カギ足(かぎあし)チャートは、日本発祥の「非時系列チャート」の一種で、時間ではなく価格変動だけに注目して相場のトレンドを可視化する手法です。ローソク足や移動平均線に比べるとマイナーですが、「ノイズをそぎ落としたトレンドの骨格」をつかむのに非常に役立ちます。株式、FX、暗号資産など、値動きの大きい市場ほど威力を発揮します。
カギ足チャートの基本構造と特徴
カギ足は、縦線と折れ曲がりによって構成されるシンプルなチャートです。時間の経過は一切考慮せず、あくまで一定幅以上の価格変動があったときだけ線が伸びたり反転したりします。この「一定幅」がカギ足の設定パラメータであり、トレード戦略の肝になります。
主な特徴は次の通りです。
- 時間軸を無視し、価格変動だけに集中できる
- 細かなノイズを排除し、大きなトレンドの方向を強調する
- トレンド転換ポイントが視覚的に分かりやすい
- サポート・レジスタンスのラインが引きやすい
ローソク足チャートで細かいヒゲや乱高下に振り回されている投資家にとって、カギ足は「相場の輪郭だけを見る」ための有効なフィルターになります。
カギ足の描き方のルールを具体例で理解する
カギ足チャートは、次のようなルールで描画されます。ここでは株価を例に、転換幅を「100円」に設定したケースで説明します。
1. 初期方向の決定
まず、任意の開始価格からスタートし、価格が上昇すれば上方向の線を描き、下落すれば下方向の線を描きます。ここでは、最初の数本の値動きで「今どちらが優勢か」を見て初期方向を決めるイメージです。
2. 同方向の値動きが続く場合
たとえば株価が1,000円からスタートし、1,080円、1,120円、1,150円と上昇していった場合、転換幅100円に達するまでは同じ上昇方向のカギ足が伸び続けます。1,100円を超えた時点で「1本分の上昇」と見なされ、さらに1,200円を超えればもう1段階上の価格帯として描画されます。
3. 反転条件
上昇中のカギ足が反転するには、直近の高値から転換幅(ここでは100円)以上の下落が必要です。たとえば直近高値が1,250円であれば、1,150円以下に下落したところで、初めて下降方向に折れ曲がります。僅かな押し目では方向転換せず、一定幅以上動いたときだけ折れるため、トレンドの方向が明確になります。
4. FXや暗号資産での具体例
FXのUSD/JPYであれば、転換幅を「0.3円」や「0.5円」といった
カギ足チャートで何が見えるのか
カギ足を使うと、次のようなポイントが視覚的に把握しやすくなります。
- 上昇トレンド/下降トレンドの継続
- 直近の重要な高値・安値レベル
- トレンドの勢いが弱まったサイン
- サポート・レジスタンスの候補水準
ローソク足では「一見レンジに見える局面」でも、カギ足で見ると実は高値・安値を切り上げ続けている、あるいは切り下げ続けている、といったケースがあります。こうした「見え方の違い」が、エントリーや損切りの判断精度に直結します。
カギ足を使ったシンプルなトレンドフォロー戦略
ここからは、株・FX・暗号資産に共通して使える、カギ足を利用したシンプルなトレンドフォロー戦略の例を示します。あくまで一例ですが、この考え方をベースに自分のスタイルへカスタマイズできます。
戦略の前提
- 基本チャート:ローソク足チャート
- 補助チャート:カギ足チャート(同じ銘柄・通貨ペア)
- 時間軸:株なら日足中心、FX・暗号資産なら1時間足や4時間足が目安
- 目的:大きなトレンドの方向に沿ったエントリーだけを選別する
ステップ1:カギ足で「大きな方向」を決める
まずカギ足チャートだけを見て、現在が「上昇方向」か「下降方向」かを判断します。
- カギ足が直近で高値を切り上げながら上方向に続いている → 上昇トレンド
- カギ足が直近で安値を切り下げながら下方向に続いている → 下降トレンド
この段階ではローソク足を一切見ず、「カギ足が示す大きな流れ」だけを採用します。これにより逆張りエントリーを自然に避け、無駄なトレード回数も抑えられます。
ステップ2:ローソク足で押し目・戻りを探す
上昇トレンドと判断したら、ローソク足チャートに切り替え、押し目を待ちます。具体的には、短期の移動平均線(たとえば20期間SMA)付近まで価格が押してきた後に、陽線が続くパターンなどをチェックします。
下降トレンドの場合はその逆で、短期移動平均線までの戻りを待ち、陰線が連続し始めるタイミングを狙います。
ステップ3:カギ足の「方向が維持されていること」を確認してエントリー
ローソク足で押し目・戻りが確認できたら、その時点で再度カギ足チャートを確認します。重要なのは、カギ足の方向がまだ変わっていないことです。
- 上昇トレンドであれば、カギ足がまだ上方向の状態であること
- 下降トレンドであれば、カギ足がまだ下方向の状態であること
もしローソク足上の押し目が深くなり、カギ足まで方向転換してしまっている場合、そのエントリーは見送ります。これにより、「押し目のつもりで入ったら、実はトレンド転換だった」という典型的な失敗パターンを減らせます。
ステップ4:利確と損切りのルール
利確と損切りは、ローソク足とカギ足の両方を組み合わせて決めます。
- 損切り候補:直近のカギ足の反転水準、あるいはローソク足の直近安値/高値
- 利確候補:次のレジスタンスライン/サポートライン、またはリスクリワード比2:1以上などの固定幅
例えば上昇トレンドで買いエントリーした場合、カギ足が下方向に転換したタイミングで一部または全てを決済する、という運用も有効です。これにより、「トレンドが崩れたら即撤退」というシンプルなルールを実装できます。
