MT4で移動平均線×RSIのシンプルEAを自作する手順と考え方

MT4（MetaTrader4）は、個人投資家でも無料で使える強力なトレードプラットフォームです。その最大の魅力の一つが、EA（Expert Advisor）を使った自動売買機能です。この記事では、移動平均線とRSIという基本インジケーターを組み合わせたシンプルなEAを自分で組む方法を、初心者の方にも分かるように丁寧に解説します。

MT4自動売買とEAの基本概念
今回作るEAのコンセプト
MT4とMQL4の準備
MQL4 EAの基本構造
売買ルールの設計：移動平均線×RSI
1. 1. インジケーターの設定
2. 2. 売買条件の例
実践的なEAコード（MQL4）
バックテストと検証の流れ
1. 1. ストラテジーテスターでのバックテスト
2. 2. デモ口座でのフォワードテスト
初心者が陥りやすい落とし穴
インジケーターを増やす時の考え方
MT4でEAを育てていくという発想
まとめ

MT4自動売買とEAの基本概念

まず前提として、EAとは「MQL4という専用言語で書かれた自動売買プログラム」のことです。トレーダーが決めたルールに従って、チャートを監視し、条件がそろえば自動でエントリーや決済を実行します。

EAを使うと、以下のようなメリットがあります。

感情に左右されず、ルール通りのトレードができる
24時間チャートを見張らなくても良い
検証を通じて、戦略の強み・弱みを数字で把握しやすい

一方で、どんなEAであっても「必ず勝てる」ものではありません。ロジックや資金管理の設計が甘いと、損失が積み上がることもあります。そのため、「考え方」を理解したうえで自作していく姿勢が重要になります。

今回作るEAのコンセプト

今回の記事では、次のようなシンプルなトレンドフォローEAを題材にします。

移動平均線（MA）でトレンド方向を判断
RSIで押し目・戻りを狙う
時間足は1時間足（H1）を想定
損切り・利確は固定値で設定し、複雑にしすぎない

イメージとしては、「上昇トレンド中にRSIが一時的に下がったところで買い、トレンド方向へ戻る動きを狙う」といった、教科書的な押し目買い戦略です。まずはこのようなシンプルな戦略から始めることで、EAの仕組みや検証の流れを把握しやすくなります。

MT4とMQL4の準備

最初に、MT4でEAを開発・動かすための基本的な準備を確認します。

1. MT4のインストールとデモ口座

まだMT4をインストールしていない場合は、対応しているFX業者のサイトからMT4をダウンロードしてインストールします。その後、まずはデモ口座を開設し、リアルマネーを使わずに動作確認できる環境を整えます。

2. MetaEditorの起動

MT4を起動したら、メニューの「ツール」→「MetaQuotes Language Editor」を選択するか、ツールバーの「MetaEditor」アイコンをクリックします。これがEAを作成・編集するための開発環境です。

3. 新しいEAファイルの作成

MetaEditorが開いたら、「ファイル」→「新規作成」→「Expert Advisor（テンプレート）」を選びます。名前は例えば「MA_RSI_Simple_EA」としておきます。この時点で、EAのひな型コードが生成されています。

MQL4 EAの基本構造

テンプレートから生成されたコードには、主に次の3つの関数が含まれています。

OnInit：EAがチャートにセットされたときに一度だけ呼ばれる初期化処理
OnDeinit：EAがチャートから外される時に呼ばれる終了処理
OnTick：価格が更新されるたびに呼ばれるメイン処理

自動売買ロジックの中心になるのはOnTick関数です。ここに「どんな条件の時に、どの方向に、どれくらいのロットで発注するか」というルールを書いていきます。また、ポジションの管理（決済条件、トレーリングストップなど）もOnTickの中で制御します。

売買ルールの設計：移動平均線×RSI

次に、今回のEAで使う具体的な売買ルールを文章で整理します。まずはロジックを「人間の言葉」で明確にしてから、コードに落とし込むのがポイントです。

1. インジケーターの設定

移動平均線（MA）：期間50、種別はSMA、終値ベース
RSI：期間14、レベル30と70を参考

時間足は1時間足（H1）とし、通貨ペアは例としてEURUSDを想定します。もちろん、後からパラメータ化して他の通貨ペア・時間足に応用することもできます。

2. 売買条件の例

今回のEAでは、以下のようなシンプルなルールにします。

買いエントリー条件

現在の終値が50期間移動平均線より上（上昇トレンド）
RSIが一度30近辺まで下落したあと、再び30を上抜けたタイミング
既に買いポジションを保有していないこと

売りエントリー条件

現在の終値が50期間移動平均線より下（下降トレンド）
RSIが一度70近辺まで上昇したあと、再び70を下抜けたタイミング
既に売りポジションを保有していないこと

損切り（SL）と利確（TP）は、例えば固定のピップス数（SL：30pips、TP：60pipsなど）を設定します。これは後から変更・最適化できるようにパラメータ化しておくと便利です。

実践的なEAコード（MQL4）

それでは、上記のコンセプトを踏まえたシンプルなEAコード例を提示します。実際に運用する前には、必ずデモ口座やストラテジーテスターで動作確認・検証を行ってください。


//+------------------------------------------------------------------+
//|                 MA_RSI_Simple_EA.mq4                            |
//+------------------------------------------------------------------+
#property strict

extern double Lots        = 0.1;
extern int    MagicNumber = 12345;
extern int    Slippage    = 3;
extern int    StopLoss    = 30;   // pips
extern int    TakeProfit  = 60;   // pips

extern int    MAPeriod    = 50;
extern int    RSIPeriod   = 14;
extern int    RSIBuyLevel = 30;
extern int    RSISellLevel= 70;

