ロング・ショート戦略で相場に左右されにくい投資を考える

トレード戦略

ロング・ショート戦略は、値上がりが期待できる資産を買い(ロング)、割高だと判断する資産を売りから入る(ショート)ことで、相場全体の上下に左右されにくく利益を狙う手法です。プロのヘッジファンドがよく使うイメージがありますが、仕組み自体はシンプルで、考え方を理解すれば個人投資家でも応用しやすい戦略です。

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ロング・ショート戦略の基本イメージ

ロング・ショート戦略のコアは「強いものを買い、弱いものを売る」です。例えば、同じ業種の中で、財務内容も成長性も高いのに割安に放置されている銘柄Aと、ニュースで話題になっているだけで割高に買われている銘柄Bがあったとします。

このとき、単純に銘柄Aだけを買うのではなく、銘柄Aをロング(買い)し、銘柄Bをショート(空売り)することで、業種全体の値動きの影響をある程度打ち消しながら、「AがBよりも良いパフォーマンスをする」という差だけを狙いに行くのがロング・ショート戦略の基本発想です。

なぜロング・ショート戦略が有効なのか

ロング・ショート戦略が注目される理由は、相場全体の方向を完璧に当てなくても、銘柄同士の優劣に注目することでリターンを狙える点にあります。上昇トレンドが続く相場だけでなく、横ばい相場ややや弱い相場でも機能しやすいのが特徴です。

例えば、マーケット全体が5%下落する局面で、「強い銘柄A:-1%」「弱い銘柄B:-10%」という動きになったとします。この場合、Aロング・Bショートのポジションを組んでいれば、Aで小さな含み損、Bで大きな含み益となり、全体ではプラスになります。相場全体が下がっても「AはBよりマシである」という関係が続く限り、戦略は機能し得るのです。

ロング・ショート戦略とマーケットニュートラル

ロング・ショート戦略は、しばしば「マーケットニュートラル戦略」と組み合わせて語られます。マーケットニュートラルとは、ロングの金額とショートの金額をほぼ同じにし、市場全体の値動きに対して中立的な状態にする考え方です。

例えば、銘柄Aを100万円分ロングし、銘柄Bを100万円分ショートすると、ロングとショートの合計は±0になります。この状態では、指数(日経平均やS&P500など)が急上昇または急落しても、その影響がポジション全体に与えるインパクトを小さく抑えつつ、「AとBの相対的な強さの差」だけを取りに行くことができます。

個人投資家が扱いやすいロング・ショートの考え方

個人投資家が最初から完璧なマーケットニュートラルを目指す必要はありません。重要なのは、次の二点です。

  • 同じテーマやセクター内で「買いたい銘柄」と「売りたい銘柄」をセットで考える
  • ロング・ショートの比率を極端に偏らせず、ある程度バランスをとる

例えば、テクノロジーセクター内で、安定した収益と成長性を持ちながら割安な銘柄をロング候補にし、同じセクター内でPERが極端に高く、短期的な人気だけで上昇している銘柄をショート候補にするといった形です。同じセクターでペアを組むことで、金利や為替などマクロ要因によるセクター全体の動きがロング・ショート双方に似た影響を与えやすくなり、「相対差」を取りに行きやすくなります。

具体例:株式ロング・ショートのシナリオ

ここではイメージしやすいよう、仮想の例で説明します。

ある国の「Eコマース企業A」は、売上成長率が毎年20%以上で、ROEも高く、財務も健全です。しかし、市場全体の調整で株価が押され、PERが20倍程度まで下がっています。一方、「Eコマース企業B」は、成長率は鈍化しているものの、短期的なテーマ性や話題性から投機的な買いが集まり、PERが60倍まで買われている状態だとします。

このとき、単純にAだけを買う戦略だと、市場全体がさらに下落すれば、Aも一緒に下がってしまうかもしれません。しかし、次のように組むとどうでしょうか。

  • 企業Aを100万円ロング
  • 企業Bを100万円ショート

もしその後、マーケット全体がさらに5%下落したとしても、「割安なAは-3%、割高なBは-15%」と動けば、Aで3万円の含み損、Bで15万円の含み益となり、合計12万円のプラスです。重要なのは、「市場全体が上がるか下がるか」より、「AとBのどちらがより強い(あるいは弱い)パフォーマンスをするか」という発想に切り替えることです。

ロング・ショート戦略を組むためのシンプルなステップ

ロング・ショート戦略と言うと難しく感じるかもしれませんが、ステップに分解するとシンプルです。

  1. 対象ユニバースを決める
    まず対象とする範囲を決めます。例えば「日本の大型株」「米国のテクノロジーETF構成銘柄」「FXの主要通貨ペア」などです。あまり銘柄数が多すぎると判断がぼやけやすいので、最初はある程度絞る方が良いでしょう。
  2. ロング候補とショート候補の条件を決める
    ロング側には「成長性や収益性が高く、割安なもの」、ショート側には「指標的に割高で、成長性や収益性がロング候補より劣るもの」といった条件を置きます。株式であれば、PER・PBR・ROE・売上成長率など、FXであれば金利差やトレンドの強さなど、対象に応じた指標を組み合わせます。
  3. ペアを組む
    同じ業種・同じテーマ・似たビジネスモデルの中から、「この中で一番強そうなものをロング」「一番弱そうなものをショート」といった形でペア(もしくはグループ)を組みます。完全に1対1のペアでなくても、「強い銘柄2つロング vs 弱い銘柄2つショート」といったバスケットも有効です。
  4. ロングとショートの金額バランスを調整する
    マーケットニュートラルに近づけたい場合は、ロングとショートの建て額が同程度になるように調整します。一方、「全体はやや強気だが、相対差も取りたい」という場合は、ロングをショートよりやや多めにするなど、相場観に応じたバランスも選択肢です。
  5. 定期的に見直す
    決算発表やニュースでファンダメンタルズが変化したり、株価水準が大きく動いたりしたら、ロング・ショートの優劣関係が崩れていないかを定期的にチェックします。条件に合わなくなった銘柄は入れ替え、バランスを再調整します。

