トレーリングストップ徹底解説:含み益を守りながら伸ばすリスク管理術
トレード初心者の多くは、「どこでエントリーするか」には強い関心を持ちますが、「どこで手仕舞うか」のルールは曖昧なままです。その結果、せっかくの含み益を一気に失ったり、伸びるはずのトレンドに途中で振り落とされたりしてしまいます。
こうした悩みを減らすためのシンプルかつ強力なツールが「トレーリングストップ」です。本記事では、株式・FX・暗号資産など、どの市場でも応用できるトレーリングストップの考え方と実践手順を、初心者の方にも分かりやすい形で詳しく解説します。
トレーリングストップとは何か
トレーリングストップ(trailing stop)とは、価格が有利な方向に動くにつれて、損切りライン(ストップ)を自動的に追随させていく手仕舞いの方法です。「利益確定ラインを決める」のではなく、「許容できる逆行幅を決めて、そこを割ったら手仕舞う」という発想に立っています。
言い換えると、トレーリングストップは「損切りラインを上方向(ロングの場合)にずらし続け、最終的に含み益の一部を守りながらトレンドの最後まで付き合う」ための仕組みです。
固定幅トレーリング
最もシンプルなのは、一定の値幅でストップを追随させる方法です。
- 株式なら「エントリー価格から-5%の位置にストップを置き、価格が上がれば常に最高値から-5%の位置にストップを引き上げる」
- FXなら「エントリー後、価格が20pips進むごとにストップを10pips追随させる」
この方法は理解しやすく、機械的に運用しやすいのがメリットです。
%ベーストレーリング
値段ではなく「%」で逆行幅を決める方法もよく使われます。株価が1,000円から1,500円へと伸びたとき、単純な100円幅のトレーリングでは初期と後半でリスクの意味が変わりますが、%ベースなら常に資金に対するリスクを揃えやすくなります。
- 常に直近高値から5%逆行したら手仕舞い
- ボラティリティが高い銘柄は8%、低い銘柄は3%など、銘柄ごとに%を調整
テクニカル指標連動型トレーリング
もう一歩進んだ方法として、移動平均線やボリンジャーバンド、ATR(平均真の値幅)などのテクニカル指標を使い、そのラインを割り込んだら手仕舞うというトレーリングもあります。
- 終値が20日移動平均線を終値ベースで明確に割り込んだら手仕舞い
- ATRの2倍分、直近安値から離れた位置にストップを置き、ATRに合わせてストップを追随させる
このような手法は、相場のボラティリティに応じて「許容逆行幅」を自動調整できるのが特徴です。
具体例:株式・FX・暗号資産でのトレーリングストップ
株式トレードのケース
例として、ある成長株A社の株価が1,000円で、強い上昇トレンドを形成しているとします。ここでロングエントリーし、以下のルールを設定します。
- 初期ストップ:エントリー価格の-5%(950円)
- トレーリング幅:直近高値から-5%
株価の推移が次のようになったとします。
- 1,000円で購入
- 1,100円まで上昇(直近高値1,100円 → ストップは1,045円)
- 1,200円まで上昇(直近高値1,200円 → ストップは1,140円)
- その後1,130円に下落 → ストップ1,140円に到達し決済
この場合、最大では200円の含み益がありましたが、実際の確定利益は130円(1,130円 – 1,000円)になります。「天井で売れなかった」という意味では悔しさが残るかもしれませんが、ルール通りに運用した結果として、トレンドの大部分を捉えつつ、利益の相当部分を守れています。
FXトレードのケース
FXでは、pips単位でトレーリングを設定することが一般的です。たとえば、USD/JPYをロングする場合、以下のようなルールを考えられます。
- エントリー:USD/JPY 150.00ロング
- 初期ストップ:149.50(-50pips)
- トレーリングルール:直近高値から30pips逆行で決済
価格が150.00 → 150.80 → 151.20と上昇した場合、直近高値151.20から30pips逆行した150.90あたりにストップが追随します。その後、急な調整で150.85まで下落すると、トレーリングストップにかかって決済され、約+85pipsの利益が確定します。
暗号資産トレードのケース
ビットコイン(BTC)やアルトコインはボラティリティが高いため、トレーリング幅を広めに取るのが一般的です。たとえば、BTCを30,000ドルでロングした場合、次のようなルールが考えられます。
- 初期ストップ:-10%(27,000ドル)
- トレーリング幅:直近高値から-8~12%程度
価格が30,000 → 34,000 → 38,000ドルと上昇し、その後35,000ドルまで下がったタイミングでトレーリングストップが発動すれば、「急落で含み益を一気に失う」リスクを抑えつつ、トレンドの伸びをある程度享受できます。
トレーリングストップのメリットとデメリット
メリット
- 感情に左右されにくくなる
ルールで決めたトレーリングに従うことで、「もっと伸びるかもしれない」「そろそろ天井かもしれない」といった感情に振り回されにくくなります。 - 含み益を守りながらトレンドに乗り続けられる
従来の固定ターゲット(例:+10%で利益確定)では、その先に伸びる大相場を取り逃すことがあります。トレーリングストップなら、「伸びるならとことん付き合う」ことができます。 - 損失限定と利益確定を同じロジックで管理できる
初期ストップから始まり、そこを徐々に引き上げていくため、「損切り」と「利益確定」を別々に考える必要がありません。
デメリット
- ヒゲで刈られることがある
一時的な急落(ヒゲ)でトレーリングストップにかかった後、すぐに価格が元のトレンド方向へ戻ることがあります。これはトレーリングストップの宿命とも言える現象です。 - 「天井で売る」ことはほぼ不可能
