TRIX(トリプル指数移動平均)でトレンドの勢いを読む実践ガイド

テクニカル分析

チャートにいくつもインジケーターを表示してみたものの、「どれを信じればいいのか分からない」と感じたことはないでしょうか。そんなときに役立つのが、トレンドの方向と勢いを一度に確認しやすいTRIX(トリプル指数移動平均)です。

TRIXは、単なるオシレーターではなく、「ノイズをしっかり削ったトレンドのエッセンス」を取り出すことを狙った指標です。初心者の方でも、基本的な仕組みと使い方のポイントさえ押さえれば、移動平均線だけでは見えにくい押し目やダマシをある程度フィルタリングすることができます。

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TRIXとは何か

TRIXの定義と直感的イメージ

TRIXは、価格に対して指数平滑移動平均(EMA)を3回かけ、その結果の変化率を百分率で表したオシレーターです。数式で書くと難しく見えますが、やっていることはシンプルです。

まず、終値に対して一定期間のEMAを計算します。次に、そのEMAに対してもう一度EMAを取り、さらにもう一度EMAを取ります。つまり、同じ期間のEMAを3重にかけて、価格のノイズを徹底的に削り取ります。その後、3重EMAの前日比(変化率)を取り、0を中心としたオシレーターとして表示したものがTRIXです。

イメージとしては、「価格 → なめらかな線(EMA) → さらにツルツルにした線(2重EMA) → ほとんどノイズのない大きな流れ(3重EMA) → その傾きの変化」を数値化したものと言えます。

TRIXの特徴

TRIXには次のような特徴があります。

  • トレンドとモメンタムを同時に見られる:0ラインより上なら上昇トレンド優位、下なら下降トレンド優位とざっくり判断しつつ、TRIXの傾きやクロスで勢いの変化も確認できます。

  • ノイズが少ない:3重のEMAによって短期的なヒゲや小さな値動きがかなり削られるため、「行ったり来たり」に振り回されにくい構造になっています。

  • やや遅行性がある:ノイズを削る代わりに、シグナルはどうしても少し遅れます。そのため、スキャルピングのような超短期ではなく、「数日〜数週間」のスイングトレードやデイトレ中の波乗りと相性が良いです。

TRIXの基本的な設定と読み方

代表的な期間設定

代表的な設定は、TRIX期間14、シグナル期間9といった組み合わせです。チャートソフトによってデフォルト値は少し異なりますが、多くは「TRIX本体」と「TRIXシグナル(TRIXの移動平均)」の2本が表示されます。

  • TRIX本体:3重EMAの変化率そのもの。相場の勢いを表します。

  • TRIXシグナル:TRIX本体をさらに移動平均したもの。TRIX本体の方向転換を滑らかにした線です。

短い期間(例:8や10)に設定すると反応は速くなりますがダマシも増えます。長い期間(例:20や30)にすると反応は遅くなるものの、より大きなトレンドだけを捉えやすくなります。

0ラインとクロスの基本シグナル

TRIXでまず注目したいのは「0ライン」と「シグナルとのクロス」です。

  • 0ラインより上:上昇トレンド優位。押し目買いの方向でチャンスを探すイメージです。

  • 0ラインより下:下降トレンド優位。戻り売りの方向でチャンスを探すイメージです。

  • TRIX本体がシグナルを下から上に抜ける:買い方向のモメンタム強化。

  • TRIX本体がシグナルを上から下に抜ける:売り方向のモメンタム強化。

ただし、クロスだけを機械的に追うとダマシが多くなります。特に0ライン付近でのクロスは行ったり来たりしやすいため、後述するように「トレンドの方向」や「サポート・レジスタンス」と組み合わせてフィルタリングするのが実用的です。

株・FX・暗号資産での具体的なTRIX活用例

例1:株式の日足で押し目買いを狙う

例えば、日本株のトレンド銘柄(日経平均連動ETFや成長株)の日足チャートを考えます。価格が日足の25日移動平均線の上で推移し、全体として右肩上がりのトレンドが続いている場面を想定します。

このとき、TRIXの0ラインも基本的に上側で推移しているはずです。上昇トレンドが続く中で、一時的な調整が入り、価格が25日移動平均線付近まで押してきたタイミングで、TRIXが一度シグナルを下抜け、その後再び下から上にクロスする局面があります。