転換幅の設定と相場環境別のチューニング
カギ足チャートの最重要パラメータは転換幅です。転換幅が小さすぎるとノイズが増え、大きすぎるとシグナルが遅くなります。ここでは株・FX・暗号資産での大まかな目安例を示します。
株式(現物・信用)
- 日足ベースのトレンド確認なら、平均的な1日の値幅の30〜50%程度を目安
- ボラティリティの高い成長株では、やや大きめに設定してダマシを減らす
- ボラティリティが低いディフェンシブ銘柄では、小さめに設定して細かいトレンドも拾う
FX(主要通貨ペア)
- USD/JPYなら、1時間足で0.3〜0.5円、4時間足で0.5〜1.0円程度が一つの目安
- EUR/USDなどの小数点4桁通貨は、平均的な1日のATRの30〜40%程度
- ロンドン時間やNY時間など、値動きが活発な時間帯のボラティリティに合わせて調整
暗号資産(BTC、ETHなど)
- 非常にボラティリティが高いため、転換幅は「価格の絶対値」ではなく「%」で考えると管理しやすい
- たとえばBTCなら、直近30日の平均値動きを参考に2〜3%程度からテストする
- デイトレードなら小さめ、スイングなら大きめの転換幅でトレンドの骨格だけを見る
カギ足チャートでよくある失敗パターンと回避策
失敗1:カギ足だけで完結させようとする
カギ足はトレンドの方向や強弱を把握するのに優れたツールですが、エントリーや利確・損切りの具体的な水準を決めるにはローソク足や他の指標も有効です。カギ足単体で売買サインを決めようとすると、どうしてもタイミングが曖昧になりがちです。
回避策:カギ足は「大きな流れのフィルター」と割り切り、エントリーの細かい条件は移動平均線やサポート・レジスタンスなどで補完します。
失敗2:転換幅を頻繁にいじりすぎる
過去チャートを見ながら、「この局面では転換幅を小さくした方がよかった」「この時は大きくした方がよかった」と後付けで設定を変え続けると、結局一貫性のないルールになり、再現性が失われます。
回避策:銘柄ごと・時間軸ごとにルールを決め、一定期間は同じ転換幅で運用し、検証結果に基づいてのみ見直します。
失敗3:レンジ相場で無理にトレンドを追おうとする
カギ足はトレンド相場でこそ真価を発揮します。明らかなレンジ相場でトレンドフォローを狙おうとすると、反転が多発し、カギ足の方向も何度も切り替わってしまいます。
回避策:レンジ相場ではカギ足の高値・安値に水平線を引き、「レンジブレイクが起こったときだけ」カギ足戦略を発動する、といった条件を加えます。あるいは、ATRやボリンジャーバンドのバンド幅などを併用し、トレンド相場かどうかを事前に判定するのも有効です。
カギ足と他のテクニカル指標の組み合わせアイデア
カギ足はシンプルなトレンド可視化ツールであるため、他のテクニカル指標との組み合わせ相性も良好です。いくつか実用的な組み合わせ例を挙げます。
1. カギ足 × 移動平均線
カギ足で大きな方向を確認し、ローソク足上の移動平均線(SMAやEMA)で押し目・戻りのタイミングを測ります。トレンド方向と逆向きに価格が移動平均線まで戻ったタイミングで、カギ足がまだ方向維持していればエントリー候補となります。
2. カギ足 × ATR
ATR(平均真幅)を使って、その銘柄の「最近の標準的な値動き幅」を把握し、転換幅の初期値に設定する方法です。たとえば、日足ATRが50円の銘柄に対して、転換幅をATRの0.6〜1.0倍にするといった形で定量的に決めておくと、感覚に頼らない設定ができます。
3. カギ足 × ボリューム(出来高)
カギ足が上昇方向に伸びている局面で、同時に出来高が増加している場合、そのトレンドには参加者が多く、持続性が期待できる可能性があります。逆に、出来高が伴わないトレンドは、短期的な仕掛けやアルゴ取引によるものかもしれず、慎重な対応が必要です。
実際のトレードへの落とし込み方
最後に、カギ足チャートを自分のトレードスタイルに組み込むための現実的なステップを整理します。
- 取引している市場(株、FX、暗号資産)ごとに、代表的な銘柄・通貨ペアを1〜2つ選ぶ
- それぞれについて、日足と自分がよく見る時間軸(1時間足など)でカギ足チャートを表示する
- 過去3〜6か月分のチャートをスクロールしながら、「トレンドがきれいに出ていた局面」と「ダマシが多かった局面」を観察する
- ATRや平均的な日中値幅を参考に、転換幅の候補を2〜3パターン用意し、どれが一番しっくりくるか検証する
- トレンドフォロー戦略のルール(エントリー条件、決済条件、損切り条件)を文章レベルで明文化する
- 少額またはデモ口座で、カギ足を組み込んだ戦略を一定期間試し、結果を記録する
このプロセスを踏むことで、「なんとなく良さそうだから使う」のではなく、「自分の戦略の中でどの役割を担わせるか」を明確にできます。
まとめ:カギ足はトレンドの輪郭をつかむためのレンズ
カギ足チャートは、ローソク足では見えにくいトレンドの骨格を浮かび上がらせるツールです。時間のノイズを排除し、価格変動だけに集中することで、「どちらの方向に力が偏っているのか」を直感的に把握できます。
一方で、カギ足だけで売買を完結させるのではなく、移動平均線やATR、サポート・レジスタンス、出来高などと組み合わせて使うことで、精度と再現性を高めることができます。株、FX、暗号資産のいずれにおいても、トレンドフォロー型の戦略と非常に相性が良いため、まずは主要な銘柄・通貨ペアで試し、自分のトレードスタイルに合うかどうかを検証してみるとよいでしょう。


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