RSIダイバージェンスとは何か
RSIダイバージェンスとは、「価格の高値・安値の更新」と「RSIの高値・安値の更新」が食い違う状態のことを指します。相場の勢い(モメンタム)が鈍っているサインとして機能しやすく、トレンド転換や押し目・戻り目のヒントとして、多くのトレーダーが注目しているシグナルです。
RSI(Relative Strength Index)はオシレーター系のテクニカル指標で、一定期間の上げ幅と下げ幅のバランスから「買われ過ぎ」「売られ過ぎ」の度合いを数値化します。一般的には30以下が売られ過ぎ、70以上が買われ過ぎとされますが、ダイバージェンスでは単純な水準だけでなく、「価格とRSIの動き方のギャップ」を観察することが重要になります。
なぜRSIダイバージェンスが相場の変わり目になりやすいのか
価格が新高値を更新しているのに、RSIの高値は切り下がっているとします。一見すると強い上昇トレンドが続いているように見えますが、RSIの動きは「上昇の勢いが前回より弱くなっている」ことを示唆します。つまり、見た目の価格は上がっていても、その裏側では参加者の買いエネルギーが徐々に減速しているイメージです。
逆に、価格が安値を更新しているにもかかわらず、RSIの安値が切り上がっている場合は、「売りの勢いが弱まっている」状態と捉えられます。このように、ダイバージェンスは「価格だけを見ていると見逃しやすいモメンタムの変化」を教えてくれるため、トレンド転換や反発の初動を捉えるシグナルとして活用しやすいのです。
RSIの基本設定と実践的なパラメータ選び
多くのチャートソフトでは、RSIの初期設定期間は14になっています。これは日足であれば約2週間分の値動きに相当し、短期と中期の中間的なバランスが取れた設定です。初心者のうちは、まずはこの「14期間」を基準にダイバージェンスを観察してみるとよいでしょう。
より短期の値動きを重視したい場合は9や7など短めの期間にすると、RSIの反応が敏感になり、ダイバージェンスも頻繁に出現します。ただしシグナルが増える分、ノイズも増えます。一方で21や25など長めの期間にすると、シグナルの回数は減りますが、その分だけ大きめの相場の転換に絞ってサインが出やすくなります。
株式の日足チャートでは14〜21、FXの1時間足や4時間足チャートでは9〜14、暗号資産のようにボラティリティの高い市場では14〜25といったイメージで、自分の取引スタイルや銘柄の特徴に合わせて微調整していくとよいです。
RSIダイバージェンスの代表的な4パターン
1. 強気レギュラーダイバージェンス(ボトム転換のサイン)
価格が安値を更新しているのに、RSIが安値を切り上げているパターンです。典型的には、チャート上で「安値1」と「安値2」を結ぶと右下がりのラインになるのに対し、RSIの「安値1」と「安値2」を結ぶと右上がりのラインになる形です。売りエネルギーが弱まりつつあるため、「下げ止まりからの反発」が起こりやすい局面と考えられます。
例えばFXのドル円1時間足で、価格が145円→144円→143.5円とわずかに安値を更新しているのに、RSIは25→28→32と安値を切り上げているケースがあれば、過度な売りが一巡しつつあるサインとして、買い側への反転を警戒します。
2. 弱気レギュラーダイバージェンス(トップ転換のサイン)
価格が高値を更新しているのに、RSIの高値は切り下がっているパターンです。典型的には、チャート上の「高値1」と「高値2」を結ぶと右上がり、RSI上の「高値1」と「高値2」を結ぶと右下がりになります。買いエネルギーが弱まりつつあるため、「上昇一服からの調整局面」に入りやすいシグナルです。
例えば成長株の株価が、決算期待などで3,000円→3,300円→3,400円と高値を切り上げているのに、RSIは75→72→68とピークが下がっている場合、材料出尽くしからの調整や利確売りが出てきやすいタイミングと考えることができます。
3. 強気ヒドゥンダイバージェンス(押し目のサイン)
