チャートを見ていて「値段は上がっているのに、なぜか強さを感じない」と違和感を覚えたことはないでしょうか。その違和感の正体のひとつが、出来高の動きと価格の動きが噛み合っていない「ボリュームダイバージェンス」です。
この記事では、株・FX・暗号資産などあらゆる市場で使えるボリュームダイバージェンスの考え方と、具体的な活用パターンを丁寧に解説します。チャート初心者でも、読み終わったあとにすぐチャートを開いて試せるレベルまで落とし込んでいきます。
ボリュームダイバージェンスとは何か
ボリュームダイバージェンスとは、価格のトレンドと出来高のトレンドが食い違っている状態を指します。
典型的な例は次のような形です。
- 価格は高値更新を続けているのに、出来高はむしろ減っている
- 価格は安値更新を続けているのに、出来高は減少して売りの勢いが弱まっている
価格だけを見ると「まだトレンドが続いている」ように見えますが、出来高を見ると「そのトレンドに参加している人が減っている」、つまり中身が伴っていないトレンドになっている可能性があります。これが、トレンドの「疲れ」や「転換の予兆」として機能することがあります。
なぜ出来高の「ズレ」を見ると有利なのか
出来高は、その値段でどれだけの取引が実際に行われたかを示します。極端にいえば、チャートのローソク足は「値段がどこまで動いたか」の情報しかなく、そこに参加した資金の量は出来高を見ないと分かりません。
同じ100円上昇でも、
- 出来高が急増して上がった100円
- 出来高が減少するなかで細々と上がった100円
では、トレンドの信頼度がまったく違います。前者は「多くの参加者がその方向に賛成した値動き」、後者は「賛成者が減っている中での値動き」に近く、後者のほうが失速しやすくなります。
ボリュームダイバージェンスを見るということは、価格の見た目だけでなく、その裏側にある参加者の勢いを確認する行為です。これに慣れると、単純なトレンドフォローだけよりも、リスクを抑えながらエントリー・手仕舞いのタイミングを検討しやすくなります。
ボリュームダイバージェンスの代表的な4パターン
ここでは、チャートでよく出会う4つのパターンを整理します。すべてを一度に覚える必要はなく、まずは1〜2パターンから実際のチャートで探していくと身につきやすいです。
1. 上昇トレンドの「頭打ち」型ダイバージェンス
もっとも頻出するのが、価格は高値更新を続けているのに、出来高の山は切り下がっているパターンです。
イメージとしては、
- 1回目の上昇:価格+出来高ともに大きく増える
- 2回目の上昇:価格はやや高値更新するが、出来高は1回目より小さい
- 3回目の上昇:価格はさらにわずかに高値更新するものの、出来高はさらに減る
このように、値段だけ見ると「まだ上がっている」のに、出来高は「上値を追う人がだんだん減っている」状態です。買い上がる力が弱まり、ちょっとした悪材料や売り圧力で一気に反転しやすい場面になります。
2. 下降トレンドの「売り疲れ」型ダイバージェンス
逆に、価格は安値更新を続けているのに、出来高が徐々に減っているパターンは、売りの勢いが弱まっているサインとして意識されます。
イメージとしては、
- 急落の初動:大きな陰線+出来高急増(投げ売り・損切り殺到)
- その後も安値更新が続くが、出来高は少しずつ減っていく
この状況では、すでに売りたい人の多くが売り切ってしまい、新たな売りが出にくい状態になっている可能性があります。その結果、安値圏での出来高減少+小さな陽線などが重なると、反発の候補として注目されます。
3. ブレイクアウトの「だまし」型ダイバージェンス
レジスタンスラインやレンジ上限を上に抜けたのに、ブレイク時の出来高が明らかに少ない場合も、ボリュームダイバージェンスの一種と考えられます。
たとえば、
- レンジ上限を超えたが、出来高はレンジ内の通常レベル以下
