チャート分析というと、多くの個人投資家はローソク足や移動平均線ばかりに目が行きがちです。しかし、相場の「本当のトレンド」を見抜くために、ノイズを極力排除した特殊なチャートを使うプロも少なくありません。その代表格のひとつが「カギ足チャート」です。
カギ足チャートは、時間の経過ではなく「価格の変化量」だけに注目して描かれるチャートです。細かい上下動を大胆に捨てて、大きなトレンドの切り替わりだけを浮かび上がらせるため、トレンドフォロー戦略との相性が非常に良いテクニカル手法です。本記事では、株、FX、暗号資産で共通して使えるカギ足チャートの考え方と具体的な活用法を、投資初心者でも理解できるように徹底解説します。
カギ足チャートとは何か
カギ足チャート(Kagi Chart)は、日本発祥の価格足で、もともとは米相場などの値動きを把握するために考案されたと言われています。通常のローソク足と決定的に違う点は、時間の概念を捨てていることです。1本のカギ足は「1日」「1時間」といった時間ではなく、「一定幅の値動き(リバーサル幅)」によってのみ更新されます。
カギ足チャートでは、価格が上昇するときは縦線を上方向へ伸ばし、一定幅以上逆方向に動くと、折れ曲がって反対方向へ縦線を描きます。さらに、直近の高値・安値を更新すると、線の太さ(または色)を切り替えることで需給の転換を視覚的に表現します。これにより、ローソク足ではノイズに埋もれがちな「トレンド転換点」が、非常に分かりやすくなります。
カギ足の描画ルールを理解する
カギ足チャートを使いこなすには、どのようなルールで線が描かれているのかを理解することが重要です。代表的な描画ルールは次のとおりです。
1. リバーサル幅の設定
カギ足では、まず「リバーサル幅」を決めます。これは「どれくらい価格が逆行したら折り返しとみなすか」を決める値で、主に以下のような決め方があります。
- 固定値:株であれば「100円逆行したら折り返し」、FXなら「50pips逆行したら折り返し」など。
- パーセンテージ:例えば「2%以上逆行したら折り返し」といった比率指定。
- ボラティリティベース:ATR(平均真のレンジ)などを利用し、その何倍かをリバーサル幅とする方法。
リバーサル幅が小さすぎるとノイズに反応しやすくなり、カギ足のメリットが薄れます。逆に大きすぎると、トレンド転換を捉えるのが遅くなります。後述するように、銘柄のボラティリティに応じて調整することがポイントです。
2. 上昇と下降の描画
カギ足チャートは、現在のトレンド方向に縦線を伸ばし続けます。例えば、上昇トレンド中であれば、終値が前回の高値を上回るたびに上方向へ縦線を伸ばします。価格が少し下がっても、リバーサル幅に届かない限りは折り返さず、上昇方向の線はそのまま維持されます。
反対に、価格がリバーサル幅以上逆行すると、そこで初めて折り返しが発生し、線が下方向へ切り替わります。このように、小さな押し目・戻りは無視し、大きなトレンドの転換だけを描くのがカギ足チャートの特徴です。
3. 線の太さ(色)の変化
多くのチャートツールでは、カギ足の線に「太さ」または「色」の変化が設定されています。これは、次のような基準で切り替わることが一般的です。
- 価格が直近の重要高値を上抜いたら「太線(強気)」に変更
- 価格が直近の重要安値を下抜いたら「細線(弱気)」に変更
つまり、線の太さ・色は「買い優勢」か「売り優勢」かを示すシンプルなトレンド判定として使えます。ローソク足で複雑なパターンを読まなくても、線の状態だけでおおよその需給を判断できるため、初心者でも直感的に理解しやすいのが利点です。
カギ足チャートが向いている相場・向いていない相場
カギ足チャートは万能ツールではありませんが、得意な局面と苦手な局面を理解しておくことで、勝ちやすい場面を選別しやすくなります。
向いている相場:トレンドがはっきりしているとき
カギ足の本領が発揮されるのは、上昇または下降のトレンドがある程度はっきりしている相場です。例えば、株式市場でテーマ株に資金が集中し、連日のように高値を更新している局面では、カギ足チャートはほとんど逆行を描かず、太い上昇線が連続します。この状態は、「押し目を待ちすぎず、トレンドに素直についていくべき局面」であることを示唆します。
苦手な相場:狭いレンジでの往来相場
一方、値幅が極端に狭く、はっきりしたトレンドが出ていないボックス相場では、リバーサル幅によっては折り返しが頻発し、売り・買いのシグナルが連発してしまうことがあります。この場合、カギ足だけに頼るとダマシが増えやすいため、レジスタンスラインやサポートライン、出来高などと組み合わせて「今はそもそもトレンド狙いの局面ではない」と判断することが重要です。
株・FX・暗号資産での具体的な活用イメージ