この「押し目でのTRIX再クロス」を、押し目買いの候補とするやり方があります。エントリーのイメージは次の通りです。

  • 条件1:日足で25日移動平均線が上向きで、価格がその上側で推移していること。

  • 条件2:TRIXが0ラインより上にあり、調整局面で一度シグナルを下抜けた後、再びシグナルを上抜けること。

  • 条件3:価格が直近のサポート(25日線や水平ライン)付近にあること。

これらがそろった場面は、「大きな上昇トレンドは維持されたまま、一時的な調整が終わって再び上昇方向の勢いが戻りつつある」という局面になりやすいです。利確は直近高値付近、損切りは直近安値やサポート割れに置くなど、リスクリワードを事前に決めておくと、感情に振り回されにくくなります。

例2:FXの4時間足でトレンドフォロー

FXのドル円やユーロドルなど、比較的流動性の高い通貨ペアでは、4時間足にTRIXを表示してトレンドフォローに使う方法があります。ここでは、例えばドル円の上昇トレンドを想定します。

エントリーの流れは次のようになります。

  • ステップ1:4時間足で中長期の移動平均線(例:50EMA、100EMA)が上向きで、価格がその上に位置していることを確認します。

  • ステップ2:TRIXが0ラインより上で推移していることを確認します。これにより、大きな流れが上目線であると判断します。

  • ステップ3:一時的な押しでTRIXがシグナルを下抜けた後、再び下から上へクロスしたタイミングを待ちます。

  • ステップ4:そのクロスが、4時間足のサポート(直近安値やトレンドライン)付近で発生していれば、押し目のロング候補となります。

このように、トレンド方向(移動平均線と0ライン)を条件で固定し、TRIXのクロスはあくまで「タイミング取り」に限定することで、余計な逆張りエントリーを減らすことができます。

例3:暗号資産のボラティリティの波をとらえる

暗号資産は値動きが激しいため、オシレーターのダマシも多くなります。一方で、大きなトレンドが出たときの値幅は魅力的です。ここでもTRIXは、短期のノイズをかなり削ってくれるため、「一方向に大きく動き始めた波」に乗るためのフィルターとして役立ちます。

例えばビットコインの日足チャートで、長く続いていたレンジを上抜けた後、TRIXが0ラインの下から上に突き抜ける局面があります。このとき、価格が中長期の移動平均線を一気に上抜けているようであれば、「レンジからトレンドへの転換」が起きている可能性があります。

TRIXが0ラインを越えて上昇している間は上目線を維持し、急な大陰線やニュースで一時的に押した局面で、TRIXがシグナルに軽くタッチしてから再度上向きになったところを押し目候補として検討する、という使い方ができます。

TRIXと他の指標の組み合わせ方

移動平均線との組み合わせ

TRIX単体では、「どの価格水準で入るか」という情報は弱いです。そのため、価格そのものを見る指標である移動平均線との組み合わせが基本です。

  • 中長期の移動平均線(50日線や100日線)で大きなトレンド方向を決める。

  • 短期の移動平均線(5日線や10日線)や支持線・抵抗線で価格の位置を確認する。

  • TRIXは「今、そのトレンド方向へ勢いが戻り始めているか」を確認する役割を担う。

このように役割分担を明確にすると、「移動平均線で方向、TRIXでタイミング」というシンプルでブレにくい判断軸を作りやすくなります。

ボリューム系指標との組み合わせ

TRIXは価格ベースの指標なので、「本当に大口が乗っているか」を直接教えてはくれません。そこで、出来高やOBVなどのボリューム系指標と組み合わせると信頼度が増します。

例えば、TRIXが0ラインを上抜けたタイミングで、出来高も直近平均より明らかに増えている場合や、OBVが高値を更新している場合、「トレンドの勢いに実際の資金フローが伴っている」と判断しやすくなります。

ボラティリティ指標との組み合わせ

ATRなどのボラティリティ指標と併用すれば、「そのシグナルに対してどの程度の値幅を狙うべきか」の目安も立てやすくなります。TRIXが強く上向きで、ATRも拡大している局面では、利幅を少し広めに狙う戦略も検討できます。一方で、TRIXは上向きでもATRが縮小していれば、「トレンドは続いているが値幅は徐々に縮小している」と読み取り、利確をこまめに行う判断もできます。

TRIX特有のシグナルと注意点

ダイバージェンスの活用

TRIXでも、他のオシレーター同様にダイバージェンスを見ることができます。価格が高値を更新しているのに、TRIXの高値は切り下がっている場合、トレンドの勢いが鈍ってきている可能性があります。すぐに天井と言い切ることはできませんが、「強気一辺倒から、利確の準備も意識しておくべき局面」に変わりつつあるシグナルとして参考になります。

逆に、価格が安値を更新しているのにTRIXの安値が切り上がっている場合は、下落トレンドの勢いが弱まりつつある可能性があります。戻り売り一択ではなく、ショートのポジションサイズを絞る、もしくは一部利確して様子を見るなど、防御的な対応を検討するサインになります。

