ヒストリカル・ボラティリティ(HV)徹底解説:株・FX・暗号資産での実践的な使い方

テクニカル分析

ヒストリカル・ボラティリティ(Historical Volatility、HV)は、過去の価格変動の大きさを数値化した指標です。株、FX、暗号資産などあらゆる市場で使われており、「どれくらい荒い値動きの銘柄なのか」を客観的に把握するための物差しになります。

同じ株価3,000円の銘柄でも、1日に50円しか動かない銘柄と、1日に300円動く銘柄では、求められるリスク許容度もポジションサイズもまったく変わります。HVを使うことで、この価格変動の「体感」を定量化し、感覚ではなく数字に基づいてトレード判断を行うことができます。

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ヒストリカル・ボラティリティの基本的な考え方

HVは、ある期間の価格変動(リターン)のばらつき(標準偏差)を年率換算した値です。イメージとしては、「過去◯日間、この銘柄は1年間で平均して±何%くらい動くレンジに収まりそうか」を示している、と考えると分かりやすいです。

例えば年率HV40%の銘柄であれば、「統計的には、1年のうちに価格が平均±40%程度の変動を起こしてもおかしくない水準のボラティリティを持っている」と解釈できます。HVが高い銘柄は値動きが荒く、低い銘柄は値動きが穏やかということです。

HVのざっくりとした計算ステップ

実務ではツールやチャートソフトが自動計算してくれるため、厳密な数式を暗記する必要はありませんが、流れを理解しておくと指標の意味が掴みやすくなります。

1. 日次リターンを計算する

まず、終値ベースで「今日の価格が昨日から何%動いたか」を計算します。例えば株価が前日3,000円、当日3,060円なら、日次リターンは+2%です。これを一定期間(例:過去20営業日)分並べます。

2. 日次リターンの標準偏差を求める

次に、その日次リターンのばらつきを統計的に測るため、標準偏差を計算します。値動きが荒い銘柄ほど、日によってリターンが大きくプラスになったりマイナスになったりするため、標準偏差が大きくなります。

3. 年率換算する

日次の標準偏差を、その市場の年間取引日数の平方根を掛けることで年率換算します。日本株や米株ならおおよそ「√252」、FXや暗号資産のようにほぼ365日取引できる市場なら「√365」を掛ける、といったイメージです。こうして得られた値が「年率HV」です。

HVで分かること:初心者がまず押さえるべきポイント

1. 銘柄ごとの「性格」が見える

株でもFXでも、チャートを眺めるだけでは「なんとなく動きが荒い」「穏やか」など感覚的な印象で判断しがちです。HVを使えば、例えば「この銘柄は年率HV60%、こちらは20%」という形で、数値として比較できます。

同じ値幅を狙う戦略でも、HV60%の銘柄と20%の銘柄では、想定すべきリスクも調整すべきポジションサイズも全く異なります。ボラティリティを数値で把握することは、リスク管理の出発点になります。

2. 同じ戦略でも「向いている銘柄・向いていない銘柄」が分かる

トレンドフォロー型の戦略は、一般的にボラティリティがある程度高い銘柄のほうが利益を狙いやすいことが多いです。一方で、配当狙いの長期保有や、狭いレンジの中で小さな値幅を反復して取るような手法では、HVが低く落ち着いた銘柄のほうがストレスが少ない場合があります。

HVを見ながら、「この戦略はどのタイプの銘柄に向いているか」を整理していくと、自分の得意パターンが徐々に明確になっていきます。

具体例1:日本株スイングトレードでのHV活用

仮にA社株(年率HV20%)とB社株(年率HV60%)があるとします。どちらも株価は3,000円前後です。スイングトレードで1〜2週間の値幅取りを狙う場合、B社はHVが高いため、短期間で大きく動く可能性を秘めていますが、その分、逆方向に大きく振れるリスクも抱えています。

例えば1トレードあたりの許容損失額を3万円と決めている場合、HV60%のB社株にはポジションサイズを小さめに抑え、HV20%のA社株にはやや大きくポジションを取るといった調整が理にかなっています。具体的には、B社には100株、A社には200株といったイメージです。

このように、HVを見てポジションサイズを調整することで、銘柄ごとの値動きの荒さを吸収し、トレード全体のリスクを一定水準に揃えることができます。

具体例2:FXデイトレードでのHVと通貨ペア選別

FXでは、通貨ペアごとに典型的なボラティリティの水準が異なります。一般的に、USD/JPYよりもGBP/JPYやGBP/USDのほうが1日の値幅が大きい傾向があります。HVを確認すると、「どの通貨ペアが自分の時間軸に合った値動きをしやすいか」を判断しやすくなります。

例えば、1日に数回のチャンスを狙うデイトレーダーであれば、ある程度HVが高くないと、狙う値幅に対して値動きが小さすぎて「いつまでも目標まで届かない」というストレスが溜まりがちです。一方、仕事の合間にチャートを確認する程度のスタイルであれば、あまりHVが高すぎる通貨ペアは、予想外の急変動に巻き込まれるリスクが増えます。

自分のライフスタイルとトレード頻度を考えたうえで、「日足ベースでHVが◯%以上の通貨ペアだけをトレード対象にする」といったルールを設けるのも一つのアプローチです。

具体例3:暗号資産でのHVとリスク管理

暗号資産は、伝統的な株式市場に比べると、全体としてHVが非常に高い傾向があります。ビットコイン(BTC)でさえ、株式指数と比較すれば高いHVを示し、アルトコインになるとさらにボラティリティが大きくなります。

