リスクパリティ入門:リスク量で考えるポートフォリオ構築の基礎

ポートフォリオ

「ポートフォリオをどう組めばよいか分からない」「株と債券を何対何にすればいいのか迷う」――こうした悩みは、投資を始めたばかりの人であれば誰しも一度は感じるものです。

そこで本記事では、プロの運用現場でも使われている考え方の一つである「リスクパリティ」というポートフォリオ戦略を、初心者向けにかみ砕いて解説します。数式をゴリゴリ使うような難しい話ではなく、「リスク量をそろえると何がうれしいのか」「個人投資家でもどう活用できるのか」という実践的な視点にフォーカスして説明していきます。

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リスクパリティとは何か

リスクパリティ(Risk Parity)とは、ポートフォリオの各資産が「ポートフォリオ全体のリスクに貢献する量(リスク寄与度)」をおおむね同じにするように資産配分を決める考え方です。

一般的な「60%株・40%債券」といった配分は、あくまで金額ベースでの比率です。この場合、株のボラティリティ(価格変動の大きさ)が債券よりはるかに大きければ、実質的にはポートフォリオの大半のリスクを株が占めてしまうことになります。

リスクパリティは、こうした「見かけの比率」と「実際のリスク比率」のギャップを意識的にコントロールしようとするアプローチです。簡単に言えば、

・リスクの小さい資産:金額を多めに持つ
・リスクの大きい資産:金額を少なめに持つ

ことで、ポートフォリオ全体のリスクをバランスよく分散させる、という発想です。

なぜ「金額」ではなく「リスク」をそろえるのか

投資の世界では、「リターンはコントロールできないが、リスクはある程度コントロールできる」とよく言われます。どの年にどれくらい儲かるかを正確に予測することはできませんが、どれくらい値動きがブレやすいポートフォリオかは、ある程度設計で調整できるからです。

ここで重要になるのが、次の2つの概念です。

ボラティリティという考え方

ボラティリティは、ざっくり言えば「価格の振れ幅の大きさ」です。年間の値動きの標準偏差などで表現されますが、初心者の方は「よく大きく動く資産=ボラティリティが高い」「あまり動かない資産=ボラティリティが低い」とイメージできれば十分です。

例えば、

・世界株式インデックス:年率ボラティリティ15%程度
・国債インデックス:年率ボラティリティ5%程度

というイメージを持つとします。このとき、金額ベースで50%ずつ持っても、リスクへの寄与は株が3倍程度になります。

相関という考え方

もう一つ重要なのが「相関」です。相関とは、2つの資産の値動きがどの程度似ているかを示す指標で、

・同じ方向に動きやすい ⇒ 正の相関
・逆方向に動きやすい ⇒ 負の相関
・動きがバラバラ ⇒ 相関が低い

と考えます。株と債券は、長期的には相関がそれほど高くない(局面によってはマイナス寄りになることもある)ため、組み合わせることで全体のブレを抑えやすいという特長があります。

リスクパリティは、このボラティリティと相関を意識しつつ、それぞれの資産がポートフォリオ全体に与える「リスクの重さ」を揃えていく発想と考えると理解しやすくなります。

超シンプルなリスクパリティのイメージ(2資産の例)

ここでは、世界株式インデックスと国債インデックスの2つだけで、直感的にリスクパリティをイメージしてみます。

前提として、

・世界株式:想定ボラティリティ 15%
・国債  :想定ボラティリティ 5%

と仮定します。単純化のため相関は一旦無視して考えます。

もし金額を「株50%・債券50%」とした場合、リスクへの寄与は、

・株のリスク寄与 ≒ 0.5 × 15% = 7.5
・債券のリスク寄与 ≒ 0.5 × 5% = 2.5

となり、およそ3対1で株に偏っている状態です。見た目は半分ずつでも、実態としては株主体のポートフォリオになっています。

ここで「リスク寄与をだいたい半々にしたい」と考えると、株の比率を落として債券を増やせばよいことが分かります。たとえば、

・株 25%・債券 75%

とすると、

・株のリスク寄与 ≒ 0.25 × 15% = 3.75
・債券のリスク寄与 ≒ 0.75 × 5% = 3.75

となり、金額比率は25:75でも、リスクの比率はおおむね50:50に近づきます。これがリスクパリティの直感的イメージです。

リスクパリティのメリット

リスクパリティには、初心者にとっても理解しておく価値のあるメリットがいくつかあります。

1. リスク源泉の偏りを減らせる

金額ベースの単純な比率だと、どうしてもリスクの大半が株式に偏りがちです。リスクパリティの発想を取り入れることで、「株が下がったらポートフォリオがほぼ全部一緒に沈む」といった極端な状況をある程度緩和できます。

