テクニカル指標というと、価格の移動平均線やRSIなど「値動き」ばかりに注目しがちですが、実際の相場を動かしているのは「どれだけの資金が流れ込んでいるか」という出来高です。出来高を平均してトレンドとして捉える指標が、VMA(Volume Moving Average:出来高移動平均)です。
VMAは単体で派手なシグナルを出すタイプの指標ではありませんが、「この上昇は本物か」「このブレイクアウトは続きそうか」といった、儲けに直結する判断を裏付けるために非常に役立ちます。本記事では、株・FX・暗号資産などの個人投資家が、VMAをどのようにチャートに取り入れればいいかを、初歩から具体例まで徹底的に解説します。
VMA(出来高移動平均)とは何か
VMAとは、その名の通り「出来高の移動平均」です。価格ではなく、各足の出来高(株数、ロット数、コイン枚数など)を対象に、一定期間分を平均したものです。例えば20日VMAであれば、直近20日間の出来高の平均値をラインとして描画します。
価格チャートの下に、棒グラフで出来高を表示しているケースは多いと思います。しかし、日によって出来高の水準はバラバラなので、「今日は多いのか少ないのか」を感覚だけで判断しようとするとブレやすくなります。そこでVMAを重ねることで、現在の出来高が過去と比べてどの程度なのかを一目で把握できるようになります。
イメージとしては、出来高バーの上に「基準線」を引き、その基準を明確にしてあげるイメージです。この基準よりも上か下か、どの程度乖離しているかを見ることで、参加者が本気で動いている局面を抽出していきます。
なぜ出来高を平均するのか:VMAが教えてくれる3つのポイント
価格の移動平均線と同様に、出来高を平均することで「ノイズをならしてトレンドを見やすくする」効果があります。VMAを見ることで、主に次の3つのポイントが把握しやすくなります。
1. トレンドの「本気度」
価格が上昇していても、出来高が細っている上昇は「買い手が本気で参加していない上昇」である可能性があります。一方で、価格上昇と同時に出来高がVMAを大きく上回るようなら、「新しい資金が入り、本気の買いが入っている上昇」と判断しやすくなります。
2. ブレイクアウトの信頼性
レンジ相場の上限・下限を抜ける場面では、多くの個人投資家が飛び乗りを狙います。しかし、だましブレイクも多いのが現実です。ブレイクと同時に出来高が急増し、バーがVMAをはっきり上回っているかどうかを見ることで、「出来高を伴ったブレイク」かどうかをチェックできます。
3. トレンドの疲れと転換の兆し
強いトレンドが続いたあと、価格だけがジリジリと進んでいるのに、出来高がVMAを下回る状態が続くようなら、参加者が減ってトレンドが息切れし始めているサインと見ることができます。利確を検討するタイミングの参考になります。
VMAの基本的な計算方法と代表的な設定
計算式自体は価格の単純移動平均と全く同じです。
例えば、n期間VMAの値は、次のように計算されます。
VMA = (直近n本分の出来高の合計) ÷ n
代表的な設定としては、次のような期間がよく使われます。
- 短期:5、10
- 中期:20
- 長期:50、75
日足チャートで20VMAを使うと、直近1ヶ月程度の平均出来高が見えるイメージです。スイングトレードであれば20VMAと50VMAの組み合わせ、デイトレードであれば、5〜10VMAを使って直近数時間〜数日の出来高水準を見る、といった使い方が考えられます。
株・FX・暗号資産チャートでの具体的な読み方
ここからは、実際にチャートを見ていることをイメージしながら、VMAの読み方を具体的に説明します。対象は株・FX・暗号資産のいずれでも構いません。
ケース1:レンジ上抜け+出来高がVMAの2倍に増加
日足ベースで長く横ばいが続いていた銘柄が、ある日、レンジ上限を大陽線でブレイクしました。その日の出来高が、20日VMAの2倍以上に膨らんでいるとします。この場合、「多くの新規参加者が一気に飛びついたブレイク」と判断できます。押し目が入った場面で買いを狙う戦略に説得力が出ます。