トレーリングストップはあくまで「逆行したら手仕舞う」仕組みなので、利益の最大値を常に取れるわけではありません。天井で売ることを目標にすると、トレーリングストップはストレスの原因になります。 - ボラティリティに合わない幅だと機能しない
日々の値動きが3~4%ある銘柄に対して、1%のトレーリング幅を設定すると、ほとんどの場合すぐに刈られてしまいます。逆に、値動きが小さい銘柄に10%の幅を取ると、ストップが遠すぎて資金効率が悪化します。
個人投資家がやりがちな失敗パターン
- 含み益が出てからトレーリング幅をコロコロ変える
「もっと利益を伸ばしたい」「やっぱり怖いからストップを近づけたい」といった感情で、都度トレーリング幅を変えてしまうと、ルールが機能しません。事前に決めた幅を原則として守ることが重要です。 - チャートを見て気分でストップを動かす
「なんとなくこの辺りがサポートになりそう」といった感覚だけでストップをずらすと、結果的にただの成り行き決済と変わらなくなります。移動平均線やATRなど、具体的な指標に紐づけるとブレが減ります。 - そもそもストップを引き上げない
トレーリングストップを導入したつもりでも、「今回はまだまだ伸びそうだから」とストップを上げるのを先延ばしにすると、初期ストップに戻されてしまい、含み益を守れません。
自分に合ったトレーリングルールの設計手順
トレーリングストップは、万能な「正解ルール」があるわけではありません。自分の資金量、リスク許容度、トレードする市場のボラティリティに合わせて設計する必要があります。ここでは、個人投資家が自分なりのルールを作るための手順を整理します。
1. まずは許容ドローダウンから決める
トレーリング幅を決める前に、「1回のトレードでどれだけの損失を許容できるか」を明確にします。口座残高100万円であれば、1回のトレードでのリスクを1~2%(1~2万円)に抑える、といった基準を最初に決めておくと良いです。
2. 典型的な日々の値動きを把握する
過去のチャートを見て、その銘柄や通貨ペアが1日あたりどれくらいの範囲で動いているかをざっくり把握します。ボラティリティが高い銘柄なら、日中に5%以上動くこともありますし、安定した大型株なら1~2%程度に収まるかもしれません。
3. ボラティリティに応じてトレーリング幅を決める
日々の値動きが3%前後の銘柄であれば、トレーリング幅を5~8%に設定するなど、「通常の揺れでは刈られにくいが、大きくトレンドが崩れた時には確実に逃げられる」水準を探ります。FXや暗号資産の場合も、pipsや%の単位は違えど、考え方は同じです。
4. 過去チャートで「もし適用していたら」を検証する
いきなり実弾で試すのではなく、過去のチャートに対して「このトレーリングルールを適用していたらどうなっていたか」を紙に書き出す、またはエクセルなどで簡単にシミュレーションしてみるとイメージが掴みやすくなります。
代表的なトレーリングストップのルール例
トレンドフォロー型トレーリング
中期のトレンドフォローを狙う場合、次のような組み合わせがよく使われます。
- エントリー条件:移動平均線のゴールデンクロスや高値ブレイクなど
- 初期ストップ:直近安値またはエントリー価格から-5~8%
- トレーリング:直近高値から-7~10%、または20日移動平均線割れ
このルールは、「大きなトレンドを狙う代わりに、短期的な押し目ではいったん我慢する」というスタイルに向いています。
短期デイトレード向けトレーリング
デイトレードやスキャルピングでは、トレーリング幅をかなりタイトに設定することが多くなります。
- エントリー後、含み益が+20pipsに到達したら、ストップを建値まで引き上げる
- その後、含み益が+40pipsに到達したら、ストップを+20pipsの位置まで追随させる
このように段階的にストップを引き上げていくと、「負けトレードをブレイクイーブンに変える」機会が増えます。
トレーリングストップと最大ドローダウン・リスク・リワード比の関係
トレーリングストップは単に「手仕舞いを楽にする仕組み」ではなく、ポートフォリオ全体のリスク管理にも大きく関わります。トレーリングを適切に使うことで、最大ドローダウン(過去最大の資産ピークからの下落率)を抑えやすくなります。
例えば、同じ勝率・同じ平均利益幅の戦略でも、トレーリングストップを導入することで「大負けトレード」を減らせれば、資産曲線の凹みが浅くなり、精神的なストレスも軽減されます。また、一定のトレーリング幅を前提にエントリーのタイミングを調整することで、リスク・リワード比を意識したトレード設計もしやすくなります。
今日からできるトレーリングストップ活用の第一歩
いきなり完璧なルールを作ろうとすると、条件が増えすぎて複雑になり、結局守れなくなります。最初の一歩としては、次のようなシンプルなルールから始めると良いでしょう。
- まずは「固定%」または「固定pips」でトレーリング幅を決める
- エントリーごとに、そのトレーリング幅を「紙に書いてから」ポジションを持つ
- 一度決めたトレーリング幅は、そのトレード中は原則として変更しない
- 10~20回分のトレード結果を記録し、「どのくらいの幅が自分にとってストレスが少ないか」を振り返る
このプロセスを通じて、自分の性格や生活リズム、取引スタイルに合ったトレーリングストップの幅やルールが見えてきます。
トレーリングストップは、単なる「便利な機能」ではなく、資金を守りながら利益を伸ばすための重要なリスク管理ツールです。自分に合ったルールを一度作り込めば、その後のトレード判断が驚くほどシンプルになります。まずは小さなポジションから試し、自分なりの最適解を少しずつ見つけていくことをおすすめします。


コメント