レンジ相場でのTRIXの扱い

TRIXはトレンド系の要素が強いため、はっきりとしたトレンドが出ていないレンジ相場ではシグナルが頻繁に反転し、ダマシが増えます。0ライン付近でTRIXとシグナルが何度もクロスする場合、それだけトレンドがはっきりしていないことを意味します。

このような状況では、TRIXのクロスをエントリーシグナルとして使うのではなく、「いまはレンジであまり向きが出ていない」と認識するための補助材料として使い、無理に売買回数を増やさないことが重要です。

シンプルなTRIX戦略の組み立て方

ステップ1:ルールを紙に書き出す

まずは、以下のようなシンプルなルールを紙に書き出してみます。

  • 対象:日足または4時間足の、流動性のある銘柄(主要通貨ペア、指数連動ETF、時価総額の大きい暗号資産など)。

  • 方向判定:中長期移動平均線が上向き、かつ価格がその上にあるときだけ買い方向を狙う。下向きで価格が下にあるときだけ売り方向を狙う。

  • タイミング:TRIXが0ラインのトレンド方向側で推移していることを前提に、調整局面で一度シグナルを割り込み、再度クロスしたところをエントリー候補とする。

  • 利確・損切り:直近高値・安値やATRの何倍といったルールで事前に決めておく。

このように、TRIXは「方向」ではなく「タイミング」に役割を絞ることで、過剰なトレードを抑え、ルールの検証もしやすくなります。

ステップ2:過去チャートでの検証

ルールを決めたら、いきなり実弾ではなく、過去チャートで「もしこのルールで売買していたらどうなっていたか」を確認します。チャートソフトのリプレイ機能や、TradingViewのバーリプレイ機能などを使い、チャートの右側を隠しながら「その時点で見えている情報だけ」で判断してみることが大切です。

勝ちトレードと負けトレードをそれぞれ10〜20例ほど集めてみると、TRIXが機能しやすいパターンと機能しにくいパターンの共通点が見えてきます。例えば、「ニュースで急騰した後の最初の押し目は機能しやすいが、長く続いたトレンドの終盤ではダマシが多い」といった傾向です。

ステップ3:少額からの実運用と改善

過去検証で「完全ではないが、一定の手応えがある」と感じたら、次は少額から実際の取引で試してみます。ここでも大事なのは、一度決めたルールをコロコロ変えないことです。TRIXの期間やシグナル期間を細かくいじり続けると、「過去チャートにはぴったりだが、今後は通用しない」ルールになりやすいからです。

一定期間(例えば3か月や50トレード分)を一つのサンプルとして、その結果をまとめてから改善点を考えるほうが、長く続けられる戦略に育ちやすくなります。

TRIXを使ううえでのよくある勘違いと向き合い方

勘違い1:TRIXのクロスだけで勝てると考えてしまう

TRIXのクロスは視覚的に分かりやすいため、「クロスしたらエントリー、逆クロスで決済」という単純なルールに飛びつきがちです。しかし、相場はトレンドとレンジを繰り返すため、レンジではシグナルが乱発されてしまいます。

この問題への対処として、「トレンドが出ている局面に限定して使う」「サポート・レジスタンスや移動平均線の傾きでフィルタリングする」ことが重要です。TRIX単体ではなく、相場環境の認識とセットで使うことを習慣にしておくと、無用なトレードをかなり減らせます。

勘違い2:一つの指標だけに答えを求めてしまう

TRIXに限らず、どんな指標にも「得意な局面」と「不得意な局面」があります。TRIXはトレンドの勢いをとらえるのが得意な一方で、ニュースによる急変や流動性の薄い時間帯の乱高下には弱い面があります。

指標に「正解」を求めるのではなく、「トレンドが続きやすい局面を多めに拾うためのフィルター」と割り切ることで、期待値の考え方に切り替えやすくなります。

まとめ:TRIXを自分の武器にするために

TRIXは、単純な買われ過ぎ・売られ過ぎを見るオシレーターとは違い、「ノイズを削ったトレンドの勢い」を視覚化する指標です。0ラインとクロス、そして他の指標との組み合わせ方を理解すれば、移動平均線だけでは見えにくかった押し目やトレンドの減速を、より立体的に捉えやすくなります。

最初から完璧な設定やルールを見つけようとする必要はありません。まずは一つの時間軸と銘柄に絞り、「方向は移動平均線と価格」「タイミングはTRIX」といったシンプルな役割分担で、小さく検証を重ねてみてください。

TRIXの特性を理解し、自分のリスク許容度や生活リズムに合う形にカスタマイズしていくことで、相場の大きな波をとらえる一つの武器として育てていくことができます。

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