- 抜けた直後のローソク足が長い上ヒゲになり、その後すぐレンジ内に戻ってくる
このようなケースでは、「一部の短期勢が押し上げただけで、本気の資金はほとんど参加していない」可能性が高く、ブレイクアウトの信頼性は低くなります。上抜けに飛びつくのではなく、「出来高が伴っているか」を確認するだけで、だましブレイクへの巻き込まれリスクを抑えやすくなります。
4. トレンド継続を示す「健全な調整」との見分け
ボリュームダイバージェンスは、転換のヒントだけでなく、むしろトレンド継続の健全さを確認する材料としても使えます。
たとえば上昇トレンド中に、
- 押し目の下落局面では出来高が減少
- 再上昇時には出来高が再び増加
というパターンは、「売りの調整はあくまで小さく、買いが入るときだけ出来高が増える」という形です。この場合、価格と出来高が素直に同じ方向を向いているため、目立ったボリュームダイバージェンスは発生していません。こうした「ズレがない」ことを確認するのも、出来高分析の重要な使い方です。
株・FX・暗号資産でのボリュームダイバージェンスの違い
市場ごとに出来高の性質が少し異なるため、その点を理解しておくと判断がぶれにくくなります。
株式市場の場合
株式では、出来高は実際の約定株数です。出来高が急増している場面は、本当に多くの資金が動いていると考えられます。特に、
- 決算発表日や材料発表日
- 指数採用・除外などイベント時
は、一時的に出来高が跳ね上がることが多く、イベント後に出来高が急減しているのに高値更新が続くようなケースはボリュームダイバージェンスとして要チェックです。
FX市場の場合
多くのFXチャートで表示される出来高は、実際の約定枚数ではなく「ティックボリューム」(価格が変化した回数)であることが多いです。それでも、
- トレンド発生時はティック数が増えやすい
- 相場が静かになるとティック数が減りやすい
という性質は共通しているため、ティックボリュームベースのボリュームダイバージェンスとして十分参考になります。
暗号資産(仮想通貨)の場合
暗号資産では、24時間市場が開いていることや、取引所ごとに出来高が分散していることが特徴です。そのため、
- 使っている取引所の出来高だけで判断しすぎない
- 日足〜4時間足など、ある程度長めの足で全体の傾向を見る
といった工夫が有効です。特にビットコインなど流動性の高い銘柄では、高値圏での出来高減少+価格だけがじりじり上がるパターンは、ボリュームダイバージェンスとして警戒されることが多いです。
チャート上での具体的な探し方ステップ
ここからは、実際にチャートでボリュームダイバージェンスを探す手順を、できるだけシンプルに整理します。TradingViewなど一般的なチャートツールを想定しています。
ステップ1:時間軸を決める
まず、自分が取引したいスタイルに合わせて時間軸を決めます。
- スイングトレード:日足・4時間足
- デイトレード:1時間足・15分足
- スキャルピング:5分足・1分足
ボリュームダイバージェンスはどの時間軸でも見つけられますが、慣れないうちは日足〜4時間足のような長めの足のほうが形が分かりやすいです。
ステップ2:トレンド方向をざっくり把握する
次に、価格だけを見て「今は上昇トレンドなのか、下降トレンドなのか、レンジなのか」をざっくり判断します。移動平均線(例えば20日線や50日線)を重ねると、傾きでトレンド方向を把握しやすくなります。
ステップ3:高値・安値の山と谷を確認する
価格の山(高値)と谷(安値)をいくつかピックアップし、それに対応する出来高の山を確認します。
- 上昇トレンドなら、高値とそのときの出来高の高さ
- 下降トレンドなら、安値とそのときの出来高の高さ
を見比べ、「価格は更新しているのに、出来高が明らかに弱くなっていないか?」をチェックします。
ステップ4:ローソク足の形と組み合わせて判断する
出来高のズレだけでなく、その付近のローソク足の形も合わせて確認します。
