出来高に着目したテクニカル指標はいくつかありますが、その中でも「VMA(Volume Moving Average:出来高移動平均)」は、価格のトレンドだけでなく、市場参加者の熱量を同時に読むためのシンプルかつ強力なツールです。株、FX、暗号資産のいずれでも応用可能で、他のインジケーターと組み合わせることでエントリー精度やダマシ回避に役立ちます。
ここでは、VMAの基本的な仕組みから具体的なトレード戦略、チャートでの実践的な読み方まで、投資初心者でも理解できるように丁寧に解説していきます。
VMA(出来高移動平均)とは何か
VMAは、その名の通り「出来高の移動平均」です。通常、価格チャートの下に棒グラフで表示されている出来高に対して、一定期間の平均線を乗せたものを指します。価格の移動平均線(SMAやEMA)と同じ発想を、出来高に適用したものと考えるとイメージしやすいです。
多くのトレーダーは価格チャートだけを見て売買判断をしがちですが、価格だけでは「どれだけ多くの参加者がその価格を支持しているか」が分かりません。出来高とその平均であるVMAを併せて見ることで、次のような情報が読み取れます。
- トレンドの伸びに本当に参加者が付いてきているか
- ブレイクアウトに出来高の裏付けがあるか
- 一時的なノイズなのか、本格的な動きの始まりなのか
つまりVMAは、「動きの本気度」を測るためのベースラインとして機能します。
VMAの計算方法と基本パラメータ
VMAの計算は非常にシンプルです。例えば「20期間VMA」であれば、直近20本分の出来高を単純平均したものが現在のVMAとなります。
一般的な設定の例としては、次のような期間がよく使われます。
- 短期:5本、10本(デイトレ・スキャルピング向け)
- 中期:20本、25本(スイングトレード向け)
- 長期:50本、60本(中長期トレンド確認向け)
株式の日足チャートであれば「20日VMA」は約1か月分の平均出来高に相当し、「50日VMA」は約2〜2.5か月分の平均出来高を表します。FXや暗号資産のように24時間市場では、使用する時間軸(1分足、5分足、1時間足など)に応じて、トレードスタイルに合う期間を選ぶのが良いでしょう。
VMAで注目すべき3つの基本パターン
VMAを使う際は、細かい応用の前に、まず次の3つの基本パターンを押さえておくと実践で役立ちます。
1. 出来高がVMAを大きく上回る「出来高スパイク」
最も分かりやすいのが、ある1本の出来高がVMAを大きく上回る「スパイク」です。特に、価格が重要な抵抗線やサポートラインをブレイクする場面で、出来高がVMAの2倍以上に急増している場合、そのブレイクは「本物」である可能性が高まります。
例として、日本株の日足チャートで、長らくレジスタンスとなっていた価格帯を終値で上抜け、同時に出来高が20日VMAの2.5倍に跳ね上がったとしましょう。この場合、多くの参加者がそのブレイクに乗っていると考えられ、上昇トレンドが継続する期待値が高くなります。
2. 出来高がVMAを下回り続ける「静かな相場」
一方で、出来高がVMAを下回る状態が長く続いている相場は、「静かで注目度が低い相場」です。レンジが続いている、あるいは市場参加者が様子見モードであることが多く、無理にポジションを取ると値動きの小ささやダマシでストレスが溜まりやすくなります。
長く続く低出来高局面は、トレンドフォロー派にとっては「無理に触らないゾーン」と割り切る判断材料になります。一方で、レンジブレイク狙いのトレーダーにとっては、「次に出来高がVMAを大きく上回る瞬間がチャンス」という見方もできます。
3. VMA自体の傾きの変化
価格の移動平均線と同様に、VMA自体の傾きも重要な情報を与えてくれます。VMAが右肩上がりに転じている時は、市場参加者の関心が高まりつつある段階です。まだ価格が大きく動いていない場面でも、出来高だけ先行して増え始めていることがあります。
逆に、価格はまだ高値圏にいてもVMAが横ばい〜右肩下がりになっている場合、「上昇トレンドに勢いがなくなりつつあるサイン」として警戒することができます。これは天井圏の兆候を見抜くうえで有用です。
株式投資におけるVMA活用戦略