ケース2:高値更新なのに出来高がVMAを下回る
上昇トレンドの中で、価格が前回高値をわずかに更新したものの、出来高は20日VMAを明確に下回っているケースです。この場合、「前回高値ブレイクほどの熱量はなく、買い圧力が弱まっている可能性」が示唆されます。無理にブレイク追随でエントリーするのではなく、むしろ短期の利確や警戒シグナルとして使う方が安全です。
ケース3:急落後の底打ち候補で出来高がVMAの3倍
悪材料による急落で大きく売られたあと、数日後に長い下ヒゲを伴うローソク足が出現し、その日に出来高が20日VMAの3倍以上に膨らんでいる状況を考えます。このときは「投げ売りと同時に、逆張りの大口買いがぶつかっている可能性」があります。すぐに反転する保証はありませんが、チャートパターンや他の指標と組み合わせれば、リスクを限定したリバウンド狙いのポイントとして検討できます。
シンプルな売買戦略のアイデア:VMA×ブレイクアウト
初心者でも比較的扱いやすいのが、「価格のブレイクアウト」と「出来高のVMA超え」をセットで条件にするシンプルな戦略です。あくまで一例ですが、次のようなルールが考えられます。
買いエントリーの例
- 日足チャートで、直近20日間の高値ライン(レジスタンス)を終値ベースで上抜けた。
- ブレイクした日の出来高が20日VMAの1.5倍以上。
- 直近数日で、価格の移動平均線(例:20日SMA)が上向きに転換している。
この条件を満たした場合、単なる「なんとなくの上抜け」ではなく、多くの市場参加者が意識した水準を、まとまった資金が貫いた可能性が高くなります。エントリー後は、直近安値や20日移動平均線割れなどを損切りラインとし、リスクリワード比をあらかじめ決めておくと、感情に振り回されにくくなります。
売り(手仕舞い)判断の例
- 上昇トレンド中、価格は高値を更新しているが、出来高が20日VMAを下回る日が増えてきた。
- さらに、直近の高値更新日に、出来高が前回高値更新日より明らかに少ない。
このような場合、トレンドが「勢いのない延命フェーズ」に入っている可能性があります。一部利確やトレーリングストップの引き上げなど、防御的な対応を検討するサインとして活用できます。
VMAが機能しやすい相場・機能しにくい相場
どんな指標にも得意・不得意があります。VMAが特に力を発揮するのは、次のような局面です。
機能しやすい局面
- 明確な材料(決算、政策発表、新サービス、上場ニュースなど)が絡むトレンド相場
- 長く出来高が少ないレンジが続いた後のブレイクアウト局面
- 個別銘柄や特定の通貨ペア、テーマ銘柄に資金が一気に集中するフェーズ
一方で、次のような薄商いのレンジでは、VMAを見ても有効なシグナルが出にくくなります。
機能しにくい局面
- 参加者が極端に少ない時間帯(FXの早朝、暗号資産の一部アルトコインなど)
- 出来高自体が非常に少なく、VMAがほぼフラットになっているとき
- アルゴリズム取引がメインで、短期的な出来高の出入りがノイズだらけの銘柄
こうした局面では、VMAだけで判断せず、トレンド系指標やボラティリティ指標など、他のフィルターを重ねることで精度を高める方が現実的です。
他の指標との組み合わせ方:価格のシグナルを「出来高で確認」する
VMA単体で売買シグナルを完結させるよりも、「他の指標から出たシグナルを出来高で裏付ける」使い方が現実的であり、実務的にも有用です。代表的な組み合わせをいくつか挙げます。
1. 移動平均線クロス × VMA
短期移動平均線が長期移動平均線を上抜けるゴールデンクロスは、多くの投資家に知られたシグナルです。しかし、だましも多いのが実情です。そこで、ゴールデンクロスが起きた前後数日で、出来高が20日VMAを上回っているかどうかを確認します。出来高を伴うクロスであれば、トレンド転換の信頼度が一段と高まります。
2. ボリンジャーバンドスクイーズ × VMA