2. 暴落時のダメージを抑えやすい

株式の比率がリスクベースで過大になっているポートフォリオは、株式市場の暴落が起きた際に大きなダメージを受けます。リスクパリティは、そもそも株式に「リスクを張りすぎない」設計になっているため、大暴落時の下落幅を抑えやすいという特徴があります。

3. 長期のメンタル維持に役立つ

リスクを分散したポートフォリオは、短期的な値動きが比較的マイルドになりやすく、ドローダウン(ピークからの下落率)も小さくなる傾向があります。これは、長期で投資を続けるうえで非常に重要です。途中で怖くなって投げてしまうリスクを減らし、淡々と積み立てとリバランスを続ける助けになります。

リスクパリティのデメリット・注意点

一方で、リスクパリティは万能ではありません。初心者が取り入れる際に注意すべきポイントも整理しておきます。

1. 厳密な計算には専門知識が必要

厳密なリスクパリティ・ポートフォリオを構築しようとすると、ボラティリティや相関、リスク寄与度の計算など、統計や数理最適化の知識が必要になります。個人投資家が完全な形で再現しようとすると負荷が大きく、計算環境も必要になります。

2. 債券比率が非常に高くなりがち

先ほどの例のように、株のボラティリティが高く、債券のボラティリティが低い場合、リスクパリティでは債券の金額比率がとても高くなる傾向があります。結果として、金額ベースの期待リターンは相対的に抑えられます。

3. レバレッジを前提とする形が多い

機関投資家向けのリスクパリティ戦略では、「低リスク資産(債券など)をレバレッジして全体のリターン水準を持ち上げる」設計が使われることがよくあります。しかし、レバレッジ取引は初心者にとってリスク管理が難しく、損失拡大のリスクも高いため、安易に真似をするべきではありません。

4. 想定が外れたときに機能しにくい

リスクパリティは、過去のボラティリティや相関を前提に設計されることが多いため、市場環境が大きく変化したときには想定通りに機能しない可能性があります。株と債券が同時に大きく下落するような局面では、分散効果が薄れることもあります。

個人投資家向け「ゆるいリスクパリティ」の考え方

ここからは、「数理的に厳密なリスクパリティ」ではなく、個人投資家でも現実的に取り入れやすい「ゆるいリスクパリティ」の考え方を紹介します。

ステップ1:資産クラスを2〜3種類に絞る

最初から多くの資産クラスを扱う必要はありません。まずは、

・世界株式インデックス
・先進国債券インデックス(または自国国債インデックス)

の2資産から始めるのが分かりやすいです。慣れてきたら、

・金(コモディティ)
・不動産(REIT)

などを少しずつ追加することも検討できます。

ステップ2:ざっくりしたボラティリティ感覚を持つ

厳密な計算をしなくても、「株はだいたいボラティリティが高い」「国債は低い」「金は株よりやや低い〜同程度」くらいの感覚を持っておくだけで、配分を考えるうえで大きな助けになります。

ステップ3:株の金額比率を落としてみる

一般的な初心者向けポートフォリオとして、「株式50〜70%、債券30〜50%」といった提案を見かけることが多いと思います。ここにリスクパリティの発想を軽く取り入れて、

・株 30〜40%
・債券 60〜70%

といった配分にしてみるのも一案です。これだけでも、

・ポートフォリオ全体のボラティリティが下がる
・ドローダウンの深さがやわらぐ

可能性があり、長期で投資を続けやすくなることが期待できます。

ステップ4:年1回〜2回のリバランスを行う

リスクパリティ的な配分を維持するには、定期的なリバランスが重要です。例えば年1〜2回、

・株と債券の比率がどれくらい崩れているかを確認する
・大きく乖離している場合は、元の目標配分に近づけるように売買する

といったシンプルな運用を続けるだけでも、結果的に「リスクの偏り」を抑えた運用に近づきます。

具体例:月3万円で始めるリスクパリティ風ポートフォリオ

次に、毎月3万円を積み立てるケースを想定して、リスクパリティの考え方を取り入れた例をイメージしてみます。

前提として、

・世界株式インデックス:
 → 例:全世界株式に連動するインデックスファンドやETF
・先進国債券インデックス:
 → 例:自国を含む先進国国債に投資するインデックスファンド

