ボリンジャーバンドと聞くと、「±2σで売買」といった単純な逆張り手法を連想する人が多いと思います。しかし、プロや裁量トレーダーの中で本当に重視されているのは「バンドの幅そのもの」、つまりボリンジャーバンドスクイーズ(バンドがギュッと縮む状態)です。スクイーズは、市場が一時的に静まり返り、その後に大きな値動きが生まれやすい「嵐の前の静けさ」を示すシグナルとして機能します。
この記事では、株式、FX、暗号資産などに共通して使えるボリンジャーバンドスクイーズを活用した順張り・ブレイクアウト戦略を、初心者でも再現しやすい形で整理して解説します。単に理論を説明するだけでなく、「どのようなチャート形状を待つのか」「どこでエントリーし、どこで逃げるのか」をできる限り具体的に文章で説明していきます。
ボリンジャーバンドスクイーズとは何か
ボリンジャーバンドは、移動平均線を中心にその上下に標準偏差を加減して描かれるバンドです。一般的には、期間20の単純移動平均(SMA)に対して±2σのバンドを描く設定がよく用いられます。価格がバンドの外側に飛び出すと「行き過ぎ」とみなされることが多く、逆張りシグナルとして使われることもあります。
一方でボリンジャーバンドスクイーズは、バンド幅が極端に狭くなっている状態を指します。価格の変動が小さく、標準偏差が縮んでいるため、上下のバンドが移動平均線に近づき、チャート上では「帯が細くなっている」ように見えます。この状態は、参加者が様子見をして売買が細り、エネルギーがため込まれている局面と解釈できます。
市場は、長く狭いレンジが続いたあとに、どちらか一方向へ大きく動き出すことが多いです。ボリンジャーバンドスクイーズ戦略は、このエネルギー解放の瞬間を狙うブレイクアウト手法と相性が非常に良い指標です。
スクイーズ局面が重要とされる理由
スクイーズ局面が注目される理由は、主に次の3つです。
1. 値動きのエネルギーが溜まっている可能性
長期間ボラティリティが低い状態が続くと、ポジションの偏りや建玉の蓄積が起こりやすくなります。参加者が「上にも下にも抜けない」と見てポジションを積み増していると、何かのきっかけで一方向に大きく動きやすくなります。スクイーズは、このようなエネルギーの蓄積状態の一つの目安になります。
2. 損切り幅をコンパクトに設計しやすい
バンド幅が狭いということは、直近レンジもコンパクトであることが多く、ブレイクアウトポイントのすぐ近くに「明確な無効化ライン(損切りライン)」を置きやすくなります。これにより、リスクリワードの比率をある程度コントロールしながらトレードを設計できます。
3. トレンドフォロー戦略との相性がよい
スクイーズ後のブレイクは、そのままトレンド相場へ移行することもあります。特に株式や暗号資産のようにニュースやテーマ性で一方向に動きやすい市場では、スクイーズを起点に中期トレンドが始まるケースも少なくありません。
基本設定とチャートへの表示方法
多くのチャートソフトやトレーディングプラットフォーム(TradingView、MT4/MT5、各証券会社のツールなど)には、ボリンジャーバンドが標準搭載されています。一般的な設定は次の通りです。
- 期間:20
- 種類:単純移動平均(SMA)
- 偏差(σ):2
スクイーズを視覚的に把握するだけなら、この標準設定で十分です。バンド幅の変化を数値として確認したい場合は、「ボリンジャーバンド幅(上バンド−下バンド)をインディケーターとして表示する」機能を使うか、自作インジケーターでバンド幅を計算させる方法もあります。
スクイーズを検知する具体的な条件
実際の戦略に落とし込むためには、「どこからがスクイーズなのか」をある程度ルール化しておくと判断が安定します。代表的な考え方は次の通りです。
1. 過去一定期間でバンド幅が最小クラス
例えば「過去6か月の中で、現在のバンド幅が下位10%に入っている」といった条件を用います。これにより、日々の小さな変化ではなく、本当に異常な低ボラ状態だけを抽出できます。
2. バンド幅が一定のしきい値を下回っている
