株式・FX・暗号資産など、どんな市場でも「よく上がるものはさらに上がり、よく下がるものはさらに下がる」局面が必ずあります。この値動きの特徴を狙って利益を伸ばそうとするのが「モメンタム投資」です。
本記事では、投資初心者の方でも取り組みやすいシンプルなモメンタム投資の考え方から、実際の売買ルールの作り方、注意すべきリスクまでを体系的に解説します。難しい数学は使わず、具体例を交えながら、今日から使えるレベルまで落とし込んでいきます。
モメンタム投資とは何か
モメンタム投資とは、過去に価格が上昇してきた資産を買い、下落してきた資産を売ることで、「値動きの勢い(トレンド)がしばらく続きやすい」という性質を利用する投資手法です。トレンドフォロー戦略の一種と言えます。
例えば、ここ数か月で株価が大きく上昇している銘柄は、業績の上方修正やテーマ性、機関投資家の資金流入など、何らかの強い材料を背景にしていることが多く、投資家の注目も集まり続けます。その結果、一定期間は「買いが買いを呼ぶ」状態になりやすく、上昇トレンドが継続しやすくなります。モメンタム投資は、この継続性を統計的に利用する手法です。
なぜモメンタムが生まれるのか
モメンタムが生まれる背景には、主に次のような要因があります。
第一に、人間の行動心理です。相場では「群集行動」「追随行動」が頻繁に起こります。多くの投資家が上昇している銘柄を見て「乗り遅れたくない」と感じたり、周囲の買い推奨に引きずられてポジションを取ったりすることで、トレンドが延長されることがあります。
第二に、機関投資家の運用プロセスです。機関投資家は、短期間で急にポートフォリオを入れ替えることが難しく、少しずつ売買を進める必要があります。好調な銘柄を時間をかけて買い集めたり、不調な銘柄を数か月かけて売却したりするため、需給の偏りが一定期間続きやすく、その間モメンタムが存続します。
第三に、情報の伝達と評価の遅れです。新しい業績やテーマに関する情報が市場に出たとしても、全ての投資家がすぐに反応するわけではありません。情報の解釈や社内稟議、ファンド内の議論などを経て徐々に資金が動くため、価格の調整も段階的に進みます。この「反応の遅れ」もモメンタムの源泉となります。
モメンタムを測る代表的な指標
モメンタム投資では、「どの銘柄に勢いがあるのか」を定量的に測るために指標を使います。代表的なものをいくつか紹介します。
1. 過去リターン率
最もシンプルなのは、一定期間の上昇率・下落率です。例えば「過去3か月の騰落率が上位20%の銘柄だけを買う」のような基準です。個人投資家でも、証券会社のスクリーニング機能で簡単に抽出できます。
2. 移動平均線との位置関係
25日移動平均や75日移動平均など、期間別の移動平均線を使ってトレンドを判定する方法です。価格が移動平均線より十分上にあり、かつ移動平均線自体も右肩上がりであれば、強い上昇モメンタムがあると判断できます。
3. RSI・MACDなどのオシレーター
RSIやMACDは一般に「売られ過ぎ」「買われ過ぎ」を測る指標として知られていますが、トレンドの勢いを捉えるためにも利用できます。例えば、MACDがゼロより上で、シグナルラインを何度も上抜けしている状態は、上昇モメンタムが継続している典型例です。
4. 52週高値更新
過去1年間の最高値(52週高値)を更新している銘柄は、市場から強い期待を集めていることが多く、モメンタム投資の候補になりやすいです。「高値掴みが怖い」と感じる初心者も多いですが、トレンドフォロー戦略ではむしろ「高くなったからこそ買う」という発想が重要になります。
株式で実践するシンプルなモメンタム戦略
ここからは、個別株でモメンタム投資を実践するための具体的なステップを紹介します。あくまで一例ですが、そのままルール化して検証・運用しやすい形にしています。
ステップ1:銘柄の母集団を決める