ボリンジャーバンドのスクイーズ(バンドの収縮)は、「大きな動きの前兆」として知られますが、どちらに抜けるかは分かりません。バンドブレイクと同時に出来高がVMAを明確に上回った場合、その方向へのトレンドがしばらく続く可能性が高まります。逆に、ブレイクしたのに出来高が伴わない場合は、だましの可能性を疑うべきです。
3. RSIダイバージェンス × VMA
価格は安値更新しているのにRSIは切り上がっている、といったダイバージェンスは、トレンド転換のサインとされます。この場面で、安値更新の日の出来高がVMAを下回っている場合、「売りのエネルギーが弱まっている」ことの裏付けになります。逆張りエントリーを検討する際の安心材料になります。
よくある失敗パターンと注意点
VMAを使い始めた初心者が陥りやすいポイントも整理しておきます。
1. 「出来高が多い=必ず良いシグナル」と思い込む
出来高の急増は、「大口が動いた」という意味ではありません。悪材料を受けたパニック売りでも、出来高は大きく膨らみます。重要なのは、価格の方向と出来高の増減がどう連動しているかです。価格が上昇しているのか下落しているのか、ヒゲの形はどうか、終値はどの位置かといった、ローソク足の情報とセットで判断する必要があります。
2. 短期足でノイズを追いすぎる
1分足や5分足など超短期の足でVMAを見ると、アルゴリズム注文によるノイズを大量に拾ってしまいがちです。初心者のうちは、まず日足や1時間足など、ある程度落ち着いた時間軸でVMAを活用する方が、シンプルで分かりやすくなります。
3. 出来高データの性質の違いを意識しない
株式市場では取引所ごとに出来高が公表されていますが、FXでは実際の全市場の出来高は把握できません。多くのFXプラットフォームで表示される出来高は「ティック数」、つまり値動きの回数に近い概念です。暗号資産も取引所ごとに出来高が分かれているため、「どの市場の出来高を見ているのか」を意識する必要があります。
TradingViewなどでの実装イメージ
多くのチャートツールには、標準でVMAが用意されていない場合もありますが、出来高に移動平均を重ねる機能があれば簡単に再現できます。例えば次のような手順をイメージしてください。
- チャートに「Volume(出来高)」インジケーターを追加する。
- Volumeに対して「移動平均(SMA)」を適用する、あるいは「出来高の移動平均」といったカスタムインジケーターを選択する。
- 期間を20に設定して20VMAを描く。必要に応じて50VMAも追加する。
- 出来高バーが20VMAを明確に上回った日には、チャート上にマークを付けておく。
もし自分でスクリプトを書く場合も、ロジックは非常にシンプルです。「vma = volumeの移動平均」で1行書けるレベルなので、バックテストに組み込みやすい指標と言えます。
まとめ:VMAで「本物の動き」と「ノイズ」を見分ける
VMA(出来高移動平均)は、価格ではなく出来高に移動平均を適用した、非常にシンプルな指標です。しかし、シンプルであるがゆえに応用範囲が広く、ほとんどのテクニカル戦略に組み込むことができます。
- ブレイクアウトが本物かどうかを見極める。
- トレンドの勢いが続くのか、息切れしつつあるのかを確認する。
- 逆張りを狙う局面で、売り・買いのエネルギーが弱まっているかどうかを裏付ける。
こうした使い方を通じて、単なる「チャートの模様当て」から一歩進んだ、資金の流れを意識したトレードに近づくことができます。価格系指標だけでは判断が難しい場面でも、VMAを併用することで、「どこで勝負し、どこで引くべきか」の判断精度を高めていくことができます。まずは日足チャートに20VMAを重ね、過去の大きな値動きの局面で出来高がどう変化していたかを観察してみるところから始めてみるとよいでしょう。


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