価格の安値は切り上がっているのに、RSIの安値が切り下がっているパターンです。トレンド方向に対する「押し目」で発生しやすく、上昇トレンド継続のシグナルとして捉えられます。レギュラーダイバージェンスが「転換」を示唆するのに対し、ヒドゥンダイバージェンスは「トレンド継続の押し目」と覚えておくと整理しやすいです。
例えばビットコインの日足が、350万円→360万円→370万円と安値を切り上げている一方で、RSIは40→38→35と安値を更新しているケースを考えます。価格は上昇トレンドを維持しつつ一時的な調整が入っているだけで、再度トレンド方向(上方向)に戻りやすいと判断される局面です。
4. 弱気ヒドゥンダイバージェンス(戻り売りのサイン)
価格の高値は切り下がっているのに、RSIの高値が切り上がっているパターンです。下降トレンドの中で一時的な戻しが入っているものの、トレンドは依然として下方向である可能性が高い場面と捉えられます。戻り売りを狙う際のシグナルとして活用しやすい形です。
例えば日経225先物の4時間足が、33,000円→32,800円→32,500円と高値を切り下げている一方で、RSIは55→57→60と高値を切り上げている場合、上方向への戻りは「下落トレンドの中の一時的な戻し」と判断され、再び下方向への波が出やすいと想定できます。
実践的なエントリー・エグジットルールの一例
ここでは、シンプルで再現しやすい「RSIレギュラーダイバージェンス×サポート・レジスタンス」の組み合わせ例をご紹介します。あくまで一例なので、そのまま使用するのではなく、自分の取引スタイルに合わせて調整しながら使ってください。
ステップ1:環境認識(時間軸の決定)
まずは自分がトレードする時間軸を決めます。例えば、日中もチャートを確認できる人であればFXの1時間足や30分足、仕事後にじっくり分析したい人であれば株式の日足や4時間足など、ライフスタイルに合った時間軸を選びます。
ステップ2:重要なサポート・レジスタンスの把握
過去に何度も止められている高値・安値、ラウンドナンバー(キリの良い価格)、前日の高値・安値などを基準に、「価格が意識されやすいライン」をチャート上に引きます。RSIダイバージェンスは単体でも機能しますが、これらのラインと組み合わせることでシグナルの信頼度を高めることができます。
ステップ3:ダイバージェンスの出現を待つ
価格が重要ライン付近に接近したときに、RSIの値動きを観察します。例えば、サポートラインをわずかに割り込んだタイミングで、価格は安値更新・RSIは安値切り上げとなっていれば「強気レギュラーダイバージェンス」を疑います。逆に、レジスタンスラインをわずかに更新したタイミングで、価格は高値更新・RSIは高値切り下げとなっていれば「弱気レギュラーダイバージェンス」です。
ステップ4:ローソク足の確定を待ってエントリー
ダイバージェンスを確認した後、すぐに飛びつくのではなく、「転換を示唆するローソク足パターン」が出るまで待つことでダマシを減らせます。例えば、下落トレンドの終盤で強気レギュラーダイバージェンスが出た後に、大陽線やピンバー(下ヒゲの長いローソク足)が出現したタイミングで買いエントリーする、というイメージです。
ステップ5:利確目標と損切りラインの設定
利確目標は、直近の戻り高値(下落トレンドの場合)や直近の押し安値(上昇トレンドの場合)、またはボリンジャーバンドのミドルバンドなどを基準に決めます。損切りラインは、ダイバージェンスが出現したスイングの安値・高値を少しだけ超えた水準に置くことで、リスクリワードのバランスを取りやすくなります。
勝率を高めるためのフィルター条件
RSIダイバージェンスは強力なシグナルですが、すべての場面で機能するわけではありません。勝率と安定性を高めるためには、いくつかのフィルター条件を組み合わせることが有効です。
トレンド方向を上位時間軸で確認する
例えば1時間足でエントリーする場合、4時間足や日足で「上昇トレンドか下降トレンドか」を確認し、その方向に沿ったダイバージェンスだけを取るようにします。上位足が上昇トレンドのときは「強気レギュラーダイバージェンス」と「強気ヒドゥンダイバージェンス」を重視し、逆に上位足が下降トレンドのときは「弱気レギュラーダイバージェンス」と「弱気ヒドゥンダイバージェンス」を優先するイメージです。