まずは対象とする市場を決めます。例えば「東証プライム」「東証スタンダード」「米国大型株(S&P500)」などです。初心者の方は、流動性が高く、情報も入手しやすい主要指数採用銘柄に絞るのが無難です。
ステップ2:過去リターンで上位銘柄を抽出
次に、過去3か月または6か月の騰落率が高い銘柄をスクリーニングします。例えば「過去6か月の上昇率ランキング上位20銘柄」を抽出する、といったイメージです。証券会社のランキング機能や、有料・無料のスクリーニングサイトを使えば、特別なプログラミングなしに実現できます。
ステップ3:出来高と売買代金で絞り込む
モメンタム銘柄は短期的に激しく動くことが多いため、流動性が低い銘柄を選ぶとスリッページが大きくなり、思った価格で売買できないリスクがあります。そこで「平均売買代金1億円以上」「出来高10万株以上」など、最低限の流動性条件を設けておきます。
ステップ4:チャートでトレンドの形を確認
スクリーニングで抽出した銘柄をチャートで確認し、「高値・安値が切り上がっているか」「移動平均線がきれいに右肩上がりか」をチェックします。大きな窓開けや、異常な急騰直後など、乱高下が極端な銘柄は候補から外すと安定しやすくなります。
ステップ5:エントリーとロスカットのルールを決める
例として、次のようなシンプルなルールが考えられます。
・終値が25日移動平均線より上にあり、かつ25日移動平均線が上向きの銘柄のみ買い候補とする。
・買いエントリー後、終値が25日移動平均線を終値ベースで明確に下回ったらロスカット、または利食いする。
・1銘柄あたりの損失が資金全体の2%を超えないようにポジションサイズを調整する。
このように、モメンタムの入り口と出口を「価格」と「移動平均線」の組み合わせで機械的に決めることで、感情に左右されにくい運用が可能になります。
FXでのモメンタム投資の考え方
FXでもモメンタムは頻繁に観測されます。特に、金利差や経済指標の発表を背景にしたトレンド相場では、数週間~数か月にわたって一方向に動き続けることがあります。
例えば、「強い経済指標が続いている通貨」と「利下げが意識されている通貨」の組み合わせでは、トレンドが生じやすくなります。USD/JPYやEUR/USDなどの主要通貨ペアでも、明確なトレンドが出ている局面では、押し目買い・戻り売りのモメンタム戦略が有効に働くことがあります。
具体的には、4時間足や日足チャートで、移動平均線の傾きと高値・安値の切り上げ/切り下げを確認し、トレンド方向にのみエントリーする、というシンプルなルールが考えられます。逆張りで小さな反発を狙うのではなく、「トレンド方向へのブレイク」「押し目・戻り」のみを狙うのがポイントです。
暗号資産でモメンタム投資を行う際の注意点
ビットコインやアルトコインなどの暗号資産市場でも、モメンタムは極めて強く現れることがあります。一方で、ボラティリティが非常に高く、急落も日常的に起こるため、リスク管理をより慎重に行う必要があります。
暗号資産でモメンタム投資を行う際のポイントとして、次のような点が挙げられます。
・出来高が十分にある主要銘柄(時価総額上位・取引高上位)に対象を絞ること
・レバレッジを高くしすぎないこと
・短期の急騰直後に追いかけすぎず、一定の押し目を待つこと
・ロスカット水準をあらかじめ決め、想定を超えるボラティリティが出た場合はポジションサイズ自体を小さくすること
暗号資産では、ニュースやSNSの影響で一時的に過熱し、その後急激な反転が起こるケースも多いため、「上がっているから何となく買う」というスタンスではなく、トレンドの強さとリスク水準を数値で確認することが重要です。
モメンタム投資に欠かせないリスク管理
モメンタム投資は「大きく伸ばす」ことを狙う戦略である一方、トレンドの反転が起こったときには、損失も一気に膨らむ可能性があります。そのため、リスク管理のルールを事前に明文化しておくことが不可欠です。
1. 損切りラインの明確化