ここからは、実際のマーケットごとに、カギ足チャートの活用イメージを具体的に見ていきます。
株式:上昇トレンド銘柄に絞った順張り
例えば、日本株の中で、決算やテーマ材料で中長期の上昇トレンドに入っている銘柄をピックアップし、日足ベースでカギ足チャートを表示します。リバーサル幅は「株価の2〜3%」程度から試すと、日足ベースのトレンドをきれいに捉えられることが多いです。
このとき、太線(強気)で高値更新が続いている局面では、基本的にはホールド継続とし、細線(弱気)に切り替わって直近安値を明確に割り込んだときに一旦利益確定といったシンプルなルールを設定できます。ローソク足で一喜一憂するのではなく、カギ足が示すトレンド転換だけに焦点を当てることで、利を伸ばしやすくなります。
FX:リバーサル幅をpipsで設定して押し目買い・戻り売り
FXでは、ドル円やユーロドルといった主要通貨ペアで、4時間足または1時間足にカギ足を重ねるイメージが分かりやすいです。例えば、ドル円1時間足で「50pips逆行したら折り返し」というリバーサル幅を設定すると、短期的なノイズを排除しつつ、そこそこのトレンドの切り替わりを捉えられます。
上昇トレンド中に、カギ足が細線(弱気)から太線(強気)へ切り替わる瞬間は、押し目買いの候補として有力です。具体的には、
- ドル円が全体として上昇トレンド
- 一時的な調整で細線に変化
- その後、直近高値突破とともに太線へ復帰
といったパターンは、「押し目完了からのトレンド再開」としてエントリーしやすい局面です。損切りは、太線に切り替わったカギ足の直近安値を明確に割り込んだところに設定しておくと、リスク管理もシンプルです。
暗号資産:ボラティリティが高い銘柄こそカギ足向き
ビットコインやアルトコインのようにボラティリティの高い市場では、通常のローソク足だとノイズだらけで、どこが本当のトレンドなのか分かりづらくなりがちです。ここで、カギ足チャートを使って「過去24時間で3%以上動いたときだけ折り返す」といったリバーサル幅を設定すると、細かな乱高下を無視して、大きなうねりに集中できます。
強い上昇相場では、太線が連続し、折り返しもほとんど発生しません。この局面では、あまり細かく利確をせず、「太線が続いている限りホールド」というシンプルなルールの方が大きなトレンドを取りやすくなります。一方で、太線が終わり細線に切り替わったときは、「一旦相場の勢いが変わったかもしれない」というサインとして、ポジションサイズを落とす、部分利確を行うなどの対処が考えられます。
カギ足を使った基本的なトレード戦略
ここでは、個人投資家でも実践しやすいカギ足を使ったシンプルな戦略をいくつか紹介します。
戦略1:太線の方向に素直についていくトレンドフォロー
最も分かりやすいのは、「太線の方向にだけポジションを持つ」というシンプルなトレンドフォロー戦略です。
- 太線(強気):買いポジションのみ保有、売りは見送る
- 細線(弱気):売りポジションのみ保有、買いは見送る
このように事前にルールを決めておくことで、「どちらに張るべきか」という迷いが減ります。特に、方向感をつかむのが苦手な初心者にとっては、相場の大きな流れに逆らわない習慣を身につける意味でも有効です。
戦略2:直近のカギ足高値・安値のブレイクアウト
カギ足は、明確な高値・安値の節目を視覚的に示してくれます。そこで、直近のカギ足高値を上抜いたら買い、直近安値を下抜いたら売りというブレイクアウト戦略も取りやすくなります。
例えば、カギ足が太線で上昇している途中に、いったん横ばい〜小さな折り返しが出た後、直近高値を再度上抜いた場面は、「調整をこなしてからの再上昇」と考えられます。このようなパターンは順張りブレイクとしてエントリーし、損切りはブレイク前の直近安値割れに設定する、といったシンプルな運用が可能です。
戦略3:他のテクニカル指標との併用
カギ足チャート単体でもトレンド把握には有効ですが、移動平均線やRSIなどのオシレーターと組み合わせることで、エントリー精度を高めることができます。
- カギ足が太線の上昇トレンド中、RSIが一時的に「売られ過ぎゾーン」から反発したタイミングで押し目買い
- カギ足が細線の下降トレンド中、短期移動平均線がカギ足の形状に沿って下向きで推移している局面のみ売り狙い
このように、カギ足で大きな方向性を決め、オシレーターや移動平均線でタイミングを図るという役割分担を行うと、余計なトレードが減り、結果としてパフォーマンスの安定につながりやすくなります。
リバーサル幅の選び方と調整の考え方
カギ足チャートの実践で最も悩みやすいポイントが、リバーサル幅の設定です。ここを適当に決めてしまうと、せっかくのカギ足が単なるノイズチャートになったり、反応が鈍すぎて使いづらくなったりします。