株式市場では「出来高=注目度」と言い換えることができます。個人投資家が大口投資家や機関投資家の動きを感じ取るうえで、VMAはシンプルかつ強力なツールです。ここでは、株式で使いやすい具体的な戦略を紹介します。
戦略1:レジスタンスブレイク+VMAスパイク
典型的なパターンは、チャート上で何度も跳ね返されてきたレジスタンスライン(高値ゾーン)を、出来高スパイクとともに上抜ける場面です。
具体的な手順の一例は次の通りです。
- 日足で明確なレジスタンスラインを引く
- 20日VMAを出来高に重ねて表示する
- 終値でレジスタンスを上抜け、かつ当日の出来高が20日VMAの2倍以上になっている銘柄をスクリーニングする
この条件を満たす場合、単なる短期筋の仕掛けではなく、多くの投資家がブレイクに参加している可能性が高まります。エントリータイミングとしては、ブレイクした翌日の押し目(前日の高値付近への戻り)を待ってから買いを入れると、リスクリワードが改善しやすくなります。
戦略2:移動平均線クロス+VMAでダマシを除外
単純な移動平均線のゴールデンクロス戦略は、トレンドがはっきりしない局面でダマシが多くなりがちです。そこで、「ゴールデンクロス発生時に出来高がVMAを上回っているか」を条件に追加することで、信頼度を高める狙いがあります。
例として、25日移動平均線が75日移動平均線を上抜けるゴールデンクロスが出た日に、出来高が20日VMAの1.5倍以上であれば、そのクロスは多くの参加者に支持されたシグナルと見なしやすくなります。逆に、出来高がVMAを大きく下回っているゴールデンクロスは、「誰も見ていないシグナル」としてフィルターで除外してもよいでしょう。
戦略3:高値圏でのVMA鈍化による警戒シグナル
株価が右肩上がりを続けているものの、VMAが徐々に横ばい〜下向きに変化してきた場合、上昇トレンドが終盤に差し掛かっている可能性があります。特に、連日の陽線にもかかわらず出来高がVMAを下回り続けるような局面は、「買いの勢いが続いていない上昇」として要注意です。
こうした局面では、
- 新規の買いは控える
- すでに保有しているポジションの一部を利確しておく
- 直近安値を明確に割ったら残りを手仕舞うルールを設定する
といったリスク管理を徹底しておくことで、天井からの急落に巻き込まれるリスクを抑えることができます。
FX・暗号資産におけるVMAの応用
FXや暗号資産の世界では、「出来高」の扱いが株式と異なる点に注意が必要です。取引所ごとに出来高が分かれており、OTC取引や店頭取引が多いFXでは、個々のチャートが示す出来高は「ティック数(価格更新回数)」であることも少なくありません。それでも、相対的な増減を捉えるという意味で、VMAは依然として有効です。
短期トレンドブレイク+VMA増加
例えば、FXの1時間足でレンジ相場が続いている通貨ペアを観察しているとします。レンジ上限付近でローソク足の実体がレンジを上抜けたタイミングで、出来高(またはティック数)が直近20本のVMAを大きく上回る場合、そのブレイクは「本物」である可能性が高まります。
暗号資産でも同様に、24時間取引されているため、アジア時間・欧州時間・米国時間の切り替わりで出来高が変化します。VMAを表示しておけば、どの時間帯で市場参加者が急増しているかを視覚的に捉えることができます。
ボラティリティ拡大局面でのVMA監視
重要指標発表やニュースイベントの前後では、価格だけでなく出来高も大きく変動します。FX・暗号資産では、急激なスプレッド拡大や瞬間的な乱高下も起こりやすいため、「VMAを大きく超える出来高スパイク」が出た後の動きには特に注意が必要です。
短期トレーダーにとっては、イベント直前直後のスパイクに飛び乗るよりも、VMAが落ち着いてきたタイミングでトレンド方向を確認し、押し目や戻りを狙う方がリスクをコントロールしやすくなります。
VMAと他インジケーターの組み合わせ戦略
VMA単体でも一定の情報は得られますが、他のインジケーターと組み合わせることで、より精度の高いシグナルに仕上げることができます。ここでは、代表的な組み合わせパターンを紹介します。
VMA+ボリンジャーバンドスクイーズ
ボリンジャーバンドが収縮する「スクイーズ」は、相場がエネルギーを蓄えている状態を示します。この状態でVMAが低下し続けている場合、市場参加者も静観している「嵐の前の静けさ」のような局面です。