初心者が暗号資産に取り組む際は、まずビットコインや時価総額上位の銘柄のHVを確認し、それを基準にしながら、アルトコインのHVがどれほど高いかを比較することをおすすめします。例えば、「BTCと比べてHVが2倍以上あるアルトは、ポジションサイズを半分以下に抑える」といったシンプルなルールでも、感覚だけでトレードするよりリスクが整理されます。

HVの期間設定:短期HVと長期HVの使い分け

HVは、どの期間のデータで計算するかによって性格が変わります。よく使われるのは、10日、20日、60日、90日などです。

短期HV(10日・20日など)

直近の相場状況を敏感に反映します。急騰・急落があれば数日で大きく値が跳ね上がるため、短期トレーダーやデイトレーダーが「最近の荒れ具合」を確認するのに適しています。一方でノイズも多く、一時的なイベントの影響で過剰に跳ねることがあります。

長期HV(60日・90日など)

より滑らかで、銘柄の「体質」を捉えやすくなります。中長期のスイングやポートフォリオ管理では、長期HVを使って「この銘柄は元々どれくらい荒いものなのか」を評価し、ポジションサイズを決める判断材料にするとよいです。

実務上は、短期HVと長期HVを両方表示して、「今は普段よりどれくらい荒れているのか」を比較する使い方が有効です。例えば、60日HVに対して10日HVが大きく上振れしている場合、「一時的に相場が過熱している可能性がある」といった判断につながります。

トレード戦略への具体的な組み込み方

1. ポジションサイズの決定

最もシンプルで強力な使い方は、HVに応じてポジションサイズを調整することです。リスク許容額を一定にし、HVが高い銘柄ほど取る枚数を減らす、という考え方です。これにより、どの銘柄をトレードしても、1トレードあたりの想定損失が大きくブレることを防げます。

2. 銘柄・通貨ペアのフィルタリング

日足ベースのHVを指標として、「HVが◯%未満の銘柄はトレンド狙いの対象外」「HVが◯%以上の銘柄だけデイトレ対象」といったフィルタを掛けることもできます。これにより、自分の戦略に合わない銘柄を事前に排除し、無駄な監視銘柄を減らせます。

3. ボラティリティブレイクアウト戦略との相性

ボリンジャーバンドスクイーズやレンジブレイクアウト戦略と組み合わせて、「HVが一定水準より低く、そこから一気に上昇してきた局面」を狙う手法も考えられます。長期的に穏やかだった銘柄が、急にHVを上げながら価格もトレンドを形成し始めた場合、新しい相場フェーズへの移行シグナルになり得ます。

HVを見るときの注意点

1. 過去はあくまで過去

HVは過去データから算出される指標のため、「今後も同じボラティリティが続く」とは限りません。特に決算発表、政策発表、マクロイベントなど、大きな材料を控えている場合は、過去のHVだけに依存したリスク判断は危険です。

2. 低ボラだから安全とは限らない

HVが低い銘柄は一見「安全」に見えますが、流動性が低く、いざという時に注文が通らないケースもあります。また、長期間ボラティリティが低い状態が続いた後、一気に相場が動き出すことも珍しくありません。HVはあくまで一つの指標であり、出来高やニュース、ファンダメンタルズなど他の情報と合わせて判断することが重要です。

3. 指標の意味を理解せずに数値だけを追わない

HVが「30%だから安全、60%だから危険」といった単純な線引きはできません。自分の資金量、許容できるドローダウン、トレード頻度などと照らし合わせて、「自分にとって適切なHVレンジ」を探るプロセスが大切です。

実務での活用ステップ

最後に、初心者の方がHVをトレードに取り入れていくためのステップをまとめます。

ステップ1:主要銘柄・通貨ペアのHVを把握する

まずは、自分が良く見る株や通貨ペア、暗号資産のHVをチャート上に表示してみます。TradingViewなどのチャートツールには、HV(Historical Volatility)指標が用意されていることが多いので、日足チャートに重ねて表示してみてください。

ステップ2:自分のトレードスタイルと合うHVレンジを探る

実際に小さめの資金でトレードしながら、「HVが高すぎると精神的にきつい」「HVが低すぎると狙う値幅に届きにくい」といった感覚を言語化していきます。そのうえで、「自分にとって心地よくトレードできるHVの範囲」を仮決めし、そのレンジ内の銘柄だけを重点的に監視するのも良い方法です。

ステップ3:ポジションサイズルールに組み込む

HVに応じてポジションサイズを変えるルールを作ります。例えば、HVが20〜30%の銘柄には基準サイズ、30〜50%なら半分、50%超ならさらに半分にする、といった具合です。これを徹底することで、1回のトレードで許容するリスクを安定させやすくなります。

ステップ4:他のテクニカル指標との組み合わせを検証する

HV単体では売買シグナルとしては弱いため、移動平均線、ボリンジャーバンド、RSIなど他の指標と組み合わせて使います。例えば、「日足でHVが急上昇し、かつ移動平均線のゴールデンクロスが出ている銘柄だけをスクリーニングする」といったルールを検討すると、相場が動き出したタイミングを捉えやすくなります。

まとめ:HVは「自分に合った相場」を見つけるためのレーダー

ヒストリカル・ボラティリティ(HV)は、単に「荒い銘柄を避ける」ための指標ではなく、「自分の資金量と性格に合った相場」を選び取るためのレーダーのような役割を果たします。

感覚だけで「この銘柄は怖い」「この通貨ペアは動かない」と判断するのではなく、HVという客観的な物差しを持つことで、リスクを定量化しやすくなります。最初は難しく感じるかもしれませんが、普段見ているチャートにHVを1本追加して眺めるだけでも、相場の見え方が変わってくるはずです。

少しずつ自分のトレードルールに組み込みながら、「どの程度のボラティリティが自分にとってちょうど良いのか」を探っていくことで、長く相場に残り続けるための土台が整っていきます。

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