ボラティリティの状態をチェックする
ボリンジャーバンドの幅やATR(Average True Range)などを確認し、「値動きが極端に小さいレンジ相場」や「イベント前後の異常な変動」が起きているタイミングを避けるのも有効です。ボラティリティが極端に低いと、ダイバージェンスが連発してもなかなか大きく動きませんし、逆にボラティリティが高すぎると、ノイズに振り回されやすくなります。
出来高や他のオシレーターとのコンフルエンス
株式や先物であれば出来高、FXや暗号資産であればティックボリュームなどを参考にし、「ダイバージェンスが出たタイミングで出来高も増えているか」を確認するのも一案です。また、MACDやストキャスティクスといった他のオシレーターでも同様のダイバージェンスが出ていれば、シグナル同士が補強し合う関係になります。
リスク管理:ストップロスとポジションサイズ
どれだけ優れたシグナルでも、100%当たることはありません。RSIダイバージェンスも例外ではなく、ダマシになるケースや、シグナルの後に一度逆行してから本格的に動き出すケースもあります。そのため、「どこで間違いを認めて撤退するか」「1回のトレードでどれくらいのリスクを取るか」をあらかじめ決めておくことが重要です。
一つの目安として、エントリーポイントから損切りラインまでの距離をATRなどで測り、「口座資金の1〜2%以内に損失が収まるようにポジションサイズを調整する」という考え方があります。例えば、口座が100万円で、1回のトレードリスクを1%(1万円)に設定し、損切り幅が50pipsであれば、1pipsあたり200円の損益になるロット数に抑える、といった具合です。
シンプルな検証方法のイメージ
RSIダイバージェンスを自分の武器にするためには、「感覚的に良さそう」ではなく、過去チャートを使って一定のルールで検証してみることが大切です。専門的なプログラムが書けなくても、TradingViewやMT4/MT5などのチャートソフトを使って、手作業で検証することは十分可能です。
例えば、次のような流れで検証できます。
- 検証する銘柄(ドル円、日経225、ビットコインなど)と時間軸(1時間足、4時間足、日足など)を1つに絞る
- RSI期間を14に固定し、ダイバージェンスの条件(安値更新+RSI安値切り上げなど)を明文化する
- 過去1〜2年分のチャートを遡り、ダイバージェンスが出現した箇所に印を付ける
- その後の値動きがどうなったか(最大どこまで有利に動いたか、どこで損切りになったか)を記録する
- 最終的に、勝率・平均利益・平均損失・最大ドローダウンなどを簡単に集計する
このような地道な作業を通じて、「どの時間軸・どの銘柄・どの条件でダイバージェンスが機能しやすいか」という感触がつかめてきます。自分の検証結果に基づいたルールは、他人から聞いた手法よりも納得して運用しやすく、長く継続しやすいというメリットがあります。
まとめ:RSIダイバージェンスを自分の型に落とし込む
RSIダイバージェンスは、価格だけを見ていると見逃しやすい「モメンタムの変化」を教えてくれる便利なシグナルです。レギュラーダイバージェンスはトレンド転換、ヒドゥンダイバージェンスはトレンド継続の押し目・戻り目と整理しておくと、チャートの読み解きがスムーズになります。
一方で、どんなに優れたシグナルであっても、環境認識やリスク管理と切り離して考えることはできません。上位時間軸のトレンド方向、サポート・レジスタンス、ボラティリティの状態、出来高などと組み合わせて総合的に判断することで、RSIダイバージェンスの信頼度は大きく変わってきます。
まずは自分がよく見る1つの銘柄・1つの時間軸を決め、シンプルなルールから検証・運用をスタートしてみてください。継続的な観察と小さな改善を積み重ねることで、「なんとなく良さそう」に見えるシグナルが、自分なりの勝ちパターンへと変わっていきます。


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