トレンド系のテクニカル指標の中で、「今どれくらい強いトレンドが出ているのか」を数値で教えてくれるのがADXとDMIです。移動平均線やMACDだけを見ていると、「一応上向きだけれど、本当にエントリーして良いのか」「ダマシではないか」が分かりにくい場面が多くあります。ADXとDMIを組み合わせることで、個人投資家でも相場の勢いを定量的に判断し、無駄なトレードを減らすことができます。
ADX・DMIとは何かをシンプルに整理する
ADX(Average Directional Index)はトレンドの「強さ」を示す指標で、一般的には0〜50程度の値で推移します。数値が高いほど、上昇でも下降でも「はっきりしたトレンドが出ている」状態だと解釈します。
DMI(Directional Movement Index)は、+DIと−DIという2本のラインで構成されます。+DIが優勢なら上昇圧力が強く、−DIが優勢なら下降圧力が強いと判断します。チャート上では、ローソク足の下に「+DI(緑)」「−DI(赤)」「ADX(白)」の3本が表示されるイメージです。
多くの初心者は、ローソク足と移動平均線だけで売買を判断しがちですが、そこにADXとDMIを一段重ねることで、「今はトレンド相場なのか、レンジ相場なのか」「トレンドの勢いは強いのか弱いのか」を視覚的に把握できるようになります。
ADX・DMIの基本的な読み方
典型的な読み方を整理すると、次のようになります。
- ADXが20未満:トレンドが弱く、レンジ相場の可能性が高い
- ADXが20〜25付近を上抜け:トレンドが発生し始めたサインとみなされることが多い
- ADXが30以上:強いトレンドが継続している状態
- +DIが−DIより上:買い側が優勢、上昇トレンド寄り
- −DIが+DIより上:売り側が優勢、下降トレンド寄り
重要なのは、ADXは「トレンドの方向」ではなく「強さ」を示しているという点です。ADXが上昇しているからといって必ずしも買いではなく、「+DIと−DIのどちらが上にあるか」で方向を判断します。
設定期間14の意味と時間軸ごとの特徴
多くのチャートソフトでは、ADX・DMIのデフォルト設定は期間14になっていることが多いです。これは14本分のローソク足の値動きから、上方向・下方向への「方向性のある動き」を抽出して指数平滑化したものです。
例えば、
- 日足チャートで期間14:およそ3週間分の値動きのトレンドを測るイメージ
- 4時間足で期間14:2〜3日程度のトレンドの強さを測るイメージ
- 1時間足で期間14:半日〜1日程度のトレンドの強さを測るイメージ
短期トレードほど「期間14がやや重たい」と感じることもあり、その場合は期間を7〜10に短くすることで、感度を上げてトレンドの変化を早めに捉えることもできます。ただし、期間を短くするとダマシも増えるため、最初のうちは標準の14で慣れる方が無難です。
FXの上昇トレンドでの具体的な活用例
ここでは、ドル円の4時間足チャートをイメージして、ADX・DMIの具体的な使い方を説明します。
ある時点で、ローソク足が200SMAの上に位置し、短期移動平均線も上向きに傾いているとします。このとき、+DIが−DIを上抜け、かつADXが20を下から上にブレイクしてきたとします。これは「上昇方向に新たなトレンドが発生しつつある」と解釈できる局面です。
この状況でのシンプルな戦略例は次のとおりです。
- エントリー:+DIが−DIより上で、ADXが20〜25を上抜けたタイミングで押し目買いを検討
- 利確目安:ADXが30〜40付近で横ばいになり始め、+DIと−DIが再び接近してきたら、トレンド一服とみて部分利確
- 撤退条件:−DIが+DIを下から上へクロスし、ADXも低下してきた場合はトレンドの終了を疑う
このように、ADXとDMIを併用することで、「トレンドの発生→加速→減速→終了」という流れをある程度構造的に捉えることができます。
株式投資での中期トレンドフォローへの応用
株式の場合、日足や週足を使った中期のトレンドフォロー戦略との相性が良いです。例えば、日足で次のようなルールを考えることができます。
- 200日移動平均線の上に株価があり、50日移動平均線も上向きである
- +DIが−DIを上抜けた後、ADXが20を超えて上昇基調
- 出来高も直近平均よりやや増加している
この条件がそろった銘柄は、「上昇トレンドが始まり、機関投資家が買い上がっている可能性がある」フェーズと解釈できます。もちろん全てが成功するわけではありませんが、こうしたフィルターをかけることで、単に「移動平均線の上だから買う」といった雑な判断よりも、トレンドの質を意識した銘柄選定ができます。
暗号資産のボラティリティをADXで見極める
暗号資産市場は値動きが激しく、レンジかトレンドかの見極めに苦労する場面が多くあります。ここでもADXは有効に働きます。
例えば、ビットコインの日足チャートでADXが15前後をウロウロしている期間は、値幅は出ていても方向感に乏しい「ノイズの多いレンジ」になりがちです。このような局面では、ブレイクアウトを狙った順張り戦略はダマシ連発になりやすいため、「ADXが20〜25を上抜けるまでは様子見する」といったルールを設けるだけでも、無駄なトレードをかなり減らせます。