銘柄ごとにボラティリティの水準が異なるため一概には決めにくいですが、「平均的なバンド幅の◯%以下になったらスクイーズ」といった形で自分なりの基準を持つ方法もあります。FX通貨ペアなど、ボラティリティが比較的一定の銘柄では活用しやすい考え方です。
3. 目視とインジケーターを組み合わせる
最終的にはチャートの印象も重要です。バンド幅の数値条件で候補をスクリーニングし、そこから目視で「ローソク足が帯にすっぽり収まっていて、ヒゲもあまり出ていない横ばい」のようなチャートを選別すると、より精度が上がります。
ボリンジャーバンドスクイーズを使った順張りブレイクアウト戦略
ここからは、株式・FX・暗号資産に共通して応用しやすい、シンプルなブレイクアウト戦略の考え方を整理します。あくまで一例ですが、構造が分かれば自分のスタイルに合わせて応用しやすくなります。
ステップ1:スクイーズ局面を探す
まずは、前述の方法でバンド幅が極端に狭い局面を探します。日足ベースで見ると、中期トレンドの起点を狙いやすくなります。一方、短期トレードを狙うなら、1時間足や15分足でも同様の考え方が使えます。
ステップ2:直近レンジの高値・安値を明確にする
スクイーズ局面では、多くの場合、価格は小さなレンジの中で上下を繰り返しています。このレンジの上限(直近高値)と下限(直近安値)をラインで引きます。ここが、ブレイクアウトのトリガーとなるポイントです。
ステップ3:レンジ上抜け・下抜けでエントリー
価格がレンジ高値を明確に上抜けた場合は買い方向、レンジ安値を明確に下抜けた場合は売り方向を検討する形です。エントリーの際は、単に一瞬抜けただけでなく、終値ベースで抜けたか、ローソク足の実体がしっかりレンジの外に出ているかを確認することでダマシを減らせます。
ステップ4:損切りと利益確定の目安を決める
損切りラインとしては、ブレイクした方向とは逆側のレンジ内への戻りを目安にする方法があります。例えば上抜けで買った場合、レンジ内へ深く戻ってきたら一旦手仕舞いする、といったイメージです。利益確定は、リスクリワード比や、移動平均線・他のモメンタム指標(RSIやMACDなど)も組み合わせて柔軟に判断します。
株式での具体例イメージ
日本株の日足チャートを想定してみます。ある銘柄が、決算発表や材料が一巡したあと、出来高が減りながら20日移動平均線の周辺で小さな値動きを続けているとします。このときボリンジャーバンドは徐々に縮まり、ある日には上バンドと下バンドの距離が過去数か月で最も狭いレベルに達しているとします。
この局面で、直近高値を少し上抜けたところに買いのエントリーポイントを設定し、直近安値の少し下に損切りラインを置きます。その後、好材料のニュースや市場全体のリスクオンムードを背景に上方向へブレイクすると、バンドは一気に広がりながら株価はトレンドを形成していきます。スクイーズは、その上昇トレンドのスタート地点を捉える一つのヒントになります。
FXでの具体例イメージ
FXのドル円1時間足を例に考えます。重要な経済指標の発表前後で、相場参加者が様子見をしている局面では、価格が数十pipsの狭いレンジで推移し、ボリンジャーバンドも大きく縮みます。インジケーターでバンド幅を確認すると、過去数日と比べて明らかに小さくなっていることが分かるはずです。
このような状況で、レンジ上限に買い、レンジ下限に売りの逆指値を置いておき、どちらかに抜けた方に追随する手法があります。損切りはレンジ内への戻りを基準とし、値動きが伸びればトレーリングストップで追いかける形です。スプレッドや指標時のスリッページには注意が必要ですが、スクイーズ局面を利用すると「何も起きていない静かな時間帯」から「大きく動き出す瞬間」を狙いやすくなります。
暗号資産での具体例イメージ
暗号資産(仮想通貨)はボラティリティが高い一方で、長く横ばいが続く期間もあります。ビットコインの日足や4時間足で、ボリンジャーバンドが極端に縮んでいる局面は、相場参加者が次の方向性を探っているタイミングと考えられます。