- 高値更新時に長い上ヒゲが出ている
- 安値更新後に下ヒゲの長いローソク足が連続している
といった形とボリュームダイバージェンスが重なると、トレンドの転換候補としてより意識しやすくなります。
ケーススタディ1:日本株スイングトレードの例
ここでは、架空の日本株A銘柄の日足チャートをイメージした例で考えます。
- 1,000円前後で推移していた株価が、好材料で1,200円まで急騰
- このとき出来高は普段の5倍に急増
- その後も株価は1,250円→1,280円とじりじり高値更新
- しかし出来高は、急騰時の5分の1〜3分の1程度まで減少
価格だけを見ると「まだ上昇トレンド」と言えますが、出来高は「上値を追う勢いが明らかに弱い」状態です。この局面で、
- 1,300円手前で長い上ヒゲのローソク足が出る
- 翌日以降、1,280円を明確に超えられずに小さな陰線が続く
といった形が重なると、「ボリュームダイバージェンス+上昇の失速」として、部分的な利益確定やポジションサイズの調整を検討する材料になります。
ケーススタディ2:FX15分足での短期トレード
次に、ドル円15分足チャートでの短期トレードをイメージします(ティックボリュームを使用)。
- 東京時間後半〜ロンドン時間初動にかけて、ドル円がじりじりと上昇
- 最初の上昇波ではティックボリュームが多く、値動きも力強い
- その後、高値をわずかに更新するたびに、ティックボリュームのピークはだんだん低くなる
この段階で、レジスタンス付近の水準で、
- 高値更新時に上ヒゲが目立つ
- 直近の高値を超えた直後に反落して陰線が出る
といったローソク足パターンが出てくると、上昇トレンドの「燃料切れ」の可能性が高まります。こうした場面で、
- すでにロングを持っているなら、利確やストップの引き上げ
- 逆張りショートを狙うなら、リスク幅を決めたうえで小さなサイズから試す
といった判断材料としてボリュームダイバージェンスを活用できます。
ケーススタディ3:ビットコインのトレンド転換候補
暗号資産では、特にビットコインの日足チャートでボリュームダイバージェンスが注目されることが多いです。イメージとして、
- 3万ドルから4万ドルにかけて、力強い上昇+出来高増加
- 4万ドルから4万5千ドルにかけて、価格は高値更新するが出来高は減少
- 4万5千ドル付近で長い上ヒゲのローソク足が出現
こうした局面では、SNSやニュースは強気一色になりがちですが、出来高はむしろ冷めていることがあります。ボリュームダイバージェンスを確認しておけば、
- 「ここから新規で飛び乗るのはリスクが高いかもしれない」
- 「すでに含み益が乗っている分だけ一部利確しておこう」
といった慎重な判断につなげることができます。
他のインジケーターとの組み合わせ方
ボリュームダイバージェンスは、それだけで完結した売買サインとして使うよりも、他のテクニカル指標と組み合わせて総合判断するほうが安定します。代表的な組み合わせ方をいくつか挙げます。
RSIやストキャスティクスとの組み合わせ
価格とオシレーターのダイバージェンスに加えて、出来高のダイバージェンスが同時に出ているかを確認する使い方です。
- 価格:高値更新
- RSI:高値切り下げ(弱気ダイバージェンス)
- 出来高:山が切り下がっている
この3つが揃うと、「価格だけが無理やり高値を更新しているが、中身がついてきていない」状態と考えられ、トレンドの転換候補として注目度が高まります。
移動平均線との組み合わせ
移動平均線(MA)や移動平均リボンと組み合わせると、トレンドの成熟度を測る材料になります。
- 価格が長期移動平均線から大きく上に乖離している
- 出来高は頭打ち、あるいは減少気味
といった組み合わせは、「行き過ぎたトレンド」のサインとして意識されやすく、戻りや調整を警戒するタイミングになります。
ボリンジャーバンドとの組み合わせ
