カギ足チャートで読み解くトレンドフォロー戦略
ローソク足や移動平均線はよく知られていますが、「カギ足チャート」を日常的に使っている個人投資家は多くありません。しかしカギ足は、ノイズの多い相場の中から「本当に意味のある値動き」だけを抜き出してくれる、非常に優れたトレンド判定ツールです。株、FX、暗号資産など、値動きの激しいマーケットほど威力を発揮します。
この記事では、カギ足チャートの仕組みから具体的なトレードルールの作り方まで、初歩から丁寧に解説します。時間軸ではなく「値幅」で相場を見るという発想に慣れると、これまでとはまったく違うチャートの景色が見えてきます。
カギ足チャートとは何か ― 時間を捨てて値動きに集中する発想
通常のローソク足チャートは、「一定時間ごと」に1本の足が描かれます。1分足、5分足、日足、週足など、どの時間軸を選ぶかでチャートの印象は大きく変わります。一方、カギ足チャートは「時間」をほとんど無視し、「価格がどれだけ動いたか」だけに注目します。
具体的には、あらかじめ決めた「転換値幅(ボックスサイズ)」以上に価格が逆方向へ動いたときだけ、チャート上の線の向きが切り替わります。この向きが切り替わるポイントが「カギ」のような形になることから「カギ足」と呼ばれます。
時間ベースではなく値幅ベースで描かれるため、横ばいのダラダラした相場ではほとんど足が更新されず、強いトレンドが出た場面だけ、スルスルとカギ足が伸びていきます。結果的に、トレンドの把握やダマシの軽減に役立つのです。
カギ足の基本ルール ― 転換値幅と上昇足・下降足
カギ足チャートの設定で最も重要なのが「転換値幅」です。例えば株式であれば「50円動いたら転換」、FXであれば「20pips動いたら転換」のように、銘柄のボラティリティに応じて設定します。
カギ足には大きく分けて次の2つの状態があります。
- 上昇足:直前の安値から転換値幅以上「上昇」していく流れ
- 下降足:直前の高値から転換値幅以上「下落」していく流れ
価格が上昇足の方向に動き続ける限り、その足はどんどん延長されます。逆方向に「転換値幅以上」動いたときに初めて、新しい足が逆向きに描かれ、カギのような形で折れ曲がります。
重要なのは、「転換値幅未満」の小さな揺れはすべて無視される点です。このフィルターのおかげで、日中の細かい値動きに振り回されにくくなります。値動きの“骨格”だけを抽出しているイメージです。
なぜカギ足がトレンドフォローに向いているのか
トレンドフォロー戦略の本質は「大きな流れに乗る」ことです。しかし現実のチャートはノイズだらけで、短期の逆行やダマシが頻発します。カギ足は、一定以上の値幅が出た動きだけを記録することで、このノイズを意図的に削り落とします。
例えば、株価が1,000円から1,050円、1,100円、1,150円と階段状に上昇したとします。その途中で一瞬1,130円まで押し戻されたとしても、転換値幅を50円に設定していれば、1,150円から1,100円まで下げない限り下降足には転換しません。つまり、小さな押しは「ノイズ」とみなし、上昇トレンド継続と判断できます。
このように、カギ足は「どこまで逆行したらトレンド転換とみなすか」という基準を、チャートそのもののルールとして明確化してくれます。トレンドフォロー戦略では、こうした客観的なルールが非常に重要です。
カギ足の設定をどう決めるか ― 実用的なパラメータの考え方
カギ足の転換値幅は、銘柄や市場のボラティリティによって最適値が変わります。ここでは、株・FX・暗号資産それぞれでの現実的な考え方を紹介します。
株式の場合
日本株の個別銘柄であれば、日々の平均値動き(ATRなど)を参考に、「1日の平均値幅の1/3〜1/2程度」を目安にする方法があります。例えば、平均して1日あたり150円動く銘柄なら、転換値幅を50〜80円程度に設定するイメージです。
これにより、日中の小さな揺れを無視しつつ、明確なトレンドの変化だけをとらえやすくなります。ボラティリティの大きい成長株ではやや広め、ディフェンシブ銘柄ではやや狭めにするなど、性質に応じた調整も有効です。
FXの場合
