ローソク足や移動平均線はよく知られていますが、「カギ足チャート」は日本発の伝統的なチャートでありながら、個人投資家にはあまり知られていない指標です。しかしカギ足は、値動きの「方向」と「転換」に特化しており、ノイズの多い相場の中からトレンドだけを抽出するのに非常に便利なツールです。
本記事では、株、FX、暗号資産などあらゆる相場で使えるカギ足チャートの仕組みと、実際のトレードでどう活用すれば利益につながりやすいのかを、初心者にも分かるように丁寧に解説します。ローソク足とは発想がかなり違うため、最初は少し戸惑うかもしれませんが、一度ルールを理解すると「トレンドフォローの武器」として非常に使いやすくなります。
カギ足チャートとは何か:時間を捨てて値動きだけを見る発想
カギ足チャートは、時間の経過を一切考慮せず、「一定以上の値動きが出たときだけ」線を更新する特殊なチャートです。通常のローソク足は1本が1時間、1日など時間で区切られますが、カギ足は「値幅」で区切られます。このため、値動きが少ないレンジ相場ではほとんど形が変わらず、大きく動いたときだけチャートが更新されます。
カギ足は、上昇方向の線と下降方向の線を交互に描き、一定幅以上の逆行が起きたときに折れ曲がって「カギ」のような形になります。この折れ曲がりがトレンド転換のサインとなるため、トレンドフォロー型の投資家にとって非常に分かりやすい構造になっています。
カギ足チャートの基本ルール
カギ足チャートを理解するには、まず「転換値幅」を決める必要があります。転換値幅は、どれだけ逆方向に動いたら線を折り返すかを決める値幅で、例えば株価が2,000円の銘柄なら「50円」や「100円」、FXなら「20pips」など、銘柄のボラティリティに合わせて設定します。
基本的な描画ルールは以下の通りです。
1. 最初のカギ足は、スタート価格から上昇方向か下降方向か、最初に一定値幅以上動いた方向に向かって引く。
2. その後、同じ方向に動き続ける限り、カギ足は同じ方向に延長される。
3. 逆方向に動いたとしても、転換値幅に達しない限りカギ足は転換しない(ノイズは無視)。
4. 逆方向への値動きが転換値幅以上になったとき、カギ足は折り返して逆方向の新しい線を描き始める。
5. カギ足が直近の高値(または安値)を更新すると、その線は「太線」や「実線」など、強いトレンドを示す特別な線に変化させることがあります(ツールによって表現は異なる)。
このように、カギ足では「方向」と「値幅」にのみ注目し、時間の経過を完全に無視します。そのため、無駄なヒゲや小さな押し戻しに振り回されにくいのが特徴です。
なぜカギ足はトレンドフォローと相性が良いのか
トレンドフォロー戦略の本質は、「上がっているものを買い、下がっているものを売る」というシンプルな考え方です。しかし実際のチャートでは、上昇トレンドの中にも小さな押し目や乱高下が混じっており、どこまでが単なるノイズで、どこからが本格的なトレンド転換なのかを見極めるのが難しくなります。
カギ足は、この「ノイズをどこまで許容するか」を、転換値幅という形で明確に数値化してくれるツールです。例えば、日経平均先物で1カギ200円に設定した場合、200円以内の押しはすべてノイズとして無視され、200円以上の押しが入ったときに初めてチャートが折り返します。これにより、小さな押し目で慌てて手仕舞いしてしまうミスを減らし、「大きな流れが変わったときだけ」ポジションを反転する、というブレない運用がしやすくなります。
カギ足の具体的な読み方:高値更新・安値更新に注目する
カギ足チャートでは、特に次の2点に注目します。
1. 太線(または強気線)か細線(弱気線)か
多くの解説では、直近高値を更新した上昇カギ足を太線、直近安値を更新した下降カギ足を太線として描き分けます。太線が続いている間は、トレンドが強く継続している状態です。例えば、カギ足チャートで太線が3本以上連続しているような状態は、典型的な強いトレンド相場だと判断できます。
2. カギ足の折り返し位置
カギ足が折り返した場所は、市場参加者の「我慢の限界」が現れたポイントです。上昇トレンドなら、「ここまで押されるとさすがに上昇は一服」と多くが感じる価格帯で折り返しが起こります。この折り返しポイントは、ローソク足チャートでもサポート・レジスタンスとして機能しやすく、押し目買いや戻り売りの水準として活用できます。
実践例:FXでカギ足を使ったトレンドフォロー戦略
