オシレーター系指標の中でも、RSIダイバージェンスは「チャートの裏側で相場の勢いが失われている瞬間」を教えてくれる強力なサインです。ただし、形だけを追いかけて適当にエントリーすると、逆行に巻き込まれてすぐに損切りに追い込まれます。本記事では、RSIダイバージェンスを初心者でも再現しやすい形に落とし込みつつ、株・FX・暗号資産で共通して使えるシンプルな戦略として解説します。
RSIダイバージェンスとは何か
まず、ダイバージェンスという言葉は「乖離」「食い違い」という意味です。チャートでは、価格の動きとインジケーターの動きが逆方向に進んでいる状態を指します。RSIダイバージェンスとは、そのインジケーターとしてRSI(相対力指数)を使うパターンです。
RSIは0〜100の範囲で推移し、「買われすぎ」「売られすぎ」を視覚的に示すオシレーター系指標です。一般的には70以上で買われすぎ、30以下で売られすぎとされますが、ダイバージェンスではこのラインだけでなく、高値・安値の切り上げ/切り下げに注目します。
典型的な強気ダイバージェンスは次のような形です。
- 価格:安値を更新している(安値切り下げ)
- RSI:安値を更新できず、むしろ安値が切り上がっている
つまり、「チャート上はまだ売られているように見えるが、RSI上は売りの勢いが弱まっている」状態です。これは下落トレンドが終わりかけているサインと解釈できます。
なぜRSIダイバージェンスが機能しやすいのか
RSIダイバージェンスが注目される理由は、価格だけでは見えない「勢いの減速」を早めに捉えられるからです。トレンドの終盤では、次のような現象が起こりやすくなります。
- 新しい高値・安値は更新しているが、その値幅が小さくなる
- 出来高が徐々に細り、参加者が減ってくる
- 一方向のトレンドに乗っていた勢いが鈍くなり、戻りが大きくなる
RSIは価格の変化量を元に計算されるため、こうした「値動きの鈍り」を敏感に反映します。価格は高値更新していても、RSIは高値を更新できないことがあります。これが弱気ダイバージェンスです。
特に個人投資家にとって重要なのは、天底をピンポイントで当てるのではなく、転換しやすいゾーンを絞り込むことです。ダイバージェンスはその「ゾーン候補」を示すツールとして非常に優秀です。
RSIの基本設定とチャート準備
RSIダイバージェンスを使う前提として、まずRSI自体の設定とチャートの時間軸を決めます。
RSIの一般的な設定値
- 期間:14(デフォルト設定が多く、迷ったら14で良い)
- 買われすぎライン:70
- 売られすぎライン:30
ダイバージェンスだけを見る場合、必ずしも70・30を超える必要はありませんが、極端なゾーンに近いほど転換の信頼性は高まりやすくなります。
時間軸の選び方
- 株式のスイングトレード:4時間足〜日足
- FXのデイトレード:15分足〜1時間足
- 暗号資産の短期トレード:1時間足〜4時間足
あまり短すぎる時間足(1分足など)では、ノイズだらけでダイバージェンスが多発し、使い物にならないことが多いです。まずは1時間足や4時間足など、ある程度落ち着いた時間軸から始めることをおすすめします。
代表的なRSIダイバージェンス4パターン
RSIダイバージェンスには大きく分けて4つのパターンがあります。それぞれ、トレンド転換を狙うものと、トレンド継続を狙うものに分かれます。
1. 通常の強気ダイバージェンス(ボトム転換狙い)
- 価格:安値を更新(安値2が安値1より下)
- RSI:安値を更新できず、安値2が安値1より上
下落トレンドの終盤でよく現れます。売り方が最後の力を振り絞って安値を更新したものの、勢いが続かず、買い勢力が徐々に強くなっている状態です。
FXの例として、ドル円1時間足で、110.00 → 109.50と安値更新をしたのに、RSIは前回の安値が25、今回の安値が30だったとします。この場合、RSIは売られすぎ圏からの切り上げを示しており、「売りエネルギーが前回より弱い」と判断できます。
2. 通常の弱気ダイバージェンス(トップ転換狙い)
- 価格:高値を更新(高値2が高値1より上)
- RSI:高値を更新できず、高値2が高値1より下