FXではpipsで設定します。主要通貨ペア(ドル円、ユーロドルなど)の1日の平均レンジが50〜80pips程度であれば、転換値幅を15〜25pips程度にすると、実用的なトレンド判定がしやすくなります。スキャルピング寄りの短期取引では5〜10pips程度に狭く設定することもありますが、その分ダマシも増えやすくなります。
暗号資産の場合
暗号資産はボラティリティが極端に高いことが多いため、絶対値ではなく「パーセンテージ」で転換値幅を決めるのが現実的です。例えば、「価格の2〜3%動いたら転換」といったルールです。レンジ相場では更新頻度が低くなり、トレンドが出たときだけカギ足が伸びていくため、強烈な上昇・下落トレンドの把握に役立ちます。
具体的なトレンドフォロー戦略の構築例
ここからは、カギ足チャートを使ったシンプルなトレンドフォロー戦略を、数パターンに分けて紹介します。どれも基本的なアイデアなので、実際のトレードスタイルに合わせて組み合わせたり、フィルターを追加したりしてください。
戦略1:カギ足の方向だけで順張りする超シンプル戦略
最も基本的な戦略は、「カギ足が上向きのときだけ買い目線、下向きのときだけ売り目線」という考え方です。具体的には、次のようなルールになります。
- カギ足が上昇足に転換したら、新規で買いポジションを検討する
- カギ足が下降足に転換したら、買いポジションをすべて決済し、新規の売りは検討しない(または売りに切り替える)
これだけだとシンプル過ぎますが、「トレンド方向と逆のポジションは持たない」という強力なフィルターになります。例えば、FXでレンジ相場に悩まされている場合でも、「下降足の間は買いを一切しない」と決めるだけで、余計な逆張りエントリーをかなり減らせます。
戦略2:カギ足+移動平均線でトレンドの質をフィルタリング
カギ足は方向性の判定には優れますが、トレンドの「強さ」までは直接示してくれません。そこで、移動平均線(SMAやEMA)を組み合わせることで、より質の高いトレンドだけを狙う戦略が考えられます。
例として、日足チャートの終値から作成したカギ足と、20日SMAを組み合わせる手法を考えてみましょう。
- 買い条件:カギ足が上昇足であり、かつ終値が20日SMAより上
- 売り条件(手仕舞い):カギ足が下降足に転換、または終値が20日SMAを下回ったとき
このように、カギ足で「方向」を、移動平均線で「トレンドの持続性」を確認することで、だらだらしたレンジやフェイクのブレイクアウトに巻き込まれにくくなります。逆に、終値が移動平均線の上にあるのにカギ足が下降足になった場合は、「一時的な押し」とみなして様子を見る、といった応用も可能です。
戦略3:カギ足でブレイクアウトを判定するチャネル戦略
カギ足は横ばいの期間が長くなりやすいため、レンジブレイクの判定にも使えます。例えば、過去のカギ足の高値と安値を結んで簡易的なチャネルを描き、「そのチャネルを抜けたらトレンド発生」とみなす方法です。
具体例として、株価が長期間1,000〜1,200円のレンジで推移しているとします。カギ足で見ても、1,000円付近で何度も反発し、1,200円付近で何度も頭を押さえられている状態です。この時、カギ足が1,200円を明確に上抜けて上昇足を更新した場合、「レンジブレイク→新しい上昇トレンドの開始」と判断し、分割エントリーでポジションを積み上げていく….といった戦略が考えられます。
このとき、通常のローソク足チャートで見ると上ヒゲのフェイクブレイクに見えても、カギ足では「転換値幅以上の上昇」が確認できてから初めて足が描き変わるため、ブレイクの信頼度を高めやすい点が特徴です。
損切りとポジション管理 ― カギ足を「防御ライン」として使う
トレンドフォローで重要なのは、どこで「負けを認めるか」を事前に決めておくことです。カギ足は、この損切りラインを合理的に決める目安としても使えます。
例えば、上昇足が続いている間に買いポジションを保有している場合、「直近の下降足の安値」を損切りラインとする考え方があります。新たな下降足が出現し、その安値を割り込んだ時点でポジションを整理するルールです。
こうすることで、「一時的な押し」は許容しつつ、「トレンドが明確に崩れた場面」では機械的に撤退できます。逆に、下降足が続いている間の売りポジションでは、「直近の上昇足の高値」を損切りラインとすることで、急なショートカバーによる反転リスクを抑えられます。