ここでは、FXのドル円を例に、カギ足を使ったシンプルなトレンドフォロー戦略を紹介します。時間軸は4時間足をベースにしつつ、カギ足チャートは「20pips転換」で表示する、という組み合わせを考えます。
ステップ1:カギ足チャートを表示する
トレーディングプラットフォームによってはカギ足が標準搭載されていないこともありますが、TradingViewなどでは「Kagi」で検索するとインジケーターとして表示できます。転換値幅を「ATRベース」ではなく「固定値」に設定し、20pipsなど自分のトレードスタイルに合った値幅に調整します。
ステップ2:太線の方向にだけポジションを取る
上昇トレンド中は太線の上昇カギが続くため、「太線=その方向に優位性がある」とみなし、太線が上向きのときは買いのみ、太線が下向きのときは売りのみ、と決めます。これだけでも逆張りの無駄なトレードをかなり減らすことができます。
ステップ3:折り返し直後ではなく、再度カギが伸び始めたところでエントリー
例えば、上昇トレンド中に一度下降方向に折り返し、その後再度上昇方向のカギが出てきた場面は、「押し目完了」のサインとして使えます。下降カギが終わり、上向きの新しいカギが伸び始めたタイミングで買いエントリーし、直近の折り返し安値の少し下に損切りラインを置く、という形です。
ステップ4:反対方向の太線が出たら手仕舞い
上昇トレンド中は上向き太線が続きますが、やがて大きめの押しが入り、下降方向のカギが直近安値を更新して太線に変わる瞬間があります。このとき、「上昇トレンドはいったん終わった」と判断してポジションを手仕舞います。必要以上に天井を狙わず、「トレンドが崩れたら淡々と降りる」というルールを徹底することが大切です。
株式投資への応用:日経平均や大型株でノイズをカットする
カギ足は、FXだけでなく株式市場でも有効です。特に日経平均やTOPIX連動ETF、大型株のように出来高が多く、日々のノイズが大きい銘柄では、カギ足によってトレンドが非常に見やすくなります。
例えば、日経平均先物のカギ足を「200円転換」で表示し、上向き太線が続いている間は押し目買いに徹する、下降太線が続いている間は戻り売りに徹する、といった形で運用します。このとき、ローソク足チャートと併用して、押し目候補として日足の25日移動平均線や直近のサポートラインを重ねて確認すると、エントリーポイントの精度が上がります。
個別株の場合も、ボラティリティに応じて転換値幅を調整します。株価1,000円前後の銘柄なら「20〜30円」、5,000円クラスの銘柄なら「100円」など、過去チャートを見ながら「ちょうどいいノイズカット具合」になるよう調整すると良いでしょう。
暗号資産(仮想通貨)でのカギ足活用:ボラティリティの大きさを味方にする
ビットコインやアルトコインは、株やFXに比べてボラティリティが大きく、ローソク足チャートではノイズが多すぎて方向感をつかみにくい場面がよくあります。カギ足は、こうした荒い値動きを整理して見せるのに特に向いています。
例えば、ビットコインのチャートで、1カギを「500ドル」や「1,000ドル」といった大きめの値幅に設定すると、細かな上下動をすべて捨てて、本当に意味のあるトレンドだけが残ります。結果として、「大きな上昇トレンドが出ているのか」「まだ調整中なのか」「すでにトレンド転換しているのか」が直感的に分かるようになります。
暗号資産では、ニュースやイベントで瞬間的に急騰・急落し、その後に元の水準へ戻るケースも珍しくありません。カギ足であれば、短時間の急騰が転換値幅に届かなければチャート上は「何もなかったこと」になり、本当に重要なトレンドだけに集中できます。
転換値幅の決め方:固定値かATRベースか
カギ足を実戦で使ううえで最も重要なのが「転換値幅の設定」です。値幅が小さすぎるとノイズに反応しすぎてしまい、ローソク足とあまり変わらないゴチャゴチャしたチャートになります。一方、大きすぎると転換がほとんど起こらず、エントリーとエグジットのタイミングが極端に少なくなってしまいます。
1. 固定値で決める方法
もっともシンプルなのは、銘柄ごとに「このくらい動けば一つの波」と感じられる値幅を固定値として設定する方法です。例えば、日経平均なら200円、ドル円なら20pips、ビットコインなら500ドル、といった具合です。過去のチャートを見ながら、「だいたいこの値幅で一山できているな」という感覚に近づけていくと、自然と自分に合った設定が見えてきます。