上昇トレンドの終盤でよく現れます。買い方が高値を更新しているものの、RSIは過去のピークを超えられず、勢いが鈍化している状態です。株式で決算後の急騰が一服し、出来高が減りながら高値更新をしている局面でよく見られます。
3. 隠れ強気ダイバージェンス(押し目買いのサイン)
- 価格:安値2が安値1より上(押し安値を切り上げ)
- RSI:安値2が安値1より下(RSIだけ安値更新)
これはトレンド継続を示すサインです。価格は上昇トレンドの押し目を作っているだけなのに、RSIは一時的に大きく売られたように見える状態です。強い上昇トレンドの押し目買いポイントとして活用できます。
4. 隠れ弱気ダイバージェンス(戻り売りのサイン)
- 価格:高値2が高値1より下(戻り高値を切り下げ)
- RSI:高値2が高値1より上(RSIだけ高値更新)
下降トレンドの戻り局面で現れることが多く、戻り売りポイントの候補となります。価格は下落トレンドを維持しながら、一時的に買いが強まっているだけと解釈できます。
実践的なエントリー戦略:転換パターン
ここからは、実際にトレードに落とし込む手順を具体的に解説します。まずは分かりやすい通常の強気・弱気ダイバージェンスによる転換狙いから見ていきます。
手順1:環境認識で「行き過ぎたトレンド」を探す
いきなりダイバージェンスだけを探すのではなく、まずはトレンドが長く続きすぎているチャートを探します。例えば、
- FXなら、同じ方向に大きなローソク足が連続している通貨ペア
- 株式なら、決算や材料後に急騰・急落して日足が連続している銘柄
- 暗号資産なら、ニュースやSNSで話題になって一方向に動き続けた銘柄
このような「行き過ぎ」の後半で現れるダイバージェンスの方が、転換の確度が高まりやすくなります。
手順2:RSIダイバージェンスを確認する
行き過ぎたトレンドを見つけたら、RSIに切り替えて次のポイントを確認します。
- 価格が高値(または安値)を更新しているか
- そのとき、RSIが前回の高値(または安値)を更新できていないか
- RSIの値が50ラインからどの位置にあるか
特に転換狙いでは、RSIが70付近からの切り下げ・30付近からの切り上げを伴っていると信頼度が上がります。
手順3:レジスタンス・サポートと組み合わせてエントリー
ダイバージェンスだけで飛び乗るのは危険です。実際のエントリーでは、レジスタンスライン・サポートライン、トレンドラインなどと組み合わせることで精度を高めます。
例えば弱気ダイバージェンスなら、
- 価格が過去のレジスタンスゾーンに接近している
- RSIが70付近から高値切り下げ
- 直近の上昇トレンドラインを下抜けるタイミング
この3つが揃うタイミングで売りエントリーを検討します。損切りは直近高値の少し上に置き、リスクリワードが1:2以上になるポイントに利確目標を置きます。
実践的なエントリー戦略:トレンドフォロー型
次に、隠れダイバージェンスを使ったトレンドフォロー戦略です。これは一見難しそうですが、ルール化すれば初心者でも再現しやすい手法になります。
上昇トレンドでの隠れ強気ダイバージェンス
例として、暗号資産のビットコイン4時間足を想定します。
- 価格は移動平均線の上で推移し、押し目を作りながら高値を更新している
- 押し目2の安値は押し目1より上(安値切り上げ)
- しかしRSIは押し目2で一時的に押し目1より低い値まで下落
この形は、価格はトレンドを維持しているのに、RSIだけが一時的に行き過ぎて売られた状態です。押し目買いを狙うには非常に良いサインになります。
実際のエントリーは、
- 押し目2の安値からの反発で直近高値をブレイクしたタイミング
- もしくは短期の下降トレンドラインを上抜けたタイミング
など、明確な価格アクションを確認してからにします。ストップは押し目2の安値の少し下に置きます。
損切り・利確・ポジションサイズの考え方
RSIダイバージェンスは勝率を高めるための武器ですが、損切りと利確のルールがなければ意味がありません。初心者ほど「どこで切るか」「どこまで待つか」を曖昧にしてしまいがちなので、シンプルな基準を決めておきます。
損切りの基準
- 強気ダイバージェンスの買い:直近の安値の少し下
- 弱気ダイバージェンスの売り:直近の高値の少し上
- 隠れダイバージェンス:トレンド継続の前提が崩れたポイント
