ボリンジャーバンドは、価格の変動幅を視覚的にとらえやすくしてくれる代表的なテクニカル指標です。その中でも「ボリンジャーバンドスクイーズ（Band Squeeze）」は、値動きが一時的に小さくなり、その後に大きなトレンドが発生しやすい「助走区間」を見つけるために非常に有効なコンセプトです。
この記事では、株、FX、暗号資産など幅広いマーケットで使えるボリンジャーバンドスクイーズの考え方と、具体的なトレード戦略の組み立て方を、初めてチャート分析に取り組む方でも理解できるように、順を追って丁寧に解説していきます。
ボリンジャーバンドの基本構造を改めて整理する
まずはボリンジャーバンドの基本から整理しておくと理解がスムーズです。ボリンジャーバンドは、一般的に次の3つのラインで構成されます。
・ミドルバンド：一定期間の移動平均線（通常は20期間の単純移動平均線）
・上部バンド：ミドルバンド ＋ 標準偏差 × k（よく使われるのは2σ）
・下部バンド：ミドルバンド － 標準偏差 × k
ここで重要なのは、「バンドの幅」は価格のボラティリティ（変動の大きさ）によって自動的に変化するという点です。値動きが激しいときにはバンドが大きく広がり、値動きが落ち着いているときにはバンドがギュッと狭くなります。この「狭くなった状態」が、ボリンジャーバンドスクイーズの出発点です。
ボリンジャーバンドスクイーズとは何か
ボリンジャーバンドスクイーズとは、バンドの幅が一定期間に比べて明らかに縮小し、「エネルギーを溜めている状態」を指します。相場は、
・ボラティリティの低い期間（レンジ・膠着）
から
・ボラティリティの高い期間（ブレイク・トレンド）
へと、ゆっくりと循環する性質があります。この性質を利用して、「今は静かな相場だけれど、そのうちどちらかに大きく動く可能性が高い」という局面を見つけるのがボリンジャーバンドスクイーズの狙いです。
重要なポイントは、「スクイーズが起きたからといって、すぐに売買するのではない」ということです。スクイーズはあくまで「準備段階」であり、実際のエントリーはバンドブレイクやトレンド方向の確認とセットで行う必要があります。
スクイーズ局面の典型的なチャートの形
スクイーズ局面では、チャート上に次のような特徴が現れます。
・ローソク足の実体が小さくなり、ヒゲも短くなる
・上部バンドと下部バンドの距離が日を追うごとに縮まる
・ミドルバンド（移動平均線）の傾きがフラットに近づく
視覚的には、バンドが「筒のように細くなる」イメージです。相場参加者の多くが様子見姿勢になり、売り買いの力が拮抗しているため、価格がどちらか一方に大きく飛び出しやすい条件が整いつつあると考えられます。
ボリンジャーバンドスクイーズを使った基本戦略
ボリンジャーバンドスクイーズをトレーディングに活用する基本的な流れは、次のようになります。
1. スクイーズ局面を探す（バンド幅が明らかに縮小している場所を検出）
2. 価格が上部バンドまたは下部バンドを明確にブレイクするのを待つ
3. ブレイク方向にエントリーする（買いまたは売り）
4. 損切りラインと利確目標をあらかじめ設定しておく
シンプルですが、もっとも重要なのは「ブレイクを焦らず待つこと」です。スクイーズの最中は、値動きが小さいため、ランダムな上下に振られやすく、早い段階でポジションを取るとノイズに巻き込まれやすくなります。あくまで「バンドを抜けてから」が本番だと考えることが大切です。
株式・FX・暗号資産での具体的なイメージ
ここからは、株式・FX・暗号資産の3つのマーケットで、ボリンジャーバンドスクイーズがどう見えるか、具体的なイメージを紹介します。
株式（日本株・米国株など）のケース
決算発表や重要なイベントを控えた銘柄では、その前に出来高が減り、値動きが細くなることがあります。このとき、ボリンジャーバンドは徐々に縮小し、スクイーズ状態になります。決算発表後にサプライズが出ると、上部バンドを一気にブレイクして急騰、あるいは下部バンドを割って急落する場面が生まれます。
FXのケース
主要な経済指標（雇用統計や政策金利発表）前後では、為替レートがしばらく膠着し、ボリンジャーバンドが極端に狭まる場面がよくあります。発表後にトレンドが発生すると、バンドを勢いよく抜け、そのまま数十pips以上走ることがあります。このような局面は、スクイーズ戦略の典型的な狙いどころです。
暗号資産のケース
暗号資産は普段からボラティリティが大きい一方で、突然「嵐の前の静けさ」のように値動きが止まり、バンドが細くなる局面が現れます。このあと、材料や需給の偏りによって、一方向に大きくトレンドが走ることが多く、スクイーズ戦略が比較的機能しやすい市場の一つといえます。ただし、ボラティリティが高い分、損切りラインも含めたリスク管理をより慎重に設計する必要があります。
エントリーの具体的な条件設定例
ここでは、シンプルなルールベースでボリンジャーバンドスクイーズ戦略を組み立てる例を紹介します。あくまで一例ですが、初心者の方が自分なりのルールを作る際のたたき台として活用しやすい形にしています。
・時間軸：1時間足 または 4時間足
・ボリンジャーバンド設定：期間20、偏差2（標準的な設定）
・スクイーズ判定：直近20本のローソク足の中で、現在のバンド幅が相対的に小さい（過去一定期間の中で下位○％などのルールを作る）
買いエントリーの条件例
1. バンド幅が明らかに縮小している（チャート上で視覚的に確認できるレベル）