エントリーした瞬間に、「どこまで逆行したら損切りするか」を価格で決めておきます。例えば「終値ベースで25日移動平均線を割り込んだら全て手仕舞い」「直近安値を終値で下回ったら損切り」といったルールです。
2. ポジションサイズの調整
1回のトレードで口座残高の何%までなら失ってもよいかを決め、その範囲で枚数や株数を調整します。一般的には1~2%程度に抑える運用者が多く、これにより連敗しても致命傷になりにくくなります。
3. 分散と相関の管理
モメンタム銘柄は同じテーマやセクターに集中しがちです。似たような値動きをする銘柄を大量に持つと、実質的には「一つの巨大ポジション」となり、下落局面で大きなダメージを受けかねません。銘柄数だけでなく、業種・通貨・資産クラスの分散も意識する必要があります。
バックテストと現実のギャップ
モメンタム戦略は、過去データを使ったバックテストで良好な成績が出やすい戦略です。しかし、実際の運用では次のようなギャップが生じることがあります。
・スプレッドや手数料、税金によるパフォーマンスの目減り
・流動性不足によるスリッページ
・大きなギャップダウンによる想定外の損失
・心理的なストレスによるルールからの逸脱
バックテストでは、これらの要素が過小評価されやすいため、現実の運用では「余裕を持った前提条件」を置くことが重要です。例えば、売買コストを多めに見積もる、約定価格を少し不利に仮定する、などです。
初心者向けのライトなモメンタム活用法
ここまで個別銘柄や通貨ペアを使った本格的なモメンタム投資を説明しましたが、初心者の方がいきなり実践するのはハードルが高いと感じるかもしれません。その場合、まずはインデックスやETFを使った「ライトなモメンタム活用」から始める方法もあります。
例えば、次のようなステップが考えられます。
・いくつかの代表的な株価指数ETF(国内株式・海外株式・セクターETFなど)をウォッチリストに入れる
・週に1回、価格と移動平均線の位置関係を確認し、明確な上昇トレンドにあるETFだけを積み立てる
・トレンドが崩れたと判断したら、積み立てを停止し、必要に応じて一部または全部を売却する
このように、個別銘柄ではなく指数レベルでモメンタムを捉えることで、銘柄選択の難しさを減らしつつ、トレンドフォローのエッセンスを学ぶことができます。
モメンタム投資と自分の性格の相性を理解する
最後に重要なのは、「モメンタム投資が自分の性格に合っているか」を見極めることです。モメンタム戦略は、利益が出ているポジションを粘り強く持ち続け、逆にトレンドが崩れたときには素早く損切りすることが求められます。
「少しでも含み益が出たらすぐ確定したくなる」「損失が出ると損切りできずに抱え込んでしまう」というタイプの投資家にとっては、モメンタム投資は心理的に負担が大きくなる可能性があります。一方で、「ルールを決めたら淡々と実行できる」「トレンドに乗ることを楽しめる」というタイプには相性が良い戦略と言えます。
まずは少額から試し、自分の感情の動きやストレスの感じ方を観察しながら、徐々にポジションサイズや戦略の精度を高めていくことが大切です。
まとめ
モメンタム投資は、「強いものに乗る」というシンプルな発想に基づく戦略ですが、その裏側には人間の行動心理、機関投資家の運用プロセス、情報伝達の遅れなど、さまざまな要因が関わっています。
過去リターンや移動平均線、RSIやMACD、52週高値更新などの指標を活用しながら、明確なエントリー・エグジットルールと損切りルールを設定すれば、初心者でも段階的に取り組むことができます。ただし、トレンドの反転リスクや急落リスクを常に意識し、ポジションサイズの管理と分散投資を徹底することが不可欠です。
自分の性格や生活スタイルと相談しながら、無理のない範囲でモメンタム投資を取り入れることで、相場の「勢い」を味方にすることができるでしょう。


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