2. ATR(Average True Range)を使う方法
より相場のボラティリティに自動追従させたい場合は、ATRの何倍かを転換値幅にする方法もあります。例えば、日足ATRの0.5倍を1カギの値幅にすると、相場が落ち着いているときは細かく、荒れているときは荒れた分だけ大きな値幅でカギ足が描かれます。これにより、「静かな相場では細かく、荒れた相場では大雑把に」というバランスが自動的に取れます。
カギ足と他のテクニカル指標を組み合わせるアイデア
カギ足単体でもトレンドフォローには十分使えますが、他のテクニカル指標と組み合わせることで、エントリー・エグジットの精度をさらに高めることができます。
1. カギ足 × 移動平均線
ローソク足チャートに移動平均線(例えば20日線や50日線)を表示しつつ、別ウィンドウでカギ足チャートの方向を確認する方法です。カギ足が上向き太線のときに、ローソク足が移動平均線付近まで押してきたところを押し目買い候補とみなし、反対にカギ足が下向き太線のときに、ローソク足が移動平均線まで戻してきたところを戻り売り候補とする、といった使い方ができます。
2. カギ足 × RSIやストキャスティクス
カギ足が強い上昇トレンドを示しているのに、RSIやストキャスティクスが一時的に売られすぎゾーンから反転し始めた場面は、「トレンド方向への押し目買いチャンス」となりやすいです。逆に、カギ足が下降太線の中でオシレーターが一時的に買われすぎゾーンから下落し始めた場面は、トレンド方向への戻り売りチャンスとなります。
よくある失敗パターンと注意点
カギ足は便利なツールですが、使い方を誤ると期待した成果が得られません。よくある失敗パターンをいくつか挙げます。
1. 転換値幅を頻繁に変えすぎる
「もう少し早く転換を捉えたい」「やっぱりノイズが多いから広げたい」と、チャートを見るたびに転換値幅をいじってしまうと、過去の検証も意味がなくなり、最適解がいつまでたっても見つかりません。いったん自分なりの基準を決めたら、しばらくは同じ設定で運用し、検証結果を冷静に評価することが大切です。
2. カギ足だけを見て全てを判断しようとする
カギ足はトレンドの方向をシンプルに見せるツールですが、出来高やニュース、時間帯などの情報を完全に無視するのは危険です。特にFXや暗号資産では、重要指標発表の時間帯やイベント前後のボラティリティ急変には注意が必要です。カギ足はあくまで「トレンドの骨格」を見るためのツールと割り切り、他の情報と組み合わせて総合的に判断しましょう。
3. レバレッジをかけすぎる
カギ足はノイズをカットしてくれる分、「トレンドが続いている」という安心感から、ついポジションサイズを大きく取りがちです。しかし、どれだけノイズをカットしても、トレンドの急転換が起こる可能性は常にあります。損切りラインを明確に決め、1回のトレードで資金の何%まで許容するかという資金管理ルールを徹底することが重要です。
カギ足チャートを使いこなすためのステップ
最後に、カギ足を実際のトレードに取り入れるまでのステップを整理します。
1. 使う銘柄(株、FX、暗号資産)を決める。
2. 過去チャートを見ながら、「このくらい動けば一つの波」という感覚で転換値幅の候補をいくつか試す。
3. 候補の中から、トレンドの山と谷が一番分かりやすく見える設定を選ぶ。
4. カギ足の太線方向にだけポジションを取るルールを決める(上昇太線=買いのみ、下降太線=売りのみ)。
5. エントリールール(押し目・戻りの条件)と損切りルール(直近の折り返しポイントを基準)を具体的に数値化する。
6. 過去チャートで最低でも数十トレード分の検証を行い、期待値がプラスかどうかを確認する。
7. 小さなロットで実際のトレードを行い、メンタル面も含めて運用ルールを微調整する。
このプロセスを踏めば、カギ足チャートは単なる「珍しいチャート」ではなく、自分の資金を守りながらトレンドに乗るための、実戦的な武器へと変わっていきます。
ローソク足だけではつかみきれないトレンドの輪郭を、カギ足チャートでスッキリと整理してみてください。ノイズに振り回されにくくなればなるほど、感情に左右されない冷静なトレードに近づき、結果としてコツコツと利益を積み上げやすくなっていきます。


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