1. 銘柄の平均的なボラティリティから逆算する
まずは、その銘柄の「1日の平均的な値幅」を把握し、その一定割合をリバーサル幅とするのが現実的です。例えば、ある日本株の1日平均値幅が200円程度なら、その半分の「100円」をリバーサル幅にする、といったイメージです。FXであれば、1日の平均値動きが80pipsなら、リバーサル幅を30〜40pipsから試すといった具合です。
2. ATRを使って相場付きに応じて自動調整する考え方
より発展的には、ATR(Average True Range)をリバーサル幅の基準にする方法もあります。例えば「直近14期間のATR×2」をリバーサル幅とすると、ボラティリティが高いときは自然とリバーサル幅も広くなり、急激な上下に振り回されにくくなります。逆に、ボラティリティが低いときはリバーサル幅も狭くなり、小さなトレンド転換も拾いやすくなります。
3. 実際に複数パターンを過去チャートで検証する
リバーサル幅は「この値が絶対に正解」というものはありません。同じ銘柄でも、時間軸やトレードスタイルによって最適値は変わります。そのため、実際には、
- 日足ベースのスイングトレード用のリバーサル幅
- 1時間足ベースの短期トレード用のリバーサル幅
といった形で複数設定を用意し、過去チャートでどの設定が自分のトレードスタイルに合っているかを検証していくことが重要です。
カギ足チャートのメリットとデメリット
カギ足を使う上でのメリット・デメリットを整理しておきます。
メリット
- 時間のノイズを排除し、大きなトレンドの流れに集中できる
- 太線・細線の切り替えで需給の変化が視覚的に分かりやすい
- 感情に振り回されにくく、ルール化しやすい
- 株・FX・暗号資産など、どの市場にも共通して使える
デメリット
- リバーサル幅の設定次第で結果が大きく変わる
- 急転換相場では折り返しが多くなりダマシも発生する
- ローソク足に比べて情報量が少ないため、単体での判断に限界もある
これらを踏まえると、カギ足は「相場の大きな方向性をつかむためのフィルター」として位置づけ、エントリータイミングや利確・損切り判断には、ローソク足や他のテクニカル指標も併用するのが現実的です。
リスク管理と実践時の注意点
どんなに優れたチャートでも、リスク管理が不十分であれば資金は簡単に減ってしまいます。カギ足チャートを使う際のリスク管理の考え方を整理します。
1. ポジションサイズは事前に固定ルールで決める
カギ足でトレンド方向が分かりやすくなると、自信がつきすぎてポジションを大きくしがちです。しかし、トレンドフォロー戦略には必ず「ダマシ」が存在します。1回の損失で大きく資金を減らさないように、口座資金の何%までを1トレードの許容損失にするか、あらかじめルールとして決めておくことが重要です。
2. 損切りラインはカギ足の直近高値・安値を活用
カギ足チャートは、明確な高値・安値のポイントが分かりやすいため、損切りラインの設定にも使いやすいです。例えば、上昇トレンド中の押し目買いであれば、「エントリーしたカギ足の直近安値を明確に割り込んだら損切り」といったルールを設定できます。これにより、感情ではなくチャート構造に基づいたリスク管理が可能になります。
3. 相場環境が合わないと感じたら無理に使わない
レンジ色の強い相場や、重要イベント前後で乱高下が続いている局面では、カギ足のシグナルも乱れやすくなります。そのようなときは、「今はカギ足が生きる相場ではない」と割り切り、トレード回数を減らしたり、様子見に徹したりする柔軟さも大切です。
カギ足チャートをこれから実践に取り入れるためのステップ
最後に、これからカギ足チャートを実際のトレードに取り入れるためのステップを整理します。
- 対応したチャートツール(TradingViewなど)でカギ足表示を確認する
- まずは過去チャートで、「リバーサル幅」の違いによる形の変化を観察する
- 自分がよくトレードする銘柄・通貨ペアに対して、日足・4時間足・1時間足など複数時間軸でテストする
- 太線・細線の切り替わりと価格の動きをセットで見て、「どのパターンが自分にとって取りやすいか」を具体的にメモする
- 最初はデモ口座や小さなロットで試し、ルールが固まってから徐々にポジションサイズを増やす
カギ足チャートは、派手さはありませんが、「無駄なトレードを減らし、大きなトレンドに集中する」という本質に非常に忠実なテクニカル手法です。ローソク足だけでは相場が騒がしく見えてしまうと感じている投資家にとって、カギ足はトレードの視点を落ち着かせ、より戦略的な判断を助けてくれる有力なツールになり得ます。


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