FXや暗号資産でのロング・ショート応用

ロング・ショートの考え方は株式だけでなく、FXや暗号資産にも応用できます。

例えばFXでは、「金利が相対的に高く、ファンダメンタルが堅調な通貨をロング」「金利が低く、弱い通貨をショート」といった形で通貨ペアを組み合わせることで、「通貨の強弱差」を取りに行くことができます。これはキャリートレードとも近い発想ですが、単純な片側だけのポジションではなく、「強い通貨 vs 弱い通貨」を組み合わせる点がポイントです。

暗号資産の世界でも、ビットコインやイーサリアムのような比較的安定した大型銘柄をロングし、短期的なテーマで急騰しているアルトコインをショートする、といった形で相対的な強弱を狙う戦略が存在します。ただし、暗号資産はボラティリティが非常に高く、流動性や清算ルールも取引所ごとに異なるため、レバレッジのかけすぎや資金管理には特に注意が必要です。

ロング・ショート戦略のリスクと注意点

ロング・ショート戦略は「相場に左右されにくい」というイメージから、リスクが低いと誤解されることがありますが、実際には特有のリスクも存在します。

  • ショートポジションのリスク
    ショートは理論上損失が無限大になり得ます。現実には証拠金やロスカットルールで制限されますが、急騰局面では短時間で大きな損失が発生する可能性があります。
  • 想定外のニュースやイベント
    ロング・ショートで同じセクター内の銘柄を組み合わせていても、個別銘柄に関する好材料・悪材料が出た場合は、片側だけが急激に動き、ポジション全体で損失になることがあります。
  • モデルの前提が崩れるリスク
    「この銘柄は割安だ」「この銘柄は割高だ」という判断は、あくまで前提条件に過ぎません。事業環境やビジネスモデルの変化によって、その前提自体が間違いだったと判明することもあります。
  • コストと流動性
    空売りには貸株料などのコストがかかる場合があり、売買手数料やスプレッドも積み重なります。また、流動性の低い銘柄でロング・ショートを組むと、思った価格で約定しにくくなります。

これらのリスクを抑えるためには、ポジションサイズを無理に大きくしないこと、急騰・急落銘柄で安易にショートしないこと、定期的に前提条件を見直すことが重要です。

初心者が始めるためのシンプルな練習方法

いきなり本物のお金でロング・ショート戦略を組むのではなく、まずは「シミュレーション」から始めるのが安全です。

  1. 身近なセクターを一つ選ぶ
    例えば「国内の小売業」「米国のテクノロジー銘柄」など、自分がニュースを追いやすい分野を選びます。
  2. その中から5〜10銘柄をピックアップ
    売上・利益・PER・ROEなどの基本指標を簡単に一覧化し、「強そうな銘柄」「弱そうな銘柄」に分けてみます。
  3. 仮想ポートフォリオを作る
    「強そうな銘柄2つを合計100万円ロング」「弱そうな銘柄2つを合計100万円ショート」といった仮想ポートフォリオをノートやスプレッドシートに記録します。
  4. 1〜3か月間、実際の価格推移を追う
    定期的に価格を記録し、「指数がどう動いたか」と「自分のロング・ショートポートフォリオがどう動いたか」を比較します。
  5. 振り返りを行う
    なぜうまくいったのか、なぜうまくいかなかったのかを言語化し、次のロング・ショートの条件を改善していきます。

このプロセスを繰り返すことで、「どのような条件で組んだロング・ショートが機能しやすいのか」「どのパターンは避けるべきか」といった感覚が徐々に身についていきます。

ロング・ショート戦略をポートフォリオ全体の中でどう位置付けるか

ロング・ショート戦略は、それ単体で大きなリターンを狙うこともできますが、多くの個人投資家にとっては「ポートフォリオの一部として組み込む」使い方が現実的です。

例えば、長期のインデックス投資や積立投資をベースとしつつ、ポートフォリオの一部(たとえば全体の10〜20%程度)をロング・ショート戦略に割り当てる方法があります。こうすることで、相場全体の成長の恩恵を受けつつ、「銘柄間の相対差」を取りに行く余地を残すことができます。

重要なのは、ロング・ショート戦略に頼りすぎず、自分のリスク許容度や投資経験に合った範囲にとどめることです。ロング・ショートは、正しく設計すれば相場環境に依存しにくい収益源になり得ますが、前提条件が崩れたときのリスクもあるため、冷静にポジション管理を行うことが欠かせません。

まとめ:ロング・ショートの「発想」を自分の投資に取り入れる

ロング・ショート戦略は、プロ専用の難しい手法に見えますが、本質は「強いものを買い、弱いものを売る」「相場全体ではなく相対差を見る」というシンプルな発想です。この発想を少しずつ自分の投資プロセスに組み込むだけでも、銘柄選択の視点は大きく変わってきます。

最初はシミュレーションから始め、小さな金額で練習し、ロング・ショートの特徴やリスクに慣れていくことが大切です。マーケットの方向性を当てることに疲れたと感じるときこそ、「相対的な強さに注目するロング・ショート戦略」は、有力な選択肢の一つになり得ます。

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