スクイーズ状態からバンドが拡大し始める瞬間に、出来高がVMAを明確に上回り始めたら、「新しいトレンドが始まる初動」である可能性が高まります。株・FX・暗号資産いずれでも使える汎用的なセットアップです。
VMA+RSIの組み合わせ
RSIは「買われ過ぎ・売られ過ぎ」を示すオシレーターですが、単体ではダマシも多くなります。そこで、RSIが70を超える買われ過ぎ水準に達しているものの、出来高がVMAを大きく下回っている場合、「勢いのない買われ過ぎ」と判断することができます。この場合、すぐに逆張りするのではなく、トレンド転換のシグナル(移動平均割れなど)を待ってからエントリーする戦略が有効です。
逆に、RSIが一時的に70を超えても、出来高がVMAを大きく上回っている上昇局面では、「強いトレンドの中での一時的な過熱」と解釈し、すぐに逆張りしない判断材料になります。
VMA+MACDダイバージェンス
MACDが価格と逆行するダイバージェンスは、トレンド転換の予兆として知られています。このとき、出来高とVMAを重ねて見ると、ダイバージェンスの信頼度を補強できます。
- 価格は高値を更新しているのにMACDは高値を切り下げている
- 同時に、出来高がVMAを下回り続けている
このような状態は、「価格だけが惰性で上がっているが、勢いは実際には弱まっている」典型例です。ここで安易に高値掴みするのではなく、下落に転じた局面での戻り売りを狙うといった戦略が考えられます。
VMAを使う際の注意点と典型的な失敗パターン
VMAはシンプルで分かりやすい指標ですが、万能ではありません。特に、次のようなポイントには注意が必要です。
常に「絶対値」ではなく「相対的な変化」を見る
出来高の絶対値は銘柄や市場によって大きく異なります。株価500円の中小型株と、株価1万円を超える大型株では、同じ出来高でも意味合いが全く違います。そのため、VMAを使う際は「VMAに対してどれだけ増えたか・減ったか」という相対的な変化を重視することが重要です。
低流動性銘柄ではノイズが増える
出来高そのものが少ない銘柄や通貨ペアでは、1日の出来高が小さくても価格が大きく動いてしまうことがあります。このような環境では、VMAのシグナルもノイズが多くなりがちです。スプレッドの広さや板の厚みも合わせて確認し、過度に出来高指標に依存しないようにしましょう。
ニュース・イベント要因との切り分け
決算発表、経済指標、要人発言、規制ニュースなど、ファンダメンタルな要因によって出来高が急増するケースも多々あります。こうしたイベントに伴う出来高スパイクは、短期的な行き過ぎや乱高下を生みやすく、「トレンドの始まり」というよりも「一時的なショック」に過ぎないこともあります。
カレンダーやニュースを確認し、イベントによる一過性のスパイクなのか、それとも静かな環境の中で徐々に出来高が増え、VMAも右肩上がりになってきているのかを見極めることが大切です。
VMAをトレードルールに組み込むステップ
最後に、VMAをご自身のトレードルールに組み込むための具体的なステップを整理しておきます。
- 自分のトレードスタイル(デイトレ、スイング、中長期)を確認する
- 使用する時間軸(5分足、1時間足、日足など)に合わせて、短期・中期のVMA期間を決める
- 「価格パターン+VMAの条件」をセットでルール化する(例:レジスタンスブレイク時に出来高がVMAの2倍以上、など)
- 過去チャートで、選んだルールがどの程度機能しているかを繰り返し検証する
- 小さなロットから実際の取引に反映し、必要に応じて条件を微調整する
VMAは単純な指標ですが、「どのような価格パターンと組み合わせるか」「どの市場・時間軸で使うか」によって、期待値は大きく変わります。ルールを一度作って終わりではなく、相場環境の変化に合わせて見直していくことで、より実戦的な武器になっていきます。
出来高移動平均であるVMAを上手に使いこなすことで、単なる「チャートの形」だけでなく、その裏側にある市場参加者の心理や勢いを読み解く力が身につきます。価格と出来高の両方を意識した視点を持つことが、長期的に安定したトレード成績につながる大きな一歩となるでしょう。


コメント