例えば、長い下落トレンドのあとに横ばいが続き、出来高が徐々に減少している中でスクイーズが発生した場合、その後の上方向ブレイクは大きなトレンド転換につながることもあります。一方で、下方向に再び加速して「最後の投げ売り」が出るケースもあるため、移動平均線の傾きや出来高の推移、他のオシレーターなども組み合わせて総合的に判断することが大切です。
スクイーズ戦略の注意点とダマシパターン
ボリンジャーバンドスクイーズは強力なシグナルになり得ますが、万能ではありません。特に次のようなパターンには注意が必要です。
1. 一瞬だけのフェイクブレイク
上に抜けたように見せかけてすぐにレンジ内へ戻る、いわゆるフェイクブレイクです。これは短期筋によるストップ狩りであることも多く、終値やローソク足の形状を確認しない「飛びつきエントリー」はリスクが高くなります。
2. 出来高が極端に少ない銘柄
株式や一部の暗号資産では、出来高が非常に少ない銘柄があります。このような銘柄でのスクイーズは、単に参加者がほとんどいないだけであり、大きく動く前兆とは限りません。スプレッドも広がりやすく、思った価格で約定しないリスクも高まります。
3. 上位時間足のトレンドと逆行するブレイク
短期足でスクイーズブレイクが発生しても、日足や週足では強いトレンドと逆方向であるケースがあります。上位時間足のトレンドと同じ方向のブレイクを優先することで、中長期的な流れに逆らわないトレードを心掛けることができます。
他の指標との組み合わせ方
スクイーズ戦略を安定させるためには、ボリンジャーバンド単体ではなく、他の指標と組み合わせることが有効です。
1. 移動平均線との併用
20日移動平均線や50日移動平均線の傾きが上向きのときは上方向ブレイクを、下向きのときは下方向ブレイクを優先するといったルールを設けることで、トレンドの方向性と整合したトレードがしやすくなります。
2. RSIやストキャスティクスとの組み合わせ
スクイーズ後のブレイク時に、RSIが50を上抜けている、あるいはストキャスティクスがゴールデンクロスしているなど、モメンタム系の指標が同じ方向性を示している場合、トレンドが継続しやすいと判断する考え方があります。
3. ATRによるボラティリティ管理
ATR(Average True Range)を併用することで、損切り幅やポジションサイズをボラティリティに応じて調整できます。スクイーズ後はATRも徐々に拡大していくことが多いため、「エントリー時点のATRを基準に損切り幅を設定し、リスクを一定に保つ」といった使い方が考えられます。
個人投資家がスクイーズ戦略を取り入れる際のポイント
最後に、個人投資家がボリンジャーバンドスクイーズを実際のトレードに取り入れる際のポイントを整理します。
1. まずは過去チャートでパターンを確認する
いきなり実弾でトレードするのではなく、過去のチャートを見ながら「スクイーズ→ブレイク→トレンド」のパターンがどのように現れていたかを確認することが大切です。TradingViewなどのリプレイ機能を使うと、当時のリアルタイム感覚に近い形で検証できます。
2. デモ口座や小さなロットから始める
アイデアとして魅力的に見えても、実際の売買では感情の揺れや約定のズレなど、チャートだけでは分からない要素が多くあります。まずはデモ口座や少額から試し、ルールを自分なりに微調整していくプロセスを踏むと、長く使い続けられる戦略になりやすくなります。
3. 1つのシグナルに依存しすぎない
どれほど優れた指標やパターンでも、常に機能するわけではありません。ボリンジャーバンドスクイーズも例外ではなく、ダマシや損切りは必ず発生します。資金管理や分散、複数の戦略ポートフォリオの一部として位置づけることで、全体としてのリスクをコントロールしやすくなります。
ボリンジャーバンドスクイーズは、「動かない市場を眺めている時間」を「次の大きなチャンスを仕込む時間」に変えてくれる考え方です。株式、FX、暗号資産など、さまざまな市場で応用しながら、自分のスタイルに合ったルールを少しずつ作り込んでいくことで、相場との付き合い方が一段と洗練されていくはずです。


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