2. ローソク足が上部バンドを「終値ベース」で明確に上抜ける
3. ミドルバンドが上向きに傾き始めている
売りエントリーの条件例
1. バンド幅が縮小し、スクイーズ状態になっている
2. ローソク足が下部バンドを「終値ベース」で明確に下抜ける
3. ミドルバンドが下向きに傾き始めている
「終値ベース」でブレイクを確認する点が重要です。瞬間的なヒゲによるバンドタッチに飛びつくと、だましに巻き込まれやすくなるため、必ずローソク足が確定してから判断する癖を付けると安定しやすくなります。
利確と損切りの考え方
ボリンジャーバンドスクイーズ戦略は、「ブレイク後にトレンドが伸びる」ことを前提にしていますが、当然ながらすべてのトレードで綺麗に伸びるわけではありません。そのため、利確と損切りをあらかじめ明確にしておくことが欠かせません。
損切りの例
・買いポジションの場合：ミドルバンドを終値ベースで明確に下回ったら損切り
・売りポジションの場合：ミドルバンドを終値ベースで明確に上回ったら損切り
また、よりタイトに管理したい場合は、エントリー時点でのバンド幅（上部バンド－下部バンド）を参考に、その○％を損切り幅として設定する方法もあります。
利確の例
・エントリー方向に一定の値幅（例えばリスクリワード1：2以上）進んだら一部利確
・トレーリングストップ（移動する損切りライン）を使い、トレンドが続く限り保有を伸ばす
ボリンジャーバンド自体を利確の目安に使う場合には、エントリー後にミドルバンドからの乖離が極端に大きくなったところで一部手仕舞いし、残りはトレーリングで追いかけるといったアプローチも有効です。
だましを減らすためのフィルター指標
スクイーズ戦略単体では、方向感のないブレイクに振り回されることがあります。そこで、他の指標を組み合わせて「フィルター」として使うことで、精度を高めることができます。
RSIとの組み合わせ
・RSIが50より上のときの上方ブレイクを優先してロング
・RSIが50より下のときの下方ブレイクを優先してショート
このように、RSIで「地合い」を確認しておくと、逆方向へのだましに引っかかる回数を減らすことができます。
ADX・DMIとの組み合わせ
・ADXが上昇している局面（トレンド発生の勢いが高まっている）でのブレイクを狙う
・DMIの＋DIと－DIの関係を確認し、優勢な方向のブレイクのみエントリーする
これにより、「そもそもトレンドが発生しにくい地合い」を避けることができ、スクイーズ戦略との相性も良くなります。
リスク管理とポジションサイズの考え方
ボリンジャーバンドスクイーズは、トレンドがうまく出たときには大きな値幅を狙いやすい一方で、トレンドが不発に終わるケースも必ず存在します。そのため、1回のトレードで許容する損失額（口座残高に対する割合）をあらかじめ決めておくことが重要です。
例えば、1回のトレードで口座残高の2％を上限とするとします。損切り幅が20pipsであれば、許容損失額から逆算してロットサイズを決めることができます。このように、「どこで損切るか」から先に決め、そのうえでポジションサイズを計算するという順序を徹底すると、連敗した場合でも口座資金の急激な減少を防ぎやすくなります。
実際のチャートで検証してみる重要性
どんなに理屈として優れている戦略でも、実際のチャートで自分の目で確認し、自分の手で検証してみなければ本当の意味で使いこなすことはできません。過去チャートをスクロールしながら、
・ボリンジャーバンドがスクイーズしている局面をマーキングする
・その後のブレイク方向と値幅をメモする
・自分が決めたルールでエントリーした場合の損益を集計する
といった作業を繰り返すことで、「どの時間軸で、どの通貨ペアや銘柄で、どのような条件のときにスクイーズ戦略が機能しやすいか」が徐々に見えてきます。
ありがちな失敗パターンと注意点
ボリンジャーバンドスクイーズ戦略でよくある失敗として、次のようなものが挙げられます。
・スクイーズの判定があいまいで、実はそれほどエネルギーが溜まっていない局面を狙ってしまう
・ニュースやイベントの時間を意識せずにエントリーし、想定外の急変動に巻き込まれる
・損切りをあいまいにしてしまい、小さな損失の段階で撤退できずにダメージが大きくなる
これらを避けるためには、ルールをできるだけ数値で明確化することと、一度決めた損切りルールを途中で変えないことが重要です。また、経済指標カレンダーなどを確認し、大きなイベント直前のエントリーを避けるだけでもリスクを抑えることができます。
まとめ：ボリンジャーバンドスクイーズは「準備」と「待つ力」が鍵
ボリンジャーバンドスクイーズは、「静かな相場のあとに大きな動きが出る」という相場の性質に着目した、シンプルでありながら奥の深いコンセプトです。スクイーズ局面を見つけ、ブレイクを待ち、方向がはっきりしたところでエントリーするという流れを徹底することで、感情的な飛び乗りや衝動的な売買を減らすことにもつながります。
株、FX、暗号資産のいずれのマーケットでも応用が可能であり、時間軸や組み合わせる指標を工夫することで、自分のスタイルに合ったスクイーズ戦略を作り込むことができます。まずは小さなロットで試しながら、過去検証とルールのブラッシュアップを繰り返し、自分なりの「ボリンジャーバンドスクイーズ戦略」を育てていくことをおすすめします。
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