ボリンジャーバンドの+2σ〜+3σ付近でバンドタッチが続き、
- 最初のバンドウォーク時:出来高も増加している
- 後半の高値更新時:出来高は明らかに減少
という形になっていれば、ボリュームダイバージェンスを伴ったバンドウォークの終盤、という見方ができます。
よくある勘違いと注意点
ボリュームダイバージェンスは便利な概念ですが、いくつかの落とし穴があります。代表的なポイントを押さえておきましょう。
「ダイバージェンス=すぐ反転」ではない
もっとも多い勘違いは、「ダイバージェンスが出た=すぐにトレンド転換する」と思い込んでしまうことです。実際には、ダイバージェンスが出てからもしばらくトレンドが継続することも少なくありません。
そのため、
- ダイバージェンスを「方向転換のヒント」として捉える
- エントリーはローソク足の反転シグナルや支持・抵抗のブレイクなど、別の条件も重ねたうえで検討する
といった使い方が現実的です。
流動性の低い銘柄ではノイズが増える
出来高がもともと少ない銘柄や時間帯では、出来高の山や谷が小さく、ボリュームダイバージェンスがきれいに出にくいことがあります。そのような銘柄では、
- 出来高分析に頼りすぎず、価格パターンや他の指標も重視する
- スプレッドや板の厚みなど、約定コスト面も合わせて確認する
といった視点も必要です。
ニュース・ファンダメンタルズは必ず確認する
出来高の急増・急減は、ニュースやイベントが原因の場合も多くあります。チャートだけを見て判断するのではなく、
- 決算や経済指標の発表タイミング
- 重要なニュースや材料の有無
も併せて確認しておくと、ボリュームダイバージェンスの意味合いをより正確に把握しやすくなります。
シンプルな売買ルール例(検討用のたたき台)
最後に、ボリュームダイバージェンスを使ったシンプルな売買ルール例を示します。実際の取引に使う際には、自分で過去チャートを検証しながら、銘柄や時間軸に合わせて調整していくことが大切です。
上昇トレンドの頭打ちを狙うパターン
- 日足チャートで明確な上昇トレンドを確認する(移動平均線が上向きで、安値・高値ともに切り上がっている)。
- 直近3つの高値を比較し、価格は高値更新しているのに出来高の山が切り下がっているかを確認する。
- レジスタンス付近で長い上ヒゲや陰線包み足など、反転を示唆するローソク足パターンが出たら、部分的なポジション縮小や新規ショートの候補として検討する。
- 損切りラインは、直近高値の少し上など、チャート上で事前に決めておく。
下降トレンドの売り疲れを狙うパターン
- 日足または4時間足で明確な下降トレンドを確認する。
- 安値更新に対して出来高の山が切り下がっているかを確認する。
- 安値圏で下ヒゲの長いローソク足や、陽線包み足が出現したら、反発候補として注目する。
- 買いエントリーをする場合は、直近安値の少し下に損切りを置くなど、下方向のリスクを管理する。
まとめ:出来高の「違和感」を味方につける
ボリュームダイバージェンスは、
- 価格だけを見ていると見落としがちな「トレンドの中身」を確認する方法
- トレンドの疲れや転換の可能性を示すヒント
- 他のテクニカル指標と組み合わせることで、エントリー・手仕舞いのタイミングを検討しやすくする材料
として機能します。最初から完璧に使いこなそうとする必要はありません。まずは、
- 日足チャートで大きく動いた銘柄をピックアップする
- その上昇・下落局面で出来高の推移を見て、ダイバージェンスがあったかどうかを確認する
というところから始めてみると、チャートに対する見え方が少しずつ変わってくるはずです。価格の動きと出来高の「ズレ」に気づけるようになると、感覚だけに頼らない、落ち着いたトレード判断につなげやすくなります。


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