「少し下/上」とは、FXなら数pips〜十数pips、株なら直近安値(高値)から1〜2ティック、暗号資産ならボラティリティに応じた幅など、市場に応じて調整します。
利確の基準
- 直近のレジスタンス・サポートゾーン
- リスクリワード比が1:2以上になる価格
- RSIが再び極端なゾーン(70付近・30付近)に到達したポイント
一部利確とトレailingストップを組み合わせると、勝ちトレードを伸ばしつつ、含み益を守ることができます。
RSIダイバージェンスのフィルター条件
ダイバージェンスは頻繁に発生するため、すべてをトレードしていては負けが積み上がります。そこで、フィルター条件を決めて「本当に質の高いセットアップだけを狙う」ことが重要です。
移動平均線との組み合わせ
シンプルなのは、移動平均線で大きなトレンド方向を確認する方法です。
- 価格が長期移動平均線の上にあるなら、強気ダイバージェンスを優先
- 価格が長期移動平均線の下にあるなら、弱気ダイバージェンスを優先
こうすることで、トレンド方向と逆向きの荒い転換狙いを減らし、トレンドに沿ったエントリーが増えます。
ボラティリティと出来高
ATRや出来高インジケーターでボラティリティと参加者の多さを確認するのも有効です。
- ATRが極端に低いレンジ相場ではダイバージェンスの信頼度が下がる
- 出来高がほとんどない銘柄では、そもそもテクニカルが機能しにくい
特に株式やマイナーな暗号資産では、出来高の少なさが原因で「綺麗な形なのに全然動かない」ケースが多いので注意が必要です。
よくある失敗パターンと回避策
RSIダイバージェンスでよくある失敗は、次のようなパターンです。
- 強烈なトレンド相場の途中で何度も逆張りしてしまう
- 小さな時間足だけを見て頻繁にエントリーしてしまう
- レジスタンス・サポートを無視して、RSIだけで判断する
これらを避けるためには、
- 上位時間足(4時間足・日足)でトレンド方向を確認する
- 強いトレンド中は「隠れダイバージェンスで押し目・戻りを狙う」ことを優先する
- 価格の節目(高値・安値、レジサポゾーン)と組み合わせて判断する
特に初心者のうちは、「ダイバージェンスが見えたから即エントリー」ではなく、価格アクションが転換を裏付けるのを待つ意識を持つと、無駄なエントリーが大きく減ります。
時間軸別の使い分け
最後に、時間軸ごとの使い分けをまとめます。
- スキャルピング:1分足〜5分足ではダマシが多いため、ダイバージェンス単体での利用は難易度が高い
- デイトレード:15分足〜1時間足で、上位足(4時間足・日足)のトレンド方向を優先しつつ活用
- スイングトレード:4時間足〜日足で、材料やニュースの後の行き過ぎた動きの転換狙いに有効
まずはデイトレ〜スイングの中間である1時間足前後から練習し、自分が視覚的に「この形は分かりやすい」と感じる時間軸を見つけることが重要です。
検証のすすめ:自分の型を作る
RSIダイバージェンスは多くのトレーダーが使う手法ですが、本当に武器になるかどうかは自分で検証した量に比例します。チャートソフトのリプレイ機能や過去チャートを使い、次のような形で記録を取ってみてください。
- どの時間足で最もきれいに機能したか
- どの市場(株、FX、暗号資産)で勝ちやすかったか
- どのフィルター(移動平均線、出来高、レジサポ)が特に有効だったか
例えば過去100サンプルのRSIダイバージェンスを抽出し、自分のルールでエントリーしたと仮定して結果を集計すれば、その手法がどの程度の勝率・損益率を持つのかが見えてきます。これがいわゆる「エッジ」を確認する作業です。
まとめ
RSIダイバージェンスは、価格だけでは見えない「勢いの変化」を教えてくれる強力な武器です。ただし、形だけを機械的に追いかけるのではなく、
- 行き過ぎたトレンドの終盤で使う(環境認識)
- レジスタンス・サポートやトレンドラインと組み合わせる
- 損切り・利確ルールを事前に決めておく
- 移動平均線や出来高などでフィルターをかける
といった工夫を加えることで、実際のトレードに耐えうる戦略になります。まずはデモ口座や少額から試し、自分なりの「勝ちパターン」をチャート上にストックしていくことが、長く生き残るための近道です。


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