//+------------------------------------------------------------------+
int OnInit()
  {
   return(INIT_SUCCEEDED);
  }
//+------------------------------------------------------------------+
void OnDeinit(const int reason)
  {
  }
//+------------------------------------------------------------------+
void OnTick()
  {
   // 通貨ペア・時間足
   string symbol = Symbol();
   int    tf     = PERIOD_H1;

   // 最新バーのインデックス
   int shift = 1; // 未確定足を避けるため1本前

   double ma  = iMA(symbol, tf, MAPeriod, 0, MODE_SMA, PRICE_CLOSE, shift);
   double rsi = iRSI(symbol, tf, RSIPeriod, PRICE_CLOSE, shift);

   double priceAsk = NormalizeDouble(Ask, Digits);
   double priceBid = NormalizeDouble(Bid, Digits);

   // 既存ポジションの確認
   int buys  = 0;
   int sells = 0;
   for(int i=OrdersTotal()-1; i>=0; i--)
     {
      if(OrderSelect(i, SELECT_BY_POS, MODE_TRADES))
        {
         if(OrderSymbol()==symbol && OrderMagicNumber()==MagicNumber)
           {
            if(OrderType()==OP_BUY)  buys++;
            if(OrderType()==OP_SELL) sells++;
           }
        }
     }

   // トレンド方向の判定
   bool isUpTrend   = (Close[shift] > ma);
   bool isDownTrend = (Close[shift] < ma);

   // RSIのシグナル判定（簡易的なクロス判定）
   double rsi_prev = iRSI(symbol, tf, RSIPeriod, PRICE_CLOSE, shift+1);

   bool rsiCrossUpFromLow   = (rsi_prev < RSIBuyLevel  && rsi > RSIBuyLevel);
   bool rsiCrossDownFromHigh= (rsi_prev > RSISellLevel && rsi < RSISellLevel);

   // ロットサイズの正規化
   double lot = NormalizeDouble(Lots, 2);

   // 損切り・利確価格の計算
   double point    = MarketInfo(symbol, MODE_POINT);
   double slippage = Slippage;

   // 買いエントリー
   if(isUpTrend && rsiCrossUpFromLow && buys==0)
     {
      double sl = priceBid - StopLoss * point * 10;
      double tp = priceBid + TakeProfit * point * 10;
      sl = NormalizeDouble(sl, Digits);
      tp = NormalizeDouble(tp, Digits);

      OrderSend(symbol, OP_BUY, lot, priceAsk, slippage, sl, tp,
                "MA_RSI_Buy", MagicNumber, 0, clrBlue);
     }

   // 売りエントリー
   if(isDownTrend && rsiCrossDownFromHigh && sells==0)
     {
      double sl = priceAsk + StopLoss * point * 10;
      double tp = priceAsk - TakeProfit * point * 10;
      sl = NormalizeDouble(sl, Digits);
      tp = NormalizeDouble(tp, Digits);

      OrderSend(symbol, OP_SELL, lot, priceBid, slippage, sl, tp,
                "MA_RSI_Sell", MagicNumber, 0, clrRed);
     }
  }
//+------------------------------------------------------------------+

上記はあくまで学習用のサンプルコードです。ブローカーの仕様（小数点桁数や最小ロット、最小ストップレベルなど）によっては、パラメータの調整やエラーチェックの追加が必要です。

バックテストと検証の流れ

EAを作成したら、いきなりリアル口座で動かすのではなく、必ずバックテストとフォワードテストを行います。

1. ストラテジーテスターでのバックテスト

MT4の「表示」→「ストラテジーテスター」から、作成したEAを選択し、通貨ペア・時間足・期間・スプレッドなどを設定してバックテストを実行します。ここでは次のような点を確認します。

取引回数が極端に少なすぎないか
最大ドローダウンが資金に対して大きすぎないか
一時的な含み損がどれくらいになるか
長期的な損益曲線が右肩上がりか、それとも乱高下しているか

結果が良くないからといって、すぐにインジケーターやパラメータを増やし過ぎると、過剰最適化に陥りやすくなります。まずはロジックの根本的な考え方（トレンドの捉え方、損切りの位置など）を見直す癖をつけると良いです。

2. デモ口座でのフォワードテスト

バックテストで大きな問題がなさそうであれば、次はデモ口座で実際の相場にEAを動かしてみます。通信環境や約定のクセなど、バックテストでは見えない要素を確認できる重要なステップです。

初心者が陥りやすい落とし穴

MT4でEAを自作し始めた初心者の方が、よくハマりやすいポイントも整理しておきます。

短期足で過剰な最適化をする：1分足などの短期足でパラメータを極端に追い込むと、過去データには強いが実際の相場ではうまく機能しないEAになりがちです。
損切りを置かない・極端に広くする：損切りを入れないEAは、一見破綻しにくいように見えますが、一度大きなトレンドが出ると大きな含み損を抱えやすくなります。
ロットを急激に増やす：検証段階での結果が良いと、すぐにロットを大きくしたくなりますが、資金とドローダウンのバランスを見ながら慎重に調整する必要があります。
ロジックを複雑にし過ぎる：インジケーターを増やしすぎると、なぜエントリー・決済したのか自分でも分からなくなり、改善が難しくなります。