逆に、ADXが30以上で+DI優勢の状態が続いている場合は、「強い上昇トレンドが出ている」と判断し、押し目買い戦略に集中する、といった使い方が考えられます。
シンプルなADX・DMIトレードルール例
初心者でも取り組みやすいよう、FXの1時間足を例に、シンプルなルールを組み立ててみます。
買いエントリーの条件
- 価格が200SMAの上にある
- +DIが−DIを上抜けている
- ADXが20以上で、直近数本で上向き
- 直近の押し安値を下回っていない
売りエントリーの条件
- 価格が200SMAの下にある
- −DIが+DIを上抜けている
- ADXが20以上で、直近数本で上向き
- 直近の戻り高値を上回っていない
利確・損切りの一例
- 損切り:エントリー時の直近押し安値(または戻り高値)の少し向こう側
- 利確:リスクリワード1:2を目安に、もしくはADXがピークアウトして横ばいになり始めたら段階的に利益確定
このように、条件をあらかじめ文章で明文化しておくと、「なんとなく上に行きそうだから買う」といった感覚的なトレードから卒業しやすくなります。
ADX・DMIで避けたい代表的なパターン
ADX・DMIを使う際に注意したいのは、「トレンドがすでにかなり進んでから飛び乗る」パターンです。例えば、すでに+DI優勢の状態がしばらく続き、ADXが40に近づいている局面で成行買いすると、そのタイミングがトレンドのピークだったということも珍しくありません。
また、ADXが20を下回っているにもかかわらず、+DIと−DIのクロスだけを根拠に何度も売買すると、レンジ相場のノイズに振り回されやすくなります。ADXが低い段階では、オシレーター系指標(RSIやストキャスティクス)でレンジ逆張りを狙い、ADXが上昇し始めた段階でトレンドフォローに切り替える、といった「モードの使い分け」が有効です。
移動平均線・ATRとの組み合わせで戦略を安定させる
ADX・DMI単体でも十分に使えますが、移動平均線やATRと組み合わせることで、より戦略が安定します。
例えば、
- トレンド方向の判断:200SMAの上か下かで大きな方向を決める
- トレンドの強さの確認:+DIと−DIの位置関係、ADXの水準と傾き
- 損切り幅の決定:ATR(Average True Range)を使い、直近のボラティリティに合わせてストップを設定
このように役割分担を整理すると、各指標を「何となく」ではなく明確な目的をもって使えるようになります。特に損切り幅をATRに連動させると、ボラティリティが高い時にストップを広く取り、静かな相場ではストップを狭くするといった調整が自然に行われます。
スイングトレードにおける銘柄スクリーニングへの応用
株のスイングトレードでは、「ADXが一定水準以上で+DIが優勢な銘柄だけを抽出する」といったスクリーニングが有効です。具体的には、スクリーニング条件として次のような項目を設定するイメージです。
- 日足のADXが25以上
- +DIが−DIより上
- 25日移動平均線より株価が上
- 出来高が過去20日平均の1.2倍以上
この条件で抽出された銘柄は、「中期の上昇トレンドがそれなりにしっかりしており、資金も流入している」可能性が高いグループになります。そこから個別チャートを丁寧に確認し、押し目を待って分散エントリーすることで、感覚ではなくロジックに基づいた銘柄選びがしやすくなります。
心理面から見たADX・DMIのメリット
トレードで難しいのは、「トレンドが横ばいに転じてきたのに、まだ行けるはずだ」と期待してポジションを引っ張りすぎてしまう点です。ADXを見ていると、数値のピークアウトや傾きの変化で「勢いが落ち始めている」ことに気付きやすくなります。
また、レンジ相場での無駄なエントリーを避けるフィルターとしても機能するため、「今日は全然条件がそろっていないから、ノートレードで良い」という判断を機械的に下しやすくなります。これは結果的に、メンタルの消耗を減らし、冷静な判断を維持する助けになります。
まとめ:ADX・DMIは「トレンドの質」を測るための定規
ADXとDMIは、単に「トレンドフォロー指標の一つ」というだけでなく、相場の模式図を頭の中に描くための定規のような役割を果たします。方向は+DIと−DI、勢いはADXという風に分けて考えることで、「今はどんな相場なのか」「どの戦略がフィットしそうか」を論理的に整理できます。
最初は設定の意味や動きに戸惑うかもしれませんが、実際のチャートで過去の局面を振り返りながら、「このときADXはどう動いていたか」「+DIと−DIはどちらが優勢だったか」を丁寧に確認していくと、少しずつ感覚がつかめてきます。移動平均線やオシレーターと併用しながら、自分なりの売買ルールに落とし込んでいくことで、トレードの一貫性と再現性を高めることが期待できます。


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