかに可視化してくれる指標です。移動平均線やボリンジャーバンドと組み合わせながら、自分のスタイルに合った使い方を少しずつ磨いていくことで、トレード判断の助けになる「もう一本の物差し」として活用していけます。


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