また、ポジションサイズを調整する際にも、カギ足の転換値幅を基準に「1回の損切りで失う金額」を計算することができます。例えば、転換値幅が50円で、1回の転換で損切りすると決めているなら、1単位あたりのリスクは50円×株数です。このリスクが口座残高の1〜2%以内に収まるように、ロットを調整するという発想です。
カギ足の弱点と注意点 ― どの局面で過信すべきでないか
カギ足は非常に有用ですが、万能ではありません。特徴を正しく理解し、弱点を補う工夫が必要です。
レンジ相場での「後出し感」
転換値幅を大きく設定しすぎると、レンジ相場では足の更新が極端に遅くなり、相場の変化に反応しづらくなります。気づいたときにはすでにレンジの端まで来ており、「もっと早く気付ければ…」という感覚になることもあります。
この問題を軽減するには、相場のボラティリティに応じて転換値幅を定期的に見直すこと、あるいは短期用と中期用の2種類のカギ足を並べて表示し、短期の変化を補助的にチェックする方法が有効です。
急激なニュース相場には弱い
カギ足はあくまで過去の値動きからトレンドを抽出するツールであり、突発的なニュースや材料には対応できません。決算発表や経済指標、政策発表など、事前に日程がわかっているイベント前後は、カギ足のシグナルだけで判断するのではなく、ポジションサイズを抑える、エントリーそのものを控えるといったリスク管理が重要です。
カギ足を日々のトレードに組み込む実践ステップ
最後に、カギ足チャートを実際のトレードに取り入れるためのステップを整理します。いきなり本番資金で運用するのではなく、検証と慣れを重ねながら、自分なりのルールへと落とし込んでいくことが大切です。
ステップ1:主要銘柄・通貨ペアでカギ足を表示してみる
まずは、すでに取引している株や通貨ペア、暗号資産のチャートにカギ足を重ねて表示してみてください。時間足は日足や4時間足など、普段のトレードで重視している足を基準にすると比較しやすくなります。
ステップ2:過去チャートで「トレンドの発生と終了」を目視確認する
過去の相場局面をさかのぼり、カギ足がどのタイミングで上昇足に転換し、どこで下降足に変わったかを確認します。同時に、通常のローソク足チャートや移動平均線の動きと見比べることで、「カギ足だとここでトレンドを捉えられていた」「ここはダマシになっていた」という感覚を養えます。
ステップ3:シンプルなルールからデモ・少額で検証する
最初から複雑な戦略を作ろうとすると、何がうまくいって何が原因で負けているのかがわかりにくくなります。まずは、「カギ足の方向にだけポジションを取る」「カギ足の転換で手仕舞う」といった単純なルールから、デモトレードや少額取引で検証するのがおすすめです。
ステップ4:他のインジケーターや価格帯と組み合わせて精度を高める
ある程度カギ足に慣れてきたら、移動平均線、サポート・レジスタンス、出来高など、他のテクニカル要素と組み合わせて検証していきます。例えば、「カギ足が上昇足で、かつ重要なレジスタンスを上抜けたらエントリー」「カギ足が下降足に転換し、サポートを割れたら手仕舞い」のようなルールです。
このように段階的に精度を高めていくことで、カギ足チャートは単なる“珍しいチャート”ではなく、トレンドフォロー戦略の中核を担う武器になっていきます。
まとめ ― カギ足は「相場の骨格」を見せてくれるツール
カギ足チャートは、時間の経過ではなく「値幅」に注目することで、相場のノイズを抑え、トレンドの本質的な流れを浮かび上がらせてくれます。転換値幅の設定次第で、短期から中期までさまざまなトレードスタイルに対応でき、株・FX・暗号資産といった異なる市場にも応用可能です。
ポイントは、カギ足を万能視せず、「トレンド方向の判定」「損切りラインの目安」という役割に集中させることです。そのうえで、移動平均線やサポート・レジスタンス、出来高などと組み合わせることで、より実戦的で再現性のあるトレードルールに仕上げることができます。
まずは、日々チェックしている銘柄のチャートにカギ足をひとつ追加するところから始めてみてください。今まで見えていなかったトレンドの継続と転換ポイントが、意外なほどすっきりと見えてくるはずです。


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