を利用するとします。

例:株30%・債券70%の積立

毎月3万円のうち、

・世界株式インデックス:9,000円(30%)
・先進国債券インデックス:21,000円(70%)

という配分で積み立てていきます。年に1回、評価額ベースで比率を確認し、

・もし株の比率が40%を超えていたら、株を少し売って債券を買い増す
・逆に、株が大きく下がって20%台になっていたら、債券の一部を売って株を買い増す

という形で、「株30〜40%、債券60〜70%」のレンジに収まるようにリバランスします。

これは厳密な意味でのリスクパリティではありませんが、

・株式にリスクが偏りすぎないようにする
・債券を多めにしてポートフォリオのブレを抑える
・定期的なリバランスで「安いときに少し買い、高いときに少し売る」動きを自動的に取り入れる

といった効果が期待でき、リスクパリティのエッセンスをシンプルな形で活用していると言えます。

リスクパリティとインデックス投資の相性

リスクパリティは、インデックス投資との相性が良い戦略です。理由はシンプルで、

・個別銘柄を選ぶ必要がない
・市場全体に分散された商品を組み合わせればよい
・必要なのは「どのインデックスにどれくらい配分するか」の設計

だけだからです。

特に、

・全世界株式インデックスファンド(またはETF)
・先進国債券インデックスファンド(またはETF)

の組み合わせは、商品数も少なく、運用コストも低く抑えやすいため、リスクパリティ的な発想を取り入れるベースとして非常に使いやすいです。

どんな投資家に向いているか

リスクパリティの考え方が特にフィットしやすいのは、次のようなタイプの投資家です。

・「大きく勝つ」よりも、「大きく負けない」ことを重視したい人
・暴落局面でも慌てずに運用を続けたい人
・短期の値動きに振り回されず、長期の資産形成を目指したい人

逆に、

・短期の大きな値上がりを狙いたい人
・値動きの激しさは気にせずハイリスク・ハイリターンを取りにいきたい人

にとっては、リスクパリティは物足りなく感じる可能性があります。この戦略は、「一発を狙う」ものではなく、「ブレを抑えながらコツコツ積み上げる」タイプの投資と相性が良いからです。

リスクパリティの考え方を自分なりに応用する

最後に大切なのは、リスクパリティを「絶対に守るべき正解」として捉えないことです。むしろ、

・「リスクは金額ではなく値動きの大きさで考える」
・「ポートフォリオの中で、どの資産がどれくらいリスクを持っているか意識する」
・「リスクが偏りすぎていないか、定期的にチェックして調整する」

といった発想そのものを、自分の投資スタイルに取り入れていくことが重要です。

例えば、

・株式の比率が高すぎて不安なら、債券や現金比率を増やす
・株式の中でも、ボラティリティの高いテーマ株ばかりに偏っていないか確認する
・長期で積み立てる前提なら、「大きなドローダウンに耐えられるか」を事前にシミュレーションしておく

といった工夫も、広い意味ではリスクパリティ的な発想に近いと言えます。

まとめ:リスクパリティは「リスクの偏りを意識する」ための有力な物差し

本記事では、リスクパリティの基本的な考え方と、個人投資家が取り入れやすい「ゆるいリスクパリティ」のイメージを解説しました。

ポイントを改めて整理すると、

・リスクパリティは「金額」ではなく「リスク寄与度」を揃える発想
・ボラティリティと相関を意識することで、リスク源泉の偏りを減らせる
・厳密な計算は難しくても、「株の金額比率を落として債券を増やす」「定期的にリバランスする」といったシンプルな工夫でエッセンスを取り入れられる
・長期で資産形成を目指す投資家にとって、ドローダウンを抑えやすいというメリットがある

という点が挙げられます。

「どの資産にどれだけリスクを取っているのか」を意識できるようになると、ポートフォリオ設計の質は一段階上がります。リスクパリティは、そのための有力な物差しの一つです。最初は完璧を目指す必要はありません。まずは「株と債券のリスクのバランスを意識してみる」ところから、自分なりのポートフォリオづくりを始めてみてください。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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